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6章 卒業、未来へ向けて

6-8 リハーサル、前夜はしっかり見ておいて

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 何事においても、どのような行事であろうとも、ぶっつけ本番では当日に何かしらの問題が起きる可能性もあり、だからこそ問題が起きないように、起きたとしてもどのように対処すべきか確認するために、余裕があればリハーサルを行う必要性がある。

 それはもちろん、今回の挙式に関しても当然で、何かがあってからでは遅く、人生の中で最高の日にするためにも厄介事などが起きないようにしたい。

「そう言う訳で、リハーサルとして式の段取りや、映像投影型魔道具による出席者同士のリモート顔合わせなどもやってみたけれども‥‥‥」
「やっておいてよかったかも‥‥‥サイズの関係とかで、いくつか見直し、出来た、キュルル」

 数回に分けてリハーサルを行い、念入りに準備を行って見たのだが、思いのほか見直す点が多かった。

 というか、もっぱらハクロの呼んだ招待客が原因でもあるのだが、それでも当日にわかるよりも良い結果が出せただろう。というか、リハーサルでもまだ当日に予定しているやつでやってない仕掛けとかがあるからね‥‥‥どうしよう、この挙式会場。神殿のような造りもしつつ、仕掛けられているものの数々が多すぎて人気が出たら、挙式用の会場を用意している他の貴族家と下手すると争うかもしれん。互いにできる範囲で、問題ないように折り合いをつけないとね。





 とにもかくにも、何度もリハーサルを重ね、失敗は確実に無いように準備はできた。

 気が付けば、挙式前夜となっており、後はもう明日の本番を残すのみである。

「そう考えると、やっぱりドキドキしてくるなぁ‥‥‥夫婦になる前の最後の夜風にあたりに出てみたけれども、落ち着かないや」
「キュルル、私も、緊張している。アルスと一緒になれる日が、本当に楽しみで眠れないかも」

 遠足前日の小学生のような気分だが、寝にくくなるのは楽しみなのと緊張が入り混じっているので、ちょっと違うかもしれない。

 まぁ、どう動こうが避けることの無い日が来るので、堂々と正面から向かうしかないだろう。

 とはいえ、やっぱり緊張などもあって寝にくいので、夫婦になる前のゆったりとした時間として空を一緒に飛ぶことにしたが、月明かりを見ても落ち着くことは無いだろう。というか、空を飛ぶと言ってもハクロに抱き締められた状態なので、正直言って落ち着くための方法としてはかなりの失策だったかもしれない。背後がすごい柔らかいというか、彼女の温かさを直に感じさせられるからね。


「とはいえ、結局は寝ないと本番で寝不足になるし、キリの良いところで切り上げたいかな…‥あ、そうだハクロ、ちょっとあそこに向かえないかな?」
「キュル?あそこ?」
「んー、説明するよりも向かったほうが早いというか‥‥‥うん、僕も飛ぼうか」

 忘れがちというか、ここ最近は思いっきり出番が無かったけれども、薬の生成を久しぶりに行う。

 せっかく神様からもらったチート能力でもあり、こういう機会に使うのが良いからね。しかもこれは、最初のころに作ったやつだけれども、それでも今もなお、直ぐに出すことが出来るもの。


「『変身薬』っと‥‥‥考えたら、最初からこれで飛んでいたほうが良かったかな?」

 今さらすぎるが、それでもいいか。この薬で鳥になって、翼を羽ばたかせて飛び立つ。

 忘れもしない場所でもあり、しっかりと今回の挙式によって伴う爵位に合わせて領地としても取り込み済みな場所である‥‥‥思い出の場所だからこそ、無くさないように手を回しているんだよね。










「‥‥‥飛ぶ速度も速くなっていたとはいえ、直ぐについたね」
「キュル‥あそこって、ここ?ここって‥‥‥私達が、初めてであった森だよね」
「そうだよ。ハクロに初めて出会った、森だよ」

‥‥‥残念ながら、正式名称は当の前に失われてしまっているとある森。

 もうちょっと前に正確に知っておきたかったのだけれども、この森の所有権うんぬんで調べて分かったが、名前が付くような森って有名な領地とかにあるからね‥‥‥ここ、全然有名じゃなかったからただの森という感覚で、名前が無かった。

 それでも、ここは大切な場所だろう。だって、僕らが初めて出会ったところなのだから。

 

 少しだけ奥へ入り込み、茂みをかき分けてみたが、流石に年月が経っていたせいか当時の様子はもうないけれども、はっきりと感覚的に分かる。

「ここで、ハクロと出会ったからなぁ‥‥‥最初は本当に、どうしてここで大きな蜘蛛が大怪我しているのか疑問に思ったものだよ」
「私も、当時疑問だった。何で、自分のいた場所が急に変わったのかなって。後々知ることが出来たけれども、昔は本当に謎だったよね」

 誰が想像できただろうか?遠く離れたダンジョンから、その仕掛けによってこの地に飛ばされるモンスターがいるという事を。

 あの怪我の真相は、彼女がかつていた群れを襲ったやつらがつけたものだということも判明したとはいえ、本当に当時は何であんな大怪我をしたのかが不思議だった。

 けれども、あの時確かに思ったのだ。何故か、見捨てることができず、助けたいと。


「‥‥‥それでついでに思い出したけれども、アルス、自分で自分を傷つけて、薬の効果見せたよね」
「ははは、あの時は見せないと伝えられないと思ったからね‥」

 ジト―っとした目で見られたけれども、本当にそうなんだよなぁ‥‥‥怪我だらけの彼女に説得するには、見せたほうが早かったのだ。

「でも、それで助けられたのも事実。結果としては良かったけれども、今の私だと、絶対にやらせたくないからね?アルス、怪我したら即癒す、いえ、癒す前に怪我をさせる原因、無くすの」
「それが今だと確実にできるよね」

 前者より後者の方が一番できるというか‥‥‥うん、そこは気にしたらダメだろう。

 でも、こうやって彼女と初めて出会った場所から、今こうやって挙式目前になっているとは、運命とは数奇なもので何が起きるのかわからない。

 本当に、あの大蜘蛛から天使へ変化するとはだれが想像できたか。神の寵愛も多分少々関わっていたのかもしれないけれども、何をどうやればこうなるのか今でも分からない。愛のなせる業とか言ってしまう人もいるかもしれないけれど、それだけで説明できるのか?



「何にしても、初めてであったここから、今日まで続いた‥‥‥か」

 もうそろそろ帰宅して寝付かないと、絶対に寝不足になる。
 
 なので帰ろうと思ったが、ふと月夜に照らされる彼女を見て‥‥‥一つ、やっておこうと思っていたことを思い出した。

「そう言えばハクロ、ちょっと良いかな?」
「キュル?何?」
「えっとね、僕らが婚約したというか、付き合いだしたのは互に勢いで告白したのがあるよね?でも、やっぱりきちんとした形でやっておきたくて‥‥‥」


 月明かりの元、そっと彼女の前に立って手を出してもらい、そっと重ねる。

「ハクロ、もう明日が挙式だけど、改めて言うよ。僕の‥‥‥妻に、なってください」

 
 ありきたりで、格好つけたようなことも、しゃれたものが言えない。

 けれども、シンプルなその一言に、ハクロは驚いたように目を丸くさせつつ、そして笑みを浮かべる。

「うん、私、アルスのお嫁さんに、妻になる。それがずっと私が、アルスに抱いていた思いで、大好きなアルスの側に、ずっといたい。お願いされるより、私がする方なの」

 空の月明かりや星空の明かりよりも、眩しい彼女の笑顔。

 キラキラしており、成長したけれどもそれでも失われることが無い純粋な想いが見えるようだ。



 明日の挙式に、この続きを取っておきつつ僕らは帰路に就く。

 その想いは互に同じだとしっかり理解しつつ、挙式後からも続く幸せな未来を思い描き合う。

 今はまだ二人だけの、月夜に照らされる二つの影。

 けれども、その影が将来的に増えると思いつつ、その時はもっと違った景色になっているかもしれないと、まだ見ぬ未来に期待も抱くのであった…‥‥

 
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