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【2章】断食魔女、神殿で華やかな生活を謳歌する(?)
27.言い訳をします。言い訳を重ねます。(1)
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神官様はわたしをバルコニーに連れ出した。
神殿の人間しか立ち入れない場所。おそらく誰も来ないだろう。
さっきまで賑やかな場所に居たせいか、静寂が妙に際立って感じる。ソワソワとして、とても落ち着かない。
(こういう雰囲気は苦手だ)
咳払いを一つ、わたしは無理矢理話題を切り出した。
「神官様、あの……やっぱり会場に戻りません? よく考えたら、そろそろマリアを部屋に返さないと。もう遅いし、疲れただろうから」
元々マリアのことは、頃合いを見て部屋に帰すつもりだった。ダンスも終わったことだし、退出したところで誰も文句は言わないだろう。
もちろん、私の一番の目的は、それを口実にこの場を去ることだけれど。
「ああ、その点はどうぞご心配なく。先程護衛騎士に、頃合いを見計らってマリア様を会場から連れ出すよう、指示を出しておきましたから。私達が会場を出たタイミングで、マリア様もお部屋に戻られている筈です」
「はぁ……!?」
なにそれって言い返そうとして、わたしはグッと言葉を飲み込んだ。
「へーー、そうなんですね。そりゃあ良かった。安心しました」
あんまり色々言うと、わたしが意識しているのがバレてしまう。
いや、意識しているっていうか、身構えてるっていうか。
一瞬だけ、用意周到だなって――――言い訳を封殺されてしまったって思ったけど、そんなことはない。
断じてない。
だって、神官様はただ話がしたいだけだもの。
それは別に普通の、一般の、日常生活の延長線上のことであって。まったく特別なことじゃない。
わたしはいつもどおりに神官様のわけがわからない主張を聞いて、いつもどおりにツッコミを入れる。
ただ、それだけのための場なんだから。
「……もしかして、緊張してます?」
「いいえ、別に? 緊張なんてするはずがありませんよ。だって、ただ話がしたいだけでしょう?」
さあどうぞ! というわたしの言葉に、神官様が目を丸くし、やがて肩を震わせる。それから、堪えきれなくなってしまったのか、彼はお腹を抱えて笑いだした。
「ああ……ジャンヌ殿は本当に、素直じゃない人ですね」
清々しいほどの満面の笑み。笑いすぎて目尻にたまった涙を、神官様がそっと拭う。
「素直じゃなくて、とても可愛い。本当に愛しくてたまりません」
「なっ!」
わたしが素直じゃないのは認めるけど、可愛い、はないでしょう。
ムカつく。
すごいムカつく。
だけど、言い返すことができなくて、わたしはムッと唇を尖らせた。
「貴女と一緒にいると、私は毎日がとても楽しいのです」
神官様はそう言って、わたしのことを抱きしめた。
「意地らしくて、もどかしくて。まるで自分を見ているような心地がするんです」
悲しげな淋しげな、それでいて嬉しそうな、何とも形容しがたい声音。わたしは黙って、神官様の言葉に耳を澄ませた。
神殿の人間しか立ち入れない場所。おそらく誰も来ないだろう。
さっきまで賑やかな場所に居たせいか、静寂が妙に際立って感じる。ソワソワとして、とても落ち着かない。
(こういう雰囲気は苦手だ)
咳払いを一つ、わたしは無理矢理話題を切り出した。
「神官様、あの……やっぱり会場に戻りません? よく考えたら、そろそろマリアを部屋に返さないと。もう遅いし、疲れただろうから」
元々マリアのことは、頃合いを見て部屋に帰すつもりだった。ダンスも終わったことだし、退出したところで誰も文句は言わないだろう。
もちろん、私の一番の目的は、それを口実にこの場を去ることだけれど。
「ああ、その点はどうぞご心配なく。先程護衛騎士に、頃合いを見計らってマリア様を会場から連れ出すよう、指示を出しておきましたから。私達が会場を出たタイミングで、マリア様もお部屋に戻られている筈です」
「はぁ……!?」
なにそれって言い返そうとして、わたしはグッと言葉を飲み込んだ。
「へーー、そうなんですね。そりゃあ良かった。安心しました」
あんまり色々言うと、わたしが意識しているのがバレてしまう。
いや、意識しているっていうか、身構えてるっていうか。
一瞬だけ、用意周到だなって――――言い訳を封殺されてしまったって思ったけど、そんなことはない。
断じてない。
だって、神官様はただ話がしたいだけだもの。
それは別に普通の、一般の、日常生活の延長線上のことであって。まったく特別なことじゃない。
わたしはいつもどおりに神官様のわけがわからない主張を聞いて、いつもどおりにツッコミを入れる。
ただ、それだけのための場なんだから。
「……もしかして、緊張してます?」
「いいえ、別に? 緊張なんてするはずがありませんよ。だって、ただ話がしたいだけでしょう?」
さあどうぞ! というわたしの言葉に、神官様が目を丸くし、やがて肩を震わせる。それから、堪えきれなくなってしまったのか、彼はお腹を抱えて笑いだした。
「ああ……ジャンヌ殿は本当に、素直じゃない人ですね」
清々しいほどの満面の笑み。笑いすぎて目尻にたまった涙を、神官様がそっと拭う。
「素直じゃなくて、とても可愛い。本当に愛しくてたまりません」
「なっ!」
わたしが素直じゃないのは認めるけど、可愛い、はないでしょう。
ムカつく。
すごいムカつく。
だけど、言い返すことができなくて、わたしはムッと唇を尖らせた。
「貴女と一緒にいると、私は毎日がとても楽しいのです」
神官様はそう言って、わたしのことを抱きしめた。
「意地らしくて、もどかしくて。まるで自分を見ているような心地がするんです」
悲しげな淋しげな、それでいて嬉しそうな、何とも形容しがたい声音。わたしは黙って、神官様の言葉に耳を澄ませた。
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