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87 油断せずに丁寧にやればいいだけの話
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…‥‥丁寧に、一体ずつ、無理せずに怪物たちをディーたちは葬り去っていく。
集団で襲い掛かられる前に、まずは着実に消し飛ばしていくことで、安全を確保するためだ。
ルビーの火球をルナティアの風の矢で補い、カトレアとゼネの補助で動けなくし、ノインの一撃で絶命させていく。
とはいえ、全てが同じように対処できるわけではないので、相手によっては少々変更した。
全身100以上の目玉の怪物であれば、強烈な閃光を放つ光魔法をゼネが行って目くらましを。
異常に鼻が発達した怪物に対しては、強烈な悪臭を放つ毒草をカトレアが鼻の内部で直接開花を。
全身が金属のように固められた怪物に対しては、ルビーによって全力投擲されたリリスの箱の角を。
そして、何かと細かいものの集合体であった怪物に対しては、ノインの腕のガトリングを。
どれもこれも対処は異なるとは言え、各々の能力を生かして適切に攻撃し、丁寧に絶命させる。
そして捕らわれた人々を開腹して取り出しては、騒動が終わるまで起床されても面倒なことから、カトレアとゼネの協力の元、軽い仮死状態でリリスの中に入れて保管していく。
「‥‥‥だいぶ、減ったか?」
「そのようデス」
ふぅっとひと息をつきたくなる頃合いに、周囲を見渡してみると怪物たちの姿はほとんど消えていた。
残るはもう、指の数で数えるほどもなく、もうちょっとで全滅完了である。
「疲れたニャ‥‥‥でも、だいぶやれたようだニャ」
「うむ、幻術でごまかせておるし、不意打ちしやすくて楽じゃな」
ある程度周囲を把握して安全を確保したところで、一旦俺たちは休憩をすることにした。
何しろ、元々この国へ来たのは情報収集のため。
それなのに、なぜ怪物退治を行っているのかと言えば、放置すれば不味い事態になると判断したからだ。
‥‥‥まぁ、現状、どの怪物たちも完全ではないゆえか戦いやすく、楽に潰せるけれども、消し去ったところで解決するわけではない。
「で、いっそのこと、元々の事件の発端ともいえるここに来たわけだけど…‥‥」
「‥‥‥あれ、絶対に怪しすぎるニャ」
フルー森林国、適正学園。
怪物前に起きていた誘拐騒ぎの地が怪しいかなと思い、ルナティアの案内の元辿り着いたわけだが‥‥‥
みょ~んみょ~んみょ~んみょ~ん
「‥‥‥音響空間把握センサー、反応ありデス。この先に、間違いなく大きな空間があると思われマス」
「その妙に気の抜ける音、どうにかならないのか?」
一見、学園そのものは国の特色があるせいか、あちこちに木々が壁から生えている以外は、特に変わりない。
だがしかし、その学園の校庭に、何やら大きな穴が空いていたのだ。
しかも、無数の足跡がその穴から出入りした形跡があり、どう考えても一番怪しい場所と化していた。
「先に空間‥‥となると、ルナティアが閉じ込められていたという、最初の地下の方かのぅ?」
「あるいは、その経由するための地点というべきか‥‥‥まぁ、地上を捜して見当たらないなら、地下の方が怪しいからおかしくもないか」
しゃこんっとノインが腕を変形してセンサーを収納する傍ら、俺たちはその穴について話し合う。
おそらくは、学園を襲撃したという怪物たちはここから出てきており、生徒たちを連れこんだのであろう。
「即席で掘られているようですが、それなりに通路として扱うために強度は問題ないでしょウ」
「崩落の危険は無いか」
この穴の先に、おそらく今回の怪物騒動を引き起こした元凶がいるだろう。
いなかったのであれば、まだちょっと残っている怪物に捕食されてしまっている可能性もあるが‥‥‥探った方が良いな。
「それじゃ、確かめてみよう」
そう口にし、俺たちは穴の中へ入ってみるのであった‥‥‥。
…‥‥奥へ進み、数十分ほど。
思いのほか、この穴は深くまで掘られているようで、突貫工事の形跡もあるとは言え、良く出来ていた。
怪物たちの中にモグラのようなものとかいたんじゃないかなと推測しつつ、先へ進むほど周囲が暗くなってくる。
「『ライトボール』っと。これで十分大丈夫じゃろ」
「アイライト、起動しマス」
ゼネが光の球を魔法で生み出し、ノインの目が光って、互に周囲と前方を照らす。
十分に明りを確保できるが‥‥‥それでも、どことなくこの通路の不気味さを感じさせる。
「というか、すごい長い、深い、暗いの3拍子が付くな…‥‥」
「学園の校庭に、こんなものがあるって話もなかったし‥‥‥誰が掘ったのだろうかニャ?」
前後から怪物が来る可能性も考慮し、警戒しながら進むがその気配はない。
その代わりに、ココが発生源だというように、通路の土がむき出しの床を見れば、大量の足跡がある。
みょ~んみょ~んみょ~んみょ~ん
「もう少し先に、大きな空間の反応がありマス。この通路はそこで途切れるでしょウ」
「だからもうちょっとどうにかならないかな、その気の抜ける音」
再度センサーを出し、ノインがそう口にするが、その音に俺達は気が抜けそうになる。
なんというか、雰囲気に合わないというか、わざとそうしているのか…‥‥
そうこうしているうちに、ノインの言った通り通路はそこで途切れ、大きな空間へ俺たちは出た。
「‥‥‥ここ、あたしが入れられた地下牢だニャ」
ルナティアがそう口にし、その先を指さす。
見れば、地下牢が多くあったが‥‥‥どうも様子がおかしい。
「全部、外側から破壊された跡があるんだけど」
「怪物が暴れたのでしょうカ?」
どの部屋にも人気は無く、暴れた形跡もある。
おそらくは、この先で怪物にする部屋があったが、そこからどういう訳か怪物が脱走し、収容されていた者たちを襲ったのであろう。
もしかすると、全員が怪物にされたわけではなかったのかもしれない。
原動力を求める怪物が、その力を増すためにわざわざむさぼり喰ったのかもしれないな。
「ん?」
考えつつ、先へ進むと何かが見えてきた。
「‥‥‥何だ、この滅茶苦茶頑強そうな扉は?」
「道中の扉に、あたしが怪物にされた記憶のある部屋があったけど、これは違うニャ」
奥の方まで進んでみれば、そこにはとてつもなく大きく、頑丈そうな扉があった。
表面に引っかき傷などもあるが‥‥‥突破された様子はない。
ピンッ!
「ふむ、内部に生命反応…‥‥人がいマス」
ノインのアホ毛が立ち、内部の人を探り当てる。
おそらくは、そこに入る奴が騒動の黒幕なのかもしれない。
この場所が荒らされまくっているが、おそらくは怪物が制御できず、逃げ込んだのがここなのかもしれない。
「でも、どうやって開ける?」
「溶接‥‥‥は無理ですネ。防火されてマス」
「どれどれでござるっと」
ごうっとルビーが火を吐いてみると、扉はまったく融けなかった。
本当に火に強くされているようで、溶かしてはいることはできないようだ。
「この奥に、やらかした人がいるかもしれないけど‥‥‥どうやってはいるニャ?」
「むぅ、魔法でもちょっと無理かもしれないのぅ。怪物たちが暴れる想定をしておるのであれば、それなりの対策もしているはずじゃ」
「木の根もダメですわね。部屋全体に強固な壁があるようですわ」
周囲から入る事もできなさそうだが…‥‥ここはいっその事、原始的で暴力的な方法でやってみるべきか。
「リリス、お前の強度ってこの扉に勝てるか?」
「グゲェ?グゲグゲェ…‥‥グ!」
いけるよ!と言いたげにびしっと指を立て、そう答えるリリス。
硬い扉であれば、それ以上の硬さのもので無理やり開ければ良いだけの話だ。
「でも、この先に脱出経路があって、そこから逃げてしまった可能性はないですの?」
「無いようデス。そもそも、単なる避難場所のようですからネ」
中にいるのは間違いないし、逃げる事もできないだろう。
後は、ココを強行突破すればいいのだ。
「それじゃ、カトレア。リリスに蔓を巻き付けてくれ。そしてルビー、全力でぶん回して当てまくれ」
「了解ですわ」
「グ!」
「了解でござる!」
暴力的ではあるが、手っ取り早い。
しゅるしゅるっと箱のふたを閉じたリリスにカトレアの蔓が巻き付き、切除。
その切れた先をルビーが持ち、ぶんぶんと振り回し始める。
「それじゃ、いくでござるよ!!」
ごうっ!!っと遠心力で加速した箱が、強烈な勢いで扉に叩きつけられる。
ガァァァァァン!!バキィッツ!!
まずは一撃で、扉にひびが入った。
そして連続で当てていく。
ガァン!バギ!!ガガガァン!!バッギバッギィン!!
ゴッギィィン!!メギメギョゥ!!
ドッゴォォンバッガァァァァァン!!
数回ほど当てたところで、あっさり扉は崩壊した。
そしてリリスの方を見れば、箱には全く傷ひとつついておらず、その強度を改めて実感させられる。
「さてと、中に入り込むか」
扉を乱暴にぶち壊した後は、破片をちょっとどけ、俺たちは内部へ入り込んだ。
「ひぃぃぃぃぃ!!」
中へ入り込むと同時に、何やら奇妙な悲鳴が聞こえてきた。
開けた場所から逃げられないようにカトレアが素早く蔓で覆い隠しつつ、先へ進むと、そこは奇妙な部屋になっていた。
「‥‥‥何だこりゃ」
壁一面には、びっしりと透明な容器があり、内部には不気味な色合いをした液体と何かの個体が浮いている。
そしてその壁から目を移せば、そこには誰かが腰を抜かしていた。
見た感じ、どこにでもいそうな、変哲の無い、不健康そうな油ギッシュなおっさんだが‥‥‥
「な、なんだお前たちは!!どうやってあの扉を破って入ってきた!!」
「それはこっちのセリフなんだけど」
まずお前が何だと、問いかけたい。
というか、何故あってすぐに恐怖しているんだ、このおっさん。
「ふむ…‥‥コレは、何かの実験室でしょうカ」
おっさんが腰を抜かして動けない間に、いつの間にかノインがその辺にあった書類を手に取って、目を通していた。
「なっ!!さ、さ、触るな下賤な者ども!!ここにあるのは偉大なる実験のためのもので」
「うっさいのぅ、眠れ」
ゴッス!!
「ぐぴぃ!?」
魔法で、いや、杖で物理的に後頭部をゼネが強打して、おっさんは撃沈した。
「眠りの魔法とか、あったよな?」
「なんとなくじゃ」
ぴくぴくと痙攣するおっさんを、念のため蔓で拘束しつつ、周囲を俺たちは見渡した。
どうもここは研究室にもなっているようで、薬品棚や難しそうな本が所狭しと置かれてもいる。
「‥‥‥なるほど、その人はここの研究員のようですネ」
と、いつの間にか把握し切ったのか、ノインがぱたりとその辺にあった本を閉じて、そう口にした。
「どうやらここは、ある目的を持った実験場の一つのようデス」
「一つの?」
「ええ、その他にも様々なモノがあるようですが‥‥‥ここは主に、肉関係のものだったようデス」
「どういう事でござるか?」
理解したらしいノインの説明を、俺たちは聞き始める。
ここにあった資料などを読み解くと、どうやらどこかの組織が持つ、研究室の一つらしい。
しかも、この規模レベルでまだ小さいようで、大元に関しては場所は不明だが、途轍もないサイズだという記録ぐらいならあったらしい。
「目的に関しては、詳細不明。ですが、資料によればその目的に対して実行できる一つの手段、人造の怪物を精製する工場のようなものでもあったようデス」
「怪物精製工場‥‥‥最悪だろ」
研究され、できるだけ強い怪物を作るようにという実験も兼ねて、ここは稼働していたらしい。
生徒たちを最初はゆっくりと誘拐し、徐々にそのペースを速め、一気に攫ったのが、ルナティアに起きた襲撃事件の一つ。
だがしかし、どうもその謎の組織とやら一枚岩ではなかったようで…‥‥
「野心持つ馬鹿が、ついうっかりを装って、事件を起こしてどさくさに紛れ、実験データを奪おうとしたようデス。データを元に、自分で独自の研究を行う予定だったようですが‥‥‥」
「装うどころか、おもいっきりやらかしたと」
「エエ。日記がありますが‥‥‥その馬鹿、そちらで倒れている人のようデス」
倒れたおっさんは、どうもその組織の一員だったようだが、野心溢れていたらしい。
実験を重ねていく間に積み重ねたデータを懐に入れ、ある程度貯まったので、どさくさに紛れて逃げようとわざと事故を起こしたらしいが‥‥‥怪物が思いのほか制御不可能すぎて、慌ててここへ逃げ込んだそうである。
しかも、怪物が外へ出てしまい、逃げるにも逃げられず、仕方がなくここに閉じこもって籠城していたようなのだ。
つまり、このおっさんが余計な事をしなければここの発覚は遅れたが、そのおかげでここが見つけられたのだろう。
何にしても、その組織とやらの詳細はもう少し調べないといけないが‥‥‥今はこの程度で十分そうだ。
ただ、規模的に自爆装置などもありそうなので、俺たちは手当たり次第にその辺にある資料をかき集め、奪うことにした。
放置してもろくなことにならないし、残しておくわけにもいかないだろう。
ほぼ部屋が空っぽになったところで、実験室の再利用を防ぐために自爆スイッチとやらを俺たちは押し、素早く脱出する。
地上に出て数分ほどで大きな爆音が聞こえ、穴からもうもうと黒煙が立ち昇るのであった‥‥‥
「さて、後は国へ帰って報告するだけか」
「詳細が分かれば、どの様な組織なのか分かりますシネ」
「ところで、一つ良いかニャ?」
「どうした?」
「中の人、どうするのニャ…?」
「「「「「あ」」」」」
‥‥‥リリスを指さして、そう口にしたルナティアに、俺たちは思い出した。
ちょっと忘れかけていたが、怪物から取り出した人たち、収納したままであった。
うん、まぁ、あれだ。国へ戻って王城の方に出して、国任せにするべきだ。
全部出来るわけでもないし…‥‥情報を集めて帰ればいいだけだからね。面倒事は押し付けよう。
後日、調べる人たちが全員数の多さにぶっ倒れ、有給申請が殺到したらしいが‥‥‥知った事ではない。
集団で襲い掛かられる前に、まずは着実に消し飛ばしていくことで、安全を確保するためだ。
ルビーの火球をルナティアの風の矢で補い、カトレアとゼネの補助で動けなくし、ノインの一撃で絶命させていく。
とはいえ、全てが同じように対処できるわけではないので、相手によっては少々変更した。
全身100以上の目玉の怪物であれば、強烈な閃光を放つ光魔法をゼネが行って目くらましを。
異常に鼻が発達した怪物に対しては、強烈な悪臭を放つ毒草をカトレアが鼻の内部で直接開花を。
全身が金属のように固められた怪物に対しては、ルビーによって全力投擲されたリリスの箱の角を。
そして、何かと細かいものの集合体であった怪物に対しては、ノインの腕のガトリングを。
どれもこれも対処は異なるとは言え、各々の能力を生かして適切に攻撃し、丁寧に絶命させる。
そして捕らわれた人々を開腹して取り出しては、騒動が終わるまで起床されても面倒なことから、カトレアとゼネの協力の元、軽い仮死状態でリリスの中に入れて保管していく。
「‥‥‥だいぶ、減ったか?」
「そのようデス」
ふぅっとひと息をつきたくなる頃合いに、周囲を見渡してみると怪物たちの姿はほとんど消えていた。
残るはもう、指の数で数えるほどもなく、もうちょっとで全滅完了である。
「疲れたニャ‥‥‥でも、だいぶやれたようだニャ」
「うむ、幻術でごまかせておるし、不意打ちしやすくて楽じゃな」
ある程度周囲を把握して安全を確保したところで、一旦俺たちは休憩をすることにした。
何しろ、元々この国へ来たのは情報収集のため。
それなのに、なぜ怪物退治を行っているのかと言えば、放置すれば不味い事態になると判断したからだ。
‥‥‥まぁ、現状、どの怪物たちも完全ではないゆえか戦いやすく、楽に潰せるけれども、消し去ったところで解決するわけではない。
「で、いっそのこと、元々の事件の発端ともいえるここに来たわけだけど…‥‥」
「‥‥‥あれ、絶対に怪しすぎるニャ」
フルー森林国、適正学園。
怪物前に起きていた誘拐騒ぎの地が怪しいかなと思い、ルナティアの案内の元辿り着いたわけだが‥‥‥
みょ~んみょ~んみょ~んみょ~ん
「‥‥‥音響空間把握センサー、反応ありデス。この先に、間違いなく大きな空間があると思われマス」
「その妙に気の抜ける音、どうにかならないのか?」
一見、学園そのものは国の特色があるせいか、あちこちに木々が壁から生えている以外は、特に変わりない。
だがしかし、その学園の校庭に、何やら大きな穴が空いていたのだ。
しかも、無数の足跡がその穴から出入りした形跡があり、どう考えても一番怪しい場所と化していた。
「先に空間‥‥となると、ルナティアが閉じ込められていたという、最初の地下の方かのぅ?」
「あるいは、その経由するための地点というべきか‥‥‥まぁ、地上を捜して見当たらないなら、地下の方が怪しいからおかしくもないか」
しゃこんっとノインが腕を変形してセンサーを収納する傍ら、俺たちはその穴について話し合う。
おそらくは、学園を襲撃したという怪物たちはここから出てきており、生徒たちを連れこんだのであろう。
「即席で掘られているようですが、それなりに通路として扱うために強度は問題ないでしょウ」
「崩落の危険は無いか」
この穴の先に、おそらく今回の怪物騒動を引き起こした元凶がいるだろう。
いなかったのであれば、まだちょっと残っている怪物に捕食されてしまっている可能性もあるが‥‥‥探った方が良いな。
「それじゃ、確かめてみよう」
そう口にし、俺たちは穴の中へ入ってみるのであった‥‥‥。
…‥‥奥へ進み、数十分ほど。
思いのほか、この穴は深くまで掘られているようで、突貫工事の形跡もあるとは言え、良く出来ていた。
怪物たちの中にモグラのようなものとかいたんじゃないかなと推測しつつ、先へ進むほど周囲が暗くなってくる。
「『ライトボール』っと。これで十分大丈夫じゃろ」
「アイライト、起動しマス」
ゼネが光の球を魔法で生み出し、ノインの目が光って、互に周囲と前方を照らす。
十分に明りを確保できるが‥‥‥それでも、どことなくこの通路の不気味さを感じさせる。
「というか、すごい長い、深い、暗いの3拍子が付くな…‥‥」
「学園の校庭に、こんなものがあるって話もなかったし‥‥‥誰が掘ったのだろうかニャ?」
前後から怪物が来る可能性も考慮し、警戒しながら進むがその気配はない。
その代わりに、ココが発生源だというように、通路の土がむき出しの床を見れば、大量の足跡がある。
みょ~んみょ~んみょ~んみょ~ん
「もう少し先に、大きな空間の反応がありマス。この通路はそこで途切れるでしょウ」
「だからもうちょっとどうにかならないかな、その気の抜ける音」
再度センサーを出し、ノインがそう口にするが、その音に俺達は気が抜けそうになる。
なんというか、雰囲気に合わないというか、わざとそうしているのか…‥‥
そうこうしているうちに、ノインの言った通り通路はそこで途切れ、大きな空間へ俺たちは出た。
「‥‥‥ここ、あたしが入れられた地下牢だニャ」
ルナティアがそう口にし、その先を指さす。
見れば、地下牢が多くあったが‥‥‥どうも様子がおかしい。
「全部、外側から破壊された跡があるんだけど」
「怪物が暴れたのでしょうカ?」
どの部屋にも人気は無く、暴れた形跡もある。
おそらくは、この先で怪物にする部屋があったが、そこからどういう訳か怪物が脱走し、収容されていた者たちを襲ったのであろう。
もしかすると、全員が怪物にされたわけではなかったのかもしれない。
原動力を求める怪物が、その力を増すためにわざわざむさぼり喰ったのかもしれないな。
「ん?」
考えつつ、先へ進むと何かが見えてきた。
「‥‥‥何だ、この滅茶苦茶頑強そうな扉は?」
「道中の扉に、あたしが怪物にされた記憶のある部屋があったけど、これは違うニャ」
奥の方まで進んでみれば、そこにはとてつもなく大きく、頑丈そうな扉があった。
表面に引っかき傷などもあるが‥‥‥突破された様子はない。
ピンッ!
「ふむ、内部に生命反応…‥‥人がいマス」
ノインのアホ毛が立ち、内部の人を探り当てる。
おそらくは、そこに入る奴が騒動の黒幕なのかもしれない。
この場所が荒らされまくっているが、おそらくは怪物が制御できず、逃げ込んだのがここなのかもしれない。
「でも、どうやって開ける?」
「溶接‥‥‥は無理ですネ。防火されてマス」
「どれどれでござるっと」
ごうっとルビーが火を吐いてみると、扉はまったく融けなかった。
本当に火に強くされているようで、溶かしてはいることはできないようだ。
「この奥に、やらかした人がいるかもしれないけど‥‥‥どうやってはいるニャ?」
「むぅ、魔法でもちょっと無理かもしれないのぅ。怪物たちが暴れる想定をしておるのであれば、それなりの対策もしているはずじゃ」
「木の根もダメですわね。部屋全体に強固な壁があるようですわ」
周囲から入る事もできなさそうだが…‥‥ここはいっその事、原始的で暴力的な方法でやってみるべきか。
「リリス、お前の強度ってこの扉に勝てるか?」
「グゲェ?グゲグゲェ…‥‥グ!」
いけるよ!と言いたげにびしっと指を立て、そう答えるリリス。
硬い扉であれば、それ以上の硬さのもので無理やり開ければ良いだけの話だ。
「でも、この先に脱出経路があって、そこから逃げてしまった可能性はないですの?」
「無いようデス。そもそも、単なる避難場所のようですからネ」
中にいるのは間違いないし、逃げる事もできないだろう。
後は、ココを強行突破すればいいのだ。
「それじゃ、カトレア。リリスに蔓を巻き付けてくれ。そしてルビー、全力でぶん回して当てまくれ」
「了解ですわ」
「グ!」
「了解でござる!」
暴力的ではあるが、手っ取り早い。
しゅるしゅるっと箱のふたを閉じたリリスにカトレアの蔓が巻き付き、切除。
その切れた先をルビーが持ち、ぶんぶんと振り回し始める。
「それじゃ、いくでござるよ!!」
ごうっ!!っと遠心力で加速した箱が、強烈な勢いで扉に叩きつけられる。
ガァァァァァン!!バキィッツ!!
まずは一撃で、扉にひびが入った。
そして連続で当てていく。
ガァン!バギ!!ガガガァン!!バッギバッギィン!!
ゴッギィィン!!メギメギョゥ!!
ドッゴォォンバッガァァァァァン!!
数回ほど当てたところで、あっさり扉は崩壊した。
そしてリリスの方を見れば、箱には全く傷ひとつついておらず、その強度を改めて実感させられる。
「さてと、中に入り込むか」
扉を乱暴にぶち壊した後は、破片をちょっとどけ、俺たちは内部へ入り込んだ。
「ひぃぃぃぃぃ!!」
中へ入り込むと同時に、何やら奇妙な悲鳴が聞こえてきた。
開けた場所から逃げられないようにカトレアが素早く蔓で覆い隠しつつ、先へ進むと、そこは奇妙な部屋になっていた。
「‥‥‥何だこりゃ」
壁一面には、びっしりと透明な容器があり、内部には不気味な色合いをした液体と何かの個体が浮いている。
そしてその壁から目を移せば、そこには誰かが腰を抜かしていた。
見た感じ、どこにでもいそうな、変哲の無い、不健康そうな油ギッシュなおっさんだが‥‥‥
「な、なんだお前たちは!!どうやってあの扉を破って入ってきた!!」
「それはこっちのセリフなんだけど」
まずお前が何だと、問いかけたい。
というか、何故あってすぐに恐怖しているんだ、このおっさん。
「ふむ…‥‥コレは、何かの実験室でしょうカ」
おっさんが腰を抜かして動けない間に、いつの間にかノインがその辺にあった書類を手に取って、目を通していた。
「なっ!!さ、さ、触るな下賤な者ども!!ここにあるのは偉大なる実験のためのもので」
「うっさいのぅ、眠れ」
ゴッス!!
「ぐぴぃ!?」
魔法で、いや、杖で物理的に後頭部をゼネが強打して、おっさんは撃沈した。
「眠りの魔法とか、あったよな?」
「なんとなくじゃ」
ぴくぴくと痙攣するおっさんを、念のため蔓で拘束しつつ、周囲を俺たちは見渡した。
どうもここは研究室にもなっているようで、薬品棚や難しそうな本が所狭しと置かれてもいる。
「‥‥‥なるほど、その人はここの研究員のようですネ」
と、いつの間にか把握し切ったのか、ノインがぱたりとその辺にあった本を閉じて、そう口にした。
「どうやらここは、ある目的を持った実験場の一つのようデス」
「一つの?」
「ええ、その他にも様々なモノがあるようですが‥‥‥ここは主に、肉関係のものだったようデス」
「どういう事でござるか?」
理解したらしいノインの説明を、俺たちは聞き始める。
ここにあった資料などを読み解くと、どうやらどこかの組織が持つ、研究室の一つらしい。
しかも、この規模レベルでまだ小さいようで、大元に関しては場所は不明だが、途轍もないサイズだという記録ぐらいならあったらしい。
「目的に関しては、詳細不明。ですが、資料によればその目的に対して実行できる一つの手段、人造の怪物を精製する工場のようなものでもあったようデス」
「怪物精製工場‥‥‥最悪だろ」
研究され、できるだけ強い怪物を作るようにという実験も兼ねて、ここは稼働していたらしい。
生徒たちを最初はゆっくりと誘拐し、徐々にそのペースを速め、一気に攫ったのが、ルナティアに起きた襲撃事件の一つ。
だがしかし、どうもその謎の組織とやら一枚岩ではなかったようで…‥‥
「野心持つ馬鹿が、ついうっかりを装って、事件を起こしてどさくさに紛れ、実験データを奪おうとしたようデス。データを元に、自分で独自の研究を行う予定だったようですが‥‥‥」
「装うどころか、おもいっきりやらかしたと」
「エエ。日記がありますが‥‥‥その馬鹿、そちらで倒れている人のようデス」
倒れたおっさんは、どうもその組織の一員だったようだが、野心溢れていたらしい。
実験を重ねていく間に積み重ねたデータを懐に入れ、ある程度貯まったので、どさくさに紛れて逃げようとわざと事故を起こしたらしいが‥‥‥怪物が思いのほか制御不可能すぎて、慌ててここへ逃げ込んだそうである。
しかも、怪物が外へ出てしまい、逃げるにも逃げられず、仕方がなくここに閉じこもって籠城していたようなのだ。
つまり、このおっさんが余計な事をしなければここの発覚は遅れたが、そのおかげでここが見つけられたのだろう。
何にしても、その組織とやらの詳細はもう少し調べないといけないが‥‥‥今はこの程度で十分そうだ。
ただ、規模的に自爆装置などもありそうなので、俺たちは手当たり次第にその辺にある資料をかき集め、奪うことにした。
放置してもろくなことにならないし、残しておくわけにもいかないだろう。
ほぼ部屋が空っぽになったところで、実験室の再利用を防ぐために自爆スイッチとやらを俺たちは押し、素早く脱出する。
地上に出て数分ほどで大きな爆音が聞こえ、穴からもうもうと黒煙が立ち昇るのであった‥‥‥
「さて、後は国へ帰って報告するだけか」
「詳細が分かれば、どの様な組織なのか分かりますシネ」
「ところで、一つ良いかニャ?」
「どうした?」
「中の人、どうするのニャ…?」
「「「「「あ」」」」」
‥‥‥リリスを指さして、そう口にしたルナティアに、俺たちは思い出した。
ちょっと忘れかけていたが、怪物から取り出した人たち、収納したままであった。
うん、まぁ、あれだ。国へ戻って王城の方に出して、国任せにするべきだ。
全部出来るわけでもないし…‥‥情報を集めて帰ればいいだけだからね。面倒事は押し付けよう。
後日、調べる人たちが全員数の多さにぶっ倒れ、有給申請が殺到したらしいが‥‥‥知った事ではない。
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