まじかる⭐︎ふれぐらんす -魔法少女と3LDK-

むくみん

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第一章「由希姉って東京から来たの!?」

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「ぐがああああああああ ごああああああああああ」

少女たちの胸が張り裂けそうな心配もどこ吹く風かと、由希は夕日さす廃屋で、女子とは思えないほどの豪快なイビキをかいて寝ている。
それを見て、由希を拉致してきた男たちは怪訝な顔になってしまう。
 「・・・ホントに人質になるの?これ」
 「うーん・・・ なんか不安になってきた」

 「むにゃ・・・申し訳ございません・・・以後気をつけますので・・・課長・・・はい、今日中に終わらせておきます・・・」
由希の寝顔に冷や汗が浮かぶ。
 「悪夢を見てうなされてるようですね」
 「なんか身につまされるなあ・・・」

すると由希は眠ったまま薄ら笑いを浮かべ、
 「でへへ・・・ 印税が一杯・・・ 確定申告が大変だあ・・・」
その様子に男達は頭を押さえてしまう。

 「むっ!あいつらが来たぞ!」
双眼鏡で外の様子を窺っていた男が、少女達の到着に気がついた。
 「・・・ここは俺が行く」と男の一人が立ち上がった。
 「さすが【創世記ジェネシス歪曲ディストーション】。ここはお前に任せた」
 「任せておけ。とっておきの秘策があるんだ」
【創世記の歪曲ディストーション】と呼ばれた男は軋むドアを閉じ、少女達の元へ向かった。

 「プッ・・・」
 「クク・・・」
 「「ギャハハハハwwww」」
残った男達は、堪えていた笑いを爆発させた。
 「【創世記ジェネシス歪曲ディストーション】って何だよwwww 絶対意味分かってないだろwww」
 「マジでごろ悪いよなwww【歪曲の創世記】の方がまだ自然なのにwww」
 「昨日捕まったあいつも致命的にセンスなかったよなwww 何が【失楽園の刹那】だよwww 単語の意味知ってんのかよwww 義務教育からやり直してこいやwww」
 「大草原www 草不可避www」


アルメルスのテレポート能力で、少女達はわずか一瞬で採石所までワープできた。
採石所は数年前から稼働しておらず、辺りは荒れ放題だ。
段状になった丘に囲まれた荒地に少女達は降り立つと、莉愛は辺りを見回して叫んだ。
 「由希姉ー!!どこー!?今助けるからねー!!」

すると虚空から不意に【創世記の歪曲】が姿を現した。
男はマントを羽織り、左目には眼帯を付け、手にはオープンフィンガーグローブを嵌めている。
 「ククク・・・」男はわざとらしい笑みを浮かべる。
 「貴方が由希さんを拉致したんですね」と紗南。
 「何で由希姉の住んでいる場所が分かったの?」
 「簡単なことさ。昨日お前らが駐屯地から出てきた際、後ろから尾行したんだ」
 「気持ち悪い。由希姉はどこ? 無事?」
 「フン。安心しろ。女は眠っている。返して欲しくば、以前より通達している要求を飲むことだな」
 「要求? 何それ」
 「しらばっくれるな。お前らのうちのどちらか一人でもいい。我々【ヴィンガロ・チルドレン】に加わり、そして【偉大なる計画】に協力するのだ。邪険には扱わないから安心しろ」

莉愛と紗南は顔を見合わせ、お互いに頷いた。
 「紗南。とりあえずここは莉愛が行く。由希姉をお願い」
 「ううん。莉愛ちゃんは自分を大切にして。私が行くよ。」

・・・・・

・・・・・

・・・・・

 「いや莉愛が」
 「いや私が」

 「莉愛ちゃん、ここは私が犠牲になるから。莉愛ちゃんは強く生きて」
紗南が真剣な顔でそういうと、莉愛は肩をすくめ、
 「はあ~・・・ 紗南ってさぁ、普段泣き虫なくせに、いっつもこういうところでカッコつけたがるよね~?」
 「なっ・・・!! せっかく親友を心配してるのにその言い方は何!?」
紗南は思わず声を荒げてしまう。
 「それに今、そんな事言ってる場合!? どうせ由希さんのことなんてどうでもいいんでしょ!!」
その言葉が莉愛の逆鱗に触れた。
 「いいわけないでしょ!! 莉愛の方が由希姉のこと心配してるんだから!!」

二人の口論はヒートし始めてしまう。感情的になった少女ほど手に負えないものはない。
広い荒野に二人の怒声が寂しく響き渡る。

 「きいいいいいいっ!! あんたホント許せない!! もう二度とボコボココミック貸さない!!」

 「こっちこそ、もう絶対算数教えてやらないから!!」

突然の内紛に男は困惑してしまい、頭をかく。
 「おーい、もういいかい」


 「「何!?」」


鬼の形相の二人が男の方を向いたその瞬間、男の背筋に悪寒が走った。
 (な、なんだこのオーラは・・・本当に小学生か・・・)

 「話し合いが纏まらないのなら、こっちで勝手にピックアップさせてもらうぞ・・・」
男は目を大きく見開くと、強制睡眠の高音波を出した。
由希を眠らせた能力だ。
 (くっ・・・紳士的にやりたかったが仕方ない。恨むなよ)
常人の耳がこの音波を少しでも感知すると脳の睡眠を司る中枢が刺激され、わずか一瞬で眠りについてしまう。

 「わっ、嫌な音」
だが、少女達は顔をしかめ、耳を塞いだだけだった。
 (あれ、なんで眠らないんだ・・・?)
しばらく音波を発信し続けたが、一向に効き目がない。
 「クソっ」
男は不意に姿を消した。
 (どうだ驚け。俺の自慢の能力、透明化だ。少々乱暴なやり方だが、致命傷にならない程度に痛めつけて・・・)
マントの内側からコンバットナイフを取り出し、両手に持った。
そして素早く、耳を塞ぎ苦しんでいる莉愛に近寄り、ナイフをかざした。
その瞬間だった。

 「物騒なもん振り回さないでよ!」
と、莉愛が男の腕を掴んだ。
 「(なん・・・だと・・・こいつ見えてるのか)ぐわーーーーっ!!」
莉愛が男を持ち上げ、音速でそのまま遠くまで放り投げた。男は石壁に叩きつけられると、透明化はすぐに解けてしまった。

 「そんな小細工が莉愛たちに通用すると思ったー?」と莉愛が遠くから叫ぶ。
 「は・・・はひ・・・」
 「降参するなら今のうちですよー?さ、早く由希さんを返してー!」と紗南。
年端も行かぬ子供達に見下されたのが男にとって非常に腹ただしく、とうとう堪忍袋の尾が切れた。

 「このクソガキャあああああ○※&#◇&#△cつ!!! これでも食らえええっ!!」
男が奇声を発した瞬間だった。

地面が突然隆起し始め、大爆発が起きた。
暗闇の中に毒々しい色合いの火炎が上がる。

少女達は無残にも爆発に巻き込まれてしまった!!


 「ふん。あれでは死体も残らないだろう。俺を怒らせた罰だ」
なおも上がり続ける火炎を見て、男はほくそ笑む。

 「とっておきの秘策ってあれかあ」
廃屋で男達はつまらなさそうにその光景を遠くから眺める。
 「あいつらを仲間に引き入れるために人質取ったのに、ぶっ殺してしまうとか本末転倒じゃん。馬鹿じゃねーのあいつ」
 「あんなゴミみたいな通り名を気に入ってる時点でおつむは知れてらあ」
すると突然、軋んだ音を慣らしながら廃屋のドアが開いた。
 「誰だ!!」
男たちは一斉に身構えた。


一方、少女達が巻き込まれた爆発はなおも続く。
それを背に男は仲間達の元へと足取りを進め、聞かれてもいないのに独り言で解説を始める。
 「ククク・・・採石所の奥に未使用のダイナマイトがあって、それに手を加え威力を強化し、俺の声に反応するようにセンサーを取り付けたんだよ。まあ子供二人殺すくらい訳ないわなあ」
 「説明ありがとう」
後ろから声がした途端、男は足取りを止めた。というより、足を進めることができない。何かがベルトの後ろを引っ張っているからだ。

 「ば、馬鹿な・・・なぜあの爆発で生きているんだ」
男は恐る恐る振り返った。
すると、傷ひとつない少女達が男のベルトの後ろを力強く掴んでいる。
 「あんな火花で莉愛たちを倒せると思った?」
 「私たちを見くびりすぎましたね」
 「や、やめろ。許してくれ。人質はすぐに返sべぼあッ!!」
言葉を最後まで言い切る前に男は莉愛の音速ジャーマンスープレックスを喰らい、意識を失った。


 「由希ちゃん、起きれ。助けに来たど」
 「ふが?」
だらしない声を出して由希は目を覚ました。
 「ううう・・・頭痛いよ~ もう一生お酒なんか飲まない・・・ って、あれれ、ここはどこ?」
目の前にはアルメルスが立っており、由希は虚な表情で辺りを見回すと、見慣れぬ男たちが呻き声を上げて伸びている。
 「こんなのオラの敵ではなかったな」
アルメルスは偉そうに腕組みをして誇る。
元はといえば彼の不注意が原因なのにも関わらず。

 「由希さん!」
 「由希姉!」
少女たちが廃屋の中に入ってきて由希の元に駆け寄り、胸元に強く抱きついた。
 「無事で本当に良かった。由希姉大好き!」と莉愛。
 「私も!」と紗南。
少女たちは思わず声を出して泣き出してしまった。
 (・・・なんかよく分かんないけど。ま、いっか)


それからまもなくして、自衛隊と警察が採石所にへとやってきた。
【創世記の歪曲】は気を失ったまま、頑丈そうな自衛隊の装甲車に運ばれていった。
廃屋にいた男達も、全員手錠を繋がれて連行されていく。アルメルスの魔法がかけられているので、能力は使えないようになっている。

 「由希ちゃんも無事でよかった。二日連続で助けられちゃったな」と田之上。
 「へへへ。どういたしまして。紗南、さっきはごめんね」
 「ううん。私もちょっと頭に血が上っちゃった。これからもボコボココミック読ませてね」
 「うん! じゃあこれからも算数の・・・って、田之上さん! 今って何時!?」
 「今は・・・ 6時11分だけど」
 「紗南、大変! 急いで帰って算数のドリルやらないとママに怒られる! じゃあね田之上さん! また今度!」

少女たちは二日酔いの由希の手を引いて走り、人目につかない物陰に隠れた。
 「うう・・・あまり動かさないで。頭が爆発する・・・」と由希。
 「よしオナゴ達。じゃあアパートまで戻るぞ」

3人は光に包まれ、一瞬で雪重荘の屋上に戻った。
屋上に着いた途端、少女達はいつの間にか普段着に戻っている。
 「多分ママ、もうカンカンだよお」
 「今日は仕方がないよ。私も一緒に謝ってあげるから」と紗南。
そんな会話をしながら階段を降り、自室の前にたどり着いた。
 「それじゃあ二人とも、おやすみなさい」
 「うん! 由希姉もおやすみなさい」と莉愛。
 「また明日遊びにきますね」と紗南。

 「信じらんない! 3年生にもなって!! とっくに門限過ぎてるでしょ!! 」
少女達が201号室に入った途端、秋穂の怒声がドア越しに伝わってきた。
 「うわああん! ごめんなさああい!!」
続いて莉愛の泣き声も聞こえてくる。


 「これにて一見落着ってわけだな!じゃあ由希ちゃん、また明日」
とアルメルスは言って、トボトボと階段にへと歩いていった。
その後ろ姿を見て由希は、
 「ねえ。あんた、今日も倉庫で寝るの?」
するとアルメルスは振り返り、
 「んだ。オラはこの世界じゃ日陰者だからな。光のささない埃くさい場所がお似合いよ」

 「・・・これから私の部屋に住む?」

 「お、何だ。オラがいくら愛くるしいからって、ペット感覚で飼われちゃあ困るど」
 「そんなんじゃないよ。・・・ただ一緒にいれば楽しいかなって」
 「ホントかい由希ちゃん! グスッ・・・ありがてえなあ」
 「その代わり、私の書斎で寝泊りすること。本には手を触れないこと。家事は私と分担すること。簡単でしょ」
 「おう!オラはこう見えても家事は得意だで!」


 「・・・新生活、やっぱり楽しくなりそう」
由希はポツリと呟く。
生温い晩春の風が、二日酔いの由希の頬を優しく撫でた。
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