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2.元傾国の悪女は、平凡な今世を熱望する
4.危うきに近寄るべからず(3)
(爆発……? この学園を?)
広大な学園。その敷地内には今、五千を超える人間が集まっている。
普段は手の届かない場所にいる尊き身分の王族や貴族たちが、わんさか集まっているのだ。
(殿下に知らせなくちゃ)
このままでは大勢の人々が傷ついてしまう。国の体制を覆すという大義のもとに、関係のない人がたくさん殺されてしまう。
そんなの絶対嫌だ。
けれど、踵を返したその瞬間、誰かに腕をグイッと引っ張られた。
「ダメだろう、ザラ? 盗み聞きなんてしちゃ」
振り向けば、オースティンがいつもみたいに穏やかな笑みを浮かべていた。いつの間にか魔法が剥がされ、わたしの姿が露呈している。
(しまった! アジトに罠が張られてたんだ)
もしも魔力を制限していなければ、このぐらいの魔法、簡単に跳ね返せていた。だけど、あとから後悔したってどうにもならない。時間は巻き戻らないし、今できる事を考えなければならない。
「盗み聞きだなんて、人聞きが悪いなぁ」
そう口にしながら、わたしは不敵に笑ってみせる。
オースティン達は傍から見れば、とても穏やかな顔をして笑っている。けれど、こういう善良な顔をした人間が恐ろしい事をしうるって、わたしは前世で身を以って知っていた。
(ううん、皆最初からこうだったわけじゃない)
前世でわたしを利用して戦争を起こした官僚たちは、元はごく普通の真面目な男たちだった。
だけど彼等は、皇帝がわたしに手を出したことで変わってしまった。皇弟を使って自分たちの野望を、それを果たすだけの力がある事を知ってしまったから。
オースティンだって元は平凡で善良な市民だった。
だけど彼はわたしの知らないうちに『魔法使い』達がおかれた境遇への不満を募らせていた。良識を覆す何かが――魔法っていう少し特別な力が――彼を変えてしまったのだろう。
「控えめなところがザラの美徳だったのに、一体どうしちゃったの?」
尋ねながらオースティンはわたしのことを見下ろす。
「控えめ……か。そうね、以前のわたしだったら、こんなことに足を突っ込みはしなかったかも」
あんなに『危ないことには近づかない』って決めていたのに、自らこんな場所に飛び込んでしまった。誓いを破り、思うままに行動してしまったのは、どう考えても殿下の影響だ。何だか癪だけれど、不思議とあまり腹は立っていない。
「残念だよ、すごくね」
冷たく響くオースティンの声に、わたしは大きく息を吸いこんだ。
広大な学園。その敷地内には今、五千を超える人間が集まっている。
普段は手の届かない場所にいる尊き身分の王族や貴族たちが、わんさか集まっているのだ。
(殿下に知らせなくちゃ)
このままでは大勢の人々が傷ついてしまう。国の体制を覆すという大義のもとに、関係のない人がたくさん殺されてしまう。
そんなの絶対嫌だ。
けれど、踵を返したその瞬間、誰かに腕をグイッと引っ張られた。
「ダメだろう、ザラ? 盗み聞きなんてしちゃ」
振り向けば、オースティンがいつもみたいに穏やかな笑みを浮かべていた。いつの間にか魔法が剥がされ、わたしの姿が露呈している。
(しまった! アジトに罠が張られてたんだ)
もしも魔力を制限していなければ、このぐらいの魔法、簡単に跳ね返せていた。だけど、あとから後悔したってどうにもならない。時間は巻き戻らないし、今できる事を考えなければならない。
「盗み聞きだなんて、人聞きが悪いなぁ」
そう口にしながら、わたしは不敵に笑ってみせる。
オースティン達は傍から見れば、とても穏やかな顔をして笑っている。けれど、こういう善良な顔をした人間が恐ろしい事をしうるって、わたしは前世で身を以って知っていた。
(ううん、皆最初からこうだったわけじゃない)
前世でわたしを利用して戦争を起こした官僚たちは、元はごく普通の真面目な男たちだった。
だけど彼等は、皇帝がわたしに手を出したことで変わってしまった。皇弟を使って自分たちの野望を、それを果たすだけの力がある事を知ってしまったから。
オースティンだって元は平凡で善良な市民だった。
だけど彼はわたしの知らないうちに『魔法使い』達がおかれた境遇への不満を募らせていた。良識を覆す何かが――魔法っていう少し特別な力が――彼を変えてしまったのだろう。
「控えめなところがザラの美徳だったのに、一体どうしちゃったの?」
尋ねながらオースティンはわたしのことを見下ろす。
「控えめ……か。そうね、以前のわたしだったら、こんなことに足を突っ込みはしなかったかも」
あんなに『危ないことには近づかない』って決めていたのに、自らこんな場所に飛び込んでしまった。誓いを破り、思うままに行動してしまったのは、どう考えても殿下の影響だ。何だか癪だけれど、不思議とあまり腹は立っていない。
「残念だよ、すごくね」
冷たく響くオースティンの声に、わたしは大きく息を吸いこんだ。
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表紙は写真ACより転載しました。