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5章 復讐は我にあり

5-5 物は相談、立場は立場で

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「なるほど、そうなったか‥‥‥まぁ、留学自体は悪い事でもないよ」
「そういもんか?」
「いや、俺が留学生なの忘れてないよねフィー?」
「‥‥‥そう言えば、そうだった」
「忘れていたんかい!!」

 ツッコミを俺に入れたのは、レードン王国からの留学生であるという立場をちょっと忘れつつあった親友のラドール。
 
 放課後になって、ちょっと留学に関しての相談をしたくなったので話に来たのだが、今の忘れているかいないか発言に関して半分ぐらいは冗談だったりする。もう半分は、本気でちょこっと抜けかけていたというか…‥‥

「忘れられていたかはさておき、留学で不安になる気持ちは分かるよ。自分の知らない国へ向かうという事は、それだけ知らないものがあるということだからね。でもね、逆にこれはいいチャンスでもあるんだ」
「というと?」
「普段、自分の身の回りにあることは自然と存在しているからこそ、案外見つけにくい。けれどもね、他国へ行きそこでの価値観に照準を合わせ直した後、また戻ってきてみると案外多くのことが変わってみるようになるんだよ」

 何気なくそばにあるものだからこそ変化に気が付きにくいが、一度環境を変えると違って見るようになるらしい。

 自分の中の色眼鏡を壊すという意味合いでは非常に良い事であり、壊れた分を新しく作り直すことで、より素晴らしいものを手にすることが出来るというのだ。

「文化、歴史、人付き合い、ヤンでいる婚約者のいない平穏、授業の速さに学園での実践の経験値に、婚約者のいない素晴らしさに、違う人々との交流‥‥‥短い期間の留学とは言え、得られるものは多い」
「さらっと2回同じことを言わなかったか?」
「言ってますネ。そこまで負担になっているのならば、破棄してもよさそうですガ」
「出来たら苦労しないよ!!いや、やれたとしてもやれないことを理解させられているというか、この話題を出したことがバレたら物理的に…‥‥」

 一応、ラドールの婚約者に関しては通常であれば良い女の子らしい。

 だがしかし、その裏の顔はすさまじいまでのヤンというのが何個も付くような人らしく、どうなるのかが容易く想像できるだろう。

「‥‥‥帰国後、頑張れよ。友人としては何とか穏やかに過ごせることを願っておくからな」
「ご主人様の友人という事で、平穏無事でいられるように一応こちらも渡しておきマス」
「なんだ、これ?」
「これはヤンが付くような方に服用すると、何とヤンがヤ・・・ン?ぐらいにまで抑えつつ修正可能になる矯正薬の一種デス」
「マジか!?え?それ本当に効くのか!?」
「効くそうデス。信頼のおける薬師からのもので、すでに臨床実験済みデス」

 ゼナから渡された薬の小瓶に対して、凄い勢いで食いつくラドール。

 そう言えばちょっと前に、たわいもなく話していたラドールの婚約者話で憐れんでいた時があったが、それでちょっと考えて入手してきたようである。

「と言うか、臨床実験済みって、何かやったのか?」
「あー‥‥‥私には何人か姉妹がいますが、中にちょーっと吹っ飛ぶ様なのもいまして、ねじが外れているような方に、服用をすすめて治療していたのデス」

…‥‥前に紹介してくれたフンフといい、魔剣なのにどこからどう出てくるのか謎の多い彼女の姉妹。

 身内で実験して良いのかとツッコミを入れたいが、一応実験台になろうとした姉妹自身の希望でもあった様だ。

「なお、こちらのは効きますが、別製品のこっちは駄目でしたネ。服用した途端、ちょっと不味い事態になりかけて‥‥‥犠牲が出る前にどうにかなったのは良かったことデス」
「さらっとかなり危ない橋を渡ってないかな?」

 ゼナ一人の力だけでもすごいのに、その姉妹に関して同じようなものを持っているのだとすれば、どうなるのかが目に見えている。

 そこにさらに怪しい薬の作用で危機を招いたのであれば、それこそ魔獣が大量に出現するよりもはるかにヤヴァイ世界の危機になりかねないだろう。


 危ない橋を渡っていたような気がしなくもないが、それでも実証された薬の効果に驚きつつ、受け取ってラドールは何度もお礼の言葉を述べるのであった‥‥‥‥




「‥‥‥ところであれ、帰国後に彼の婚約者に服用して、効果あると思うか?」
「個人差がありますが、なんとかなると思いマス。断定はできませんが‥‥‥まぁ、ちょっとだけ希望を見せるのもメイドとしての嗜みなのデス」
「つまり叶えきれないと」
「そうなりますネ。私も流石に人の心に関することまでは専門外なので、薬を用いても確定と言えないのが歯がゆいのデス」








…‥‥フィーとゼナがそう話し合っていたその頃。

 ドルマリア王国の王城内では、留学に関する会議が行われていた。

「ふむ‥‥‥今回のデュランダル学園から他国へ留学を希望・推薦となった学生はこれだけか」
「では、ここから選定もしないといけないのですが、悩まされますなぁ」

 魔獣を葬れる魔剣を持つ魔剣士と言うのは、国にとって貴重な人材。

 他国に留学することで知見を広め、より一層研鑽に励めるようにしたいと国としては応援する心づもりではあるのだが、色々と心配することもあるのだ。

 何しろ、国によっては強い魔獣に対抗するためにより強力な魔剣士を求め、他国からの留学してきた生徒をスカウトして、移籍させることがある。

 そう考えると、実力のある学生をそうほいほい他国に出しにくいのだが、それは他の国でも同じで、だからこそ交換留学という形で交流することで、ある程度の抑制につなげているのである。


 だがしかし、今回の留学生に関しての会議では、とある大きすぎる問題があった。

「…‥‥それで、彼も出て来たか。一応、上の方針としては多国でちょっと預けて、心労を減らす目論見もあるが…‥より増えないかな?」
「青薔薇姫の子で、ドラゴンの力を持ち、類を見ないような魔剣の持ち主‥‥‥いや、これどう考えても他の国々で喉から手が出るほど欲しいと思っているだろう」
「だが、悪しき手段で無理やりと言う輩はいないはずだ。青薔薇姫が姿を表したという情報が出て以来、裏社会の方ではけん制しまくって必死になって再出現されないように目を光らせているようだからな」
「どれだけ畏れられているのか‥‥‥いや、分かるから何も言うまい」

 その言葉に、青薔薇姫を知る者たちは頷き合う。

 良くも悪くも青薔薇姫と言う存在は、人々の心を一つにするのは丁度良かった。

「さて、となると彼の留学先だが‥‥‥ここはいっそ、聖国の方に出すのはどうだ?」
「やめておいたほうが良い。あちらはあちらで動く可能性があるからな」
「かと言って、レードン王国の方は‥‥‥こちらからの留学生を受け入れているが、ここに出すのもいまいちだろう」
「ならば、彼の母親の家も考えて…‥‥消去法でミルガンド帝国になるが、ここは大丈夫だろうか?」
「大丈夫だと思いたい。あそこは実力主義のようなものもあるし、馬鹿な真似をする奴はそう簡単に出てこれないはずだ」
「ただなぁ、公爵家の祖父と言うのがいると考えると、下手をするとそちらの方で繋がりを強化する可能性もあるし、面倒事にならないか?」

 うーんっと頭を悩ませるが、彼らに他の案はない。

 小国軍や公国、共和国に郷国など色々と国々はあるのだが、どこに出してもいい結果があるとは思えないのだ。
 
 ならばいっそ、留学させなければいいという声も上がりそうだが、それはそれでドラゴンの力を独り占めにするのかという批判も出てきそうで、出さざるを得ないのである。

「…‥‥はぁ、何が最善なのか分からない」
「となると、もうここはあっさりと帝国の方に留学させましょう。幸い、あそこの皇帝陛下は青薔薇姫に関してよく知る人物でもあるし、うかつなことをやらかさないはずだ」
「あの潰された方も、おそらく出てこないだろうし…‥‥そうするか」

 満場一致で決め、生徒たちの留学先は割り振られた。

 そしてこの後は学園長の下へ結果を通達し、後は留学に向けた準備を各自に任せるのであった…‥‥



「‥‥‥それにしても、これで下手な騒動でも起きて、帝国側にいちゃもんをつけられたらどうする?」
「流石にそんなことはないだろう。滅亡に向かうようなことになるだろうから」
「さらに言えば、青薔薇姫が出てくれば…‥‥悲劇が繰り返される、か」
「絶対に、何事もなく、ただ無事に終わってほしいですなぁ…‥‥」

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