婚活令嬢ロゼッタは、なによりお金を愛している!

鈴宮(すずみや)

文字の大きさ
27 / 49
【3章】攻略対象、混戦中

27.目に見えるもの、見えないもの

しおりを挟む
 王室主催の夜会とあって、会場は重厚かつ落ち着いた雰囲気だった。


(ついつい浮かれてしまったけれど、セリーナ殿下とクローヴィス殿下にとっては、この夜会も大事な公務の場なのよね)


 他国の王族や貴族と交流を深める貴重な機会。クローヴィスにエスコートを受けているセリーナの後ろを歩きつつ、ロゼッタは気を引き締める。


「セリーナ殿下!」


 会場に入ってすぐに、今回の公務の目的――王太女ライラから声をかけられた。
 一介の侍女であるロゼッタが、こうして顔を合わせるのははじめてのこと。ロゼッタは深々と頭を下げる。


「どうぞ楽にして。セリーナ殿下の侍女かしら?」

「ええ。ロゼッタというの。可愛いでしょう? 自慢の侍女なの」

「セリーナ殿下……」


 どうやら二人は相当仲良くなったらしい。砕けた口調で会話を交わしている。
 それにしても、こんなふうに紹介をされるとは思っていなかったので、ロゼッタは恥ずかしくなってしまう。


「お飲み物をどうぞ」

「お名前を教えていただけませんか?」


 セリーナとライラの会話が弾んだ頃合いを見計らって、男性たちがロゼッタに声をかけてきた。若く、見目麗しい男性ばかりだ。


(なんだかとても新鮮だわ)


 自国の夜会では「はじめまして」の男性の数が少ないし、高嶺の花扱いされて、若い男性からはほとんど話しかけてもらえない。セリーナの侍女として出席をしているからこそ、今回は気軽に声をかけられたのだろう。夜会の目的は二国間の交流を深めることだから、声をかけなければむしろ失礼にあたるとすら思われていそうだ。


(楽しい)


 男性たちと会話を交わすロゼッタだったが、ジトッとした視線を感じてふと振り返る。クローヴィスだ。『楽しそうだね』と唇が動き、ロゼッタは思わずドキッとしてしまった。


「もう……いけませんの?」


 セリーナの引き立て役になるように、と言ったのは他でもない、クローヴィスだというのに。第一、今回はいつものようにロゼッタのほうからアプローチはしていない。来るに任せただけなのだが。

 ロゼッタは男性たちに断りを入れ、会場の隅に向かって歩を進める。それから小さくため息をついた。


「あなたって本当に尻軽ね」

「……え?」


 唐突にそんな言葉が聞こえてきて、ロゼッタはそっと隣を見る。そこには先客、クローヴィスの侍女がいた。ともすればスタッフと間違われそうな地味なドレスに身を包んでいる。ロゼッタは静かに首を傾げた。


「尻軽とは?」

「自分をチヤホヤしてくれる男なら誰でもいいの? とんだ悪女じゃない」


 軽蔑をあらわにした視線。ロゼッタは小さく肩をすくめた。


「先日も申し上げましたでしょう? わたくしにとって大事なものはお金です。男性ならば誰でもいいというわけでは」

「だったら、どうしてクローヴィス殿下からドレスを贈られているのよ!」


 クローヴィスの侍女は顔を真っ赤に染めてロゼッタに詰め寄る。小声だが、あまりに語気が強いため、何人かがこちらを振り向いた気配がする。


「ちょっとこっちに来て」


 侍女から腕を引かれ、ロゼッタは黙ってついていく。人気のないバルコニーについたところで、侍女は再びロゼッタに向き直った。


「どうして私じゃないの? 私のほうがずっと、殿下のことを想っているのに! そのドレスだって、もしかしたら! ……もしかしたら、私に贈ってくださるんじゃないかって思っていたのに」

「まあ……」


 聞いていて、なんだか気の毒になってくる。ロゼッタは侍女の顔をじっと見つめた。


「そのネックレスだってそう! 別の男性――トゥバルト様からいただいたものでしょう?」

「ええ、まぁ……」

「本当に最悪っ! どうして男性はこんな顔だけの女がいいわけ? どれだけ勉強をしても、努力しても、そういう部分はちっとも見てもらえない」


 侍女は地団駄を踏まんばかりの勢いで悔しがっている。対するロゼッタの心は、完全に冷めきっていた。


(ないものねだりをしたって、仕方がないのに)


 どうしてそれがわからないのだろう? しかも、ロゼッタはこの侍女を苦しめようと、なにかをしたわけではない。すべて男性側が勝手にしてくれたことだ。それなのに、こんなふうに文句を言われる筋合いはない。ロゼッタはぐっと姿勢を正した。


「目に見えないものに、なんの価値がありますの?」

「はあ?」

「努力は美徳です。頑張ることに価値はあります。けれど、その頑張りが誰にも見えない形だというのに『見てもらえない』『わかってもらえない』というのは違うでしょう?」

「なっ……!」


 侍女が瞳を吊り上げる。ロゼッタはふぅと息をついた。


「わたくしは男性にとって魅力的に見えるよう、努力をしてきました。いかに可愛く見えるか、声をかけたくなるかを日々研究して、ここまで来たのです。あなたと違って、目に見えるものを大事にした、そういう努力を選んだだけのこと。それを尻軽、悪女と称されるならば、別にそれで構いません。あなたはいつまでも『気づいてもらえない』とウジウジして、そこでうずくまっていればよろしいのでは?」

「バカにしないでよ!」


 侍女が右手を振り上げる。ふと見れば、侍女の指に大きな宝石が埋め込まれた指輪がはめてあった。


(殴られたら傷がついてしまう)


 さすがにこれはまずい。挑発をしすぎたと後悔したところでもう遅そうだ。
 ロゼッタがオロオロと視線を彷徨わせていたそのときだ。


「せっかく綺麗な顔なのにもったいない」


 侍女の背後からそんな声が聞こえてくる。ロゼッタが恐る恐るそちらを見ると、見覚えのない男性が立っていた。


「え? あっ……これは、その」

(一体いつからいらっしゃったのかしら?)


 そこにいたのはクローヴィスにも劣らないほど美しい男性だった。小麦色に近い金色の長髪に水色の瞳。年齢はロゼッタより数歳上だろうか? そこはかとなく大人の色気が漂っている。――少しだけウィルバートに似ている、とロゼッタは感じた。


「そんなことをしたら、傷つくのは君のほうだ。美しい君自身のために、その手はおろしたほうがいい。違うかな?」

「あの……その……」


 男性はまっすぐに侍女を見つめ、優しく微笑んでいる。ロゼッタのほうは見向きもしない。


(この方、きっと何度も修羅場を経験しているわね)


 女性慣れしているというか、女心をわかっている感じがする。やがて、侍女は右手をそっとおろした。


「君が傷つかずに済んでよかった」


 男性は侍女の手の甲にそっと口付けると、ようやくロゼッタのほうをチラリと見る。


「わ、私、もう行きます。その……ありがとうございました」

「うん。夜会を楽しんでね」


 ロゼッタは侍女の後ろ姿を、男性と一緒に見送った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】レイハート公爵夫人の時戻し

風見ゆうみ
恋愛
公爵夫人である母が亡くなったのは、私、ソラリアが二歳になり、妹のソレイユが生まれてすぐのことだ。だから、母の記憶はないに等しい。 そんな母が私宛に残していたものがあった。 青色の押し花付きの白い封筒に入った便箋が三枚。 一枚目には【愛するソラリアへ】三枚目に【母より】それ以外、何も書かれていなかった。 父の死後、女性は爵位を継ぐことができないため、私は公爵代理として、領民のために尽くした。 十九歳になった私は、婚約者に婿入りしてもらい、彼に公爵の爵位を継いでもらった。幸せな日々が続くかと思ったが、彼との子供を授かったとわかった数日後、私は夫と実の妹に殺されてしまう。 けれど、気がついた時には、ちょうど一年前になる初夜の晩に戻っており、空白だったはずの母からの手紙が読めるようになっていた。 殺されたことで羊の形をした使い魔が見えるようになっただけでなく『時戻しの魔法』を使えるようになった私は、爵位を取り返し、妹と夫を家から追い出すことに決める。だが、気弱な夫は「ソラリアを愛している。別れたくない」と泣くばかりで、離婚を認めてくれず――。

私が生きていたことは秘密にしてください

月山 歩
恋愛
メイベルは婚約者と妹によって、崖に突き落とされ、公爵家の領地に倒れていた。 見つけてくれた彼は一見優しそうだが、行方不明のまま隠れて生きて行こうとする私に驚くような提案をする。 「少年の世話係になってくれ。けれど人に話したら消す。」

【完結】白い結婚を終えて自由に生きてまいります

なか
恋愛
––アロルド、私は貴方が結婚初日に告げた言葉を今でも覚えている。  忘れもしない、あの時貴方は確かにこう言った。  「初めに言っておく、俺達の婚姻関係は白い結婚として……この関係は三年間のみとする」 「白い結婚ですか?」 「実は俺には……他に愛する女性がいる」   それは「公爵家の令嬢との問題」を理由に、三年間だけの白い結婚を強いるもの。 私の意思を無視して三家が取り決めたものであったが、私は冷静に合意を決めた ――それは自由を得るため、そして『私自身の秘密を隠すため』の計算でもあった。 ところが、三年の終わりが近づいたとき、アロルドは突然告白する。「この三年間で君しか見えなくなった。白い結婚の約束をなかったことにしてくれ」と。 「セシーリア、頼む……どうか、どうか白い結婚の合意を無かった事にしてくれ」 アロルド、貴方は何を言い出すの? なにを言っているか、分かっているの? 「俺には君しかいないと、この三年間で分かったんだ」 私の答えは決まっていた。 受け入れられるはずがない。  自由のため、私の秘密を守るため、貴方の戯言に付き合う気はなかった。    ◇◇◇ 設定はゆるめです。 とても強い主人公が自由に暮らすお話となります。 もしよろしければ、読んでくださると嬉しいです!

P.S. 推し活に夢中ですので、返信は不要ですわ

汐瀬うに
恋愛
アルカナ学院に通う伯爵令嬢クラリスは、幼い頃から婚約者である第一王子アルベルトと共に過ごしてきた。しかし彼は言葉を尽くさず、想いはすれ違っていく。噂、距離、役割に心を閉ざしながらも、クラリスは自分の居場所を見つけて前へ進む。迎えたプロムの夜、ようやく言葉を選び、追いかけてきたアルベルトが告げたのは――遅すぎる本心だった。 ※こちらの作品はカクヨム・アルファポリス・小説家になろうに並行掲載しています。

【完結】優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした

ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。 彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。 そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。 しかし、公爵にもディアにも秘密があった。 その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。 ※本作は「小説家になろう」さん、カクヨムさんにも投稿しています ※表紙画像はAIで作成したものです

【完結】地味令嬢の願いが叶う刻

白雨 音
恋愛
男爵令嬢クラリスは、地味で平凡な娘だ。 幼い頃より、両親から溺愛される、美しい姉ディオールと後継ぎである弟フィリップを羨ましく思っていた。 家族から愛されたい、認められたいと努めるも、都合良く使われるだけで、 いつしか、「家を出て愛する人と家庭を持ちたい」と願うようになっていた。 ある夜、伯爵家のパーティに出席する事が認められたが、意地悪な姉に笑い者にされてしまう。 庭でパーティが終わるのを待つクラリスに、思い掛けず、素敵な出会いがあった。 レオナール=ヴェルレーヌ伯爵子息___一目で恋に落ちるも、分不相応と諦めるしか無かった。 だが、一月後、驚く事に彼の方からクラリスに縁談の打診が来た。 喜ぶクラリスだったが、姉は「自分の方が相応しい」と言い出して…  異世界恋愛:短編(全16話) ※魔法要素無し。  《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆ 

氷の宰相補佐と押しつけられた厄災の花嫁

瑞原唯子
恋愛
王命により、アイザックはまだ十歳の少女を妻として娶ることになった。 彼女は生後まもなく始末されたはずの『厄災の姫』である。最近になって生存が判明したが、いまさら王家に迎え入れることも始末することもできない——悩んだ末、国王は序列一位のシェフィールド公爵家に押しつけたのだ。

白い結婚は終わりました。――崩れない家を築くまで

しおしお
恋愛
「干渉しないでくださいませ。その代わり、私も干渉いたしません」 崩れかけた侯爵家に嫁いだ私は、夫と“白い結婚”を結んだ。 助けない。口を出さない。責任は当主が負う――それが条件。 焦りと慢心から無謀な契約を重ね、家を傾かせていく夫。 私は隣に立ちながら、ただ見ているだけ。 放置された結果、彼は初めて自分の判断と向き合うことになる。 そして―― 一度崩れかけた侯爵家は、「選び直す力」を手に入れた。 無理な拡張はしない。 甘い条件には飛びつかない。 不利な契約は、きっぱり拒絶する。 やがてその姿勢は王宮にも波及し、 高利契約に歪められた制度そのものを立て直すことに――。 ざまあは派手ではない。 けれど確実。 焦らせた者も、慢心した者も、 気づけば“選ばれない側”になっている。 これは、干渉しない約束から始まる静かな逆転劇。 そして、白い結婚を終え、信頼で立つ家へと変わっていく物語。 隣に立つという選択こそが、最大のざまあでした。

処理中です...