ダークナイト・ヴァンパイア ~宵闇の王子~

哀楽

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第四章:逃避

第六話:再演までの…

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 懐かしい香りが、鼻腔いっぱいに広がる。
 なんだか、涙と一緒に様々な思い出があふれてきた。
 しゃくりあげる俺の頭を、エルヴィスは笑いながら撫でた。
「これは、どういう心境の変化だ? あれほど私に反発していたというのに」
「ちが、俺は・・・・・・っ」
 お前の伴侶だ、と続けようとすると、エルヴィスの手がチェーンを引きちぎり、俺を抱き上げた。
 軽く床を蹴って横に逸れたかと思うと、今いた場所に、ローガンが飛びかかってきた。
 翼を折りたたみ、エルヴィスは身構えた。
「おやおや、いつぞやの子犬君じゃないか。また遊んでほしいのか?」
「うるさい、死に損ない! ライアンを返せ!」
「断る。この兎は私のものだ」
 俺の頬に唇を寄せ、エルヴィスは窓辺へ飛んだ。
「再会を喜ぶのは後のようだな。ひとまずここを離れるぞ」
「待て、まだイザークが・・・・・・!」
「・・・・・・奴がどうした?」
「上の実験室で拷問されてる。助けないと・・・・・・!」
 あの状態では何日もしないうちに弱り果て、殺されてしまう。
 俺を助けようとして捕まった彼を置いて、一人逃げるわけにはいかない。
「頼む、上の階に連れて行ってくれるだけでいいから・・・・・・!」
「ーー断る」
「なーーっ」
「お前一人を残していけるわけないだろう。素直に"手伝って"と頼め」
 そう言って、驚く俺の頬をエルヴィスは指先で撫でた。
 慈しむような視線を惜しげもなく俺に向けたまま、口元にうっすら笑みを浮かべている。
 撫でられた箇所が熱を帯び、俺は頷くついでに顔を俯かせた。
「て、手伝ってくれ」
「勿論だ・・・・・・で、どうすればいい?」
「研究室はこの上だ。でも、イザークのいる場所にはいるには、指紋と角膜照合をパスしなきゃいけない」
 誰か関係者を連れて行かないと、俺たちはイザークのいる場所に入れない。
 まさかマースを連れて行くわけにもいかないし・・・・・・。
「どうすれば・・・・・・」
「俺の眷属二人が、下で時間を稼いでいるが、あまり時間がない。早く解決策を見つけないと」
 こちらもこちらで、ローガンの攻撃をかわし続けている。
 この騒ぎだ。きっとマースも駆けつけるに違いない。
 奴が来る前にここを離れ、実験室に行かないと。
 必死に考えを巡らせていると、俺は一つ思い出した。
 マースに連れられて実験室に行ったとき、先にローガンが中にいた。
 もしかすると、ライアンの指紋と角膜も登録してあるかもしれない。
「エルヴィス」
「なんだ」
「ローガンを連れて行こう」
「この狼か?」
 振り下ろされたローガンの腕をつかみ、エルヴィスは首を傾げた。
「これが何の役に立つ?」
「ローガンの指紋と角膜も登録してあるかもしれない」
「登録していなかったら、どうする?」
「・・・・・・人質にするしかない」
「ほう、ならば連れて行こう」
 長い足を折り、エルヴィスはローガンの腹を蹴り上げた。
 抵抗していたローガンは息を詰まらせ、その場に崩れ落ちる。
 相棒が苦しむ姿を見るのはつらいが、今はイザークを助けるのが先だ。
「ごめんな、ローガン・・・・・・」
 俺はカーテンを留めていた紐を掴むと、ローガンの手を後ろ手に縛った。
 激しくせき込んでいる相棒の背にそっと触れると、彼は憎い敵を見るような目で、俺を睨んだ。
「俺に触るな! 裏切り者!」
「・・・・・・っ」
 ローガンの言葉が、ナイフのように俺の心を突き刺す。
 悲しみか、あきらめか・・・・・・俺は黙ってローガンから離れた。
「窓から外に出て、上の階に移ろう。きっと武装した隊員が大勢いるだろうけど・・・・・・」
「人間ごとき、何匹たかろうと私の敵ではない。ーーもっとも、あの男だけは注意しなくては」
 マースのことかと訊ねようとしたとき、部屋に複数の人間がなだれ込んできた。
 遊撃隊のメンバーと、マース。
 そして、
「イザーク!」
 上で拘束されているはずのイザークが、縄でがんじがらめに縛り上げられ、引きずられていた。
 もう血も少ないのだろう。目を開けることもできず、ぐったりとうなだれている。
 まるで見せつけるように、マースはイザークの髪を掴んで持ち上げた。
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