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第二章:動き出す終末の歯車
第九話:助けたい
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脇にはローガンが控え、俺をじっと見つめている。
俺は団長の言った言葉に安堵し、肩の力を抜いた。
「団長・・・・・・俺は、人間ですよね?」
「ああ、そうだよ。迎えにきたから、早くこっちにおいで」
いつもの優しい表情で、団長は両手を広げる。
俺は、その腕の中に飛び込もうとした。
だが、それより早くイザークが俺を抱きしめた。
「行ってはいけません、殿下!」
「しつこいぞ。俺に偽物の記憶を見せてまで、お前は何がしたいんだよ!」
「そのようなことはしておりません!」
イザークは俺を抱きしめたまま、団長とにらみ合った。
「マース! 我が殿下に何をしたんです!?」
「イザーク、その子は私が保護した人間の子だ。君の主は、大昔の戦争で死んだはずだろう? いい加減、現実を受け入れろ」
「何をぬけぬけと!」
イザークは俺を抱え、団長とローガンを押しのけるように洞穴の外へ飛び出した。
だいぶ日が傾いていたが、まだ太陽は空で輝いている。
転がるようにして、林の中に飛び出したイザークは、日の光を浴びて呻いた。
「くそ、まだ日が・・・・・・」
「諦めろ、イザーク。すでに私の配下が辺りを包囲している」
ゆったりと洞穴から出てきた団長は、そう言った。
確かに、木々の間から遊撃隊の仲間や、聖騎士団の団員が顔を除かせている。
銃の照準を合わせる赤いレーザー光が、イザークに集中していた。
「総員、ライアンを保護するまで銃の使用を禁止する! 近接武器所持者は、私と共に敵を叩け!」
団長の命令を受け、団員たちは一斉に木陰から飛び出した。
俺がイザークと一緒にいる限り、銃は使えない。
イザークの腕から抜け出そうとするが、さすがにヴァンパイアは腕力が強く、はがせなかった。
「ようやく殿下にお会いできたというのに・・・・・・っ」
強い日差しによって弱りながらも、イザークは襲来する剣を紙一重で避ける。
そこへ団長が参戦し、イザークの首筋めがけて、鋭い一太刀を浴びせた。
「くーーっ」
団員とは比べものにならないほど早い斬撃に、イザークはよろめきながら後退する。
純銀製の剣で切られた傷はなかなか治癒せず、しだいに頬や体に切り傷が増えていった。
それでも、俺を離さない。
あまりにも必死に俺を抱きしめ、戦うイザークに対して、わずかながらに同情心が芽生えてしまう。
ここまで必死になって守ろうとしていることを、死んでしまったイザークの主は知ることができない。
彼がどれだけ体を傷つけられ、苦しみながらも戦う忠誠心を持っていたという事を、その王族ヴァンパイアは知っていただろうか。
自分がこれほどまでに想われていることを知らずに死んだのならーー悲しい。
そう思うと、俺は叫んでいた。
「やーーやめて下さい! 攻撃を止めて下さい!」
俺の声が聞こえたのか、イザークに切りかかっていた聖騎士団員達は、動きを止めた。
今まさに、二本の剣をイザークに向けていた団長も、手を止めてくれた。
「・・・・・・敵をかばうのかい、ライアン」
「違います。ただ、もっと良い案があると思って」
俺の話に、団長は首を傾げた。
「言ってみなさい」
「イザークを殺すのではなく、捕虜にして情報を聞き出してはどうでしょう」
「このヴァンパイアが話すと思うかい?」
「俺が話させます。だから・・・・・・」
その先が言えなかった。
俺が続きを言うより先に、団長がイザークの両肩に剣を突きつけたからだ。
俺の顔の真横に刺さった剣は肉を裂き、イザークの骨を断つ。
血しぶきが至近距離で俺にかかり、視界が真っ赤になった。
「ぐーーっ」
激痛に顔を歪めるイザークを見下ろし、団長は柔和に微笑んだ。
「では、捕らえよう。捕虜にするには、手足の自由を奪わないとね」
「団長、何もここまですることはーー!」
「彼は敵だよ、ライアン。君は早く私の所に来なさい」
それは親として子を案ずる言葉ではなく、命令だった。
俺はおずおずとイザークを振り返る。
日光と銀の剣によって疲労したイザークの腕は、もう弱々しい。
簡単にふりほどけるはずなのに、できない。
すると、イザークが微笑し、顔を寄せてきた。
団長が何かを察して剣をひねるが、イザークは俺を抱き、唇を重ね合わせた。
驚くと同時に、口内になま暖かい液体が流し込まれる。
鉄臭い液体は俺の喉を通り越し、体の奥深くに流れていった。
「ーーあなたの血をお返しします、我が主」
唇を離し、イザークは目を細めた。
もう顔に生気はない。
俺が彼の顔を凝視していると、
「ローガン! ライアンを引き離せ!」
団長が珍しく声をあらげていた。
すぐにローガンが俺をひきずるように、イザークから遠ざける。
離れる瞬間まで、イザークは俺を見つめて微笑んでいた。
大勢の団員から地面に組み伏せられ、拘束されるまでずっと。
俺はローガンの腕の中で、震えながら見つめていた。
どうしてこんなにも胸がざわつくのか分からない。
ただ、無抵抗のイザークが猿ぐつわをはめられ、不必要に殴られながら連れて行かれる様子を見るのは耐えられなかった。
敵である彼をーー助けたいと思ってしまった。
「イ、イザ・・・・・・」
体が熱い。
胃から全身に、熱が広がる。
熱は腹から俺の脳に到達し、何かを焼き切った。
脳を縛っている鎖のような物を、解いた。
「あ、ああああああ!」
「ライアン!?」
目が燃えるように熱く、涙が溢れる。
濁流のように押し寄せる何かに耐えきれず、俺はその場に崩れ落ちた。
俺は団長の言った言葉に安堵し、肩の力を抜いた。
「団長・・・・・・俺は、人間ですよね?」
「ああ、そうだよ。迎えにきたから、早くこっちにおいで」
いつもの優しい表情で、団長は両手を広げる。
俺は、その腕の中に飛び込もうとした。
だが、それより早くイザークが俺を抱きしめた。
「行ってはいけません、殿下!」
「しつこいぞ。俺に偽物の記憶を見せてまで、お前は何がしたいんだよ!」
「そのようなことはしておりません!」
イザークは俺を抱きしめたまま、団長とにらみ合った。
「マース! 我が殿下に何をしたんです!?」
「イザーク、その子は私が保護した人間の子だ。君の主は、大昔の戦争で死んだはずだろう? いい加減、現実を受け入れろ」
「何をぬけぬけと!」
イザークは俺を抱え、団長とローガンを押しのけるように洞穴の外へ飛び出した。
だいぶ日が傾いていたが、まだ太陽は空で輝いている。
転がるようにして、林の中に飛び出したイザークは、日の光を浴びて呻いた。
「くそ、まだ日が・・・・・・」
「諦めろ、イザーク。すでに私の配下が辺りを包囲している」
ゆったりと洞穴から出てきた団長は、そう言った。
確かに、木々の間から遊撃隊の仲間や、聖騎士団の団員が顔を除かせている。
銃の照準を合わせる赤いレーザー光が、イザークに集中していた。
「総員、ライアンを保護するまで銃の使用を禁止する! 近接武器所持者は、私と共に敵を叩け!」
団長の命令を受け、団員たちは一斉に木陰から飛び出した。
俺がイザークと一緒にいる限り、銃は使えない。
イザークの腕から抜け出そうとするが、さすがにヴァンパイアは腕力が強く、はがせなかった。
「ようやく殿下にお会いできたというのに・・・・・・っ」
強い日差しによって弱りながらも、イザークは襲来する剣を紙一重で避ける。
そこへ団長が参戦し、イザークの首筋めがけて、鋭い一太刀を浴びせた。
「くーーっ」
団員とは比べものにならないほど早い斬撃に、イザークはよろめきながら後退する。
純銀製の剣で切られた傷はなかなか治癒せず、しだいに頬や体に切り傷が増えていった。
それでも、俺を離さない。
あまりにも必死に俺を抱きしめ、戦うイザークに対して、わずかながらに同情心が芽生えてしまう。
ここまで必死になって守ろうとしていることを、死んでしまったイザークの主は知ることができない。
彼がどれだけ体を傷つけられ、苦しみながらも戦う忠誠心を持っていたという事を、その王族ヴァンパイアは知っていただろうか。
自分がこれほどまでに想われていることを知らずに死んだのならーー悲しい。
そう思うと、俺は叫んでいた。
「やーーやめて下さい! 攻撃を止めて下さい!」
俺の声が聞こえたのか、イザークに切りかかっていた聖騎士団員達は、動きを止めた。
今まさに、二本の剣をイザークに向けていた団長も、手を止めてくれた。
「・・・・・・敵をかばうのかい、ライアン」
「違います。ただ、もっと良い案があると思って」
俺の話に、団長は首を傾げた。
「言ってみなさい」
「イザークを殺すのではなく、捕虜にして情報を聞き出してはどうでしょう」
「このヴァンパイアが話すと思うかい?」
「俺が話させます。だから・・・・・・」
その先が言えなかった。
俺が続きを言うより先に、団長がイザークの両肩に剣を突きつけたからだ。
俺の顔の真横に刺さった剣は肉を裂き、イザークの骨を断つ。
血しぶきが至近距離で俺にかかり、視界が真っ赤になった。
「ぐーーっ」
激痛に顔を歪めるイザークを見下ろし、団長は柔和に微笑んだ。
「では、捕らえよう。捕虜にするには、手足の自由を奪わないとね」
「団長、何もここまですることはーー!」
「彼は敵だよ、ライアン。君は早く私の所に来なさい」
それは親として子を案ずる言葉ではなく、命令だった。
俺はおずおずとイザークを振り返る。
日光と銀の剣によって疲労したイザークの腕は、もう弱々しい。
簡単にふりほどけるはずなのに、できない。
すると、イザークが微笑し、顔を寄せてきた。
団長が何かを察して剣をひねるが、イザークは俺を抱き、唇を重ね合わせた。
驚くと同時に、口内になま暖かい液体が流し込まれる。
鉄臭い液体は俺の喉を通り越し、体の奥深くに流れていった。
「ーーあなたの血をお返しします、我が主」
唇を離し、イザークは目を細めた。
もう顔に生気はない。
俺が彼の顔を凝視していると、
「ローガン! ライアンを引き離せ!」
団長が珍しく声をあらげていた。
すぐにローガンが俺をひきずるように、イザークから遠ざける。
離れる瞬間まで、イザークは俺を見つめて微笑んでいた。
大勢の団員から地面に組み伏せられ、拘束されるまでずっと。
俺はローガンの腕の中で、震えながら見つめていた。
どうしてこんなにも胸がざわつくのか分からない。
ただ、無抵抗のイザークが猿ぐつわをはめられ、不必要に殴られながら連れて行かれる様子を見るのは耐えられなかった。
敵である彼をーー助けたいと思ってしまった。
「イ、イザ・・・・・・」
体が熱い。
胃から全身に、熱が広がる。
熱は腹から俺の脳に到達し、何かを焼き切った。
脳を縛っている鎖のような物を、解いた。
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