【中編集】そのままの君が好きだよ

鈴宮(すずみや)

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3.おまえじゃ、ダメだ

1.雲の上の人(2)

 けれど、そんな日常は唐突に終わりを迎える。
 ある日のこと。シェイラは次の講義会場へ、急いで移動していた。前の講義の質問に時間が掛かっていたのだ。早歩きを誰かに見咎められないよう、人気の少ない道を選んだ。けれどそれが、シェイラの運の尽きだった。


『――――では、殿下は決心なさったのですね』

『あぁ、決めた』


 人目を憚るように会話をする二人の人影。サイラスと、彼の教育係をしている若い男性だった。盗み聞きは良くない。そう思い、シェイラは踵を返す。けれどその時


『シェイラ様で――――』


 唐突に自分の名前が言及された。思わぬことに、シェイラの心臓が大きく跳ねる。離れているため、会話の内容はきちんと聞き取ることができない。断片的に単語を拾える程度だ。


『――――シェイラじゃダメだ』


 しかし、何の因果だろうか。風に乗って運ばれてきたサイラスの言葉が、ハッキリとそうシェイラの耳に届く。心が芯から凍り付き、ひび割れるような心地がした。まるで時が止まったかのように、シェイラの身体から感覚が失われる。前が見えないし、音が聴こえない。真っ暗闇の中に放り込まれたような感覚だった。
 気づけばシェイラは走り出していた。その足が他の妃候補たちの元に向かうことは、二度となかった。

 あれから六年の月日が経つが、未だ彼の婚約者が決まったという話はシェイラの耳に届いていない。恐らく、内々に決まってはいるのだろうが、発表の時機を見計っているのだろう。知りたいような、知りたくないような、何とも言えない気分だ。


「――――シェイラ」


 シェイラは重苦しい気持ちで息を吐く。これから三年の間、シェイラ達は共に学園生活を送ることになる。幸いなことに、サイラスとはクラスが異なるため接点は少なかろう。だが、彼を見掛ける度に自分はこんな気持ちに苛まれるのだろうか。そう思うと、シェイラは堪らなく苦しくなるのだ。


「シェイラ!」


 その時、シェイラはようやく、己が誰かに呼ばれていることに気づいた。急いで顔を上げたその瞬間、シェイラの胸がギュッと音を立てて軋む。


「サイラス、様――――」


 そこにはシェイラの胸を焦がして止まない存在――――サイラスがいた。
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