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とある妖精の話 その3

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・・・‥‥安全な場所へ逃げ込めるはずだったのに、仲間の妖精立と共にディアは捕らえられた。

 大きな虫かごのようなものへ押し込められ、輸送されること三日。


 どうやら目的地へ辿り着いたようで、彼女達は出された。

 ただし、逃げられないように麻痺薬を捲かれたようで、体の自由が利かない。



 かろうじて目は動くので、周囲の様子を伺えば、大きな鍋が隣でぐつぐつと煮えたぎっていた。



 周囲に人はいるようで、その会話内容が聞こえてくる。


「おい、そろそろ王女様も危ないようだぞ」
「ああ、そのためにも国王陛下もなりふり構うことができなかったんだろうな」
「そのために、治療に役立つという特殊な翅を持った妖精を捜すために、わざわざまとめ買いされるとは」

 どうやら、件の国王とやらがいる王城内らしく、聞こえてくる話は王女の容態や国王陛下の事ばかり。

 そして、そばにある大鍋は、おそらく妖精をいれて煎じるためのものだと思われるが‥‥‥煎じるどころか、ゆで上げてドロドロに溶かすような印象しかないのはなぜだろうか。


 どうにか逃げたいが、逃げることはできない。


「しかし、どれがその特別な翅を持つ妖精かわからんな」
「似ているというか、目を引くようなものなどもあるが‥‥‥まぁ、面倒だから全部投入で良いだろう」

 全然よくない。

 そう叫びたかったが、口は動かない。


 近づいてくる自身の死に恐怖を覚えながらも、ディアはどうすることもできなかった。

 そして、仲間の妖精たちと共に、まとめて‥‥‥‥












――――――――――――――――
「陛下!!王女様が無事に病から回復成されました!!」
「おお!!本当か!!妖精たちをまとめて飲ませたが、それでうまくいったのか!!」
「ええ、あの病の形跡はもうどこにもありません!!・・・・ですが」
「どうした?」
「いえ、長い間侵されていたせいか、どうもまだ頭がはっきりしていないというか、ややぼうっとしており、記憶が少し・・・・・」
「ふむ…‥まぁ、よい。記憶が失われていようにも大事な娘であることは変わりないからなぁ‥‥‥」


・・・‥‥ある国の、国王と臣下の会話。

 記憶が失われていても、大事な娘が回復したことに、彼らは喜んでいた。

 だが、それは本当に国王の娘が回復したのだろうか…‥‥

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