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第三章:蘇る過去
第四話:戦神の名
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ーーあれから十年の時が経ち、俺は成人の議と戴冠式を一週間後に控えていた。
儀式の為に伸ばし続けた黒髪は、もうすぐ床を引きずりそうだ。後ろ姿だけなら女と間違えられるかもしれない。
顔も昔よりは大人びたと自分でも思う。
体格も華奢ではあるが、一回りほど大きくなった。
生まれて八百年。ようやく、大人になれる。
そして、名実ともにこの世界の王になるのだが、実感が全く湧かない。
「はあ、どうしよう・・・・・・」
思わず机に突っ伏すと、向かい側で分厚い本を読んでいた青年が目を見張った。
「えっ、突然どうされたんです?」
「ああ、ごめん。月日が過ぎるのは早いなあと思って」
落ちていく砂時計を眺めながら、俺は続けた。
「昔は読めない字を聞きに来ていた君が、すっかり大人になっているくらいだもの。年を考えずにはいられないよ」
かけていた眼鏡を外しながら、青年は苦笑した。
「そりゃ、人狼は二十歳までは人間と同じ速度で年をとりますから」
そう言って微笑する彼は、もう少年ではなく、立派な大人に成長していた。
体格は俺よりもがっしりと屈強になり、ノースリーブの肩からは筋肉の吊いた腕が伸びている。
表情も凛々しくなり、すっかり見違えてしまった。
読める字も増え、今では他の人間の子供に字を教えるほどだ。加えて武道にも秀で、ヴァンパイアからも一目おかれていた。
「君が立派に育ってくれて、父親としては嬉しいよ」
少し身を乗り出して青年の頭を撫でると、彼は恥ずかしそうに顔を背けた。
「やめてください。俺はもう子供じゃないんですから」
「私からすれば、いつまでも可愛い子供だよ」
「・・・・・・そうですか」
少し、青年の顔に悲哀が浮かんだような気がした。
俺は手を引っ込め、青年の顔を伺う。
「すまない、気に障ったかな」
「いいえ、そんなことはありません」
青年はぱっと微笑を浮かべた。
「そうだ、殿下。一つお願いを聞いていただけませんか?」
「君が願い事なんて珍しいな。言ってみなさい」
日頃、多くを望まない彼は、俺に何を望むのだろう。
新しい本か、衣服か。
何にせよ、叶えてやりたい。
青年が何を願うのか待っていると、彼は椅子から立ち上がった。
そして、ゆっくり俺の横に来ると、その場で片膝をつき、低頭した。
「どうか、この私に名を与えてもらえませんか」
「名って・・・・・・昔私がつけようとしたときは嫌がったじゃないか」
「ええ。自分の名を思い出すまでーーと、新たな名を拒んできました。しかし、十年が経っても未だに自分の名前が思い出せません」
火の手が上がる村で一人、座り込んで泣いていた少年を思いだした。家族を失い、自分を見失い、全てをなくした哀れな子供。
「あなたが成人なさる事を節目に、私も新たな自分で生きたいのです」
「そういう事なら、喜んで名を付けよう」
彼にずっと付けてやりたかった名前がある。
エルヴィスとはまた違う、静かに熱されているような彼のために。
「ーーマース」
「・・・・・・マース?」
「そうだ。人の世界に語り継がれる、戦の神だ」
青年は何度も私が言った名を反芻する。
じょじょに笑みが浮かんでいき、こみ上げる喜びを俺に向けた。
儀式の為に伸ばし続けた黒髪は、もうすぐ床を引きずりそうだ。後ろ姿だけなら女と間違えられるかもしれない。
顔も昔よりは大人びたと自分でも思う。
体格も華奢ではあるが、一回りほど大きくなった。
生まれて八百年。ようやく、大人になれる。
そして、名実ともにこの世界の王になるのだが、実感が全く湧かない。
「はあ、どうしよう・・・・・・」
思わず机に突っ伏すと、向かい側で分厚い本を読んでいた青年が目を見張った。
「えっ、突然どうされたんです?」
「ああ、ごめん。月日が過ぎるのは早いなあと思って」
落ちていく砂時計を眺めながら、俺は続けた。
「昔は読めない字を聞きに来ていた君が、すっかり大人になっているくらいだもの。年を考えずにはいられないよ」
かけていた眼鏡を外しながら、青年は苦笑した。
「そりゃ、人狼は二十歳までは人間と同じ速度で年をとりますから」
そう言って微笑する彼は、もう少年ではなく、立派な大人に成長していた。
体格は俺よりもがっしりと屈強になり、ノースリーブの肩からは筋肉の吊いた腕が伸びている。
表情も凛々しくなり、すっかり見違えてしまった。
読める字も増え、今では他の人間の子供に字を教えるほどだ。加えて武道にも秀で、ヴァンパイアからも一目おかれていた。
「君が立派に育ってくれて、父親としては嬉しいよ」
少し身を乗り出して青年の頭を撫でると、彼は恥ずかしそうに顔を背けた。
「やめてください。俺はもう子供じゃないんですから」
「私からすれば、いつまでも可愛い子供だよ」
「・・・・・・そうですか」
少し、青年の顔に悲哀が浮かんだような気がした。
俺は手を引っ込め、青年の顔を伺う。
「すまない、気に障ったかな」
「いいえ、そんなことはありません」
青年はぱっと微笑を浮かべた。
「そうだ、殿下。一つお願いを聞いていただけませんか?」
「君が願い事なんて珍しいな。言ってみなさい」
日頃、多くを望まない彼は、俺に何を望むのだろう。
新しい本か、衣服か。
何にせよ、叶えてやりたい。
青年が何を願うのか待っていると、彼は椅子から立ち上がった。
そして、ゆっくり俺の横に来ると、その場で片膝をつき、低頭した。
「どうか、この私に名を与えてもらえませんか」
「名って・・・・・・昔私がつけようとしたときは嫌がったじゃないか」
「ええ。自分の名を思い出すまでーーと、新たな名を拒んできました。しかし、十年が経っても未だに自分の名前が思い出せません」
火の手が上がる村で一人、座り込んで泣いていた少年を思いだした。家族を失い、自分を見失い、全てをなくした哀れな子供。
「あなたが成人なさる事を節目に、私も新たな自分で生きたいのです」
「そういう事なら、喜んで名を付けよう」
彼にずっと付けてやりたかった名前がある。
エルヴィスとはまた違う、静かに熱されているような彼のために。
「ーーマース」
「・・・・・・マース?」
「そうだ。人の世界に語り継がれる、戦の神だ」
青年は何度も私が言った名を反芻する。
じょじょに笑みが浮かんでいき、こみ上げる喜びを俺に向けた。
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