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30.矛盾(2)
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「許さない? どうして憂炎の許可が必要なのです⁉
わたくしはあなたにとって、ただの妹分でしょう? 妃でもなければ、恋人でもありませんもの! 指図されるいわれはございませんわ!
お願いですから、わたくしのことはもう放っておいてください! 姉さまと仲良く暮らしてくだされば、わたくしはそれで――――」
けれど、わたしの言葉は唐突に遮られた。
さっきよりもずっと近くに憂炎の瞳が見えて、唇を温かな何かが包み込む。
触れた唇、肌がジンジン疼いて、甘くて苦くて堪らない。
(どうして!? どうしてこんなことをするんだよ!?)
わたしは『華凛』だ。
憂炎が妃にしたいのは『凛風』であって、わたしじゃない。
憂炎のバカ!
『凛風』が唯一の妃だって言ったじゃない。
あんなに好きだって。想いに応えてほしいって言ってたくせに。
(どうして『華凛』にキスなんてするの?)
必死に抵抗しようとしたのに、憂炎はわたしの手を掴み、指先を絡めて繋ぎとめる。
イヤイヤと首を横に振っても、ちっとも止めてくれなくて、何度も何度も唇を吸われた。
このまま心臓を奪い取られるんじゃないかって位に、深く口づけられて。
息もまともに吸えなくて。
顔なんか涙でぐちゃぐちゃで。
このまま死んだ方が良いんじゃないかってぐらい悲しくて。苦しくて。
それなのに、おかしいんだ。
心の奥底で『嬉しい』って思っている自分が居る。
ああ、わたしは。
わたしは本当はずっと。
(憂炎のことが好きだったんだ)
胸が張り裂けそうに痛かった。
喉から手が出そうな程、身体中の血液が沸騰するほど、全身が憂炎を求めていた。
だからこそ、わたしは憂炎に『凛風』を好きでいてほしかった。
『凛風』だけを好きでいてほしかった。
だけど『凛風』はもう、わたしじゃない。
これ以上、憂炎と『凛風』を見ていたくなかった。
華凛から想いを受け取って、幸せになってほしい――――そう思っているはずなのに、それと同じぐらい、憂炎には『わたし』だけを想っていてほしい――――そんな、矛盾した醜い感情を抱いていた。
だから今、『華凛』を求める憂炎が悲しくて。
だけど、『わたし』を求められたことが嬉しくて。
ほんと、矛盾だらけ。
もはや、どうしようもない。
ようやく唇が解放されて、憂炎がわたしの頬をそっと撫でる。
「凛――――」
その瞬間、わたしは憂炎の頬を思い切り引っ叩いた。
室内に響く大きな音。手のひらがめちゃくちゃヒリヒリして、熱くて痛い。
涙が止め処なく流れ、わたしの頬と憂炎の手のひらを濡らした。
「憂炎のバカ!」
こんなの、不敬なんてレベルじゃ済まされないって分かっている。
だけど、わたしは自分を止めることが出来なかった。
「憂炎なんて大っ嫌い!」
大っ嫌い――――それは本当で、嘘だ。
大っ嫌いだと思う以上に、本当は憂炎が好きで堪らない。
だけど、これ以上自分に嘘は吐けそうにない。
(今度こそさよならだ、憂炎)
憂炎の手を振りほどき、わたしは部屋の入口へと走った。
もう二度と、ここへ来ることはないだろう。
憂炎に会うことも。
けれどその時、ほんの少しだけ開いた扉の隙間から、キラリと光る何かが見えた。
そうと気づいたその瞬間、それは憂炎目掛けて勢いよく、真っ直ぐに飛んでくる。
声を上げる暇なんてない。
わたしは矢の向かう方角目掛けて腕を広げた。
すぐにドスッて鈍い音が聞こえて、胸の辺りがボワッと熱くなる。
湿った紅い液体が胸元を汚して、ようやく鋭い痛みが走った。
「凛風!」
憂炎の叫び声がわたしのすぐ後から聞こえる。
気が遠くなっていく。
瞳からポロリと涙が零れ落ちた。
わたくしはあなたにとって、ただの妹分でしょう? 妃でもなければ、恋人でもありませんもの! 指図されるいわれはございませんわ!
お願いですから、わたくしのことはもう放っておいてください! 姉さまと仲良く暮らしてくだされば、わたくしはそれで――――」
けれど、わたしの言葉は唐突に遮られた。
さっきよりもずっと近くに憂炎の瞳が見えて、唇を温かな何かが包み込む。
触れた唇、肌がジンジン疼いて、甘くて苦くて堪らない。
(どうして!? どうしてこんなことをするんだよ!?)
わたしは『華凛』だ。
憂炎が妃にしたいのは『凛風』であって、わたしじゃない。
憂炎のバカ!
『凛風』が唯一の妃だって言ったじゃない。
あんなに好きだって。想いに応えてほしいって言ってたくせに。
(どうして『華凛』にキスなんてするの?)
必死に抵抗しようとしたのに、憂炎はわたしの手を掴み、指先を絡めて繋ぎとめる。
イヤイヤと首を横に振っても、ちっとも止めてくれなくて、何度も何度も唇を吸われた。
このまま心臓を奪い取られるんじゃないかって位に、深く口づけられて。
息もまともに吸えなくて。
顔なんか涙でぐちゃぐちゃで。
このまま死んだ方が良いんじゃないかってぐらい悲しくて。苦しくて。
それなのに、おかしいんだ。
心の奥底で『嬉しい』って思っている自分が居る。
ああ、わたしは。
わたしは本当はずっと。
(憂炎のことが好きだったんだ)
胸が張り裂けそうに痛かった。
喉から手が出そうな程、身体中の血液が沸騰するほど、全身が憂炎を求めていた。
だからこそ、わたしは憂炎に『凛風』を好きでいてほしかった。
『凛風』だけを好きでいてほしかった。
だけど『凛風』はもう、わたしじゃない。
これ以上、憂炎と『凛風』を見ていたくなかった。
華凛から想いを受け取って、幸せになってほしい――――そう思っているはずなのに、それと同じぐらい、憂炎には『わたし』だけを想っていてほしい――――そんな、矛盾した醜い感情を抱いていた。
だから今、『華凛』を求める憂炎が悲しくて。
だけど、『わたし』を求められたことが嬉しくて。
ほんと、矛盾だらけ。
もはや、どうしようもない。
ようやく唇が解放されて、憂炎がわたしの頬をそっと撫でる。
「凛――――」
その瞬間、わたしは憂炎の頬を思い切り引っ叩いた。
室内に響く大きな音。手のひらがめちゃくちゃヒリヒリして、熱くて痛い。
涙が止め処なく流れ、わたしの頬と憂炎の手のひらを濡らした。
「憂炎のバカ!」
こんなの、不敬なんてレベルじゃ済まされないって分かっている。
だけど、わたしは自分を止めることが出来なかった。
「憂炎なんて大っ嫌い!」
大っ嫌い――――それは本当で、嘘だ。
大っ嫌いだと思う以上に、本当は憂炎が好きで堪らない。
だけど、これ以上自分に嘘は吐けそうにない。
(今度こそさよならだ、憂炎)
憂炎の手を振りほどき、わたしは部屋の入口へと走った。
もう二度と、ここへ来ることはないだろう。
憂炎に会うことも。
けれどその時、ほんの少しだけ開いた扉の隙間から、キラリと光る何かが見えた。
そうと気づいたその瞬間、それは憂炎目掛けて勢いよく、真っ直ぐに飛んでくる。
声を上げる暇なんてない。
わたしは矢の向かう方角目掛けて腕を広げた。
すぐにドスッて鈍い音が聞こえて、胸の辺りがボワッと熱くなる。
湿った紅い液体が胸元を汚して、ようやく鋭い痛みが走った。
「凛風!」
憂炎の叫び声がわたしのすぐ後から聞こえる。
気が遠くなっていく。
瞳からポロリと涙が零れ落ちた。
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