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第三章:蘇る過去
第三話:番(つがい)
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この室内庭園を含め、俺の城の中は人が自由に歩けるよう護衛兵に命令してある。
王宮や王弟一家の敷地内への進入は許されないが、その分この場内ではくつろげるようにと、配慮しているつもりだ。
だからこうして人が来るのも珍しくはないのだが、タイミングが悪かった。
「おい貴様! 今この庭は我々の会談の場だぞ! 誰が入っていいとーー!」
「従兄様、落ち着いて下さい」
今にも抜剣しそうな従兄をなだめ、俺は少年に駆け寄った。
彼は、よく俺のもとへ会いに来る子供だった。
驚いて体を縮こまらせた少年は、俺を見るとわずかに笑みを浮かべた。
「すみません、お話中だったのに・・・・・・」
「今終わったところだ。どうした?」
「また読めない文字があったので、教えていただこうかと・・・・・・」
少年はちらっとエルヴィスを伺い、消え入りそうな声でそう言った。
「あの、お忙しいならまた改めますけど・・・・・・」
「大丈夫だよ。先に私の部屋へ行っていなさい」
頭を撫でてやると、少年は満面の笑みを浮かべ、庭から急いで出て行った。
その後ろ姿を見送っていると、横にエルヴィスが立った。
「おい、今の子供・・・・・・」
「ああ。彼は人狼だよ」
「やっぱりな。さっきお前に差し出した子供も白髪に碧眼だったが、人狼じゃなかった」
「碧眼は生まれつきだけど、髪はいくらでも染められるからね」
子供をヴァンパイアから守るため、親が子供の髪の毛を白く染める事は、人間にはよくあることだ。
だが、目だけはごまかせないから、すぐに分かる。
先ほどの男児のように、運良く碧眼で生まれてきても、匂いで人間だと分かってしまう。
「今の子供は正真正銘、人狼だよ。もう十年になるかな・・・・・・焼けた村に一人取り残されていたから、連れてきたんだ」
「人狼まで育てるとは、物好きにもほどがある。人狼は敵対者だぞ」
「でも、今の彼は子供だよ。ちょっと困った事もあるけどね」
「なんだ?」
「ーー彼は、いつか俺の眷属になりたいんだって」
人狼がヴァンパイアになる可能性はゼロだ。
少年もそれは理解しているが、彼の意志は強かった。
古い文献を読みあさっては、眷属になる方法を探っている。
分からないことや、少しでも可能性がある文献を見つけるたび、俺の所へ頻繁に訊ねてくるのだ。
「俺を親のように慕い、眷属として側にいたいと思ってくれるのは嬉しい。でも・・・・・・」
俺が言葉を続けようとすると、エルヴィスの腕が俺の体に回り、背後から抱きしめられた。
俺の肩に鼻先を埋め、もがくことを許さないように、きつく締めてくる。
「従兄さん?」
「ーーお前はあいつの親である前に、俺の番(つがい)だ。忘れないでくれ」
「・・・・・・でも、俺はまだ従兄さんをそういう目で見れない」
「お前が生まれたときから番になることは決められていた。俺はずっと、お前をそういう目で見ているんだぞ」
王族は血を守るため、血族内での番が決められていた。 異性同士の番がくめない場合もあるが、雌雄同体である王族には、性別はさして関係がない。
同姓の番の場合は、相手に合わせて雌雄どちらかの器官が発達し、交配は可能となる。
俺とエルヴィスの場合、エルヴィスが雄、俺は雌の器官が発達していた。
そうして何千年と種を守ってきたのだが、幼い頃から実の兄同然に慕ってきた従兄を番として見るのは、そう簡単ではなかった。
「俺は、従兄さんのことをまだ・・・・・・」
「本当に焦らすのが好きだな、お前」
体の方向を変えられ、エルヴィスと向き合う形になる。
血への欲求ではなく、情欲によって熱された眼差しが、俺の体を貫く。
冷たいはずの手が熱を持ったように汗ばんだ。
頬を両手で包まれ、エルヴィスの顔が俺へ近づく。
「に、従兄さん・・・・・・待って」
「いつまで待てばいい。お前はもうすぐ成人して王位を継ぎ、世継ぎを作らないといけないんだぞ」
「それまでには、心の整理をつけるよ。だからーー」
従兄の顔がまともに見られない。
赤面してうつむくと、エルヴィスは俺の顎をつまみ、上に上げた。
炎のように燃え立つ瞳と視線が交差したと思えば、唇が重なっていた。
かすめる程度の軽い口づけだったが、俺は驚いて両目を大きく見開く。それをからかうように、従兄は微笑していた。
「急かしてすまなかった。ーーお前はまだ若い。大人になるまで待つよ」
「・・・・・・ありがとう、従兄さん」
生まれてから何百年という年月を生きてきたが、いつのひもエルヴィスの腕の中は、心地がいい。
スポットライトのように空から差し込む日光の中、俺とエルヴィスはしばらく抱き合っていた。
王宮や王弟一家の敷地内への進入は許されないが、その分この場内ではくつろげるようにと、配慮しているつもりだ。
だからこうして人が来るのも珍しくはないのだが、タイミングが悪かった。
「おい貴様! 今この庭は我々の会談の場だぞ! 誰が入っていいとーー!」
「従兄様、落ち着いて下さい」
今にも抜剣しそうな従兄をなだめ、俺は少年に駆け寄った。
彼は、よく俺のもとへ会いに来る子供だった。
驚いて体を縮こまらせた少年は、俺を見るとわずかに笑みを浮かべた。
「すみません、お話中だったのに・・・・・・」
「今終わったところだ。どうした?」
「また読めない文字があったので、教えていただこうかと・・・・・・」
少年はちらっとエルヴィスを伺い、消え入りそうな声でそう言った。
「あの、お忙しいならまた改めますけど・・・・・・」
「大丈夫だよ。先に私の部屋へ行っていなさい」
頭を撫でてやると、少年は満面の笑みを浮かべ、庭から急いで出て行った。
その後ろ姿を見送っていると、横にエルヴィスが立った。
「おい、今の子供・・・・・・」
「ああ。彼は人狼だよ」
「やっぱりな。さっきお前に差し出した子供も白髪に碧眼だったが、人狼じゃなかった」
「碧眼は生まれつきだけど、髪はいくらでも染められるからね」
子供をヴァンパイアから守るため、親が子供の髪の毛を白く染める事は、人間にはよくあることだ。
だが、目だけはごまかせないから、すぐに分かる。
先ほどの男児のように、運良く碧眼で生まれてきても、匂いで人間だと分かってしまう。
「今の子供は正真正銘、人狼だよ。もう十年になるかな・・・・・・焼けた村に一人取り残されていたから、連れてきたんだ」
「人狼まで育てるとは、物好きにもほどがある。人狼は敵対者だぞ」
「でも、今の彼は子供だよ。ちょっと困った事もあるけどね」
「なんだ?」
「ーー彼は、いつか俺の眷属になりたいんだって」
人狼がヴァンパイアになる可能性はゼロだ。
少年もそれは理解しているが、彼の意志は強かった。
古い文献を読みあさっては、眷属になる方法を探っている。
分からないことや、少しでも可能性がある文献を見つけるたび、俺の所へ頻繁に訊ねてくるのだ。
「俺を親のように慕い、眷属として側にいたいと思ってくれるのは嬉しい。でも・・・・・・」
俺が言葉を続けようとすると、エルヴィスの腕が俺の体に回り、背後から抱きしめられた。
俺の肩に鼻先を埋め、もがくことを許さないように、きつく締めてくる。
「従兄さん?」
「ーーお前はあいつの親である前に、俺の番(つがい)だ。忘れないでくれ」
「・・・・・・でも、俺はまだ従兄さんをそういう目で見れない」
「お前が生まれたときから番になることは決められていた。俺はずっと、お前をそういう目で見ているんだぞ」
王族は血を守るため、血族内での番が決められていた。 異性同士の番がくめない場合もあるが、雌雄同体である王族には、性別はさして関係がない。
同姓の番の場合は、相手に合わせて雌雄どちらかの器官が発達し、交配は可能となる。
俺とエルヴィスの場合、エルヴィスが雄、俺は雌の器官が発達していた。
そうして何千年と種を守ってきたのだが、幼い頃から実の兄同然に慕ってきた従兄を番として見るのは、そう簡単ではなかった。
「俺は、従兄さんのことをまだ・・・・・・」
「本当に焦らすのが好きだな、お前」
体の方向を変えられ、エルヴィスと向き合う形になる。
血への欲求ではなく、情欲によって熱された眼差しが、俺の体を貫く。
冷たいはずの手が熱を持ったように汗ばんだ。
頬を両手で包まれ、エルヴィスの顔が俺へ近づく。
「に、従兄さん・・・・・・待って」
「いつまで待てばいい。お前はもうすぐ成人して王位を継ぎ、世継ぎを作らないといけないんだぞ」
「それまでには、心の整理をつけるよ。だからーー」
従兄の顔がまともに見られない。
赤面してうつむくと、エルヴィスは俺の顎をつまみ、上に上げた。
炎のように燃え立つ瞳と視線が交差したと思えば、唇が重なっていた。
かすめる程度の軽い口づけだったが、俺は驚いて両目を大きく見開く。それをからかうように、従兄は微笑していた。
「急かしてすまなかった。ーーお前はまだ若い。大人になるまで待つよ」
「・・・・・・ありがとう、従兄さん」
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スポットライトのように空から差し込む日光の中、俺とエルヴィスはしばらく抱き合っていた。
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