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【2章】断食魔女、神殿で華やかな生活を謳歌する(?)

28.逃げるが勝ち、という日もある(かも知れない)(1)

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(やってしまった……)


 布団を頭までひっかぶり、わたしは一人、のたうち回る。

 昨夜はどうかしていた――――そんな馬鹿なことを言う羽目になるなんて、夢にも思わなかった。


 流された。
 絆された。


 どんな言葉で形容しても、愚かだったとしか言いようがない。


(あーーーーーーもう!)


 神官様め、なんてことをしてくれたんだ。


 なんてことを――――いや、違う。
 待って。
 よくよく考えたら大したことじゃないんじゃない? 

 このぐらい、中高生ならまだしも、大人なら普通のことと言うか。特段騒ぎ立てるようなことではない。
 むしろ、意識しすぎているわたしが阿呆なのだ。


(そうよ)


 わたしは布団からのそのそと起き上がり、部屋の中をぐるりと見回した。


 久しぶりに帰ってきた森の中の我が家。ここには早朝、日が昇る前に転移魔法で移動した。
 今日は一日オフをもぎ取ったし、マリアの方にはきちんと書き置きを残してきた。ちょっと用事があるから家に戻る、って。


(よし、寝よう)


 寝たら大抵のことは解決する。勝手に時間が経ってくれるし、嫌なことや、目を背けたくなるような現実を忘れさせてくれる。ここなら誰にも邪魔もされないし。

 シーツにボフッと顔を埋めると、神殿のベッドとは違い、自分の匂いが濃く香った。ベッドサイドはごちゃごちゃと色んなものが置かれていて、帰ってきたっていう感じがする。
 
 目を瞑って、深呼吸を一つ。何も考えないよう、頭の中を空っぽにする。

 だけど、何でだろう? 不思議なことに睡魔が中々降りてきてくれない。


(あんなに寝坊したかったのに)


 神殿で暮らすようになってから、一日の睡眠時間が3~4時間は短くなった。絶対に、寝不足だって……いくらでも寝れるって思っていたはずなのに。

 わたし今、まったく眠くない。


(どうしよう……)


 わたし、この家で一人、何をしていたんだっけ?

 家事も嫌いで、食事に対しても無頓着で。
 時々、前世で便利だった家電もどきを自作していたけれど、本当に気が向いたときだけだったし。


(っていうか、食事!)


 よく考えたら、今この家に食料はなにも置いてない。腐ったらいけないからって、神殿に全部持っていってしまったのだった。

 いや、別に数食ぐらい抜いても構わないんだけど、問題が一つ。

 わたしは昨日、マリア一緒にとカレーを作るっていう約束をしていたんだった。


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