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第五章:この愛、永遠に
第一話:それは私のものだ!
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聖騎士団本部の一部が焼失し、王族ヴァンパイアのーーしかも、王位を継承し、死んだと思われていた王子の帰還は、瞬く間にヴァンパイアの世の中へと知れ渡った。
誰もが王子の帰還を喜び、再びヴァンパイアが地上を統べるであろう日を、心待ちにしているという。
ライアン・ディ・レーヴェンガルトという王族ヴァンパイアに寄せられる期待は、想像以上に大きいものだった。
***
「では殿下。私たちはこれで失礼いたします」
俺に向かって深々と頭を下げたまま、後ろへ後ずさるようにして帰って行く配下を見送り、俺は深いため息をこぼす。
エルヴィス達が暮らしていた下水道に身を隠して数日の間に、面会に訪れるヴァンパイア達に崇められ、国の再建を願われ、俺は内心まいって。
頭を押さえていると、傍らにいたイザークが心配そうに顔を寄せてきた。
「殿下、無理に配下達と会わずともよろしいのですよ」
「うん・・・・・・でも、俺と話すことで、彼らの不安が軽くなるなら、会ってあげたい」
「ですが、御身の健康が第一です。午後は面会謝絶にしますからね!」
すっかり体調の戻ったイザークは、元気よく動き回っては、かいがいしく俺の世話をしていた。
彼の眷属達は、主の働きっぷりを見て、最初は目を見開いていたが、これが本来のイザークだ。
優しく、気だての良い子なのだ。
今俺が使っている場所も、下水道の一部をイザークが拡張して、住みやすくしてくれた。
「ありがとう、イザーク」
「・・・・・・っ、殿下ああああ!」
「え、え? 何、急に」
「その笑顔、お久しゅうございます!」
手に持っていたグラスを放り投げ、イザークは俺に飛びつき、猫のように頬をすり寄せてきた。
昔も人前では自分を厳しく律していたくせに、二人になると子供(というよりは動物)のように俺に甘えてきていたっけ。
「よしよし。相変わらず甘えん坊さんだな」
「子は親に甘えるものです! 正当な権利です!」
むっとした顔で頬を膨らませ、イザークは俺を見上げた。
苦笑しながら頬を撫でてやると、彼はさらに俺へ身を寄せた。
「ふふ、くすぐったいよ、イザーク」
「うう、少しだけお許し下さい。どれほど殿下にお会いしたかったことかーーって、痛!」
ごつん、という鈍い音とともに、イザークの脳天に拳が下った。
驚いて拳の主を見上げると、イザークの投げたグラスを片手に、エルヴィスが憮然とした表情でたたずんでいた。
「・・・・・・イザーク、貴様何をしている。それは私の妻だぞ」
持っていたグラスを握りつぶし、エルヴィスはにっこりと満面の笑みを浮かべた。
俺まで背筋に悪寒が走るほど、恐ろしい笑みだった。
「従兄さん、どうしーー」
「従兄さんじゃない、名を呼べ。次に私を従兄さんと呼んだら、仕置きをするぞ」
「は、はい」
これは逆らわない方が良さそうだ。
おとなしく頷くと、エルヴィスは満足げにほほえんだ。そして、イザークの襟首をつかんだ。
「早くそこをどけ、イザーク!」
「嫌です! ぜええええったいに殿下から離れません!」
エルヴィスの手をはねのけたイザークは、俺の首に抱きつき、眉をつり上げた。
「だいたい、ずっと殿下が死んだと思いこんでいたくせに、今更虫が良すぎます! そんな馬鹿に殿下は渡しません!」
「そういうお前こそ! 私が生存説を信じなかったから命を奪い、力を得ようなんて突拍子もない事を考えた馬鹿じゃないか!」
「殿下が消えて腑抜けていたあなたより、よっぽど私のほうが王族の力を持つのにふさわしいと思ったからですよ!」
「この・・・・・・っ」
俺を挟んで繰り広げられる口論。
イザークには抱きつかれ、エルヴィスには腕を引っ張られ、面会続きで少し疲れていた俺は、彼らに引っ張られるまま体を揺らしていた。
結局、彼らが敵対していた理由は、俺が生きているかーー死んでいるかという、意見の相違からきたものだったらしい。
エルヴィスは俺が死んだと思い、残された仲間を守るために、必死に前を向こうと・・・・・・俺が死んだことを受け入れようとしていた。
対してイザークは俺の死を信じなかった。俺の生存を否定した事で、エルヴィスへの信頼が一瞬で崩れ去り、人間や人狼と同じく、伴侶の生存を信じられない男など不要ーーという、少々過激な思想を持ってしまったようだった。
もっとも、王族の血を飲んだからといって、王族と同等の力を得られるわけではないが・・・・・・なんにせよ、二人を仲違えさせてしまった原因は、元を正せば俺の弱さが原因だった。
俺が間にたって二人の誤解を解いたはいいものの、まだ顔を合わせるたび、こうして諍いを起こされるのは困りものだ。
はじめこそ諫めていたが、今となっては無の境地を開拓したというかーーうん、見守ることにしよう。
「この猫かぶりめ! いいから王子から離れろ!」
「ああっ、殿下ご覧になりましたか!? 今エルヴィス様が私に暴力を・・・・・・!」
「どさくさに紛れて王子に抱きつくな!」
「うわああん、殿下助けて下さい~」
見守ることを決め込んでいた俺は二人に対して何も言わず、ただ目を閉じてした。
そこへ、デズモンドとカトリーヌが顔を出した。
王族ヴァンパイアと上位の眷属が醜く争っている様を見て、両者とも目をすがめていた。
「何しているんですか、皆さん・・・・・・」
デズモンドが震え声で訊ねると、主であるエルヴィスは嬉々として命じた。
「いいところに来た、デズモンド! イザークを叩きのめせ!」
「え、嫌です」
「なぜだ!」
「一応同じ上位の眷属として、イザークさんは先輩ですし」
ねえ?とカトリーヌに同意を求め、デズモンドは眼鏡を押し上げた。
カトリーヌは大きく頷き、エルヴィスとイザークを交互に見据えた。
「お二人の言い争いが部屋の外まで響いています。下のものに示しがつきませんので、お控え下さい」
「う・・・・・・」
「お返事は?」
「はい」
誰もが王子の帰還を喜び、再びヴァンパイアが地上を統べるであろう日を、心待ちにしているという。
ライアン・ディ・レーヴェンガルトという王族ヴァンパイアに寄せられる期待は、想像以上に大きいものだった。
***
「では殿下。私たちはこれで失礼いたします」
俺に向かって深々と頭を下げたまま、後ろへ後ずさるようにして帰って行く配下を見送り、俺は深いため息をこぼす。
エルヴィス達が暮らしていた下水道に身を隠して数日の間に、面会に訪れるヴァンパイア達に崇められ、国の再建を願われ、俺は内心まいって。
頭を押さえていると、傍らにいたイザークが心配そうに顔を寄せてきた。
「殿下、無理に配下達と会わずともよろしいのですよ」
「うん・・・・・・でも、俺と話すことで、彼らの不安が軽くなるなら、会ってあげたい」
「ですが、御身の健康が第一です。午後は面会謝絶にしますからね!」
すっかり体調の戻ったイザークは、元気よく動き回っては、かいがいしく俺の世話をしていた。
彼の眷属達は、主の働きっぷりを見て、最初は目を見開いていたが、これが本来のイザークだ。
優しく、気だての良い子なのだ。
今俺が使っている場所も、下水道の一部をイザークが拡張して、住みやすくしてくれた。
「ありがとう、イザーク」
「・・・・・・っ、殿下ああああ!」
「え、え? 何、急に」
「その笑顔、お久しゅうございます!」
手に持っていたグラスを放り投げ、イザークは俺に飛びつき、猫のように頬をすり寄せてきた。
昔も人前では自分を厳しく律していたくせに、二人になると子供(というよりは動物)のように俺に甘えてきていたっけ。
「よしよし。相変わらず甘えん坊さんだな」
「子は親に甘えるものです! 正当な権利です!」
むっとした顔で頬を膨らませ、イザークは俺を見上げた。
苦笑しながら頬を撫でてやると、彼はさらに俺へ身を寄せた。
「ふふ、くすぐったいよ、イザーク」
「うう、少しだけお許し下さい。どれほど殿下にお会いしたかったことかーーって、痛!」
ごつん、という鈍い音とともに、イザークの脳天に拳が下った。
驚いて拳の主を見上げると、イザークの投げたグラスを片手に、エルヴィスが憮然とした表情でたたずんでいた。
「・・・・・・イザーク、貴様何をしている。それは私の妻だぞ」
持っていたグラスを握りつぶし、エルヴィスはにっこりと満面の笑みを浮かべた。
俺まで背筋に悪寒が走るほど、恐ろしい笑みだった。
「従兄さん、どうしーー」
「従兄さんじゃない、名を呼べ。次に私を従兄さんと呼んだら、仕置きをするぞ」
「は、はい」
これは逆らわない方が良さそうだ。
おとなしく頷くと、エルヴィスは満足げにほほえんだ。そして、イザークの襟首をつかんだ。
「早くそこをどけ、イザーク!」
「嫌です! ぜええええったいに殿下から離れません!」
エルヴィスの手をはねのけたイザークは、俺の首に抱きつき、眉をつり上げた。
「だいたい、ずっと殿下が死んだと思いこんでいたくせに、今更虫が良すぎます! そんな馬鹿に殿下は渡しません!」
「そういうお前こそ! 私が生存説を信じなかったから命を奪い、力を得ようなんて突拍子もない事を考えた馬鹿じゃないか!」
「殿下が消えて腑抜けていたあなたより、よっぽど私のほうが王族の力を持つのにふさわしいと思ったからですよ!」
「この・・・・・・っ」
俺を挟んで繰り広げられる口論。
イザークには抱きつかれ、エルヴィスには腕を引っ張られ、面会続きで少し疲れていた俺は、彼らに引っ張られるまま体を揺らしていた。
結局、彼らが敵対していた理由は、俺が生きているかーー死んでいるかという、意見の相違からきたものだったらしい。
エルヴィスは俺が死んだと思い、残された仲間を守るために、必死に前を向こうと・・・・・・俺が死んだことを受け入れようとしていた。
対してイザークは俺の死を信じなかった。俺の生存を否定した事で、エルヴィスへの信頼が一瞬で崩れ去り、人間や人狼と同じく、伴侶の生存を信じられない男など不要ーーという、少々過激な思想を持ってしまったようだった。
もっとも、王族の血を飲んだからといって、王族と同等の力を得られるわけではないが・・・・・・なんにせよ、二人を仲違えさせてしまった原因は、元を正せば俺の弱さが原因だった。
俺が間にたって二人の誤解を解いたはいいものの、まだ顔を合わせるたび、こうして諍いを起こされるのは困りものだ。
はじめこそ諫めていたが、今となっては無の境地を開拓したというかーーうん、見守ることにしよう。
「この猫かぶりめ! いいから王子から離れろ!」
「ああっ、殿下ご覧になりましたか!? 今エルヴィス様が私に暴力を・・・・・・!」
「どさくさに紛れて王子に抱きつくな!」
「うわああん、殿下助けて下さい~」
見守ることを決め込んでいた俺は二人に対して何も言わず、ただ目を閉じてした。
そこへ、デズモンドとカトリーヌが顔を出した。
王族ヴァンパイアと上位の眷属が醜く争っている様を見て、両者とも目をすがめていた。
「何しているんですか、皆さん・・・・・・」
デズモンドが震え声で訊ねると、主であるエルヴィスは嬉々として命じた。
「いいところに来た、デズモンド! イザークを叩きのめせ!」
「え、嫌です」
「なぜだ!」
「一応同じ上位の眷属として、イザークさんは先輩ですし」
ねえ?とカトリーヌに同意を求め、デズモンドは眼鏡を押し上げた。
カトリーヌは大きく頷き、エルヴィスとイザークを交互に見据えた。
「お二人の言い争いが部屋の外まで響いています。下のものに示しがつきませんので、お控え下さい」
「う・・・・・・」
「お返事は?」
「はい」
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