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謁見で章

92話

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‥‥‥入院生活が終了し、それと同時に冬休みも終わってしまったことに、ルースは溜息を吐いていた。

「はぁぁぁ・・・・・せっかくの休みが、リハビリとかで潰れるとか悲しいなぁ」
「でも、何とか元通りになって良かったわね」
「ああ、依然と変わりないようにはなったんだろう?」

 ルースに対して、エルゼとレリアはそう声をかけた。


 そう、ルースのボロボロになっていた左腕は、この入院生活中ずっとリハビリを行い、退院できた今日にはもう以前と変わらないように動かせるまでに回復したのだ。

 医師いわく、かなり神経も損傷しており、修復したとはいえここまで早く元通りになることは予想外だったらしい。

 とはいえ、細かい動きなどがぎこちなかったために、結局は予定通りの入院期間となったのであった。


「しかし、そのすぐ後に国王との謁見って勘弁してほしいなぁ・・・・・・」

 そうつぶやき、ルースは遠い目をするのであった。




 国王との謁見をする羽目になったその原因は、あの決闘場での事件である。

 ろくでもない屑で馬鹿で間抜けで救いようのない腐れ野郎貴族との決闘を受け、この機会にいっその事ルースの持つ金色の魔導書グリモワールの力を見せ、そのバックにはエルゼたちが付いていてそう簡単にちょっかいを出されないようにとみせしめるためにやったのである。

 だが、ここで予想外というか、本気で救いようのない屑は代理人に選んでいた選手をまさかの反魔導書グリモワール組織フェイカ―に関わっているところから持ってきたようで、その代理人が怪物化。

 当然必死になって討伐できたとはいえ・・・・・そのせいでいろいろとやらかしまくったおかげで、国王との謁見が王命として強制的に行われることになってしまったのである。


 自業自得なのはわかってはいるが、どう考えても面倒事しか見えない。

「大丈夫よ、ルース君。お父様が念のために変にやらかさないように釘を刺す手紙を送ったそうなのよね」

 ルースの心配そうな顔を見て、エルゼはそう告げた。


 エルゼのミストラル公爵家は王家と血がつながっているため親戚に近い。

 そして、現当主であるカイゼル公爵は現国王に色々と忠告ができる立場にあるそうで、別名裏の王とも言われているそうだが、本人は国を動かす気はない。

 だがしかし、利益になりそうなものが逃れないように動くときは、直接国王に手紙を送りつけるなどして、あらかじめきちんと理解させるそうなのだ。


・・・・・というか、何気にエルゼの引き取り手としてルースを逃さないようにしているような気もする。

 ストーカー癖をしっかり理解しているから、押しつけようとしているようにしか思えないのだ。



 なんにせよ、国王への謁見へ向かうのは準備などがあるため2日後になる。

 ついでに、国交的な事も兼ねてレリアもモーガス帝国の第2王女として向かうようで、ついでにバルション学園長がきちんと馬鹿共を排除するために後ろの方に立ってくれるそうだ。

 後、謁見時に国を滅ぼせるモンスターを使役していることに対する話もあるそうなので、タキもその場に召喚する予定であり、四方八方盤石の構えであろう。

 また、あの屑貴族の婚約者であったエーズデバランド侯爵家のリディアさんも今回の騒動のさなかにいた人物として一緒に来るようである。


・・・・・その事を聞いたときに、エルゼとレリアが何やら鋭い目戦になってアイコンタクトを交わし合っていたけどなんだろうか?


 とにもかくにも、謁見のために準備はしなければならない。

 王城がある首都での滞在用の旅費とか、謁見時の正装を用意するとか、何気に大変である。


「ついでに晩餐会も開かれるらしいけど・・・・これって出る必要あるのか?」
「一応、交流の場としては重要そうなので、出る必要があるそうよ」
「めんどくさいなぁ・・・・帝国でも何かと言い寄って来た男がいたし、腹黒い奴らの腹の探り合いとかで、結構大変なんだよ。まぁ、しつこい奴は関節を逆に曲げたからいいけどね」
「ああ、そういう感じにも・・・・いや待ってレリア、関節を逆に曲げたって何?」


 明らかに聞き逃せない言葉が出たような気がしたが、レリアは答えなかった。

「あら?でもそれは甘いわよ。やるなら相手の弱みも徹底的にやらないといけないわね」
「なるほど・・・・そうしたほうが良いのかやっぱり」

・・・・・エルゼも何か言ったけど、気にしないほうが良いのかもしれない。

 というか、気にしたら確実に貴族の何か深い闇に触れそうで怖い。



 ルースは改めて、この二人がきちんと貴族の立場であったことを認識するのであった。














 ちょうどその頃、王城の執務室では、ハイドラ国王がカイゼルからの手紙を受け取って読んでいた。

 書かれた内容を簡単に要約するのであれば・・・・・「愛娘の将来有望な婿になる可能性がある相手を無下に扱うな」と書かれているのである。

 あくまで簡単に要約するとそうであり、さらに事細かく訳せば何かあった際には、公爵家が動くとかなんとか・・・・・

「想像したくないな・・・・」

 不興を買い、悲惨な未来しか見えないので、つばを飲み込み心にしっかりと注意を払うように刻み込むハイドラ国王。

 しかしながら、陰では親バカで有名なミストラル公爵家の当主がそこまで入れ込む相手なのは、興味がある。

 金色の魔導書グリモワールを扱うのは良いのだが、その能力全体がどうも常軌を逸脱しているようなのだ。

・・・・・本人が常識人だと思っていても、周囲から見れば非常識のいい例であろう。


 ふと、手紙の終わりの方を見れば、ハイドラ国王の王妃と側妃にも話が通してあるとされており、万が一の事があれば、最も重大なお仕置きとして「もぐ」の一言だけがあった。


 何をもぐのかは知りたくない。

 だが、改めてしっかりとしなければならないと、青ざめながらもハイドラ国王は心に刻むのであった。
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