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とある司書の話 その2

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……あの不思議な男女のペアが常連になってから数年。

 この頃になると、ルーナはその常連と化した彼等の事が少しづつ分かってきた。


 まず、あの男の方はゼリアス、少女の方はミーナと言う名前であり、どうもこの国のものではなく、別のところからわざわざ通ってきているらしいという事。

 そして、兄妹と言うけれども義理らしいのに、それぞれ若干シスコン・ブラコンの気が見えるということである。


 それぞれ眉目秀麗と言うべき容姿でもあるので、彼等に声をかけて中を良くしておきたいというような人がいる際に、純粋なものならまだしも、確実に下心丸出しだとそれぞれが互いに察知されないようにかなりの威圧を放っているのである。


 同僚の一人がミーナと言う少女に告白しようとした時には、この世の終わりかと言えるほどの殺気がゼリアスから出て、約数名その場にいた者たちが気を失いかけたほどであった。






 まぁ、そんなことがありつつもも、ただの変った常連客だという程度に認識されてきたが、ちょうどこのころ、国内ではきな臭い噂が、より一層そうなるであろうという可能性を含んで広まり始めた。



「ねぇ聞いたかしらルーナさん。この国がそろそろどこかの国と戦を起こすそうなのよ」
「ああ、確かこのヘブゥデル王国から離れた国、アルミス皇国でしたっけ。なんかその噂が広がっているのを聞いたわよ」
「こちらも同じような噂を街中で聞いたりして、ちょっと物騒になって来たわよねぇ」

 同僚たちとの会話に交えた通り、どうもこの国が戦争を引き起こすようである。



「すいませーん、本を借りたいのですが―」

 そんな中で、聞こえてきた言葉にルーナたちはそれぞれの仕事に戻る。







「はいはい。おや、ミーナさんですね」

 対応してみると、常連となっていた少女ミーナがそこにいた。

 今日は兄のゼリアスはいないようだが、まぁ兄妹とはいえ何時も一緒と言うわけでもないだろう。

 そう思いつつ、ルーナはミーナが借りたい本を確認し、返却する時用の手続きもきちんとこなしていった。


「そう言えばえっと、ルーナさん」
「何でしょうか?」


 数年もここに通って、ここの司書たちなど全員を覚えたらしいミーナが何かを質問して来ようとしたので、ルーナは対応した。

「最近、噂で聞いたんですけどこの国が戦争になりそうなんですよね」
「あー、その噂ですか。確かにそうなるかもしれないと言う話がありますが‥‥」
「そうなってしまった場合、この図書館とかって大丈夫なのでしょうか?」

 噂を聞き、戦争によってこの図書館に何か良からぬことが起きると思って心配しているのか、不安げな顔でンミーナがそう尋ねる。


 それだけこの図書館が気に入っており、心配してくれているのだと思うと、ルーナはうれしいようにも思えた。

「ええ、多分大丈夫なはずです。そもそも戦争が起きるかどうかと言うのも噂の領域から出ませんし、仮に起きたとしても、流石にこの図書館が戦火の被害に遭うこともないでしょう」



 戦争が起きたとしても、相手の国がこの図書館まで攻めてきたらの場合であり、それ以外であれば通常営業を行えるはずである。


 ただ、一つ問題があるとすれば、戦争が起きてしまうと新刊の入手などが難しくなってしまうかもと言うことぐらいであった。


「そうですか‥‥‥ならよかったですね。新刊関係が難しくなりそうですけど、この図書館が無事なら良いです」
「その言葉はうれしいですね。それだけここが好きなのでしょうか」
「ええ、こういう本の世界のような場所は、安らげますからね」
「わかります、わかりますねぇ」


 互いに笑いあい、本を貸し出した後、ミーナはその場を去っていった。



 こういう本の貸し借りの場で、生まれた本に対する友情。

 それはうれしいものでもあり、互いによき理解者に出会えたとルーナは心から思うのであった。







…‥‥だが、彼女の見通しは甘かった。

 この図書館は戦火に巻き込まれるような事はない。

 そう予想していたのだが、運命は時として、その予想を裏切るのであった‥‥‥‥‥

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