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3.おまえじゃ、ダメだ
2.意図(1)
「シェイラ、久しぶりだね」
サイラスがそう言って穏やかに微笑む。いつの間にか式典は終わり、皆が会場の外へ向かっていた。残っているのはシェイラとサイラスだけだ。そんなことにはお構いなく、懐かしそうに目を細める彼に、シェイラはゴクリと唾を呑む。
「ご無沙汰しております」
「良かった。ずっとシェイラと話がしたかったんだ。ここに来たら叶うだろうって、そう思ってた」
先程の立派すぎる挨拶とは裏腹に、サイラスの口調はかなり砕けている。まるでお互い、十歳の頃のまま、時が止まっているかのようにシェイラには思えた。
「ねぇ、どうして急に城に来なくなったんだい? 俺、何度も手紙を出したんだよ?」
「そ、れは……」
サイラスからの手紙は全て、封をしたままシェイラの部屋に眠っている。どうしても読む気になれなかったからだ。
それから、シェイラが妃候補を辞した理由は、父親を通じて当り障りなく伝えられている。体調が優れないとか、実力が伴わないとか、そんな所だ。少なくとも、サイラスの言葉が理由であることを、彼は知らないはずである。
「わたくしには土台、無理なお話でしたから」
「無理?」
サイラスはキョトンと瞳を丸くし、シェイラのことを見つめている。彼は自分の発言が幼いシェイラを傷つけたことを知りはしない。だから、こんな反応も想定内と言えば想定内だ。とはいえ、シェイラとしては、サイラスと関わるつもりは微塵も無かったのだけれど。
「今日、久しぶりに城に来てよ。話したいことが山ほどあるんだ」
そう言ってサイラスは楽し気に笑う。幼い頃、お茶に誘ってくれたあの時のように、優しくて温かい声音だった。本当にシェイラと話すことを望んでいると、そう錯覚してしまう。
『シェイラじゃダメだ』
けれど、彼が内心そう思っていることを、シェイラは知っていた。シェイラが言葉を紡ぐ度に、何なら息を吸う度に、そんな風に思われているのではないか。そう思うと、怖くて堪らなくなる。足が竦んで、この場から逃げ出したくなるのだ。
「おいでよ。俺、ずっとずっと、シェイラに伝えたかったことが――――」
「申し訳、ございません。気分が優れないので」
失礼します、と断りを入れシェイラが席を立つ。サイラスはそんなシェイラを、いつまでも見つめていた。
サイラスがそう言って穏やかに微笑む。いつの間にか式典は終わり、皆が会場の外へ向かっていた。残っているのはシェイラとサイラスだけだ。そんなことにはお構いなく、懐かしそうに目を細める彼に、シェイラはゴクリと唾を呑む。
「ご無沙汰しております」
「良かった。ずっとシェイラと話がしたかったんだ。ここに来たら叶うだろうって、そう思ってた」
先程の立派すぎる挨拶とは裏腹に、サイラスの口調はかなり砕けている。まるでお互い、十歳の頃のまま、時が止まっているかのようにシェイラには思えた。
「ねぇ、どうして急に城に来なくなったんだい? 俺、何度も手紙を出したんだよ?」
「そ、れは……」
サイラスからの手紙は全て、封をしたままシェイラの部屋に眠っている。どうしても読む気になれなかったからだ。
それから、シェイラが妃候補を辞した理由は、父親を通じて当り障りなく伝えられている。体調が優れないとか、実力が伴わないとか、そんな所だ。少なくとも、サイラスの言葉が理由であることを、彼は知らないはずである。
「わたくしには土台、無理なお話でしたから」
「無理?」
サイラスはキョトンと瞳を丸くし、シェイラのことを見つめている。彼は自分の発言が幼いシェイラを傷つけたことを知りはしない。だから、こんな反応も想定内と言えば想定内だ。とはいえ、シェイラとしては、サイラスと関わるつもりは微塵も無かったのだけれど。
「今日、久しぶりに城に来てよ。話したいことが山ほどあるんだ」
そう言ってサイラスは楽し気に笑う。幼い頃、お茶に誘ってくれたあの時のように、優しくて温かい声音だった。本当にシェイラと話すことを望んでいると、そう錯覚してしまう。
『シェイラじゃダメだ』
けれど、彼が内心そう思っていることを、シェイラは知っていた。シェイラが言葉を紡ぐ度に、何なら息を吸う度に、そんな風に思われているのではないか。そう思うと、怖くて堪らなくなる。足が竦んで、この場から逃げ出したくなるのだ。
「おいでよ。俺、ずっとずっと、シェイラに伝えたかったことが――――」
「申し訳、ございません。気分が優れないので」
失礼します、と断りを入れシェイラが席を立つ。サイラスはそんなシェイラを、いつまでも見つめていた。
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表紙は写真ACより転載しました。