まじかる⭐︎ふれぐらんす -魔法少女と3LDK-

むくみん

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第二章「傷だらけの汐苑」

04

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その頃、紗南は由希と共に市立図書館の隣にある森林公園にいた。
紗南は尊敬する由希からお勧めの本を教えてもらったりして、共に楽しい時間を過ごした。
よく晴れた日だったので、二人は木陰のベンチで一緒に本を読んでいた。鮮やかな緑色の葉桜が爽やかに揺れ、頁の上に滑らかな光と影の模様を走らせる。
春と夏のいいところ取りのような心地いい陽気だ。

 「今日はいっぱい借りちゃいました。返却期限まで全部読めるかな」
と言いつつも、紗南はすでに借りた本の内の一冊を読み切っていた。
 「ふふ。紗南ちゃんなら多分読みきれると思うよ。ああ、いい天気だなあ。莉愛ちゃんも来れば良かったのに」
 「莉愛ちゃん、あんまり本は・・・・。!! 由希さん、伏せて!!」

紗南はいきなり由希に強くぶつかり、地面に押し倒した。
その刹那、二人の横をビームがよぎる。
二人が座っていたベンチは跡形もなく吹き飛んでしまった。

 「な、何!?」
突然の出来事に由希は狼狽する。
すると、病院着の汐苑が手に纏った大剣を持ちながら、ゆっくりと空から降りてきた。
薄手の病院着に大剣というギャップが不気味に見える。

 「やあ。穂積」
 「え・・・ 汐苑!? なんで・・・」
いつも隣の席で見る爽やかな笑顔の汐苑とは違い、目を血走らせている。
わずかに口角を上げ、不適な笑みを浮かべた。

その瞬間、汐苑の絵画を見た時の違和感が紗南にはわかった気がした。
表向きの感情に抑圧された、闇の感情・・・。

 「よくビーム、躱せたな」
 「くっ・・・ 由希さん、逃げてください!」
紗南はすかさず指を鳴らすと、手首につけ、戦闘モードに変身した。
その姿を見て、汐苑の顔に動揺が走る。
 「まさかお前も妙な力を持っているとはな・・・ 尚更お前を殺さなければいけないということが分かったぞ。クラスメートのよしみだ。楽に死なせてやる」

汐苑は大剣の先を紗南に向けると、そこからまたも青白い光線が勢いよく放出された。
紗南はそれを交わしきれず直撃してしまい、ビームに押される。
 「うわあっ!」
が、かろうじて態勢を立て直し、地面に踏ん張って立ち尽くした。 

 「しぶといやつだ」
汐苑は一瞬で紗南の目の前に移り、大剣を紗南に振りかざした。
 「ううっ・・・」
素早くバリアでガードし、汐苑の攻撃を受け止め続ける。
剣とバリアの摩擦で発せられるエネルギーはすざましく、遠くで見守っていた由希は吹き飛ばされそうになってしまう。

今までの戦いで経験したことがないほどに剣は強い威力を持っており、紗南は防御だけで精一杯だ。
 「どうだ! 世界で僕が一番強いんだ!」
 「わ、私が何をしたっていうの・・・」
 「今まで僕は何をやっても一番だったんだ。徒競争だって、テストだって。それをお前ごときに越えさせてたまるかっ!」
 (汐苑って、あまり話したことなかったけど、こんなに器が小さくてプライドだけが大きい男だったなんて・・・)

とうとうバリアの力が弱まってしまう。
 (そ、そんな。バリアが・・・)
 「食らえっ!」
汐苑の放った渾身の一撃でバリアは砕け散り、紗南は吹き飛んだ。
魔法のステッキもその衝撃で折れてしまった。
 (あっ、ステッキが・・・)

 「紗南ちゃん!」
傍で見ていた由希は思わず叫ぶ。
紗南は着地に失敗して、地面に思い切り体を打ち付けてしまった。
並の人間ならばとっくに死んでもおかしく無い。

 「すんごお~い・・・・・!!」
遠くの物陰で、フードの男は戦いの様子を眺めていた。
汐苑の攻撃力が想像以上であったので、思わず感嘆の声を漏らしてしまうほどだ。

紗南はゆっくりと起き上がって、汐苑を見つめる。
汐苑は剣にエネルギーをを溜め、紗南の首元に剣先を当てた。
 「止めだ。最後に祈れ」
 「汐苑、ちょっとごめんね」
 「え」
紗南はふと汐苑の胸元に人差し指を当て、軽く押す動作をした。

 「ぐわっ!!」
すると突然、汐苑は遠くまで吹き飛ばされた。
まるで見えない大型ダンプに激突されたかのような勢いだ。

そしてそのまま土手に激突した後、立ち上がるも地面に崩れ落ちた。

 「確かあれって・・・」
一部始終を見ていた由希は思い出した。
数日前、紗南についてアルメルスと話し合った時だった。

・・・・・

・・・・・

・・・・・

 「まあ、あいつは優しすぎるところあるからな。シーッ。攻撃魔法との相性は悪いんだわ。その分、回復魔法だとか自然魔法が向いてるわけ」
 「じゃ、じゃあもし紗南ちゃんだけの時に敵の襲撃にあったら・・・」
 「大丈夫だあ。そのあたりはちゃんと対策してあっから。シーッ」

 「・・・あいつは敵から食らったダメージを、攻撃力に変換することができんだあ。それなりに負担がかかるから、一回使ったらしばらくは使えないけどな。シーッ。あ、やっと取れたで」

・・・・・

・・・・・

・・・・・

汐苑は100%の力を込めて紗南に攻撃を当て続けていた。
そのダメージに加え、紗南が渾身の一撃で吹き飛んだ際に地面に体を打ち付けた衝撃も全て攻撃力に変換されている。
例え強化人間になった汐苑でも、こればかりは耐えられない。

だが、やはり体に大きな負担がかかり、紗南は倒れ込んでしまった。
身体中に力が入らず、手を握ることすらもままならない。
目の前の光景が歪み始める。
 「ゆ、由希さん・・・ 逃げて・・・」
 「グハァ・・・ッ まだだ! 僕はまだ戦える!」

傷だらけの汐苑は、腕を押さえながら紗南に向かう。
体がすでに限界を迎えているので、一歩一歩がとても重い。
思うように動かない腕で剣を拾い、ゆっくりと紗南に振りかざした。

 (もうダメだ・・・ みんな、ごめんなさい。私、ここまでかもしれない)
紗南は人生最後になるかもしれない光景を見届けた後、ゆっくりと目を閉じて運命を受け入れる態勢になった。
頬を一条の涙が伝う。



 「ちょっとあんた! 紗南に何してんの!」


 「ポゲッ!!」

汐苑は叫び声をあげ、再び吹き飛ばされた。

紗南が目を開けると、ゆっくりと魔法少女姿の莉愛が空中から降りてきた。
 「やれやれ。間に合ったね」
 「り、莉愛ちゃん。ありがとう・・・」
 「かなりエネルギーを使ったみたいだね。アルちゃん、お願い」
 「お安いこった」
莉愛のポシェットの中に入っていたアルメルスが、紗南の腕に手を触れた。
すると、真っ青だった紗南の顔にみるみる生気が戻ってくる。
 「あと、これも折れちゃって・・・」
と、紗南は魔法のステッキを差し出した。
 「心配すんでね。このくらいすぐに治せるで」
アルメルスがエネルギーを送ると、たちまちステッキは元どおりに復元された。
 
 「由希姉も怪我はない?」
 「う、うん。それよりもあの子は・・・」

 「こいつ! よくも紗南を!」
莉愛は目を回している汐苑の頭をポカポカと殴る。
 「莉愛ちゃん。・・・もういいよ」と紗南。
 「へ? 紗南、何言ってんの。早くいつもみたいにとっ捕まえて田之上さんに引き渡さないと」
 「いいんだ。私、その人のこと許してあげることにした。アルちゃん。アパートまでワープしてもらってもいい?」
 「お、おう。おめーがそれでいいのなら・・・」
 「由希さんも。一緒に帰りましょう」
 「う、うん」
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