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【終章】断食魔女と、肉食神官と、それから聖女

40.それから聖女(2)

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「あっ、そうだ! あのね、この間話していたダンスを頑張ったご褒美なんだけどね、就任式の後におねだりしようって決めてたんだ!」

「ああ……」


 そういえば、わたしの父が神殿に来たときに、勿体つけてそんなことを言っていたっけ。


「そうでしたか! どうぞ、なんなりとお申し付けください」


 セドリックがマリアをそっと床に下ろす。
 マリアはセドリックとわたしを交互に見ながら、はにかむように笑った。


「あたしね、弟か妹がほしいの!」

「「――――え?」」


 驚きに目を見開いて、わたしたちは思わず顔を見合わせる。
 子供というのは本当に恐ろしい生き物だ。なんの躊躇いもなく、そんな恥ずかしいことを言ってのけるんだもの。

 わたしもセドリックも赤面し、互いにチラチラと視線を交わし――――それから、こらえきれずに吹き出した。


「そうですか。マリア様は弟か妹がほしいのですか」


 そう口にしたセドリックは、なんだかとても嬉しそうだ。普段の澄ました表情でも、意地悪いときの笑みでもない。目の端に涙を浮かべて、彼はマリアを優しく撫でる。


「うん、ほしい! すっごくほしい!
あたしね、セドリックが就任式の後でお母さんにプロポーズするって聞いたから、絶対にその後でお願いしようって決めてたの! だって、お母さんはすごい意地っ張りでしょう? プロポーズよりも先にお願いしちゃったら『セドリックが結婚を決めたのはマリアのためだ』って思っちゃうもん」

「マリア……⁉ いや、そうかもしれないけど……!」


 我が娘ながら、母親の性格をよく理解していらっしゃる。恥ずかしさのあまり、わたしは顔が真っ赤になった。


「セドリックはお母さんのことが大好きだもんね!」

「はい! 心から愛しています! だからこそ結婚をしたいと思ったのです」

「も、もう良いから! 二人共、その辺にして!」


 なんという羞恥プレイ。娘にまでイジられてるし。穴があったら入りたい気分だ。それなのに、セドリックは容赦なかった。


「マリア様たってのお願いですから――――叶えて差し上げなければなりませんね」


 思わせぶりなセリフに身体がほんのりと熱くなる。どこか楽しげなセドリックの笑みに腹が立った。


「悪いけど、わたしは頷かないわよ。だってそういう性格だもん」

「――――ジャンヌ?」


 そんなふうに首を傾げて見られても絶対に頷かないから。
 お願いだから察してほしい――――っていうか、分かるでしょ⁉


「楽しみだなぁ~~! 早く抱っこしたいなぁ! 撫で撫でしてあげたいなぁ! お母さんがあたしにしてくれたみたいに、いっぱいいっぱい可愛がるんだ」


 マリアは満面の笑みを浮かべつつ、未来への期待に胸を膨らませている。


(あーーあ。ホント、この先どんなふうに成長するか、楽しみでたまらないなぁ)


 わたしには分かる。
 もしも弟か妹ができたら、マリアは今以上に素敵な女の子になるだろう。

 お姉ちゃんになったマリアを見てみたい――――捻くれ者のわたしがそんなことを思えるようになったのだから、セドリックには本当に感謝しなければならない。


「絶対、幸せにします」


 セドリックはそう言って、わたしの額に口づけた。
 マリアを間に挟んで、わたし達は互いを抱きしめ合う。


「――――もう、十分幸せだよ」


 それは、散々こじらせまくったわたしの、とても素直な気持ち。


 マリアが居るから。
 セドリックが居るから。
 三人で居るから。
 わたしは今、とても幸せだ。


 だけど、言葉にするのはやっぱり恥ずかしくて――――呟くようにそう口にしたら、二人はとても嬉しそうに笑ったのだった。 

  
 
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