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【終章】断食魔女と、肉食神官と、それから聖女
32.マリアのことを相談しました。デートをすることになりました。(2)
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「ありがとうございます。少しだけ心の整理ができました。あとはわたし自身で、あれこれ考えてみます」
少なくともマリア本人はやる気なんだし。
わたしが考えたところでどうしようもないんだけど、モヤモヤしたまま過ごすより、きちんと自分を納得させたほうが良いんだろうなぁと思う。
だって、わたしが迷ってばかりいたら、マリアに要らぬ不安を抱かせてしまうだろうから。
「役に立てたなら良かったです。
それはそうとジャンヌ、今度の休みに街に出かけてみませんか?」
「え? 街に、ですか?」
これはまた随分唐突なお誘いだ。脈略がなさすぎて、思わず首を傾げてしまう。
「ええ。せっかく王都に来たのに、ジャンヌはほとんど神殿にこもっているでしょう?」
「……いや、忙しくさせた張本人がよく言いますね」
森に居たときはともかく、王都に来て以降の引きこもりについては、元はといえばセドリックのせいだ。だって、彼がわたしを神官として参拝客の前に引きずり出したのが原因だもの。
ねぼすけなわたしが毎朝6時に起きて、そこから昼まで息付く間もないほど忙しくて。以降も神殿でなんやかんやしているから、外に出る気力なんて残るはずがない。神殿に引きこもるのも当然なのである。
だけど、わたしの嫌味もなんのその。セドリックはヘラヘラ笑いながら、わたしの頭をそっと撫でた。
「普段しっかりと頑張っていますから、少し休んだところでバチは当たりません。私と一緒に、ゆっくりしましょう。せっかく恋人同士になれたのですし」
その瞬間、唐突にもたらされた甘い雰囲気に、わたしはウッと口を噤む。
セドリックはわたしの頬に唇を寄せ、甘えるように――――甘やかすようにキスをした。
***
数日後、わたしとセドリックは二人そろって休暇を取った。
「良いなぁ、お出かけ! マリアも一緒に行きたかったなぁ!」
出掛ける直前のこと。わたしたちの前で、珍しくマリアが駄々をこねている。
聖女就任式まであと一ヶ月。それまでマリアは神殿を出ることができない。
本当は日程をずらすべきか迷っていたんだけど、セドリックが『絶対に今が良い』って言うし。最初に出かけることを説明した時は、マリアも納得していたから大丈夫かなって思っていたんだけど、やっぱり寂しかったらしい。
「セドリック、やっぱり出掛けるのは一ヶ月後にしよう。マリアも一緒に行けるようになったら――――」
「それはダメ!」
マリアが叫ぶ。わたしは思わず目を瞬いた。
「行かないのはダメ! マリアはお土産を買ってきてくれたらそれで良いの。そのかわり、いっぱい、いっぱい買ってきてね!」
「お土産? ……うん、分かった。マリアが好きそうなものを探してみる」
「うん! 楽しみにしてるね!」
もっと粘られるかと思っていたけど、マリアは意外なほどアッサリと身を引いた。あまりにも聞き分けが良くて、かえって申し訳なくなってくる。
「それじゃあセドリック、ジャンヌさんをよろしくね」
「はい! 必ずや、楽しい一日をお届けしますよ」
セドリックがドンと胸を叩く。
(いやいや、なんでマリアがわたしのことをよろしく頼むのよ)
これじゃあまるで、わたしの方が子供みたいだ。なんだか胸がこそばゆくなった。
「今日は仕方ないけど、次は絶対、マリアのことも連れて行ってね! あたし、お菓子屋さんとか、おもちゃ屋さんとか、行ってみたいところがいっぱいあるんだ!」
「もちろん。就任式が終わったら、三人でたくさん、色んなところに行きましょうね」
二人はそう言って、わたしの目の前で指切りをした。
マリアが嬉しそうに笑う。セドリックも優しく目を細める。
そんな二人のやり取りは見ていてとても微笑ましい。まるで仲の良い父と娘みたいだ。
(――――いや、別に他意はないのよ?)
わたしのせいで、マリアも隠遁生活を送っていたんだし、他人と――――特に異性との関わりが極端に少なかったんだもん。こうしてセドリックに甘えたくなるのも当然っていうか。そりゃ、お出かけのおねだりぐらいするし、嬉しそうにもするよね、という。
「それじゃあ、行きましょうか」
「うん」
セドリックがわたしと手を繋ぐ。とても自然に。まるで、当たり前のことのように。
たったそれだけのことだけど、わたしは本当にこの人と恋人同士になったんだなぁって実感した。
少なくともマリア本人はやる気なんだし。
わたしが考えたところでどうしようもないんだけど、モヤモヤしたまま過ごすより、きちんと自分を納得させたほうが良いんだろうなぁと思う。
だって、わたしが迷ってばかりいたら、マリアに要らぬ不安を抱かせてしまうだろうから。
「役に立てたなら良かったです。
それはそうとジャンヌ、今度の休みに街に出かけてみませんか?」
「え? 街に、ですか?」
これはまた随分唐突なお誘いだ。脈略がなさすぎて、思わず首を傾げてしまう。
「ええ。せっかく王都に来たのに、ジャンヌはほとんど神殿にこもっているでしょう?」
「……いや、忙しくさせた張本人がよく言いますね」
森に居たときはともかく、王都に来て以降の引きこもりについては、元はといえばセドリックのせいだ。だって、彼がわたしを神官として参拝客の前に引きずり出したのが原因だもの。
ねぼすけなわたしが毎朝6時に起きて、そこから昼まで息付く間もないほど忙しくて。以降も神殿でなんやかんやしているから、外に出る気力なんて残るはずがない。神殿に引きこもるのも当然なのである。
だけど、わたしの嫌味もなんのその。セドリックはヘラヘラ笑いながら、わたしの頭をそっと撫でた。
「普段しっかりと頑張っていますから、少し休んだところでバチは当たりません。私と一緒に、ゆっくりしましょう。せっかく恋人同士になれたのですし」
その瞬間、唐突にもたらされた甘い雰囲気に、わたしはウッと口を噤む。
セドリックはわたしの頬に唇を寄せ、甘えるように――――甘やかすようにキスをした。
***
数日後、わたしとセドリックは二人そろって休暇を取った。
「良いなぁ、お出かけ! マリアも一緒に行きたかったなぁ!」
出掛ける直前のこと。わたしたちの前で、珍しくマリアが駄々をこねている。
聖女就任式まであと一ヶ月。それまでマリアは神殿を出ることができない。
本当は日程をずらすべきか迷っていたんだけど、セドリックが『絶対に今が良い』って言うし。最初に出かけることを説明した時は、マリアも納得していたから大丈夫かなって思っていたんだけど、やっぱり寂しかったらしい。
「セドリック、やっぱり出掛けるのは一ヶ月後にしよう。マリアも一緒に行けるようになったら――――」
「それはダメ!」
マリアが叫ぶ。わたしは思わず目を瞬いた。
「行かないのはダメ! マリアはお土産を買ってきてくれたらそれで良いの。そのかわり、いっぱい、いっぱい買ってきてね!」
「お土産? ……うん、分かった。マリアが好きそうなものを探してみる」
「うん! 楽しみにしてるね!」
もっと粘られるかと思っていたけど、マリアは意外なほどアッサリと身を引いた。あまりにも聞き分けが良くて、かえって申し訳なくなってくる。
「それじゃあセドリック、ジャンヌさんをよろしくね」
「はい! 必ずや、楽しい一日をお届けしますよ」
セドリックがドンと胸を叩く。
(いやいや、なんでマリアがわたしのことをよろしく頼むのよ)
これじゃあまるで、わたしの方が子供みたいだ。なんだか胸がこそばゆくなった。
「今日は仕方ないけど、次は絶対、マリアのことも連れて行ってね! あたし、お菓子屋さんとか、おもちゃ屋さんとか、行ってみたいところがいっぱいあるんだ!」
「もちろん。就任式が終わったら、三人でたくさん、色んなところに行きましょうね」
二人はそう言って、わたしの目の前で指切りをした。
マリアが嬉しそうに笑う。セドリックも優しく目を細める。
そんな二人のやり取りは見ていてとても微笑ましい。まるで仲の良い父と娘みたいだ。
(――――いや、別に他意はないのよ?)
わたしのせいで、マリアも隠遁生活を送っていたんだし、他人と――――特に異性との関わりが極端に少なかったんだもん。こうしてセドリックに甘えたくなるのも当然っていうか。そりゃ、お出かけのおねだりぐらいするし、嬉しそうにもするよね、という。
「それじゃあ、行きましょうか」
「うん」
セドリックがわたしと手を繋ぐ。とても自然に。まるで、当たり前のことのように。
たったそれだけのことだけど、わたしは本当にこの人と恋人同士になったんだなぁって実感した。
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