【中編集】そのままの君が好きだよ

鈴宮(すずみや)

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2.元傾国の悪女は、平凡な今世を熱望する

5.幸せの定義(1)

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「ザラは? まだ見つからないのか?」

「はい。何分この人出ですし、魔力を追うのも難しいようで」


 腹心であるレオンの言葉に、エルヴィスは顔を顰める。

 普段ならば、エルヴィスはどんなに人が多くともザラの魔力を追うことができる。それなのに、今日はどういうことか、彼女の魔力を追えなかった。

 学園の中にいない、と考えられなくもないが、真面目なザラのこと。職務を途中で放棄するとは考えづらい。


 気になることはそれだけではなかった。

 数千に及ぶ人や魔力に紛れて香る、火薬の臭い。もしもザラが行方不明になっていなかったら、巧妙に隠されたそれらの存在に気づくことは無かっただろう。


「爆弾探しと解体作業の方は? 間に合いそうか?」

「はい。殿下の指示通り、魔術科の生徒と教師を総動員して当たっています。未だ行方の分からない数名が首謀者でしょう」


 側近の一人が手渡したメモに目を通し、エルヴィスは顔を顰める。そこにはザラの幼馴染の名前も記されていた。


(無事だろうか)


 ザラが今回の事件に関わっていることはほぼ間違いない。
 あんなにも自分を平凡から遠ざけるものを嫌っていたザラだ。自ら首を突っ込んだのか、それともたまたま巻き込まれたのかは定かではないが、苦しんでいることは間違いない。

 エルヴィスは完璧な仮面の下に、沸々と湧き上がる激情を隠していた。


***


「まさかオースティンが、こんなことを考えているなんてね」


 結局、わたしは身柄を拘束されてしまった。オースティンは邪悪な笑みを浮かべ、地面に座るわたしを見下ろしている。


「……ザラは俺のことを平凡な男だと思っていたみたいだけど、それは違う。
俺は力のある魔法使いだ。自分をこんな境遇に置いておくなんて耐えられない。君がどうして普通であろうとするのか、俺にはちっとも理解ができなかったよ」


 まるで、わたしの考えを見透かすかのような言葉。オースティンといれば平凡な人生が送れるかもしれないなんて、そんなことを考えていたのが馬鹿みたいだ。


(実際、わたしは馬鹿だ)


 だって、オースティンがそういう人だって、ちっとも見抜けなかった。見る目が無いからこうして危険な目に合っている。上辺ばかりを見て、物事の本質を見極めようとしなかった。
 だから、こうして痛いしっぺ返しを喰らっているのだ。


(結局、わたしは幸せになんてなれないのかな)


 そもそも、『幸せ』って何だっけ?
 そんなことを考えてみる。


 思い返してみれば、わたしにとって、『幸せ』とは『生きる』ことだった。

 『もっと生きていたかった』とか、『どうしてこうしなかったんだろう』みたいな後悔を抱えることなく、普通にご飯を食べて、普通にお買い物をして、普通に結婚をして、普通に子どもを産んで、『楽しかった』、『やり切った』って思いながら死んでいく。
 『平凡』っていうのは、そのための十分条件であって、必要な条件ではなかったのに。


「一度きりの人生だ。デッカいことをやらないで何になる? どうせなら歴史に名を刻むぐらいの気概を持って生きた方が幸せだろう?」


 すると、オースティンは悦に入った表情で、そんなことを口にした。


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