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【3章】攻略対象、混戦中
20.ロゼッタの旅支度
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(これとこれ、それから……よし、揃ってますわね)
とてつもなく長いリストをチェックしながら、ロゼッタはふぅと汗を拭う。
セリーナの公務に同行することが決まって早数日、ロゼッタはいつになく忙しい日々を過ごしていた。
というのも、普段公務に同行するのは女官や文官たちばかりで、侍女であるロゼッタの出番はほとんど存在しない。衣装や化粧は城を出る前に整えてしまえばいいから、同行する必要はないのだ。
けれど、今回は泊りがけの隣国での公務だから、いつものように文官たちにお任せ、というわけにはいかない。どんな準備をすればいいのか、ロゼッタには勝手がわからなかったのだ。
そんなわけで、ロゼッタは経験豊富な侍女――セリーナの母親である王妃の侍女たちに教えを請い、セリーナの隣国行きの準備を進めなければならなかった。
現地で着るドレスやジュエリーを選んだり、化粧品や美容グッズを厳選したり、訪問先への土産について助言を求められたりと、息つく暇もなかったほど。そうして、大量の荷物をまとめ、チェックをし終えたのが先程のことだった。
(これで、ようやく自分の準備ができますわね)
ロゼッタは伸びをしてから自分の部屋に戻る。それから、便箋とペンを手に机に向かった。
(本当は直接会っておきたかったのだけど、そんな時間は取れそうにないから)
ふぅ、とため息をつきつつ、ロゼッタは静かに目を瞑る。
ロゼッタが手紙を書いている相手は実業家のウィルバートだ。
彼に子ども扱いをされてからひと月ほど、まともに連絡を取っていない。ウィルバートを見返すための自分磨きに加え、クローヴィスとの食事会や父親の件、それから今回の隣国行きが重なって、手紙を書く余裕がなかったのだ。
(なんて、あちらはもう、わたくしのことなんて忘れているかもしれないけど)
ウィルバートにとって、ロゼッタはただ可愛いだけの子どもで、恋愛対象にすら入っていない。このままフェードアウトしても一向に構わない相手だろう。
けれど、ロゼッタはそれでは嫌なのだ。
【仕事のため、しばらく国を出ることになりました】
しばらくといっても、行き帰りも含めてほんの二週間ほどのことなのだが、少しでもウィルバートの気を引きたくて、ロゼッタはそんなふうに手紙を書き進めていく。本当は【帰ってきたらまた会ってほしい】とか【わたくしを忘れないで】と書きたいとも思ったが、子どもっぽいと思われたくなくて、城を留守にすることだけを書くに留めた。
手紙を書き終えると便箋を封筒に仕舞う。――が、ややしてロゼッタは再び便箋を取り出し、シュッと自身の香水を吹きかけた。
(ウィルバート様が少しでもわたくしを思い出してくれますように)
念じること数秒。ロゼッタは今度こそしっかりと封をし、ウィルバートに届くよう手配をする。
手紙を出し終えたその足で、ロゼッタは別の場所へ向かった。
目的の場所に到着すると、護衛のため扉の前に立っている騎士へと声をかけ、取次を依頼する。しばらくしてから、お目当ての人物がひょこリと顔を出した。
「ごきげんよう、ライノア様」
ロゼッタが声を掛けると、ライノアは怪訝な表情を浮かべつつ、彼の勤務先である王太子の執務室から出てくる。
「どういう風の吹き回しです?」
「そんな顔なさらないで。わたくしはただ、先日のお礼がしたかっただけです」
ロゼッタはムッとしながら首を傾げると、ライノアの手を取り小さな小包を渡した。
「中身はカフスボタンとシャツですわ。ライノア様って洒落っ気がまったくないから、こういうものを身につけると評価が上がると思いまして」
「……その程度で人の評価が上がるものでしょうか? というか、僕に好みを聞いたりしないんですね」
ライノアは小包をまじまじと見つめ、心底不思議そうに首を傾げている。
「あのですね! 服やアクセサリーといった身につけるものは、その人がどのような人なのか、どうありたいかを示す大事なツールですのよ! 適当なものを身につけていると、適当な人なんだと周囲に思われますし、その逆もまた然りです! それから、わたくしは自分のセンスに自信がありますし、わたくしが差し上げたいと思ったものを贈るだけですから、ライノア様に好みを聞く必要はないでしょう?」
ビシッと指を立て、ロゼッタがライノアに言い募る。ライノアはしばらくきょとんとしていたが、ややして声を上げて笑った。
「ロゼッタ嬢らしいです。わかりました……でしたらありがたくいただきます」
「ええ、そうしてちょうだい」
ロゼッタはそう言って満足気に微笑む。ライノアがそっと目を細めた。
「王太子殿下から聞きました。しばらく隣国へ行かれるそうですね」
「そうなの。ご希望なら、お土産を買ってきてあげますわよ?」
「いえ、別に」
「差し上げると言っているの! 素直に受け取ってくれればいいでしょう?」
またもやムッとしてしまったロゼッタに、ライノアはクスクスと笑い声を上げる。
「ロゼッタ嬢はお金が何より大事なのに、誰かのために使うことを躊躇しないんですね」
「あら、お金は誰かのために使ってこそ美しく輝くものです。もちろん、自分のために使うことも惜しみませんし、わたくしは守銭奴ではないのですわ。そもそも、たくさん使いたいからこそ、それが可能となる裕福な男性を探しているわけで」
「なるほど。そういう価値観なんですね」
ロゼッタは「ええ」と返事をしつつ、はにかむように笑う。ライノアに自分という人間を少しだけ理解してもらえたようで、嬉しく感じた。
「それじゃあ、道中気を付けて」
「ええ。お土産、ちゃんと期待していてくださいね」
ロゼッタはそう言ってライノアに手を振る。それから軽い足取りで自分の部屋へと戻るのだった。
とてつもなく長いリストをチェックしながら、ロゼッタはふぅと汗を拭う。
セリーナの公務に同行することが決まって早数日、ロゼッタはいつになく忙しい日々を過ごしていた。
というのも、普段公務に同行するのは女官や文官たちばかりで、侍女であるロゼッタの出番はほとんど存在しない。衣装や化粧は城を出る前に整えてしまえばいいから、同行する必要はないのだ。
けれど、今回は泊りがけの隣国での公務だから、いつものように文官たちにお任せ、というわけにはいかない。どんな準備をすればいいのか、ロゼッタには勝手がわからなかったのだ。
そんなわけで、ロゼッタは経験豊富な侍女――セリーナの母親である王妃の侍女たちに教えを請い、セリーナの隣国行きの準備を進めなければならなかった。
現地で着るドレスやジュエリーを選んだり、化粧品や美容グッズを厳選したり、訪問先への土産について助言を求められたりと、息つく暇もなかったほど。そうして、大量の荷物をまとめ、チェックをし終えたのが先程のことだった。
(これで、ようやく自分の準備ができますわね)
ロゼッタは伸びをしてから自分の部屋に戻る。それから、便箋とペンを手に机に向かった。
(本当は直接会っておきたかったのだけど、そんな時間は取れそうにないから)
ふぅ、とため息をつきつつ、ロゼッタは静かに目を瞑る。
ロゼッタが手紙を書いている相手は実業家のウィルバートだ。
彼に子ども扱いをされてからひと月ほど、まともに連絡を取っていない。ウィルバートを見返すための自分磨きに加え、クローヴィスとの食事会や父親の件、それから今回の隣国行きが重なって、手紙を書く余裕がなかったのだ。
(なんて、あちらはもう、わたくしのことなんて忘れているかもしれないけど)
ウィルバートにとって、ロゼッタはただ可愛いだけの子どもで、恋愛対象にすら入っていない。このままフェードアウトしても一向に構わない相手だろう。
けれど、ロゼッタはそれでは嫌なのだ。
【仕事のため、しばらく国を出ることになりました】
しばらくといっても、行き帰りも含めてほんの二週間ほどのことなのだが、少しでもウィルバートの気を引きたくて、ロゼッタはそんなふうに手紙を書き進めていく。本当は【帰ってきたらまた会ってほしい】とか【わたくしを忘れないで】と書きたいとも思ったが、子どもっぽいと思われたくなくて、城を留守にすることだけを書くに留めた。
手紙を書き終えると便箋を封筒に仕舞う。――が、ややしてロゼッタは再び便箋を取り出し、シュッと自身の香水を吹きかけた。
(ウィルバート様が少しでもわたくしを思い出してくれますように)
念じること数秒。ロゼッタは今度こそしっかりと封をし、ウィルバートに届くよう手配をする。
手紙を出し終えたその足で、ロゼッタは別の場所へ向かった。
目的の場所に到着すると、護衛のため扉の前に立っている騎士へと声をかけ、取次を依頼する。しばらくしてから、お目当ての人物がひょこリと顔を出した。
「ごきげんよう、ライノア様」
ロゼッタが声を掛けると、ライノアは怪訝な表情を浮かべつつ、彼の勤務先である王太子の執務室から出てくる。
「どういう風の吹き回しです?」
「そんな顔なさらないで。わたくしはただ、先日のお礼がしたかっただけです」
ロゼッタはムッとしながら首を傾げると、ライノアの手を取り小さな小包を渡した。
「中身はカフスボタンとシャツですわ。ライノア様って洒落っ気がまったくないから、こういうものを身につけると評価が上がると思いまして」
「……その程度で人の評価が上がるものでしょうか? というか、僕に好みを聞いたりしないんですね」
ライノアは小包をまじまじと見つめ、心底不思議そうに首を傾げている。
「あのですね! 服やアクセサリーといった身につけるものは、その人がどのような人なのか、どうありたいかを示す大事なツールですのよ! 適当なものを身につけていると、適当な人なんだと周囲に思われますし、その逆もまた然りです! それから、わたくしは自分のセンスに自信がありますし、わたくしが差し上げたいと思ったものを贈るだけですから、ライノア様に好みを聞く必要はないでしょう?」
ビシッと指を立て、ロゼッタがライノアに言い募る。ライノアはしばらくきょとんとしていたが、ややして声を上げて笑った。
「ロゼッタ嬢らしいです。わかりました……でしたらありがたくいただきます」
「ええ、そうしてちょうだい」
ロゼッタはそう言って満足気に微笑む。ライノアがそっと目を細めた。
「王太子殿下から聞きました。しばらく隣国へ行かれるそうですね」
「そうなの。ご希望なら、お土産を買ってきてあげますわよ?」
「いえ、別に」
「差し上げると言っているの! 素直に受け取ってくれればいいでしょう?」
またもやムッとしてしまったロゼッタに、ライノアはクスクスと笑い声を上げる。
「ロゼッタ嬢はお金が何より大事なのに、誰かのために使うことを躊躇しないんですね」
「あら、お金は誰かのために使ってこそ美しく輝くものです。もちろん、自分のために使うことも惜しみませんし、わたくしは守銭奴ではないのですわ。そもそも、たくさん使いたいからこそ、それが可能となる裕福な男性を探しているわけで」
「なるほど。そういう価値観なんですね」
ロゼッタは「ええ」と返事をしつつ、はにかむように笑う。ライノアに自分という人間を少しだけ理解してもらえたようで、嬉しく感じた。
「それじゃあ、道中気を付けて」
「ええ。お土産、ちゃんと期待していてくださいね」
ロゼッタはそう言ってライノアに手を振る。それから軽い足取りで自分の部屋へと戻るのだった。
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