私はあなたの魔剣デス ~いや、剣じゃないよね、どう見ても違うよね?~

志位斗 茂家波

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2章 吹く風既に、台風の目に

2-32 こぼすものは、何故大きく

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 3泊4日の日程の『魔獣討伐試験:海の部』ではあったが、最終日は自由時間がほぼすべての予定を占めていた。

 何かと魔獣たちが襲ってきたり、終えたところで勉学の山が待ち受けてきたりと色々あったが、こうやって最終日を無事に迎えられたのは嬉しく思えるだろう。

「というか、結局泳がずに水上走行を会得してよかったのだろうか…‥?」
「まぁ、これはこれで結果オーライと言う事デス」

 ずだだだだっと水上を駆け抜けつつ、思わずつぶやけばゼナが並走しながら答える。

 泳げない彼女なりのやりかたを生み出してしまったとはいえ、色々と何かを間違えてしまった気がしなくもない。そして俺自身もコツをつかんでしまったのか水上を駆け抜けられるようになったが、ツッコミを自分自身に入れるのは馬鹿らしいのでやめていた。

‥‥‥いや本当に、何で水上を走行できちゃったんだろうなぁ。瞬歩での足の動きを応用したら、こうなるとは誰が想像できただろうか。

 

 
 けれども、流石に連続走行は体力的に長時間持つわけではないので、ソードウイングモードかスクリューソードモードを選んで戻ろうかと思いつつ、できるところまで行ってみようかなと思う気にもなる。

「いや、普通に泳ぐべきか…‥‥海なのに泳がずに魔剣で走破するのはおかしいか」
「こうやって海上走行している時点で今さらだと思うのデス」

 いつもツッコミを入れたい相手に、ツッコミを入れられた。

 何にしても、こうやって走破していると何も考えなくていいような時間にもなっており、何となく気が楽になっているような感じもある。昨晩のゼナから聞いた、青薔薇姫の話から今は亡き顔も見ぬ母について考えたせいで、ちょっとだけ心が寂しく思っているのもあるのだろう。

 だからこそ、こうやって走って何も考えずに突き進むのも楽かもしれない…‥‥そう考えていた、その時だった。


「ン?」
「どうした、ゼナ?」
「いえ、何か今感知…‥‥ッ!!ご主人様、モードチェンジ『ガトリングモード』!!」

 ゼナが一瞬何かに気が付いたかのように動きを止め、何事かと説明してもらう前に俺の方に飛び掛かり、素早くガトリングへと切り替わる。

 そのまま俺の身体も操作して銃口を上に向けた。

「上に何が、ってなんだ!?」

 つられて上の方に視線を移すと、そこには何かが大量に落ちてきていた。

 赤黒い粒のようなものが大雨のごとく降り注ぐように、こちらへめがけて勢いよく落下しており、あっけに取られている間にガトリングが動き、一気に対空砲火を浴びせて直撃を防ぐ。


ザブゥン!!
「足を止めるから沈んだけど、何だ今の!?」
「分かりまセン!!ただ、何かの攻撃によるものだという事だけは言えマス!!第2陣、落下してきマス!!」

 どうやらまだまだ収まる気配は内容で、赤黒い粒の雨が再び迫るのが目に見えた。

「モードチェンジ『スクリューソード』モードで、現海域から全速離脱!!」
「了解デス!!」

 ガトリングから大砲のようなスクリューのある筒へと切り替わり、海に潜って粒をしのぎつつ全速力でこの場から一旦離れる。

 水中ならばこちらの方が早いので、上からの攻撃であろうとも海その物が一旦の受け皿になって落下物を減速してくれるので海中に落ちてきても避けやすい。

(…‥‥でも、ただの落下物ではなさそうだな)

 ごぼぼぼっと口の中の空気を逃がさないようにしつつ、後方を見れば赤黒い粒が海に溶け込んでいる様子が見えた。

 どうやら固形物というよりも何かの液体が固まったもののようで、海の中が染まっていく。



 そのまま全速力で海域を脱出し、浜辺に飛び出してソードモードへ切り替える。

「フィー!!何があった!!」
「分からない!!何かが降り注いできて攻撃されていることだけなら分かることだ!!」

 どうやら浜辺から沖合の異常は見えていたようで、出るや否や会長が駆け寄ってきて状況説明を求めてくるが、俺にもこの状況は分からない。

「状況不明、ただし攻撃その物に意志があるようで、こちらを狙っているのは間違いないようデス。魔剣による攻撃でもなく、海中への溶け込む液体をスキャン…‥‥魔獣による攻撃と推測できマス」
「魔獣だと!!だが、姿は見えないぞ!!そもそも沖合には、生徒たちでは相手にできないような魔獣が来ないように、教師陣が見張っているはずだ!!」

 この場にいる生徒たちが魔剣を持っているとはいえ、戦闘経験や実力で言えば教師陣の方が上を行くのは間違いなく、万が一に備えて本日の自由時間中は教師陣は沖合で目を光らせている。

 それなのに、それをかいくぐって魔獣が攻撃を仕掛けられるのはおかしく、生徒会長の叫びに全員同意する。

「どうやら教師陣の探査範囲外、私の関知範囲からも離れた長距離攻撃のようですネ」
「そんな事、可能なのか?」
「理論上では可能デス。地に落とすための射出速度や角度、着弾地点予測などが必要になりそうですが‥‥‥何か大型の砲撃が可能な魔獣が、はるか沖合から狙っている可能性があるでしょウ」

 そんな事を話し合っている間にも、再び空から赤黒い粒が降ってきたようで、各自各々の対空攻撃手段で直撃を防ぐ。

「ぎゃああああ!!いっだぁぁぁl!!」
「貫くというより、焼くような攻撃だ!!」

 しかし、完全に防げるものではなく、撃ち漏らされたものが避け損ねた者に直撃し、火傷のような傷を負わせていく。

「物理的だが、焼くような攻撃…‥‥酸のようなものがあるのか?」
「可能性は大きいと思われマス。ただ、濃度を今確認しましたが…‥‥胃液に近いデス」
「胃液だと?」


 そんなものが、何故降り注ぐのかという疑問もあるが考える暇もない。

 一定のリズムで降り注いできているようで、連続して降り注ぐ赤黒い胃液の雨には対空砲劇をしても疲労して防ぎきれなくなってくるだろう。

「ゼナ、対策としては?」
「着弾を想定しての攻撃のようですので、まずは距離を稼いで逃げることが重要でショウ。ただ、それでも相手の射程圏内なら意味が無いので、ここは直接攻撃を行い、攻撃の手を緩めさせたほうが良さそうデス」
「見えないが…‥‥飛んでくる胃液の飛沫雨のようなものから察するに、こっちの方向か。だったら、こいつでどうだ!!」

 生徒会長が魔剣を振るい、海面に叩きつけると爆発が起きた。

 その爆発は連鎖的にどんどん水面を伝って爆破して…‥‥‥ある程度見えなくなったところで、大きな爆発音と共に水柱があがった。

「物体に当たれば爆破するようにした攻撃手段だが‥‥‥どうやら効果はあった様だな」

 先ほどまで定期的に降り注いでいた赤黒い胃液の雨が止まり、一旦周囲の天候が晴れる。

 とは言え、これはほんの一瞬の間の攻撃強制停止にしかすぎず、再び来る可能性は十分ある。

「生徒会長として、教師陣がいない今全員に指示を出す!!遠距離攻撃及び対空攻撃ができない生徒はこの場から急いで離れろ!!攻撃可能なものは再度の雨に備えつつ、私の攻撃する方向へ攻撃を放ち、見えぬ敵の手を防ぐんだ!!」
「「「「「了解!!」」」」」

 全員すぐに会長の号令に従い、指示通りに各自の可能な部分から動き始める。

「フィー、たしか君の魔剣は飛行可能な魔剣でもあったな?今から攻撃をこちらで続けるから、着弾地点にいるはずの魔獣の確認を頼む。ただ、反撃がどう出るか不明だから、攻撃せずに位置情報をつかみ次第、教師陣営に応援を頼んでくれ!」
「わかった!!ゼナ、ソードウイングモード!!」
「了解デス!!」


 素早く剣の翼を広げ、一気にその場から飛び去り、俺たちは会長たちの攻撃が到達しているところまで見に行くことにした。

 相手の正体が不明な事から攻撃をこちらに狙われるのを避けて、位置をつかんで教師たちの応援を頼みたいのだが‥‥‥こうも遠距離から降り注がせる胃液の雨を使うような魔獣は何だというのか。

「それなりに距離がありそうだが、全速力で頼む!」
「大丈夫です、この海にいる間に改良をしておきましたので、飛行可能速度は飛躍的に向上済みデス!」

 だてに海での短い日々を何もしていないわけでもなく、各モードの強化改良を彼女は施していたようで、空を飛ぶ速度も確かに向上していた。

 ぐんぐん速度を上げて、着弾地点にたどり着き、大空から確認すると…‥‥海上に、一つの島が浮かんでいた。


「いや、違う‥‥‥島じゃないな、アレ」
「大型の魔獣、クジラのような魔獣ですネ」

 そこにいたのは、ぷかぷかと海に浮かぶ島のように見えつつ、表面に大量の穴ぼこが出来た大きな魔獣。絵面としてはかなり気持ち悪く、その穴から浸水して沈まないのかと思いたい。

 穴から噴き出したものがあの胃液の雨なのだろうが…‥‥何ともまぁ、こんな醜悪な姿の魔獣も存在していたものである。


ブシュウウ!!
ドォォォォォン!!

 そして浜辺から攻撃している会長たちの攻撃が直撃しているようで、反撃をしようと動いても爆発などで怯み、直ぐに動けない様子。

 この調子ならば、位置の特定が出来たので教師陣を呼ぶ時間は十分稼げるだろう。

「ゼナ、教師陣のいる方向に向かうぞ。相手の場所が確認でき、」
「ちょっと待ってくだサイ!」

 っと、翼になっているゼナが叫び、何事かと思って魔獣の方を見れば、何やら様子が変わっていた。

 あちこちに出来上がっていた穴ぼこがぷつぷつと閉じ、つるりとした表面に切り替わっていたのだ。


 そう、穴だらけのチーズを全部防ぎ、綺麗な表面にしたような…‥‥もっといい言い方があるかもしれないが、自分の語彙力では言い表しにくい。

「なんだ?穴を全部防いで何をする気だ?」
「エネルギーの集中を確認。分散していた分を中心部に集めて増幅しているようデス」

 先ほどまで放出していた胃液の雨あられを止めて、違う攻撃手段に出たようだ。

 見ていればつるつるの表面にふたたび穴が出来たが、そのサイズはかなり大きく上に向けられて‥‥‥

「って、こっちを向いてないかアレ!?」
「不味いデス!!補足されていマス!!」

 上から見ていたことに気が付いていたのか、その穴の向かう先は俺たちの方に向けられていた。

 嫌な予感を抱き、直ぐに現空域から逃げようとしたが…‥‥どうやら遅かったらしい。


ブジュバァァァァア!!

 噴きあがってくるのは、大量の赤黒い水柱。

 それが弧をやや描きつつも、狙いを寸分たがわずにこちらに迫ってきており、避けたとしても規模から考えて浜辺に着弾することが予想できる。

「ゼナ、回避が不能だからスクリューソードになれ!!竜巻での減速及び方向をずらせ!!」
「了解デス!!」

 一気に変形させ、陸地での竜巻を正面からぶつけ、赤黒い水柱の減退と方向転換を俺たちは狙った。

 流石に回避を狙おうにもできない状況なので、せめてもの最悪の事態を防ぐために行ったが、どうやらうちかったようで到達前に無事に爆散に成功する。

ドッバァァァァン!!
「良し!!」

 ギリギリで助かったと思ったが、それは油断だったのだろう。

 次の瞬間、俺たちが察する前に海中からその巨体は一気に浮上して飛び上がり、大きな口を開いてその中に捕らえられる。

「‥‥‥え?」
「あ」

 そして状況を把握する前に、大きな衝撃が起きて、意識を失うのであった…‥‥‥
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