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【終章】断食魔女と、肉食神官と、それから聖女

33.王都を見て回りました。見えなかったものが見えるようになってきました。(2)

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 それからセドリックは嫌な顔ひとつせず、王都の中の色んな場所を、わたしに見せてくれた。

 国防を担う軍の訓練所に、警察的な役割を持った騎士の詰め所、孤児院や学校、スラム街、他にも至るところを。


「どうでしたか?」


 途中からデートらしさの欠片もなくなってしまったけれど、セドリックにとって、それは最初から織り込み済みだったのだろう。満足そうな表情で問い掛けてくる。


「楽しかったです。これから自分がなにをしたいのか、少しずつ見えてきた気がします」


 親代わりと呼ぶにはあまりにも頼りなく、情けないかもしれないけど、わたしにもマリアのためにできることがあるのなら、挑戦してみるだけの価値はあるのかもしれない。そう思うと、なんだか嬉しくなってきた。


「貴女の瞳にはいつも、私には見えないものが写っている――――そんな気がしていたのですが」


 セドリックはそう言って、わたしの頬をそっと撫でる。


「今日、こうして街を巡って、少しだけ同じものが見えた気がします。
家の中に溢れていた発明品がどうして生まれたのかも」

「え? ああ、あれ?」


 冷蔵庫や掃除機、シャワーやボールペンなどなど、セドリックが我が家を物色していた頃が懐かしい。

 あれだって、わたしが前世で見てきた文明の利器。便利グッズだもん。

 しかも、自分で用意できたのはほんの一部。車とか自転車とか、テレビとかスマホとか調理器具とかその他諸々、再現できていないものが山ほどある。

 だけど、自分で発明できずとも、『こういうものが欲しい』ってサイリックあたりに伝えたら、きっと上手に再現してくれる。そしたら、人々の暮らしが一気に楽になるかもしれない。それが回り回って、マリアの負担軽減に繋がるかもって思うと、これまた少し嬉しくなった。


「……いつか、遠い未来で構いません。貴女がどんなものを見てきたのか、私にも教えてもらえませんか?」


 気づいたら、セドリックが困ったように笑いながら、わたしの顔を覗き込んでいた。


(わたしがどんなものを見てきたか、か)


 ――――それを教えることは、わたしの前世をセドリックに打ち明けることを意味する。


「そうですね……前向きに検討しておきます。
それより、せっかくデートに来たのに、こんな感じになっちゃうのは大丈夫なんですか? 付き合って早々嫌気が差してません?」


 まさか、こんな遊びっ気のないお出かけをすることになるとは思わなかった。わたし自身、自分の変化にかなり驚いているんだもの。他人であるセドリックもそうであって然るべきだ。


「いいえ、とても有意義な時間でしたよ。
ジャンヌのことをたくさん知ることができて、愛らしい笑顔をたくさん見ることができて、私はとても嬉しかったです。また一緒にでかけましょう。今度はマリア様も一緒に」

「――――はい。そうしたいです」


 自分で言うのも何だけど、本当に随分丸くなったものだ。

 ついつい笑みを漏らしていたら、ふいに唇を塞がれてしまった。
 胸がドキドキして、全身がほんのりと熱くなって、頭が変になってしまいそうなほど甘ったるい。


「っていうか、こんな道の往来で、なんてことしてくれてんですか!」


 思わず文句を口にしたら、セドリックはプッと吹き出し、それからわたしのことを抱きしめる。


「やはり敵わない。
貴女のことが好きですよ、とても、とても」

「なにそれ」


 全然、意味がわからない。
 だけど、怒っているのも馬鹿らしい。

 わたしはセドリックと顔を見合わせると、アハハと笑い声を上げた。
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