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155 消えるのであれば良い事もあって

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…‥‥学園祭から2週間ほど。

 流石にこれだけの時間が経過すれば、自然と気力が回復し、燃え尽き症候群からほぼ全員が脱却し、授業にまじめに取り組んでいる。

 後学期でもあるし、時期的にはそろそろ来年度の学期に関しても考え始める頃合いである。

 新入生である一年のうちには、まずは自身の職業について徹底的に学び、二年度からはその職業をどう活かすのか考え、その活かす先に合わせた教育を受けるようにしていく。

 初めて職業を顕現させてから半年以上経過し始めるので、この頃合いになると把握し、その活かす先についての話題が出始めるはず‥‥‥であった。





「‥‥‥『怪盗ボルセーヌゥ』?なんだ、その語感がちょっと悪そうな名前は?」
「何でも今、噂になっていることのようだぞ」

 昼食時、学園の食堂にてバルンやルナティアと共に昼食を食べながら話をして盛り上がっている中、ふとその話題が上がって来た。

「ああ、なんか聞いたニャ。最近現れた、謎の盗賊とも言われているのニャ」
「盗賊と怪盗だと結構違うような…‥‥いや、盗人な面では同じか」
「その話し、最近結構出ているようデス。被害に遭っているのは、ほとんどが貴族らしいですヨ」

 話題に混ざりつつ、ゼネがその詳しい噂について既に調べていたようで、その話を俺たちは聞いた。

 なんでもつい1週間ぐらい前から突如として現れた存在らしく、貴族のみをターゲットに窃盗を行っているらしい。

 盗みに入る前には必ず予告状が出されており、それに対応するために人員を配備したところで、物理的に全て撃退され、被害が大きくなっているのだとか。

「物理的に?」
「頭を使って盗み出すとかではなく、正面突破の…‥‥まぁ、早い話が強盗デス」
「怪盗と全然違うんだが」

 強盗と怪盗では意味合いが違うが、それでも予告状を出す点や、きちんと盗みに来るところ、あと言葉にしたら怪盗の方がまだ話題に挙がりやすいので、今はそれで呼ばれているそうだ。良いのかそれで。

「連続押し込み強盗事件というよりも、怪盗による盗難とかの方が、話題になりそうか…‥‥」
「その事に関しても、結構被害が出ているようだよ」

 っと、ちょうどグラディも話に混ざって来たので、一緒に話すことにした。なおゼノバースの方はここにはおらず、こちらはこちらで別の友人たちと話しているらしい。

「なんでも、被害に遭った貴族家は、どこもかしこもある程度蓄えていたらしいからねぇ…‥‥これで強欲な悪徳貴族家に押し入っていたならば義賊扱いだったかもしれないけど、領民に慕われるような善良な貴族家にも押し入って被害を出している時点で、かなりアウトなんだよね」
「問答無用というか、無差別的だな…‥‥」
「神聖国でも、昔は似たような話があったのぅ…‥‥まぁ、盗む対象が聖女生前の儂で、妹たちが過激に滅亡させておったが」

…‥‥盗む対象、誤ってないか、その神聖国に出たことがある怪盗とやら。

 その末路は悲惨なものだったらしいが…‥‥うん、まぁ聞かなかったことにしよう。絶対にろくでもない末路を辿った、いや、強制的に逝かされたとしか思えないからな。


 とにもかくにも、今はその話題が結構出ているようであり、次に狙われる貴族家はどこなのかと賭け事にまでなっているようだ。

 
「なんというか、迷惑過ぎるな。仮面の組織とかもあるのに、今度は怪盗とは…‥‥」
「他人事でもないからね。王家を狙わないとも限らないし…‥‥貴族家を狙うなら、ディー君も例外じゃないかもしれないよ?」

 言われてみればそうである。

 城伯も貴族の位だし、対象となってもおかしくはないのだが…‥‥‥

「…‥‥盗まれるほどの財宝とかはないんだが」
「あってもリリスの中や、私のポケットの中ですし、盗難は無理デス」

 名前だけに近いというか、領地を持たない貴族になっているんだよなぁ…‥‥そう言うお宝とかは保管しているわけでもないのである。

 まぁ、報奨金とかはあるけど、流石にこちらも金融機関の方に預けているし…‥‥実家への仕送りに当てているし、特に盗まれるような類はない。

「しいて言うのであれば、リリスの宝石生成で作った宝石ぐらいか?」
「時間経過で消えますけれどネ」

 そう考えると、特に盗まれるようなものなんぞ持っているわけがなかったのであった。










…‥‥ディーたちが食堂で話している丁度その頃。

 とある貴族家の隠し部屋にて、その者はその光景を見て満足していた。

「ふふふふ‥‥‥これだけの金銀財宝、その他芸術的な宝とかに囲まれると、色々と気分が良くなるな」

 お宝の一つである高級な酒をグラスに注ぎ、満足げにつぶやきながら飲み干していく。

「さてさてさて、これだけため込みつつも、やはりもっとだ、もっとなければいけない!!」

 集めに集めるも、まだまだその欲望が満足することはない。

 ここが例え満杯になったとしても、また新しい部屋を作り、そこに運び入れていくだけだろう。

「まだ増やし足りない!!もっとも別の場所からどんどん金をとっていきたい!!他に金のありそうなものがいないか、お前の鼻で分からないか!!」


 ぐるっと勢いよく振り返り、同室の者にそう問いかける。

 すると、相手は巨大すぎる鼻を動かし、びしっと指を立てた。

「ほぅ?まだまだとれそうな相手はいるか‥‥‥‥ならばよりその相手から盗ってしまえ!!ああ、もちろん証拠を残さないようにしつつ、捕まってもここを吐くなよ?拾ってやったのはこのわたしだからな。ああ、そうだ。せっかくだから盗むのであれば、今度は頑丈そうな金庫か、あるいは装飾豊かな宝箱あたりでもいいかもしれぬな。集めるからには、よりきれいに飾った方が良いかもしれぬ」

 そのリクエストを投げかけると、その鼻を動かし、その者は退出していく。

 もはや彼らにとってはおなじみの光景であり、また成功して要求通りのものを盗ってくるのが確信できた。
 
「くくく…‥‥くはははは!!あの者であれば、まだまだ成功するだろう!!誰の忘れ物、いや、忘れ者なのかは分からぬが、従順なうえに何もかもこなすとは、良い拾い者をしたものだ!!」

 退出した者を見送ったのち、こみ上げる愉悦感や成功を確信し、笑いが噴き出てくる。



‥‥‥一度の拾いものによって、その者は歪んだ。

 だが、元からその本性はあったらしく、遅かれそうかれ執着する亡者のような者になっていたのは間違いないだろう。

 そしてその拾われた者もすでに歪んではいるが、何もその要求に疑問に思うようなことはない。

 ただ単純に、その拾い主に対して従順であるがゆえに。

 その思考は既に壊れており、言う事を聞くだけのモノへなり果てているがゆえに。

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