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第1章:幼少期~少年期前編

6話 知識を得るために

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「‥‥‥なるほど。何やら村が騒がしくなったと思えば、そういう事でしたか」

 起床し、朝食を取った後、エルたちは今、教会の神父の下に訪れていた。

 朝っぱらから村の方で、大人たちがハクロに関しての話し合いをしていたようでもあったが、幸いなことに彼女が危険そうでもないという事で、話は悪くはない方向へ向かっているらしい。
 そのためついでに、情報収集という事で教会に来たのであった。

 神父様に問いかけると、ちょっと待ちなさいと言われて、教会の奥の方からモンスターに関して記された書籍を持ってきて、中を開いて探し始める。
 そして少し捜したところで、すぐに情報が見つかった様だ。

「ここですね。アラクネ…ええ、間違いないでしょう。特徴としてはほぼ文献通りです」

 やはりというか、書物に記されていた情報を照らし合わせてみても、ハクロの種族は「アラクネ」で確定のようだ。

「こちらの『大集合!!全世界のモンスター図鑑 未完の巻』にありますね」
「未完の巻?完成とかじゃないんですか?」
「そうなんですよね。これは、とある2人組が命を、その生涯をかけて作りだそうとした本なのですが、惜しくも全世界を制覇できなかったので、わかっている分しか出来ていないんですよ」

 僕の質問に対して、神父様はどういう経緯で生み出されたのか、説明してくれた。
――――――
それはそれは大昔。
古代文明が一つ分ぐらいあるほどの時代に、とあるコンビを組んでいた二人組がいた。
毎日毎日、馬鹿みたいな騒ぎを起こしつつも人生を名一杯楽しんでいたのだが、そんなある時急に天啓を受けたと言って、モンスターに興味を持ったそうである。そして、いつかこの世界にいる全部のモンスターについて調べてみようと考え、残りの人生をすべて費やしてみる価値があると意気込み、有言実行を成し遂げようとしたのであった。

そして月日は流れ、その道中の最中で更に情報の正確性を高めることが出来るものを彼らは手に入れた。
古代文明の残した遺産のうち、「鑑定眼」というものを一人が手に入れ、もう一人は「模写眼」というものを、運命のようにモノにすることが出来たのだという。

それは名前が表す通り、鑑定してその種族などを事細かに理解できるものと、目にしたものをすべて模写することができるものであり、魔法でも同様のものがあるが、それ以上に詳しく軌跡を行う事が出来る代物であったようで、より詳しく記録していくことに成功したのであった。

そんな道具の後押しを得て、陸上、水中、空中などなど、人が何とか根性で辿りつけそうな最悪の環境の中でさえもめぐりまくり、一人がその詳細について記し、もう一人がその見た目を模写していった。

だがしかし、全世界のモンスター全てを記録しようとしていた彼らの夢は、残念ながら叶わなかった。
なぜならば、当時はまだモンスターについて詳細な事が分かっていなあったこともあり、彼等が入手していくモンスターについての詳細な情報は、軍事面にも有用そうだという部分での価値も見出されてしまったこともあり、彼等を自分たちの手許に置いて、その情報を利用しようと考えた輩たちがやらかしまくり、抗った結果夢半ばで討たれてしまったそうである。
―――――――

「とは言え、因果応報というべきか、そもそもそういう事を考えておらず、出てくる情報を楽しみにしていた人々の恨みを盛大に買うことになって、原因となった者たちは滅亡した。そしてついでに、せめて未完のままで終えさせずに、その情報をなんとかまとめていこうという事で、年々更新されるタイプで未完の巻という事を統一し、この書籍が出るようになったそうだよ。ああ、もしも著者たちが生きていたら、今頃はもっと情報があったかもしれないのに、もったいない事だったよ」
「それは確かに惜しかったですね」

 人の欲望というのは、どこの世界でも愚かなものを抱いてしまう者がいるのだろうか。そのせいで、得られなくなってしまった数々の情報があるというのは、多大な損失と言えるだろう。
 それでも、彼らの作り上げた記録を無駄にはするまいという事で、今でも年々新しいモンスターが確認されるたびに更新されて、少しでも完成に近づけようとしているらしい。

「内容、すごい細かい。これ、私の種族も、ちゃんとある」

 と、話していたら、いつの間にかハクロが先にその内容を読んでいた。
 そしてどうやら自分に関して書かれているところを見つけたようで、笑みを浮かべながら「アラクネ」と書かれたページを指さしながら見せて来た。

―――――
『アラクネ』
上半身が女性、下半身が蜘蛛なモンスター。ハーピーや人魚などと同じように、人に近い容姿の肉体を有することになったモンスターでもある。
基本的にアラクネはその蜘蛛部分の体色によって能力が異なっており、例としては紫色であれば猛毒を、白色であれば浄化や癒しの能力を有しているとされる。
人に近い見た目を有することもあってか、繁殖行動に人を利用することもあり、蜘蛛でいえば食指と呼ばれる部分で相手をがっちりと固定し、徹底的に搾り取るらしい。その様子は獰猛な捕食者であり、一度捕らわれればそう簡単に逃げ出せず、骨と皮になることもあるらしい。
とはいえ、全部が性的な意味で捕食を行うことはなく、基本的に友好的であるため敵対はされにくい。ただし、警戒心が非常に強く、めったに遭遇することはない。戦闘力はそこそこあり、また極稀に雄のアラクネが存在した例も確認されており、性別が偏っているわけでもない。
なお、蜘蛛型のモンスターから進化することが多いのだが、基本的にアラクネの人部分は非常に美しい女性なことが多い事もあって、その美しさを求めて蜘蛛狩りに行き帰ってこなくなった人も多い。。
―――――――

「ここにも、欲望の悲劇があるのですか」
「そのようだね。それにしても、イラストなどにあるけど、本物を見ると…ふむ、確かにこの美しさなら求めたくなる人々が出るのも無理はないだろう。我が身は聖職者ゆえに神にささげているが、そうでないならば交際を挑みたくなっただろう」

 確かにハクロは美しいし、ほかのアラクネも似たようなものであれば求めたい人はいるだろう。
 でも、アラクネはどうやら友好的とはいえ人に対しての警戒もしっかりあり、よこしまな考えを持つ人の前には姿を現しにくいらしい。でも、人を対象にした捕食もあるので、何処か矛盾しているような気がしなくもないのだが‥‥‥うーん、そのあたりは何か理由が存在しているのだろうか。

「というか…」
「ん?どうしたの、エル。私を見て」
「いや、なんでもないよ」

 ちょっと思ったことがあって見たのだが、別に気にするようなことはないとは思いたい。
 彼女が書籍にかかれているアラクネとは、どこか違うところがありそうな気がしたけど、色によって能力が違うなら、個性としてもだいぶ変わって来るとは思えるからね。
 でも、どこ行った彼女の警戒心。全く見当たらないんだが。本当に警戒心が強いのだろうか。

 とにもかくにも、この図鑑はまだまだ情報が集められている途中であり、書籍としては古い方に当たるらしい。
 新刊が出ていてもすぐに買い替えていることはないらしいので情報としてもちょっと古い部分があるそうだが、それでもハクロの種族に関して、多少は詳しくなれただろう。

「ああ、それと人のような容姿があっても力は人よりも上らしいからね。うっかりやって、骨を折られないように注意しておいたほうが良いよ」

 神父様はそう注意を言ってくれたけど‥‥‥うん、もう体験済みである。めぎぐしゃって潰れるところだったからなぁ‥‥ははは。




 少々トラウマになりそうな抱きしめ事件を思い出して黄昏そうにもなったが、ひとまず気を取り直す。
 情報を得たのは良いけど、今日はどうしようかなぁ‥
 村の他の子供たちはそれぞれの家の畑仕事を手伝ってはいるけど僕の家は特に畑なんてやっていないし、手伝おうにもまだ5歳児の身体じゃ辛いところがある。

「そうだ、森で木の実をたくさん取ろうか。ハクロ、その糸で袋を作って、木の実を入れて収穫できないかな?」
「うん、できるよ。それに、私の背中に大きな袋作って背負えば、沢山収穫できるよ!!」
 
 木の実などの森の幸は見つけやすかったが、それでも子供が持ってかえれる量には限りがある。
 だがしかし、ハクロという存在がいれば、協力し合って収穫し、相応の量を持って帰れるだろう。こういう時にいてくれる利点を生かせるのはいいかもしれない。


 そう思いつつ、森の中に入る前にサクッとハクロが素早く糸で袋を編み上げる。
 蜘蛛の部分から糸を放出してはいるが、指先からも出せる事を生かしてより細かい細工もできるようで、こぼれにくいようにきゅっとすぐに糸で閉められる仕掛けを作った大きな袋をあっと言う間に作り上げ、彼女の背中に括り付けた。

「よいしょっと。これで大量に、得られるね」
「じゃぁ、さっそく収穫開始だ!」

 
 二人で力を合わせれば、かなりの量を見込めるだろう。
 そして、意気揚々と森の中で収穫を行い‥‥‥

‥‥‥およそ約30分後、大きめに作ったはずの袋は、ぎっちりと詰まりまくり、零れ落ちそうなほどの寮にまで満杯になった。

「‥‥‥ノリ良すぎたかもしれない。思った以上に収穫出来ちゃったな」
「いや、これおかしいような‥‥‥エル、見つける才能、凄まじいのでは?普通、3~5個ぐらいがいいところなのに、何でエルと一緒だとこんなにも多く見つかるの?」
「さぁ?わからないよ」

 まぁ、とりあえず大量にゲットできたのはいいだろう。
 そう思うと、ちょっとだけ小腹が空いた。

「小腹が空いたし、一緒に食べようか。こぼれそうならちょっと減らしたほうが、良さそうだしね」
「そうしよう。私も食べて、量を減らしてちょっと楽にする」

 ちょっとは食べても問題がないほどの収穫量だったので、手ごろな木の実を取り出して、ハクロが糸で細かく木の実を切り裂き、皮をむいて一緒においしくいただくのであった。

「というか、その糸ってものを斬れるのか」
「圧縮して巻き付け、槍のようにしたり、木の枝があれば釣り糸にして釣りもできる。ちょっと前に、少々デカすぎる魚を釣り上げて、危く食べられかけたのは…‥‥うん、あれはあれで、トラウマかも‥‥‥」

 当時の事を思い出したのか、遠い目をしてそう語るハクロ。
 僕と出会うまでは一人放浪旅のような感じの暮らしだったらしいけど、その道中が波乱万丈そうで、ちょっと聞いてみたいなと思ったのであった。

 でも、スライム並みのトラウマっぽいな‥‥他にもありそうだけど、本当によく生き延びてきたよね。
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