まじかる⭐︎ふれぐらんす -魔法少女と3LDK-

むくみん

文字の大きさ
12 / 13
第二章「傷だらけの汐苑」

05

しおりを挟む
 (・・・今度こそ、僕死んだのかな。)

生まれたばかりの頃の記憶を思い出すような、朧げな意識の中に汐苑はいた。
まるで深海のゆっくりとした海流を漂っている感覚だ。
 
 (・・・死んだっていいか。どうせ僕は誰かに支配されて一生を終えるだけだし・・・)

 (あ、いい匂いだな・・・ お腹減った・・・ それになんだかすっごく気持ちいい・・・ ずっと昔、お母さんが今みたいに厳しくないとき、思い出すな・・・)

気がつくと、ベッドの上で汐苑は目を覚ました。

 (病院・・・? じゃないな。どこの部屋だろ)
ベッドの脇には由希が腰掛けながら、自分の腕を摩っていた。
 (この人、さっき穂積と一緒にいた人だよな・・・)
 「あ、汐苑君、起きた?」と由希。
 「ここは・・・」
 「ん? 私の部屋だよ」
体を起こそうとすると、身体中に激痛が走った。
 「うっ・・・!」 
 「動いちゃ駄目! 安静にしてなきゃ」
 「あれ、あんなに怪我してたのに・・・」
自分の体を見回しても、かすり傷一つ残ってない。
 「紗南ちゃんが魔法で直してくれてたんだよ」
 「穂積が・・・?」
 「うん。今は晩ご飯作ってくれているんだ。私は汐苑君、ずっと介抱してたんだよ」
由希はニコリと紫苑に微笑み、髪をかき分けた。
そして汐苑の額に手を当てる。
 「熱は・・・ うん、もう下がったみたいだね。さっきまですごい高熱だったんだよ」
額に当てられた指の感覚が、柔らかく優しかった。

 「おはよー。Mr.変態さん。いい目覚めでよかったね」
エプロン姿の莉愛が寝室にやってきて、皮肉をこぼした。
隣にいる紗南は心配そうに見つめている。 
 「穂積・・・」
その視線に耐えられず、目をそらしてしまう。
殺そうとした相手に向けられる哀れみの目線ほど、居た堪れないものはない。

 「・・・なんで僕を殺さなかったの。あのまま止めをさせば良かったのに」
 「こっちは地獄に叩き落とすつもりだったけどね」と莉愛。
 「お前には聞いていない。・・・穂積」
 「だって・・・ 可哀想だったから」
 「可哀想? 可哀想だって?」
またもプライドを傷つけられた感覚に、汐苑の手が震え始めた。
そしてその怒りを押さえ付けるかのように、小指の爪を噛み始める。
 「どうしてお前に同情されなきゃならないんだよ・・・!」
頭に血がのぼり、目に悔し涙が浮かび始めた。

 「ほら。そういうところが可哀想だと思ったんだ」
 「え・・・」
 「・・・ううん。なんでもない。あえて全部傷を直さなかったのは私たちからの罰。これでこの件はもうおしまい」

空腹を覚えていた汐苑に莉愛がシチューを作ってくれていた。
これが夢の中で感じていた、いい匂いの正体だった。
 「はい、どうぞ。これ食べたらさっさと病院に帰りなさい」
 「う、うん。・・・アチッ!」
口の中の傷が染みるので、息を吹きかけ冷ましながら少しずつ食べた。
淡白な病院食がずっと続いていたので、久しぶりに家庭的な味が食べられた。
テレビを見て、由希と少女たちは談笑している。
汐苑は女の会話から外れた居心地の悪さを感じてしまい、それを誤魔化すかのように無心でシチューを平らげた。

テレビではデパ地下スイーツの特集が放送されている。
 「あ~ん 美味しそう。なんか甘いもの食べたいなあ」と由希。
 「今度由希姉にお菓子作ってあげるね」
 「でもこれ以上太りたくないしなあ・・・」
 「由希さんは太ってないですよ!」
と、汐苑は不意に立ち上がり、声を張り上げた。

その声に由希と少女はハッとした。
 「あいててて・・・」
体の節々に電気ショックを受けたような痛みが汐苑を襲う。
 「ほら、急に立ち上がるから」
と紗南は汐苑をいたわった。


食後、由希と少女はアルメルスのワープ能力で、汐苑を病院まで送ることに決めた。
 「それじゃあ、またそのうち学校で」
と、汐苑に紗南は優しく微笑んだ。
 「・・・悪かったね」
 「しっかり病院で頭冷やして反省しなさい」と莉愛。
 「うるせ・・・。じゃあ、アルちゃん、お願いします」
 「任せれ」
アルメルスが汐苑の肩に乗っかると、二人は瞬時に消えた。
そしてしばらくして、アルメルスだけが部屋に戻ってきた。
 「あのワラシ、医者に怒られてたで。それよりも紗南。ホントにこれでいいんだか?」
 「うん。これで大丈夫」
 「もし次に変なことしたらホントに地獄送りにしてやるんだから。いけすかない。あのガキ」
と、莉愛は強い口調でそう言った。
 「・・・同じ歳じゃないの?」と由希。

その頃、
 「フン。ダメだったか。俺の見込み違いだったな」
アパートの角で、202号室の窓を見つめながら黒フードの男は舌打ちをついた。
 「あの、ちょっとよろしいですか」
 「は、はいっ!?」
後ろから不意に声をかけられ、男は振り返った。
すると二人組の警察官が怪訝に男を見やっている。
 「警察のものですが、危ないものなどはお持ちではないでしょうか?」
 「い、いえ。私は怪しいものでは・・・」

ふと、フードの内側にに忍ばせていた注射器が落ちてしまった。
 「むむっ!!」
警察官たちの顔に緊張感が走る。
法の番人らしい険しい表情だ。
 「こ、これは・・・その・・・」
 「ちょっと署までご同行願います」
 「ち、違う! これは決して・・・」
 「ええい! この後に及んでシラを切るか! 大人しくお縄を頂戴しやがれってんだ!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界ママ、今日も元気に無双中!

チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。 ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!? 目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流! 「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」 おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘! 魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

社会の底辺に落ちたオレが、国王に転生した異世界で、経済の知識を活かして富国強兵する、冒険コメディ

のらねこま(駒田 朗)
ファンタジー
 リーマンショックで会社が倒産し、コンビニのバイトでなんとか今まで生きながらえてきた俺。いつものように眠りについた俺が目覚めた場所は異世界だった。俺は中世時代の若き国王アルフレッドとして目が覚めたのだ。ここは斜陽国家のアルカナ王国。産業は衰退し、国家財政は火の車。国外では敵対国家による侵略の危機にさらされ、国内では政権転覆を企む貴族から命を狙われる。  目覚めてすぐに俺の目の前に現れたのは、金髪美少女の妹姫キャサリン。天使のような姿に反して、実はとんでもなく騒がしいS属性の妹だった。やがて脳筋女戦士のレイラ、エルフ、すけべなドワーフも登場。そんな連中とバカ騒ぎしつつも、俺は魔法を習得し、内政を立て直し、徐々に無双国家への道を突き進むのだった。

追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

処理中です...