ダークナイト・ヴァンパイア ~宵闇の王子~

哀楽

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第四章:逃避

第七話:奪還

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「おやおや・・・・・・何が乗り込んできたかと思えば、あなたでしたか。エルヴィス様」
「ああ。子供達と一緒にお邪魔しているよ」
「まさか、イザークさんを助けにきたんですか? それともーー」
「私の兎を返してもらいに来た・・・・・・が、兎がその男を助けたいと頼むものだからね。ついでにイザークも渡してもらおう」
 俺を翼の陰に隠し、エルヴィスは微笑んだ。
 遊撃隊が周囲を取り囲んでも、俺の婚約者は悠然としていた。
 今現在、彼を殺す有効な手段がないが故の余裕だろう。
 だが、いくら王族ヴァンパイアといえど、頭部は急所だ。
 かつて父がそうだったように、頭が機能しなくなればーー死ぬ。
 俺は不安で、エルヴィスの腕を強く抱きしめた。
 すると、彼は目線だけ俺に向け、マース達に向けるものとは違う、優しい表情を浮かべてくれた。
「大丈夫だ」
 その一言で、俺の心に温もりが蘇る。
 こわばった体をほぐすように深呼吸したが、マースと目が合った瞬間、体がビクリと震えた。
 笑っているのに、マースの目は獲物を狙うライオンのようだ。
 鋭く、静まりかえっている。
 その相貌が俺を真っ向から見据え、逃がさなかった。
「殿下・・・・・・そんな死にかけの王族にしがみついていないで、私を抱きしめて下さい。あなたを幸せにできるのは、私だけですよ」
 体の震えが大きくなった。
 俺は悲鳴も上げられず、エルヴィスに抱きつく力を強める。
 エルヴィスは両目を見開き、俺を凝視した。
「殿下・・・・・・? どういうーー」
「その方は、あなたが勝手に死んだと思いこんでいたライアン・ディ・レーヴェンガルト殿下ですよ」
「な・・・・・・っ」
 初めてエルヴィスは驚愕の色をはっきり表した。
 堂々と敵から目をそらし、俺だけを見つめる。
「そんな、お前が・・・・・・まさか・・・・・・!」
「・・・・・・俺だよ、エルヴィス従兄さん」
「ーーっ」
 喜び、怒り、悲しみ、全ての感情が入り交じったような、複雑に歪んだ表情を浮かべ、エルヴィスは俺を抱きしめた。
 ああーーやっと会えた。
 俺もエルヴィスの体に腕を回し、抱きしめ返した。
 ずっとこうしていたい。
 だが、現実は敵に囲まれている。
 そう、もうここは敵陣。
 遊撃隊の仲間達もーー敵。
 俺を抱えたまま、エルヴィスは口角をつり上げた。
「事情は引き上げてからゆっくり聞くとしよう。お前が王子だったのならなおさらーーこのまま連れて行く」
 エルヴィスの闘気が形をなして広がるように、氷が部屋を覆っていく。
 マースをはじめ何人かは跳躍して氷に捕まるのを免れたが、逃げ遅れた隊員は氷の棺に閉じこめられた。
 動ける隊員は一斉にエルヴィスへ銃撃を開始する。
 飛び交う弾丸を翼ではじきながら、エルヴィスは俺とローガンを両脇に抱え、一歩下がった。
「この子犬、盾にでも使うか? もう用済みだろう」
「駄目に決まってるだろ!」
「じゃあ、この辺に放っておこう」
 おもむろにローガンを床に転がし、エルヴィスは俺の肩を抱いた。
 確かにイザークは目と鼻の先にいるから、ローガンを人質にする必要はなくなったが、何を言い出すんだ、こいつは。
 もう少し緊張感というものを持ってほしいところだが、今は彼の飄々とした態度が、ありがたかった。
 俺にも武器があればーー一丁でも銃があれば、エルヴィスを援護してやれるのに。
 ローガンからかすめとった剣は、エルヴィスが侵入してきたときに落としてしまったし、また丸腰に戻ってしまった。
 何かないかとあたりを探っていると、エルヴィスが氷漬けにした隊員の足下に、銃が落ちていた。
 俺は迷わず駆け出す。まだ血を吸われていないせいか、体が軽い。
 ・・・・・・いや、もしかすると、身体能力が上がっているのかもしれない。
 視力も、瞬発力も明らかに以前よりも向上しているのだ。
 一足飛びに銃に飛びつくと、マース達の足下に何発か打ち込んだ。
「従兄さん、マースを押さえて! その間に俺が動く!」
「・・・・・・分かった」
 察したように深く頷き、エルヴィスはマースに突進していった。
 俺は呼吸を整え、イザークとの間に立ちはだかる隊員の位置を見定める。彼らの間を、どうすり抜ければ最短でたどり着くだろう。
「ーー考えるより、動いた方が良さそうだな」
 銃を構え、一歩踏み出した。
 俺を捕まえようと、隊員達が手を伸ばす。
 半覚醒状態の俺の体は、紙一重でそれらをすり抜けた。
 銃のグリップで仲間達の頭部を殴りながら、イザークのもとへ急ぐ。
 あと少し。あと数メートル。
 その時、エルヴィスの鋭い声が届いた。
「王子、犬が・・・・・・!」
「え?」
 わずかに後ろを見ると、狼化して拘束を解いたローガンが、イザークめがけて駆けだしている。
 マースが、イザークを殺せと叫んだ。
「くそーーっ」
 ローガンは俺など視界に入れていない。
 床に横たわるイザークに向かっている。
 俺は限界まで走る速度を上げ、イザークに抱きついた。
 背中に経験したことのない痛みを感じたのは、それとほぼ同時だった。
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