帰らずの森のある騒動記   (旧 少女が魔女になったのは)

志位斗 茂家波

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とある少女の記録 その1

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――――――小さいながらも、ほのぼのと皆が幸せに暮らしている国があった。

 国の名前はピースエブリ王国。

 資源も乏しく、あまり目立った産業もないとはいえ、貧しい事もなく、皆が笑顔で毎日を暮らせる幸せな国だった。



 そんな国に、ある日末の王女が産まれたと言う話がでて、国民たちは大いにその誕生を喜び、城へ集い祝いの言葉を上げた。



「ほら、見てごらん。君を祝うためにこんなにも国民が慕ってくれたんだよ」
「うー?きゃっきゃっ!」

 父親である国王の問いかけに、彼の腕に収められた幼き赤子は笑い声をあげる。

 その声を聴き、その隣にいた王妃は微笑みを浮かべた。

「あなた、これで3人目の王女が産まれたことになりますわね」
「ああ、わが国は小さく、周辺諸国に負けてはいるが、国民の幸福度は最も高い!皆が幸せになれるように頑張るから、お前も大きくなったらみんなのために頑張るんだぞ!」
「だー!」

 国王の言葉に、嬉しそうに答える赤子。

 手を上げ、女の子なのに将来がお転婆そうになる予感がして、少し疲れそうだと思いつつも、生まれた我が子のために彼らは努力を惜しまないことを心に誓うのであった。














‥‥‥だがしかし、それから十数年後、その国は滅びた。

 天災でもなく、とある大国に戦を仕掛けられて、なすすべもなく蹂躙されたのである。

 資源も乏しく、そんなたいしたものもない国がなぜ滅ぼされたのか?


 理由はただ一つ、国の領土拡大ということだけである。


 どんな国であろうとも、国民に対してひどいことをしなければ国王は属国になるのも拒絶しなかった。

 けれども、問答無用で滅ぼされてしまい、王族は皆死んでしまった。




 いや、たった一つ、小さな命だけは助かっていた。

 家族全員が必死になって隠し、そして逃げ延びさせたのである。



 だが、それも一時しのぎに過ぎなかった。

 残された者たちからの復讐を防ぐために、大国は国中を捜索し、その命を見つけ出した。











「‥‥‥それが、この旅ようやくとらえた残された王女か」
「はっ!間違いありません!!」

 兵士の報告を聞き、大国の王、エルバーン帝国の皇帝ムリードリッヒは、檻の中にいる捕らえた少女を見た。


 金髪の髪に、緑色の瞳。

 身なりを整えれば美少女だろうが、逃亡生活によって身だしなみが乱れ、そして捉える際に抵抗したことから、兵士たちに暴力を振るわれ、青あざがいくつも残っていた。




‥‥‥さすがに皇帝と言えども、ここまでのボロボロな少女は見て痛ましいところがあった。





「さてと、ピースエブリ王国の残された第3王女よ、よくここまで手間を取らせたな」

 皇帝がそう話しかけると、少女が彼の方を向いた。

 そのまなざしはひどく疲れ切っていたが、それでもその目は真っ直ぐに見ていた。

「‥‥‥ああ、なるほど。貴女が私の兄さまやお父様、お母様を殺し、国を奪った方ですか」


 そう皇帝に言い放ちつつ、真っ直ぐと正面から彼女は話す。



 憎悪、怯えと言ったものは見えず、はっきりとした話し方。

 まだ年端も行かぬ少女のはずだが、ここまでしっかりしているのを見て皇帝は驚愕した。




 逃亡生活も苦労しただろうし、捕らえる際の兵士たちの暴力もあったはずだが…‥‥それでも、彼女はしっかりと皇帝を見据え、きちんと一人の少女として、残された王女としての矜持を果たしていたのだ。



「そうだが‥‥‥驚いたな。ここまで追い詰められて、将来の害するであろう芽を摘むために命を刈り取られるかもしれないこの場で、よく堂々と発言をできているな」
「ええ、それはそうでしょう。もう自分の運命は分かっていますからね。わあつぃ一人ではたいした力もない。けれども、将来の不安を無くすためにどのような事をされるのかは分かっており、その為にも最後まで王女としての信念を貫きたいがゆえに、このように取らせてもらってますからね」


 髪も乱れ、ボロボロになった身になっても、それでも王族としての矜持を保つ少女。


 その勇ましいさまを見て、皇帝は思った。




 世が世であれば、もしかするとこの少女はあの国を大きく発展させ、人々を導く女帝となっていたかもしれない。


 けれども、今はすでに捕らえられ、その命の灯は皇帝が握っているも同然である。

 
 このまま放置しておけば、将来的にこの帝国に害をなすだろう。


 けれども、このような人材をそう簡単に亡き者にしてしまうのも惜しいと彼は思った。






…‥‥とはいえ、絶対に彼女はこの国に仕える気はないだろう。

 妾や愛人にしようとしたところで、それこそすぐさま死を選ぶのは目に見えている。




 そこでふと、悪魔のささやきというか、考えが皇帝の頭にひらめいた。


「なるほどな、そこまで自身の立場を理解しながらも、最後まであの国の王族としての誇りを保ったままか。面白い、すぐさま殺す気は失せた」




 だが、生かすわけにもいかない。


 ならばどうするか‥‥‥‥そこで、皇帝は一つの賭けに出た。


「だったら一つ機会を与えてやろう」
「機会?」
「ああ、今すぐにここで亡き者にしても良かったが、その場ですぐに殺すのも、その命を我々が奪うのも世の損失になってしまう。そこでだ、この際、天に命に賭けてみる気はないか?」


 皇帝の問いかけに対して、少女は首をひねった。


「…‥‥どういうことですか?」
「つまりだ、人が入って生きて帰ってこれないとされる場所に貴様を放り込んでやろうというわけだ。もし、生き残り、そのまま住めたら貴様は生かされたことになり、そのまま生きていても良い。だがしかし、野垂れ死んでしまえば、それまでだったということだ」


 死んでしまえば元も子もない。


 けれども、生きていれば、この帝国に復讐できるかもしれないし、それを忘れて自由に生きることも可能だと、皇帝はそういったのである。


 あくまで「生き残れれば」の話であり、保証はしないが‥‥‥‥




 それでも、皇帝のその言葉に彼女は考えたあと、その機会を受けることにした。





 死の機会を失い、生き残れるかもしれない機会を与えられた。

 この皇帝の気が変わるか、代替わりすればその機会は無くなってしまうだろう。


 だけど、生き残ってほしいという‥‥‥‥家族の言葉を思い出し、彼女は皇帝から与えられたその選択を受けた。



「‥‥‥では、その生きて帰れないとされる場所へどうぞ私をやってください。絶対というわけでもないし、生きて行きて生き残って、あなた方を驚かさせるでしょう」
「くくくくく…‥‥ふははははははは!!その選択を取ったか!!面白い、ではこの機会を確かに貴様に与えよう!!」


 皇帝はそう笑いながら言って、臣下たちに命じた。








 数日後、彼女は帝国から遠く離れた「帰らずの森」と呼ばれる森の入り口に輸送され、森に入れられた。


 一度はいれば、二度と出て帰ってくることがないとされる森であり、帝国の者たちであれば、そこは死刑を宣告されたも等しい場所であるそうだ。



 けれども、彼女はその目に絶望を映すことはなかった。


 ここで生き延び、家族の残された希望として、生きていこうと決意しているのだから…‥‥‥



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