19 / 38
第三章:蘇る過去
第五話:銀狼
しおりを挟む
「ありがとうございます・・・・・・!」
「おいおい、喜びすぎて耳と尻尾が出てしまっているぞ」
「え? ーーうわっ、本当だ!」
最近変化できるようになってきた彼は、感情によって狼の一部が表面化するようになった。
耳と尻尾をぱたぱたと動かす姿は何とも愛らしい。
そこに困り顔で見上げられれば、もうにやけるしかないのだ。
「ふっ、よしよし」
「ちょっ、だから子供扱いしないで下さいよ!」
「お前は子供だよ。私とエルヴィスに子ができれば、お前の弟も同然だ」
「・・・・・・エルヴィス殿下との子ですか」
それまで元気にじゃれついてきたのに、彼ーーマースは急に肩を落とした。
最近、エルヴィスとの婚約関係の話がでるたびに、彼は沈んでいた。
「マース?」
「ーー殿下は、もうエルヴィス殿下を伴侶とするご意思を固められたのですか?」
「ああ。ようやく決心できたんだ」
ずいぶん長い時間を要してしまったが、ようやく従兄を伴侶として認められるまで心が成長した。
まだ愛しいという気持ちは不明確な部分が多いが、王に伴侶は必須。
戴冠式の後、すぐに番の儀式が執り行われるはずだ。
「式当日には、是非お前に私の手を引く役目を任せたい。式典用の服は重くて、手助けが必要なんだ」
「私がですか?」
「他でもないお前に頼みたい。誰より信頼しているからね」
子供であり、護衛であり、話し相手でもあり・・・・・・。
イザークと同じくらい、彼は信頼の置ける相手だ。
「だめならイザークに頼むけど・・・・・・」
「ーーでしたら、もう一つ願いをお聞き届け下さいませんか」
「交換条件か?」
苦笑混じりに訊ねると、マースは真剣な顔でうなづいた。
「私の長年の夢ーーあなたの眷属にしてください」
「マース・・・・・・そのことは何度も言っているが、人狼はヴァンパイアにはなれないんだ」
「存じております」
ではなぜ、今それを願うんだ。
無言で理由を訴えると、マースは俺に、一冊の本を差し出した。
表紙も所々破け、題もかすれて読めない。
受け取って本を開くと、古い文字がびっしりと書き連ねてあった。
「これは・・・・・・」
「あなたのお爺さまにあたる、故アイザック王の手記です。書庫の奥深くで発見いたしました」
「おじいさまの?」
王は、子が王位を継承した時、自分の持つ能力の一部と記憶を子へ伝承し、永眠につく。
だから俺は祖父の顔を知らない。
父から偉大な王だったとは聞かされているが、それだけだった。
「殿下のお爺さまは、人狼をヴァンパイアに変え、戦力として使えないか研究していたそうです」
「そんな・・・・・・ヴァンパイアの血が人狼の体内に入ったら、肉体が破裂してしまうぞ」
「ええ。実際、実験で使用した人狼全員が、肉片になり果てたと書かれています」
お爺さまがーー王家がそんな恐ろしいことをしていたなんて、知らなかった。
それで、偉大な王と言えるのだろうか。
自分たちの繁栄のため、他者を殺すなど・・・・・・。
手記を持つ手が震え、俺は椅子に深く沈み込んだ。
「なんとおろかな・・・・・・」
「ですが、手記の最後にこう書かれています。"銀狼には可能性あり"と」
「銀狼?」
「人狼は白い毛が一般的ですが、まれに銀色の毛を持つものがいるそうです。その者なら、ヴァンパイアの血を受けても死なず、眷属になる可能性があるそうです」
「ーーまさか」
俺は目を見開いた。
マースは小さくうなずき、一瞬で狼の姿に変わった。
耳や尻尾は見慣れていたが、胴体をよく見れば、毛並みがわずかに銀色をまとっている。
目の錯覚でも何でもない。銀色だった。
「お前・・・・・・」
そこで、昔の記憶がよみがえる。
父の命令で焼き払われたマースの故郷。連れ去られた人狼。一人隠れ、生き延びたマース。
もしかして・・・・・・父は・・・・・・!
俺が震えながら見守る中、再び人へ戻ったマースは、ナイフのように鋭い目で、こちらを見据えた。
「俺は、あなたの眷属になれるかもしれない。どうか、契を交わしては頂けないでしょうか」
「成功するか確証がない! 危険すぎる!」
「かまいません!」
かしづいていたマースは俺へ詰め寄ると、ためらいなく抱きついてきた。
「おいおい、喜びすぎて耳と尻尾が出てしまっているぞ」
「え? ーーうわっ、本当だ!」
最近変化できるようになってきた彼は、感情によって狼の一部が表面化するようになった。
耳と尻尾をぱたぱたと動かす姿は何とも愛らしい。
そこに困り顔で見上げられれば、もうにやけるしかないのだ。
「ふっ、よしよし」
「ちょっ、だから子供扱いしないで下さいよ!」
「お前は子供だよ。私とエルヴィスに子ができれば、お前の弟も同然だ」
「・・・・・・エルヴィス殿下との子ですか」
それまで元気にじゃれついてきたのに、彼ーーマースは急に肩を落とした。
最近、エルヴィスとの婚約関係の話がでるたびに、彼は沈んでいた。
「マース?」
「ーー殿下は、もうエルヴィス殿下を伴侶とするご意思を固められたのですか?」
「ああ。ようやく決心できたんだ」
ずいぶん長い時間を要してしまったが、ようやく従兄を伴侶として認められるまで心が成長した。
まだ愛しいという気持ちは不明確な部分が多いが、王に伴侶は必須。
戴冠式の後、すぐに番の儀式が執り行われるはずだ。
「式当日には、是非お前に私の手を引く役目を任せたい。式典用の服は重くて、手助けが必要なんだ」
「私がですか?」
「他でもないお前に頼みたい。誰より信頼しているからね」
子供であり、護衛であり、話し相手でもあり・・・・・・。
イザークと同じくらい、彼は信頼の置ける相手だ。
「だめならイザークに頼むけど・・・・・・」
「ーーでしたら、もう一つ願いをお聞き届け下さいませんか」
「交換条件か?」
苦笑混じりに訊ねると、マースは真剣な顔でうなづいた。
「私の長年の夢ーーあなたの眷属にしてください」
「マース・・・・・・そのことは何度も言っているが、人狼はヴァンパイアにはなれないんだ」
「存じております」
ではなぜ、今それを願うんだ。
無言で理由を訴えると、マースは俺に、一冊の本を差し出した。
表紙も所々破け、題もかすれて読めない。
受け取って本を開くと、古い文字がびっしりと書き連ねてあった。
「これは・・・・・・」
「あなたのお爺さまにあたる、故アイザック王の手記です。書庫の奥深くで発見いたしました」
「おじいさまの?」
王は、子が王位を継承した時、自分の持つ能力の一部と記憶を子へ伝承し、永眠につく。
だから俺は祖父の顔を知らない。
父から偉大な王だったとは聞かされているが、それだけだった。
「殿下のお爺さまは、人狼をヴァンパイアに変え、戦力として使えないか研究していたそうです」
「そんな・・・・・・ヴァンパイアの血が人狼の体内に入ったら、肉体が破裂してしまうぞ」
「ええ。実際、実験で使用した人狼全員が、肉片になり果てたと書かれています」
お爺さまがーー王家がそんな恐ろしいことをしていたなんて、知らなかった。
それで、偉大な王と言えるのだろうか。
自分たちの繁栄のため、他者を殺すなど・・・・・・。
手記を持つ手が震え、俺は椅子に深く沈み込んだ。
「なんとおろかな・・・・・・」
「ですが、手記の最後にこう書かれています。"銀狼には可能性あり"と」
「銀狼?」
「人狼は白い毛が一般的ですが、まれに銀色の毛を持つものがいるそうです。その者なら、ヴァンパイアの血を受けても死なず、眷属になる可能性があるそうです」
「ーーまさか」
俺は目を見開いた。
マースは小さくうなずき、一瞬で狼の姿に変わった。
耳や尻尾は見慣れていたが、胴体をよく見れば、毛並みがわずかに銀色をまとっている。
目の錯覚でも何でもない。銀色だった。
「お前・・・・・・」
そこで、昔の記憶がよみがえる。
父の命令で焼き払われたマースの故郷。連れ去られた人狼。一人隠れ、生き延びたマース。
もしかして・・・・・・父は・・・・・・!
俺が震えながら見守る中、再び人へ戻ったマースは、ナイフのように鋭い目で、こちらを見据えた。
「俺は、あなたの眷属になれるかもしれない。どうか、契を交わしては頂けないでしょうか」
「成功するか確証がない! 危険すぎる!」
「かまいません!」
かしづいていたマースは俺へ詰め寄ると、ためらいなく抱きついてきた。
0
あなたにおすすめの小説
路地裏の王子様と秘密のカフェ ―10年ぶりに再会した親友はトップアイドルでした―
たら昆布
BL
大学生の千秋がバイト帰りの路地裏で助けたのは、今をときめくアイドル『GALAXY』のセンター、レオだった。
以来、レオは変装して千秋の働くカフェへ毎日通い詰めるようになる。
「千秋に会うと疲れなんて全部消えちゃうんだ」
トップアイドルとは思えないほど素直に懐いてくるレオに、千秋は戸惑いながらも多忙な彼を支えたいと願うようになる。
しかし、千秋はまだ知らない。
レオが10年前に「また絶対会おう」と約束して別れた泣き虫な親友の玲央本人だということに。
転生DKは、オーガさんのお気に入り~姉の婚約者に嫁ぐことになったんだが、こんなに溺愛されるとは聞いてない!~
トモモト ヨシユキ
BL
魔物の国との和議の証に結ばれた公爵家同士の婚約。だが、婚約することになった姉が拒んだため6男のシャル(俺)が代わりに婚約することになった。
突然、オーガ(鬼)の嫁になることがきまった俺は、ショックで前世を思い出す。
有名進学校に通うDKだった俺は、前世の知識と根性で自分の身を守るための剣と魔法の鍛練を始める。
約束の10年後。
俺は、人類最強の魔法剣士になっていた。
どこからでもかかってこいや!
と思っていたら、婚約者のオーガ公爵は、全くの塩対応で。
そんなある日、魔王国のバーティーで絡んできた魔物を俺は、こてんぱんにのしてやったんだが、それ以来、旦那様の様子が変?
急に花とか贈ってきたり、デートに誘われたり。
慣れない溺愛にこっちまで調子が狂うし!
このまま、俺は、絆されてしまうのか!?
カイタ、エブリスタにも掲載しています。
【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】
彩華
BL
俺の名前は水野圭。年は25。
自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで)
だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。
凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!
凄い! 店員もイケメン!
と、実は穴場? な店を見つけたわけで。
(今度からこの店で弁当を買おう)
浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……?
「胃袋掴みたいなぁ」
その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。
******
そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか
風
BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。
……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、
気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。
「僕は、あなたを守ると決めたのです」
いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。
けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――?
身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。
“王子”である俺は、彼に恋をした。
だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。
これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、
彼だけを見つめ続けた騎士の、
世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。
目立たないでと言われても
みつば
BL
「お願いだから、目立たないで。」
******
山奥にある私立琴森学園。この学園に季節外れの転入生がやってきた。担任に頼まれて転入生の世話をすることになってしまった俺、藤崎湊人。引き受けたはいいけど、この転入生はこの学園の人気者に気に入られてしまって……
25話で本編完結+番外編4話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる