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【1章】婚活令嬢ロゼッタ
6.公爵夫人のお茶会
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(よし)
フリルと刺繍がふんだんにあしらわれたピンクと白のドレスに、大きな帽子。化粧はいつもよりも控えめに、品よくおとなしめに仕上げた。鏡に写った己の姿を何度も入念に確認し、ロゼッタは満足気に微笑む。
こういう格好をしていれば、どこからどうみても深窓の令嬢にしか見えない。実際は夜ごと夜会に繰り出していても、だ。
ほとんどなにも入らないほど小さなバッグにはハンカチと財布に加え、インクとガラスペン、それから小さくて分厚い冊子を詰め込んだ。
準備は万端。気合も十分。
ロゼッタは勇んで部屋を出た。
***
それから数刻後、ロゼッタは王都にあるとある大邸宅を訪れていた。
「いらっしゃい、ロゼッタ。よく来てくれたわね」
「こんにちは、公爵夫人。本日はお招きいただき、ありがとうございます」
ロゼッタはそう言って、とても丁寧に頭を下げる。
彼女を迎え入れてくれたのはこの家の女主人――ロベルタ公爵夫人だ。ゆるやかに巻かれたシルバーヘアに堂々と優雅な佇まい。王宮勤めで王族や殿上人を見慣れているロゼッタから見ても、特別な女性だと感じてしまう。
「ああ、ワクワクしてしまいますわ。わたくし、何日も前からこの日を心待ちにしてきたんです……!」
「まあ、そう言っていただけて本当に嬉しいわ。だけど、あなたみたいな若い人には、私たちの集まりは退屈じゃない? 話が合うといいのだけど」
公爵夫人はそう言うと、ちらりと庭園のほうへ目を向ける。そこに集っているのは四十歳~五十歳程度の貴婦人ばかり。ロゼッタのような若者は一人もいなかった。
「とんでもない……! わたくし、皆様にお聞きしてみたいことがたくさんございますのよ!」
あまりにも真剣なロゼッタの表情に、公爵夫人は若干気圧されてしまう。
この茶会の招待客は皆、成功者の夫人ばかりだ。政界のドンに投資家、不動産王などなど、名だたる金持ち(の妻)が集っている。
つまり、彼女たちはロゼッタにとって大先輩。金持ちと出会い、彼らをゲットしてきた女性ばかりなのである。
(成功の秘訣は成功者に聞くのが一番ですわ)
今回、ロゼッタは夜会や侍女として得たツテをフル活用して、なんとか公爵夫人と交流を持つことに成功した。そして、お茶会に招待してもらえることになったのである。
「それはよかった。皆様素敵な女性ばかりだから、きっと貴重な話がたくさん聞けると思うわ」
「ええ、それはもう! どうぞよろしくお願いいたします」
ロゼッタは公爵夫人からの紹介を経て、招待客の輪に入った。
夫人たちの話といえば、自分が若かった頃の苦労話や、夫の愚痴、それから若い人への説教のようなものが大半だったが、ロゼッタはそれらすべてに熱心に耳を傾け、称賛の声を上げ、ひたすらメモを取っていく。
「ロゼッタ嬢は優しいのね。うちの娘は最近わたくしの話にちっとも興味を持ってくれないのよ?」
「そうなんですの? なんてもったいない……! わたくしでしたら本当にありとあらゆることをお尋ねしたいと思いますのに」
「あら嬉しい」
己の話を楽しそうに聞いてくれるロゼッタの姿は、彼女たちの瞳に好意的にうつったらしい。年齢は二周り以上違うけれど、茶会中、終始可愛がってもらえた。これ幸いとばかりに、ロゼッタは彼女たちに質問を投げかけまくる。
「旦那さまと出会ったのはいつ、どこで、どんなタイミングだったのですか?」
「旦那さまをお選びになった決め手はなんでしたの?」
「どんな一手が旦那さまの心を射止めましたの?」
「ドレスは、髪型は、お化粧は、香水はどんなものがよろしいのでしょうか?」
「皆様のモーニングルーティーンを教えていただけませんか?」
「趣味は? 学ぶべき知識は? 今行っておくべき場所は?」
ここまであけすけに聞かれては、ロゼッタがお茶会に来た目的は一目瞭然だ。けれど、不思議と悪い気はしない。己の欲望に忠実で、けれどあまりにも勉強熱心なロゼッタは、一周回って可愛く感じられた。
「ロゼッタ、今度我が家で夜会を開くからいらっしゃい」
「まあ、いいんですか?」
「ええ。あなたに合いそうな人を紹介してあげるわ」
「本当ですの!?」
夫人たちの提案にキラキラと瞳を輝かせるロゼッタを見つめながら、公爵夫人が「そういえば」と話を切り出す。
「ちょうど今、主人があなたと同じ年頃の男性を屋敷に招待しているのよ。将来有望だって絶賛していたから、会ってみたらいいんじゃないかしら。しかも、とっても綺麗な顔立ちをしているのよ! 皆様にもぜひ紹介しておきたいわ」
「あら、素敵……!」
嬉しそうに微笑んでいる婦人たちに合わせ、ロゼッタは笑う。
(わたくしと同じ年頃、か)
だとしたら、まだなんの実績もない若造だろう。ロゼッタの調査によれば、同年代が富を築いたという話は聞いたことがないし、約束された未来があるのは王族かものすごい資産家の子息ぐらいのもの。正直言ってあまり期待はできない。もちろん、場の空気を壊すようなことは言わないけれど。
「――お呼びでしょうか、公爵夫人」
しばらくして、くだんの男性がロゼッタたちの元へとやってきた。……が、男性の顔を見るなり、ロゼッタは思わず目を丸くする。
「ライノア様!?」
「……ああ、ロゼッタ嬢。あなたも招待されていたのですか」
ライノアは涼しい顔でそうこたえる。困惑しているロゼッタをよそに、夫人たちが歓喜の声をあげはじめた。
「まあ、なんて美しい顔立ちなの!?」
「ライノア様――ああ、キーガン家の御子息なのね」
「素敵だわ!」
「公爵様が目をかけていらっしゃるんですもの。さぞや優秀な方なのでしょうね」
完全に歓迎ムードができあがっている。……が、ロゼッタとしては全く面白くない。
(これでは有益な情報を得る貴重な機会を逃してしまいますわ)
夫人たちはライノアの美貌に夢中だ。これではロゼッタにとって不必要なライノアの情報ばかりが手に入り、彼女たちから話を聞き出すことは困難だろう。
なんとかしてさっさとライノアを追い出したい。決意を胸に、ロゼッタはキッと視線を上向けた。
フリルと刺繍がふんだんにあしらわれたピンクと白のドレスに、大きな帽子。化粧はいつもよりも控えめに、品よくおとなしめに仕上げた。鏡に写った己の姿を何度も入念に確認し、ロゼッタは満足気に微笑む。
こういう格好をしていれば、どこからどうみても深窓の令嬢にしか見えない。実際は夜ごと夜会に繰り出していても、だ。
ほとんどなにも入らないほど小さなバッグにはハンカチと財布に加え、インクとガラスペン、それから小さくて分厚い冊子を詰め込んだ。
準備は万端。気合も十分。
ロゼッタは勇んで部屋を出た。
***
それから数刻後、ロゼッタは王都にあるとある大邸宅を訪れていた。
「いらっしゃい、ロゼッタ。よく来てくれたわね」
「こんにちは、公爵夫人。本日はお招きいただき、ありがとうございます」
ロゼッタはそう言って、とても丁寧に頭を下げる。
彼女を迎え入れてくれたのはこの家の女主人――ロベルタ公爵夫人だ。ゆるやかに巻かれたシルバーヘアに堂々と優雅な佇まい。王宮勤めで王族や殿上人を見慣れているロゼッタから見ても、特別な女性だと感じてしまう。
「ああ、ワクワクしてしまいますわ。わたくし、何日も前からこの日を心待ちにしてきたんです……!」
「まあ、そう言っていただけて本当に嬉しいわ。だけど、あなたみたいな若い人には、私たちの集まりは退屈じゃない? 話が合うといいのだけど」
公爵夫人はそう言うと、ちらりと庭園のほうへ目を向ける。そこに集っているのは四十歳~五十歳程度の貴婦人ばかり。ロゼッタのような若者は一人もいなかった。
「とんでもない……! わたくし、皆様にお聞きしてみたいことがたくさんございますのよ!」
あまりにも真剣なロゼッタの表情に、公爵夫人は若干気圧されてしまう。
この茶会の招待客は皆、成功者の夫人ばかりだ。政界のドンに投資家、不動産王などなど、名だたる金持ち(の妻)が集っている。
つまり、彼女たちはロゼッタにとって大先輩。金持ちと出会い、彼らをゲットしてきた女性ばかりなのである。
(成功の秘訣は成功者に聞くのが一番ですわ)
今回、ロゼッタは夜会や侍女として得たツテをフル活用して、なんとか公爵夫人と交流を持つことに成功した。そして、お茶会に招待してもらえることになったのである。
「それはよかった。皆様素敵な女性ばかりだから、きっと貴重な話がたくさん聞けると思うわ」
「ええ、それはもう! どうぞよろしくお願いいたします」
ロゼッタは公爵夫人からの紹介を経て、招待客の輪に入った。
夫人たちの話といえば、自分が若かった頃の苦労話や、夫の愚痴、それから若い人への説教のようなものが大半だったが、ロゼッタはそれらすべてに熱心に耳を傾け、称賛の声を上げ、ひたすらメモを取っていく。
「ロゼッタ嬢は優しいのね。うちの娘は最近わたくしの話にちっとも興味を持ってくれないのよ?」
「そうなんですの? なんてもったいない……! わたくしでしたら本当にありとあらゆることをお尋ねしたいと思いますのに」
「あら嬉しい」
己の話を楽しそうに聞いてくれるロゼッタの姿は、彼女たちの瞳に好意的にうつったらしい。年齢は二周り以上違うけれど、茶会中、終始可愛がってもらえた。これ幸いとばかりに、ロゼッタは彼女たちに質問を投げかけまくる。
「旦那さまと出会ったのはいつ、どこで、どんなタイミングだったのですか?」
「旦那さまをお選びになった決め手はなんでしたの?」
「どんな一手が旦那さまの心を射止めましたの?」
「ドレスは、髪型は、お化粧は、香水はどんなものがよろしいのでしょうか?」
「皆様のモーニングルーティーンを教えていただけませんか?」
「趣味は? 学ぶべき知識は? 今行っておくべき場所は?」
ここまであけすけに聞かれては、ロゼッタがお茶会に来た目的は一目瞭然だ。けれど、不思議と悪い気はしない。己の欲望に忠実で、けれどあまりにも勉強熱心なロゼッタは、一周回って可愛く感じられた。
「ロゼッタ、今度我が家で夜会を開くからいらっしゃい」
「まあ、いいんですか?」
「ええ。あなたに合いそうな人を紹介してあげるわ」
「本当ですの!?」
夫人たちの提案にキラキラと瞳を輝かせるロゼッタを見つめながら、公爵夫人が「そういえば」と話を切り出す。
「ちょうど今、主人があなたと同じ年頃の男性を屋敷に招待しているのよ。将来有望だって絶賛していたから、会ってみたらいいんじゃないかしら。しかも、とっても綺麗な顔立ちをしているのよ! 皆様にもぜひ紹介しておきたいわ」
「あら、素敵……!」
嬉しそうに微笑んでいる婦人たちに合わせ、ロゼッタは笑う。
(わたくしと同じ年頃、か)
だとしたら、まだなんの実績もない若造だろう。ロゼッタの調査によれば、同年代が富を築いたという話は聞いたことがないし、約束された未来があるのは王族かものすごい資産家の子息ぐらいのもの。正直言ってあまり期待はできない。もちろん、場の空気を壊すようなことは言わないけれど。
「――お呼びでしょうか、公爵夫人」
しばらくして、くだんの男性がロゼッタたちの元へとやってきた。……が、男性の顔を見るなり、ロゼッタは思わず目を丸くする。
「ライノア様!?」
「……ああ、ロゼッタ嬢。あなたも招待されていたのですか」
ライノアは涼しい顔でそうこたえる。困惑しているロゼッタをよそに、夫人たちが歓喜の声をあげはじめた。
「まあ、なんて美しい顔立ちなの!?」
「ライノア様――ああ、キーガン家の御子息なのね」
「素敵だわ!」
「公爵様が目をかけていらっしゃるんですもの。さぞや優秀な方なのでしょうね」
完全に歓迎ムードができあがっている。……が、ロゼッタとしては全く面白くない。
(これでは有益な情報を得る貴重な機会を逃してしまいますわ)
夫人たちはライノアの美貌に夢中だ。これではロゼッタにとって不必要なライノアの情報ばかりが手に入り、彼女たちから話を聞き出すことは困難だろう。
なんとかしてさっさとライノアを追い出したい。決意を胸に、ロゼッタはキッと視線を上向けた。
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