ダークナイト・ヴァンパイア ~宵闇の王子~

哀楽

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第三章:蘇る過去

第一話:光注ぐ箱庭

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 それは、先の見えない水中を漂うような感覚だ。
 白いもやが立ちこめた空間を、俺はどれくらいさまよっていただろう。
 体ではない。意識だ。
 自分の体があるのかどうかも分からないこの空間で、俺は小さな光を見た。
 懐かしくもあり、悲しい輝きを放つそれに、俺の意識が吸い込まれるようにして溶けていったーー。


***

「ーー・・・・・・下、起きて下さい、殿下!」
 誰かに肩を揺さぶられ、俺はゆっくり目を開けた。
 目がくらむような輝かしい日光が目を刺し、俺は再び目を閉じる。
 すると、誰かが日の光を遮ってくれた。
「ようやくお目覚めになりましたか、殿下」
 日除けのフード付き外套を着た、イザークだった。
 いつものように呆れ顔をしていたが、すぐに優しく笑った。
「いくら日光が平気でも、このような場所でお一人で眠るのは危険ですよ」
 王族のみが着用を許された薄紫の羽織を俺の肩にかけながら、イザークは優しく言った。
「平気だよ。だってほら、周りを見てごらん」
 俺が居眠りしていた室内庭園は、四本の柱を支えにした真四角の形をした場所だ。天井のみ屋根が取り除かれ、外の空気が流れ込んできていた。
 庭の四辺には、俺の護衛兵が均等な間隔でずらりと並んでいる。
 全員がフードで顔を覆い、俺が気を使わないようにと顔を伏せて立っていた。
「一人にしてって頼んでも、彼らは動かないんだ」
「それはそうでしょう。御身は我々の命よりも大切な存在ですから」
「それは違うよ、イザーク。俺にとっては、皆の命の方が大事だ」
「殿下・・・・・・身に余るお言葉です」
 柔らかい芝生に両手を付くと、イザークは深々と頭を下げた。
 彼の後頭部を撫でながら、俺は再び空を見上げた。
 暗闇でも鮮明に見ることができるこの目に、太陽の光は強すぎる。
 多くのヴァンパイアが太陽を嫌い、月を尊ぶが、俺は太陽が好きだった。
 灼熱を思わせる熱さの中に、どこか包み込むような優しさも感じるのだ。
 まるでーー、
「王子殿下!」
 庭の出入り口から、凛とした声が飛んできた。
 今まさに、思い描いていた人物だった。
 周囲が低頭する中、颯爽と庭を横切って近づいてくる。
 王弟一家の証である、青地に白い模様の入ったマントをなびかせる姿が、なんとも神々しかった。
 俺は立ち上がると、近づいてきた彼に会釈した。
「これは、エルヴィス従兄様。いつ遠征からお戻りになったのですか?」
「今朝帰ってきた。そんなことも知らないとは、また書庫に閉じこもっていたな?」
「いいえ、ここで瞑想しておりました」
「・・・・・・それは俗に言う昼寝ではないか?」
「瞑想です」
 にっこりと笑ってみせると、美しい従兄は不承不承納得した様子だった。
「まあいい。それより、今回もお前に土産があるぞ」
「土産?」
「あれだ」
 エルヴィスが護衛兵に声をかけると、鎖を引きずりながら、庭園に人間が入ってきた。
 一人や二人ではない。
 男はもちろん、女子供が十数人ほど鎖に繋がれていた。
「どうだ。遠征先で制圧した反乱軍の中でも、若い人間を選んできた。全てお前にやろう」
 子供の血は濁りがなくていいぞ、と言いながら、エルヴィスは一人の男児の頭を掴み、俺の前に立たせた。
 やせ細り、ガタガタ震えている男児は、恐怖を目に浮かべて俺を見上げる。
 俺の好きな空色の瞳に涙をたくさん湛えていた。
「味見してみるか?」
 男児を見つめたまま動かない俺に、エルヴィスが訊ねた。
 俺は男児の前にしゃがむと、首や腕、足首を拘束している鎖を掴み、引きちぎった。
 そして、食われるのかと身を小さくした男児の頭を撫でてやった。
「怖い思いをさせてすまない。食わないから、安心しなさい」
 男児は驚いて目を見開いた。
 その拍子に、溜めていた涙がぼろりとこぼれる。
 それを拭ってやりながら、俺はエルヴィスに言った。
「彼らの鎖を解いてやって下さい」
「何を言い出すんだ。せっかくの兎をーー」
「私は、人にも尊厳があると思っています。このように鎖で繋いでは、可哀想ではありませんか」
 わずかに苛立ちの色を浮かべるエルヴィス。
 俺は小さく嘆息すると、連れてこられた人間に近づき、鎖をちぎってやった。
 我々にとって餌にすぎない人間だが、俺は他のヴァンパイアのように、彼らを食べ物として見れなかった。
 王族以外のヴァンパイアは、元を正せば人間だ。
 人を家畜と見るなら、眷属達を元家畜と見なければならない。それは違う。
「この人間たちは、私が預かります。よろしいでしょうか、従兄様」
「せっかくお前に食わせようと連れてきたのに・・・・・・」
「お気持ちだけありがたく頂きます」
「・・・・・・もう好きにしろ」
 エルヴィスに一礼すると、俺はイザークに、彼らの居住区を用意するよう言った。
 硬直していた人間たちは一気に脱力し、イザークについて庭を出て行った。
 それを見送っていると、先ほどの男児が俺の方を振り返った。
 何か言いたげに俺を見つめているが、護衛兵に襟首を捕まれ、連れて行かれてしまった。
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