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海上旅情編
31.私のことを好きになれよ
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刃には刃を。
拳には拳を。
蹴りには蹴りを。
目まぐるしく繰り出されるシャーリーの攻撃、その全てを正面から受け止めた。
小細工無し。純粋な実力勝負だ。
「さきほどシエラさん相手に使ったスキル、おそらくあれがあなたの本領なのでしょう。対象に命令を強制させる精神感応系のスキルでしょうか?私相手に使えば楽にこの茶番を終わらせられるのでは?」
「力ずくで女落として喜ぶなんて、5歳のときに卒業してんだよ」
見れば見るほどいい女。
毛穴無いんじゃない?レベルで余すところなく美人だ。
手とか繋いで街練り歩きてぇ~。
我ながら殺されようとしてる最中に呑気だと笑いが込み上げた。
「ウッヘッヘ」
「何がおかしいのですか」
「いやいや悪いね。必死になってるシャーリーが可愛くて」
「光栄ですと言っておきましょうか」
「ぬおっ!」
身体を反転させて繰り出してきた蹴りに、同じく軸足を起点に身体を回した蹴りを合わせる。
重っも…蹴りの威力がサ○ジじゃん。
私じゃなかったら足砕けちゃってるぞ。
「あくまで防御するだけ…。とっくに割れているんですよ、あなたが女性を傷付けまいとしていることくらい。手加減なんてしている余裕があるのは結構ですが、それで私をどう制するつもりですか?」
「やってみなくちゃわかんないでしょ。突然シャーリーが、負けました私をあなたの女にしてくださいって懇願する可能性だってあるだろ」
「まだふざけていられる余裕があるようですね」
「これが私なもんでね」
剣とナイフで鍔迫り合いながら、灰色の目を見つめる。
「人が呆れるくらい女好きで、自分の欲望にはひたすら真っすぐで、仲間のことを大切にしてて、強くて頭良くて家庭的で可愛いとキレイとカッコいいを高次元で超越した、神に選ばれし時代の寵児。世の中の女の子が全員惚れちゃう究極完全完ぺき絶世のスーパー美少女!それが私、リコリス=ラプラスハートだ!!」
――――――――
美しく眩しい太陽のような人。
彼女を初めて見たとき抱いた感想。
見ていてるだけで目が眩む。
近くにいるだけで身が焼けそうになる。
「私…あなたのことが嫌いかもしれません」
「おお…初めて言われたけど結構グサッとくるな…。まあ、それでも私は全ての女の子を愛するって決めてるけどね」
なんて自分に正直な人。
自己肯定感の塊のような素直な人。
今まで会った誰よりも頭のおかしな人。
私とは違う。
全然違う。
何もかもが違う。
ザワつく…心の波が大きくなる。
「……っ」
「おいおいどうした?技のキレが落ちてきてんぞ」
知らないくせに。
理解らないくせに。
何故この人は…
何故あなたは…
「何故…そこまで私に構うのです!」
私は激昂してナイフを振った。
「言わなかった?私たち、仲良くなれるよって」
「ただの希望です!道理も根拠も無い!」
「道理と根拠が無きゃ友だちになれない?」
「暗殺者と一般人では生きる世界が違う!私は!!」
「シャルロット=リープのことはよく知らない。けど、ふとしたときに笑うシャーリーのことは知ってる。お前は…誰かを守れるいい女だろ」
守る…?
私が…?
「シエラがヒナちゃんを襲ったとき、それを守ったのは誰だ」
「シエラさんを殺そうとしただけの二義的な結果に過ぎません!」
「無関係な私を遠ざけて、危険に晒さないようにしてたのは誰だ」
「邪魔をされたくなかっただけです!」
あなたに何がわかるのかと、私は叫んだ。
「人を殺したこともないくせに!そうしなきゃ生きられない世界を見たこともないくせに!知ったような口で、私を語らないでください!」
腹にナイフが突き立って、真っ赤なものが足を流れた。
血溜まりの上で、少女は血に濡れた私の手を握った。
「なら訊かせろ。シャーリー、お前は…好きで人を殺してきたのか!!」
『世界を恨むなら、抗いたいなら、その力をあなたに授けましょう』
それは、かつて地べたに這いつくばる私に手を差し伸べてくれた人の言葉だ。
逆境は自分の手で覆すしかないという教え。
その人に、殺しの何たるかを叩き込まれた。
生きる術を教えられた。
生きるために。
礼節を学び、品性を高め、教養に勤しみ、感情を知った。
窃盗、姦淫、詐欺、傷害、殺人…生きるために何でもやった。
『あなたには才能がある』
嬉しかった。
何も無い私に取り柄があると知って。
屍を積み上げ、どれだけを手にかけたか数えなくなった頃、命を摘むことに疑念を抱かないようになっていた。
それが…たった一人の少女の存在によって揺らがされた。
道徳?条理?意味?理由?
今更…悔やむな。迷うな。
私はただの人殺しだ。
暗殺者が、人並みの人生を願っていいわけがない。
ない――――――――
「シャーリー!!」
「!!」
「私の目を見ろ!!自分の言葉で言え!!」
悔やんでいいわけがない。
迷っていいわけがない。
だって私は――――――――
「一度だって、人を殺して笑えたことがあったのか!!」
ナイフがより深く刺さって、燃えるように熱い血が手を伝う。
何故私なんかに構うのか。
何故この人は、こんな私に真っすぐ向き合おうとするのか。
普通じゃない。
馬鹿げてる。
なら…こんな戯言を口にしても、信じてくれるだろうか。
「殺したくて殺したことなんか、一度だってありませんよ」
――――――――
「生きるために殺すしかなかった…。それ以外の生き方が、私には無かった…。あなたは…」
目が気に入らないと親に捨てられたことはありますか、とシャーリーは訊いた。
「落ち葉を床に、残飯を漁り、汚いと嘲られ、穢らわしいと嗤われ、蹴られ罵られ石を投げられ、それでも足らずに唾を吐かれて。世界から排他された私を、一人の女性が拾ってくれました。それが暗殺者ギルドのマスターです」
いろんなことを教わって、いろんなことを学んだ。
殺しはその中の一つだと言う。
最初に殺したのは親だとも。
「仕方なかったと、私は私を肯定しません。罪は罪。もうすでに、死ですら償えないほど私の手は汚れている。だから、私はあなたが気にかけるような人間ではないのです。この世界でしか生きられない私には、もう何も無いのです。お願いです…もう、私には構わないでください…。これ以上は、私が私でなくなってしまいます…」
聴けば聴くほど業が深い。
私の知らない世界の話。
そんなもん知るか。
「私は…」
「うるせえよ」
私は刺さったナイフを抜いて投げ捨てた。
「私は全ての女の子を愛するって決めてる。幸せにするって決めてる。目の前で悲しそうな顔してる女を、はいそーですかで見捨てられるわけねーだろ!!」
シャーリーは優しい女だ。
笑顔がステキないい女だ。
何も知らない?
それだけ知ってればいいだろ。
「自分の人生は後悔の連続か?悲しかったことばっかりか?なら私が上書きしてやる!お前のことを幸せにしてやる!」
「あなたは、なにを…」
「人を殺したくないなら殺さなくていい!償いたいならそれ以上に人を助ければいい!私がもう二度と、この手を血で汚させたりしないから!」
単に顔が好みというだけかもしれない。
興味があっただけなのかもしれない。
それでも私は、確かにこの人に惹かれた。
この女を私のものにしたいって、そう思った。
傲慢?
自分勝手?
そんなの今更でしょ。
欲張りが欲張りらしく行って何が悪い。
「私のところにおいで。お前の全部を私によこせ。人生も、技術も、心も。暗殺者は要らない。シャルロット=リープが私は欲しい。何も無いって言うなら、私がシャーリーにあげる。教えてあげる。光の下で生きる方法を。人を愛する気持ちを」
とことんイキってカッコつけてやろうと、シャーリーの頭に手を回した。
「私のことを好きになれよ、シャーリー」
――――――――
「私のことを好きになれよ、シャーリー」
時が止まったような衝撃を受けた。
愛の告白にしては野暮ったく、情緒の欠片もない、傲岸不遜な物言い。
だけど、あたたかった。
おもしろいと思ってしまった。
この人以外に言われれば横っ面を蹴飛ばすくらいしただろう。
そのくらい衝撃的で、その言葉はひどく私を奮わせた。
身体中が総毛立って、今まで感じたことのない熱さが顔に宿った。
たかが暗殺者の分際で。
人間以下の獣のくせに。
「っ!!」
糸を手繰り落ちたナイフの柄に巻き付ける。
引き寄せて手に持ったナイフがいつもの何倍も重く感じて、刃の先が震えていた。
『たぶん私たち仲良くなれるよ』
ただの世辞だ。
違う。
妄言だ。
違う。
惑わせているだけだ。
違う!
この人は暗殺者としてじゃない…シャルロット=リープとして私を見てくれている。
私を欲しいと言ってくれている。
「……血に汚れた私を傍に置いて、後悔するときが来るかもしれませんよ」
「しない」
「あなたを裏切るかもしれない」
「させない」
「他の誰かを選ぶかも」
「私よりいい女なんかいないだろ」
そんな身勝手が赦されるのなら。
人並みの人生を望んでいいというのなら。
私は、この運命に抗ってみたい。
「リコリス=ラプラスハートさん。この腕を、技を、シャルロット=リープの名をあなたに預けます。売るも棄てるもご随意に。ただのシャーリーとして、あなたの下に付き従うことをお許しください」
跪いて血溜まりに頭を垂れる。
私はこんなにも浅ましかったのかと思い知らされた。
彼女を前にすると、自分の罪が雪がれる気にさえなる。
そんなわけがあるはずもないけれど。
この人について行ってみよう。
最後まで。最期まで。
この恋はきっと、私の本物だから。
――――――――
氷の鳥籠が砕け、師匠の【空間魔法】でみんなが集合したわけだけど。
「見境が無さすぎる」
「この状況でよくもまあ口説けたものですね」
いやー、視線冷てえ。
みんな必死に魔物の進行食い止めてたのに、私はナンパしてるんだもんね。
どんな精神状態してんのってフロイト先生も爆笑するわ。
でも私だって頑張ったよ?
見てこれお腹刺されたの。
【自己再生】ですっかり治ってるけどね☆エヘッ☆
「よりによって暗殺者を仲間に入れるなんてね」
「もう暗殺者じゃないよ。シャルロット=リープの名前は私が預かった。ここにいるのはただのシャーリーだ。百合の楽園の新しい仲間。みんな歓迎してあげてね」
「シャーリーと申します。以後お見知り置きを」
「うむ。新参とて固くならずともよい。気楽にせよ。妾はテルナ=ローグ=ブラッドメアリー。テルナと呼ぶことを許そうぞ。同じ女に惚れた仲じゃからな」
さすが師匠。
最年長なだけあるわ。
「……これまでの経緯はどうあれ、リコが決めたことに異論はありません。リコを害することがあれば容赦はしませんが、仲間ということなら歓迎しましょう。アルティ=クローバーです。ようこそシャーリー。リコの相手は苦労しますよ」
「もうすでに理解しています」
なんじゃと?
こんな可愛い私に苦労かけさせられるなんて嬉しかろ?ん?
さて…問題はドロシーか。
「あんた、自分が何をしたのか忘れてないわよね」
「ええ。もちろんです」
殺す殺されかけた仲なんだよなぁ。
そんなハードな関係の取り持ち方なんて知らねーんだが?
「あの!」
一触即発かと思われた矢先、マリアとジャンヌがシャーリーに近寄った。
「お姉ちゃんは…あのとき助けてくれた人ですか?」
「雨の中、奴隷だった私たちを助けてくれた人だよね?」
シャーリーはそれに対して何も言わなかった。
目を背けるだけ。
助けたつもりはない、そんな風に思ってそう。
「ずっとお礼を言いたかったの!お姉ちゃんがいなかったら、私たちはあのまま死んじゃってたかもしれないから!」
「お姉ちゃんが助けてくれたから、私たちはリコリスお姉ちゃんたちと出会えました!だから!」
「「ありがとうございます!!」」
シャーリーは深々と下げた二人の頭に手をやって、泣きそうな顔で名乗った。
「シャーリーです。あなたたちの名前は?」
「マリア!」
「ジャンヌです!」
「これからはお姉ちゃんとも旅が出来るの?」
「嬉しいです!またお姉ちゃんが増えました!よろしくお願いします、シャーリーお姉ちゃん!」
「よろしくねシャーリーお姉ちゃんっ!」
「よろしくお願いします。マリアさん、ジャンヌさん」
「エヘヘッ。マリアさん、だって。なんだか大人になったみたい」
「照れちゃいますね」
どこかの誰かの命を奪ってきたシャーリーだけど、それが誰かを助けることにも繋がってた。
ただの偶然だとしても、これは運命だ。
私たちと一緒になるべくした運命。
その運命の中に組み込まれたドロシーは、ふぅ、と息をついた。
「妹たちが懐いてるんなら仕方ないわね。けど、いい?アタシはあんたがしたことを絶対に赦さないし忘れない。罪は消えないってことを覚えておきなさいよ」
「はい」
「アタシが言いたいのはそれだけ。どうやらお互い、悪い女に引っかかったみたいだし。ドゥ=ラ=メール=ロストアイ。ドロシーって呼んで。私もシャーリーって呼ぶから」
「こちらこそよろしくお願いします、ドロシーさん」
うむうむ。
みんな仲良しで何より♡
「てかしれっと一緒なんだけど、そのカブトムシ何?でっか大型犬くらいある」
「さっきのゴタゴタでちょっとね。従魔契約したの。ゲイルよ」
『…………』
【念話】は使えてるはずだけど、寡黙だな。
【神眼】使ってっと。
なになに?
「パンツァービートル…硬くて速い。角を発射する。また生える」
【神眼】に進化しても【鑑定】さんの必要最小限の情報開示よ。
てか上位種なんだ。
リルムたちとお揃いじゃん。
『よろしくねー』
『…………』
角でツンツンしてるしてるから無愛想ってわけじゃなさそう。
仲良くやりたまえよ。
「角があるってことは雄か」
もっかい【神眼】。
パンツァービートル。硬くて速い。角を発射する。また生える。雌雄型。
雌雄型…ってことはどっちでもあるってこと?
それって、ふたな○――――――――
「コホン…我ながらはしたないことを…。ていうかリルムたち進化してない?!」
「本当ですね」
『進化したー』
『可愛くなっただろ』
「シロンおま…なんだその愛くるしい羽は…。具現化系のあざとさじゃねーかちょっとモフらせろ!」
成長しよるわこやつら…
どんだけ強くなんのよ…そのうち魔人になっちゃうんじゃないの?
さてさて、これからどうするかね。
「とりあえず、シエラは冒険者ギルドに突き出さないとだろ…。それから虫の後始末と、荒らした屋敷と庭の修繕と…。やること多いな……もうめんどくさいから密出国しない ?」
「それよりもまずは、シャーリーでしょう。シャーリー、あなた世間の認知度は?」
「賞金首になっていない程度でしょうか」
「見る人が見ればバレるってことね」
「バレたら?」
「国にもよるでしょうが、縛り首がいいところですね」
「顔を隠すにも限界があるし」
「妾の仮面付けるか?」
「何かいい方法無いかね?」
「じゃから仮面」
「フードを被りっぱなしってのもね」
「泣くがよいのか?」
キャラ付けで仮面被ってる厨二かぶれは引っ込んでろ。
てかその仮面取れ顔めっちゃ可愛いんだから。
「まったく…妾のセンスを理解出来ぬ愚か者どもめ。ほれ、これで何とかするがいい」
師匠は私にスキルをくれた。
「【付与魔術】?物に術式を組み込んでエンチャントするあれ?」
「また理外なことを…」
「テルナあんた、今この世界にどれだけのエンチャンターがいると思ってるのよ…」
「知らぬが。昔はそこら中におったし、ありふれた技術じゃったぞ」
で?この【付与魔術】で何しろと?
「指輪でもネックレスでもよい。認識阻害の術式でも書いて身につけさせれば、シャーリーの存在はバレぬよ。念のためもう一つ、予備策も考えてあるが」
「おーさす師!マジありがとます!ヤれば出来る女略してヤリマ――――」
「全身の血抜くぞ」
「さーせん」
何かあったっけなー。
装飾品装飾品…………お、これなんかいいじゃん。
テレレテッテテーめ~が~ね~。
度が入ってない伊達眼鏡に、術式とかはよくわからんから、指先に集めた魔力で認識阻害って書いて…はい出来た!
「はい、掛けてみて」
シャーリーは眼鏡を受け取った。
「どう、ですか…?」
「うおおおおおおおおお!!有能秘書風眼鏡美女爆誕!!存在がエッチスケッチいやんエッチやったぁぁぁぁー!!」
「膝からスライディングしてガッツポーズするほどに」
うわぁあああああキレイ可愛い好きぃぃぃぃ!!
って、
「いや眼鏡かけてシャーリーがより美人になっただけじゃねーか。失敗してない?」
「そなたが無意識に妾たちを認識阻害の対象の外にしただけじゃろたわけ。他の者には効果を発揮しておるよ」
ほーん。
私が付与の天才って話?照れる。
とにかくこれでシャーリーの存在は隠せるっと。
なんか私たちだけの秘密ってワクワクすんなァ。
「それで?捕まえたって暗殺者はどこ行ったのよ」
ドロシーの何気ない一言に、私とシャーリーは揃ってシエラの方を向いた。
「あれ?!どこ行った?!さっきまで寝てたのに!跡形もねえ!」
「逃げられたんですか?」
「そこに転がっておった娘なら、妾らが到着したタイミングで消え去ったのじゃ」
言えや。
こっち感動的なやつやってたんだから。
「逃げられたのヤバいかな?」
「いえ。周到に用意した計画を正面から打ち砕かれた今、少なくともこの国の大公を狙うことはしないでしょう。彼女は無闇に武力を行使するタイプではないので」
一度失敗した依頼に拘らない潔さは、こっちとしてもありがたい。
とりあえず心配はしなくていいってことか。
「後片付けは夜が明けてからにしよーぜ。疲れたし眠いし。手伝えよシャーリー」
「はい。何なりと」
「ニシシ。よしっ、そんじゃま…そろそろ限界なんで…」
バタン
「リコ?!」
「リコリス?!」
「うおお…痛ってえ…」
「【痛覚無効】はどうしたんですか?!」
「正々堂々やらなきゃと思って…無効にした…。正直今虫の息…」
「稀代の大マヌケ!!」
【自己再生】で傷だけ塞がってんだけどね…
「生理の6倍痛いよぉ…ありったけのポーションぶっかけてぇ…。朝まで膝枕でよしよししてぇ…」
「知りません!!カッコつけ!!そのまま反省してなさい!!」
「馬鹿につける薬は無いって言うでしょ」
「そんなァ~…」
自業自得なんて罵られてるけど…私、リーダーぞ?
「マリアてゃ~ジャンヌたそ~…」
「えっと…」
「ファ、ファイトだよ!お姉ちゃん!」
「師匠~シャーリー~」
「服についた血、勿体ないから舐めてよいかのう?」
「えっ、と…ニコッ(精一杯の愛想笑い)」
「うわあああああん!みんな冷たいンゴぉぉぉ!もっと私を労れ褒めろ甘やかせぇぇ!撫でてチューしておっぱい揉ませろオラァ!リーダーをなんだと思ってんだチクショーがよぉー!」
ジタバタジタバタ。
痛すぎてその場でふてくされた。
ベッドの上まで丁重に運ぶことだな!ふんっ!
こうして私たちは新たな仲間、元暗殺者のシャーリーを迎えた。
ドロシーがパンツァービートルのゲイルと契約したり、リルムたちはなんかめっちゃ強くなったりして、シエラには逃げられたり、なんかいろいろゴチャゴチャとしてるけど。
まあ、このドタバタが嫌いじゃない。
「優しくしてくんないとやーだーーーー!!泣いちゃうよ?いいの?優しくしないと泣いちゃうぞ?はいもうリコリスさん泣きまーす!!ぴえええええええん!!」
一番ドタバタしてるのは私かもしれないけど、ご愛嬌ってことで。
それもまた私らしく。私たちらしく。
これからまた楽しくなりそうだ。ニシシシ。
拳には拳を。
蹴りには蹴りを。
目まぐるしく繰り出されるシャーリーの攻撃、その全てを正面から受け止めた。
小細工無し。純粋な実力勝負だ。
「さきほどシエラさん相手に使ったスキル、おそらくあれがあなたの本領なのでしょう。対象に命令を強制させる精神感応系のスキルでしょうか?私相手に使えば楽にこの茶番を終わらせられるのでは?」
「力ずくで女落として喜ぶなんて、5歳のときに卒業してんだよ」
見れば見るほどいい女。
毛穴無いんじゃない?レベルで余すところなく美人だ。
手とか繋いで街練り歩きてぇ~。
我ながら殺されようとしてる最中に呑気だと笑いが込み上げた。
「ウッヘッヘ」
「何がおかしいのですか」
「いやいや悪いね。必死になってるシャーリーが可愛くて」
「光栄ですと言っておきましょうか」
「ぬおっ!」
身体を反転させて繰り出してきた蹴りに、同じく軸足を起点に身体を回した蹴りを合わせる。
重っも…蹴りの威力がサ○ジじゃん。
私じゃなかったら足砕けちゃってるぞ。
「あくまで防御するだけ…。とっくに割れているんですよ、あなたが女性を傷付けまいとしていることくらい。手加減なんてしている余裕があるのは結構ですが、それで私をどう制するつもりですか?」
「やってみなくちゃわかんないでしょ。突然シャーリーが、負けました私をあなたの女にしてくださいって懇願する可能性だってあるだろ」
「まだふざけていられる余裕があるようですね」
「これが私なもんでね」
剣とナイフで鍔迫り合いながら、灰色の目を見つめる。
「人が呆れるくらい女好きで、自分の欲望にはひたすら真っすぐで、仲間のことを大切にしてて、強くて頭良くて家庭的で可愛いとキレイとカッコいいを高次元で超越した、神に選ばれし時代の寵児。世の中の女の子が全員惚れちゃう究極完全完ぺき絶世のスーパー美少女!それが私、リコリス=ラプラスハートだ!!」
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美しく眩しい太陽のような人。
彼女を初めて見たとき抱いた感想。
見ていてるだけで目が眩む。
近くにいるだけで身が焼けそうになる。
「私…あなたのことが嫌いかもしれません」
「おお…初めて言われたけど結構グサッとくるな…。まあ、それでも私は全ての女の子を愛するって決めてるけどね」
なんて自分に正直な人。
自己肯定感の塊のような素直な人。
今まで会った誰よりも頭のおかしな人。
私とは違う。
全然違う。
何もかもが違う。
ザワつく…心の波が大きくなる。
「……っ」
「おいおいどうした?技のキレが落ちてきてんぞ」
知らないくせに。
理解らないくせに。
何故この人は…
何故あなたは…
「何故…そこまで私に構うのです!」
私は激昂してナイフを振った。
「言わなかった?私たち、仲良くなれるよって」
「ただの希望です!道理も根拠も無い!」
「道理と根拠が無きゃ友だちになれない?」
「暗殺者と一般人では生きる世界が違う!私は!!」
「シャルロット=リープのことはよく知らない。けど、ふとしたときに笑うシャーリーのことは知ってる。お前は…誰かを守れるいい女だろ」
守る…?
私が…?
「シエラがヒナちゃんを襲ったとき、それを守ったのは誰だ」
「シエラさんを殺そうとしただけの二義的な結果に過ぎません!」
「無関係な私を遠ざけて、危険に晒さないようにしてたのは誰だ」
「邪魔をされたくなかっただけです!」
あなたに何がわかるのかと、私は叫んだ。
「人を殺したこともないくせに!そうしなきゃ生きられない世界を見たこともないくせに!知ったような口で、私を語らないでください!」
腹にナイフが突き立って、真っ赤なものが足を流れた。
血溜まりの上で、少女は血に濡れた私の手を握った。
「なら訊かせろ。シャーリー、お前は…好きで人を殺してきたのか!!」
『世界を恨むなら、抗いたいなら、その力をあなたに授けましょう』
それは、かつて地べたに這いつくばる私に手を差し伸べてくれた人の言葉だ。
逆境は自分の手で覆すしかないという教え。
その人に、殺しの何たるかを叩き込まれた。
生きる術を教えられた。
生きるために。
礼節を学び、品性を高め、教養に勤しみ、感情を知った。
窃盗、姦淫、詐欺、傷害、殺人…生きるために何でもやった。
『あなたには才能がある』
嬉しかった。
何も無い私に取り柄があると知って。
屍を積み上げ、どれだけを手にかけたか数えなくなった頃、命を摘むことに疑念を抱かないようになっていた。
それが…たった一人の少女の存在によって揺らがされた。
道徳?条理?意味?理由?
今更…悔やむな。迷うな。
私はただの人殺しだ。
暗殺者が、人並みの人生を願っていいわけがない。
ない――――――――
「シャーリー!!」
「!!」
「私の目を見ろ!!自分の言葉で言え!!」
悔やんでいいわけがない。
迷っていいわけがない。
だって私は――――――――
「一度だって、人を殺して笑えたことがあったのか!!」
ナイフがより深く刺さって、燃えるように熱い血が手を伝う。
何故私なんかに構うのか。
何故この人は、こんな私に真っすぐ向き合おうとするのか。
普通じゃない。
馬鹿げてる。
なら…こんな戯言を口にしても、信じてくれるだろうか。
「殺したくて殺したことなんか、一度だってありませんよ」
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「生きるために殺すしかなかった…。それ以外の生き方が、私には無かった…。あなたは…」
目が気に入らないと親に捨てられたことはありますか、とシャーリーは訊いた。
「落ち葉を床に、残飯を漁り、汚いと嘲られ、穢らわしいと嗤われ、蹴られ罵られ石を投げられ、それでも足らずに唾を吐かれて。世界から排他された私を、一人の女性が拾ってくれました。それが暗殺者ギルドのマスターです」
いろんなことを教わって、いろんなことを学んだ。
殺しはその中の一つだと言う。
最初に殺したのは親だとも。
「仕方なかったと、私は私を肯定しません。罪は罪。もうすでに、死ですら償えないほど私の手は汚れている。だから、私はあなたが気にかけるような人間ではないのです。この世界でしか生きられない私には、もう何も無いのです。お願いです…もう、私には構わないでください…。これ以上は、私が私でなくなってしまいます…」
聴けば聴くほど業が深い。
私の知らない世界の話。
そんなもん知るか。
「私は…」
「うるせえよ」
私は刺さったナイフを抜いて投げ捨てた。
「私は全ての女の子を愛するって決めてる。幸せにするって決めてる。目の前で悲しそうな顔してる女を、はいそーですかで見捨てられるわけねーだろ!!」
シャーリーは優しい女だ。
笑顔がステキないい女だ。
何も知らない?
それだけ知ってればいいだろ。
「自分の人生は後悔の連続か?悲しかったことばっかりか?なら私が上書きしてやる!お前のことを幸せにしてやる!」
「あなたは、なにを…」
「人を殺したくないなら殺さなくていい!償いたいならそれ以上に人を助ければいい!私がもう二度と、この手を血で汚させたりしないから!」
単に顔が好みというだけかもしれない。
興味があっただけなのかもしれない。
それでも私は、確かにこの人に惹かれた。
この女を私のものにしたいって、そう思った。
傲慢?
自分勝手?
そんなの今更でしょ。
欲張りが欲張りらしく行って何が悪い。
「私のところにおいで。お前の全部を私によこせ。人生も、技術も、心も。暗殺者は要らない。シャルロット=リープが私は欲しい。何も無いって言うなら、私がシャーリーにあげる。教えてあげる。光の下で生きる方法を。人を愛する気持ちを」
とことんイキってカッコつけてやろうと、シャーリーの頭に手を回した。
「私のことを好きになれよ、シャーリー」
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「私のことを好きになれよ、シャーリー」
時が止まったような衝撃を受けた。
愛の告白にしては野暮ったく、情緒の欠片もない、傲岸不遜な物言い。
だけど、あたたかった。
おもしろいと思ってしまった。
この人以外に言われれば横っ面を蹴飛ばすくらいしただろう。
そのくらい衝撃的で、その言葉はひどく私を奮わせた。
身体中が総毛立って、今まで感じたことのない熱さが顔に宿った。
たかが暗殺者の分際で。
人間以下の獣のくせに。
「っ!!」
糸を手繰り落ちたナイフの柄に巻き付ける。
引き寄せて手に持ったナイフがいつもの何倍も重く感じて、刃の先が震えていた。
『たぶん私たち仲良くなれるよ』
ただの世辞だ。
違う。
妄言だ。
違う。
惑わせているだけだ。
違う!
この人は暗殺者としてじゃない…シャルロット=リープとして私を見てくれている。
私を欲しいと言ってくれている。
「……血に汚れた私を傍に置いて、後悔するときが来るかもしれませんよ」
「しない」
「あなたを裏切るかもしれない」
「させない」
「他の誰かを選ぶかも」
「私よりいい女なんかいないだろ」
そんな身勝手が赦されるのなら。
人並みの人生を望んでいいというのなら。
私は、この運命に抗ってみたい。
「リコリス=ラプラスハートさん。この腕を、技を、シャルロット=リープの名をあなたに預けます。売るも棄てるもご随意に。ただのシャーリーとして、あなたの下に付き従うことをお許しください」
跪いて血溜まりに頭を垂れる。
私はこんなにも浅ましかったのかと思い知らされた。
彼女を前にすると、自分の罪が雪がれる気にさえなる。
そんなわけがあるはずもないけれど。
この人について行ってみよう。
最後まで。最期まで。
この恋はきっと、私の本物だから。
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氷の鳥籠が砕け、師匠の【空間魔法】でみんなが集合したわけだけど。
「見境が無さすぎる」
「この状況でよくもまあ口説けたものですね」
いやー、視線冷てえ。
みんな必死に魔物の進行食い止めてたのに、私はナンパしてるんだもんね。
どんな精神状態してんのってフロイト先生も爆笑するわ。
でも私だって頑張ったよ?
見てこれお腹刺されたの。
【自己再生】ですっかり治ってるけどね☆エヘッ☆
「よりによって暗殺者を仲間に入れるなんてね」
「もう暗殺者じゃないよ。シャルロット=リープの名前は私が預かった。ここにいるのはただのシャーリーだ。百合の楽園の新しい仲間。みんな歓迎してあげてね」
「シャーリーと申します。以後お見知り置きを」
「うむ。新参とて固くならずともよい。気楽にせよ。妾はテルナ=ローグ=ブラッドメアリー。テルナと呼ぶことを許そうぞ。同じ女に惚れた仲じゃからな」
さすが師匠。
最年長なだけあるわ。
「……これまでの経緯はどうあれ、リコが決めたことに異論はありません。リコを害することがあれば容赦はしませんが、仲間ということなら歓迎しましょう。アルティ=クローバーです。ようこそシャーリー。リコの相手は苦労しますよ」
「もうすでに理解しています」
なんじゃと?
こんな可愛い私に苦労かけさせられるなんて嬉しかろ?ん?
さて…問題はドロシーか。
「あんた、自分が何をしたのか忘れてないわよね」
「ええ。もちろんです」
殺す殺されかけた仲なんだよなぁ。
そんなハードな関係の取り持ち方なんて知らねーんだが?
「あの!」
一触即発かと思われた矢先、マリアとジャンヌがシャーリーに近寄った。
「お姉ちゃんは…あのとき助けてくれた人ですか?」
「雨の中、奴隷だった私たちを助けてくれた人だよね?」
シャーリーはそれに対して何も言わなかった。
目を背けるだけ。
助けたつもりはない、そんな風に思ってそう。
「ずっとお礼を言いたかったの!お姉ちゃんがいなかったら、私たちはあのまま死んじゃってたかもしれないから!」
「お姉ちゃんが助けてくれたから、私たちはリコリスお姉ちゃんたちと出会えました!だから!」
「「ありがとうございます!!」」
シャーリーは深々と下げた二人の頭に手をやって、泣きそうな顔で名乗った。
「シャーリーです。あなたたちの名前は?」
「マリア!」
「ジャンヌです!」
「これからはお姉ちゃんとも旅が出来るの?」
「嬉しいです!またお姉ちゃんが増えました!よろしくお願いします、シャーリーお姉ちゃん!」
「よろしくねシャーリーお姉ちゃんっ!」
「よろしくお願いします。マリアさん、ジャンヌさん」
「エヘヘッ。マリアさん、だって。なんだか大人になったみたい」
「照れちゃいますね」
どこかの誰かの命を奪ってきたシャーリーだけど、それが誰かを助けることにも繋がってた。
ただの偶然だとしても、これは運命だ。
私たちと一緒になるべくした運命。
その運命の中に組み込まれたドロシーは、ふぅ、と息をついた。
「妹たちが懐いてるんなら仕方ないわね。けど、いい?アタシはあんたがしたことを絶対に赦さないし忘れない。罪は消えないってことを覚えておきなさいよ」
「はい」
「アタシが言いたいのはそれだけ。どうやらお互い、悪い女に引っかかったみたいだし。ドゥ=ラ=メール=ロストアイ。ドロシーって呼んで。私もシャーリーって呼ぶから」
「こちらこそよろしくお願いします、ドロシーさん」
うむうむ。
みんな仲良しで何より♡
「てかしれっと一緒なんだけど、そのカブトムシ何?でっか大型犬くらいある」
「さっきのゴタゴタでちょっとね。従魔契約したの。ゲイルよ」
『…………』
【念話】は使えてるはずだけど、寡黙だな。
【神眼】使ってっと。
なになに?
「パンツァービートル…硬くて速い。角を発射する。また生える」
【神眼】に進化しても【鑑定】さんの必要最小限の情報開示よ。
てか上位種なんだ。
リルムたちとお揃いじゃん。
『よろしくねー』
『…………』
角でツンツンしてるしてるから無愛想ってわけじゃなさそう。
仲良くやりたまえよ。
「角があるってことは雄か」
もっかい【神眼】。
パンツァービートル。硬くて速い。角を発射する。また生える。雌雄型。
雌雄型…ってことはどっちでもあるってこと?
それって、ふたな○――――――――
「コホン…我ながらはしたないことを…。ていうかリルムたち進化してない?!」
「本当ですね」
『進化したー』
『可愛くなっただろ』
「シロンおま…なんだその愛くるしい羽は…。具現化系のあざとさじゃねーかちょっとモフらせろ!」
成長しよるわこやつら…
どんだけ強くなんのよ…そのうち魔人になっちゃうんじゃないの?
さてさて、これからどうするかね。
「とりあえず、シエラは冒険者ギルドに突き出さないとだろ…。それから虫の後始末と、荒らした屋敷と庭の修繕と…。やること多いな……もうめんどくさいから密出国しない ?」
「それよりもまずは、シャーリーでしょう。シャーリー、あなた世間の認知度は?」
「賞金首になっていない程度でしょうか」
「見る人が見ればバレるってことね」
「バレたら?」
「国にもよるでしょうが、縛り首がいいところですね」
「顔を隠すにも限界があるし」
「妾の仮面付けるか?」
「何かいい方法無いかね?」
「じゃから仮面」
「フードを被りっぱなしってのもね」
「泣くがよいのか?」
キャラ付けで仮面被ってる厨二かぶれは引っ込んでろ。
てかその仮面取れ顔めっちゃ可愛いんだから。
「まったく…妾のセンスを理解出来ぬ愚か者どもめ。ほれ、これで何とかするがいい」
師匠は私にスキルをくれた。
「【付与魔術】?物に術式を組み込んでエンチャントするあれ?」
「また理外なことを…」
「テルナあんた、今この世界にどれだけのエンチャンターがいると思ってるのよ…」
「知らぬが。昔はそこら中におったし、ありふれた技術じゃったぞ」
で?この【付与魔術】で何しろと?
「指輪でもネックレスでもよい。認識阻害の術式でも書いて身につけさせれば、シャーリーの存在はバレぬよ。念のためもう一つ、予備策も考えてあるが」
「おーさす師!マジありがとます!ヤれば出来る女略してヤリマ――――」
「全身の血抜くぞ」
「さーせん」
何かあったっけなー。
装飾品装飾品…………お、これなんかいいじゃん。
テレレテッテテーめ~が~ね~。
度が入ってない伊達眼鏡に、術式とかはよくわからんから、指先に集めた魔力で認識阻害って書いて…はい出来た!
「はい、掛けてみて」
シャーリーは眼鏡を受け取った。
「どう、ですか…?」
「うおおおおおおおおお!!有能秘書風眼鏡美女爆誕!!存在がエッチスケッチいやんエッチやったぁぁぁぁー!!」
「膝からスライディングしてガッツポーズするほどに」
うわぁあああああキレイ可愛い好きぃぃぃぃ!!
って、
「いや眼鏡かけてシャーリーがより美人になっただけじゃねーか。失敗してない?」
「そなたが無意識に妾たちを認識阻害の対象の外にしただけじゃろたわけ。他の者には効果を発揮しておるよ」
ほーん。
私が付与の天才って話?照れる。
とにかくこれでシャーリーの存在は隠せるっと。
なんか私たちだけの秘密ってワクワクすんなァ。
「それで?捕まえたって暗殺者はどこ行ったのよ」
ドロシーの何気ない一言に、私とシャーリーは揃ってシエラの方を向いた。
「あれ?!どこ行った?!さっきまで寝てたのに!跡形もねえ!」
「逃げられたんですか?」
「そこに転がっておった娘なら、妾らが到着したタイミングで消え去ったのじゃ」
言えや。
こっち感動的なやつやってたんだから。
「逃げられたのヤバいかな?」
「いえ。周到に用意した計画を正面から打ち砕かれた今、少なくともこの国の大公を狙うことはしないでしょう。彼女は無闇に武力を行使するタイプではないので」
一度失敗した依頼に拘らない潔さは、こっちとしてもありがたい。
とりあえず心配はしなくていいってことか。
「後片付けは夜が明けてからにしよーぜ。疲れたし眠いし。手伝えよシャーリー」
「はい。何なりと」
「ニシシ。よしっ、そんじゃま…そろそろ限界なんで…」
バタン
「リコ?!」
「リコリス?!」
「うおお…痛ってえ…」
「【痛覚無効】はどうしたんですか?!」
「正々堂々やらなきゃと思って…無効にした…。正直今虫の息…」
「稀代の大マヌケ!!」
【自己再生】で傷だけ塞がってんだけどね…
「生理の6倍痛いよぉ…ありったけのポーションぶっかけてぇ…。朝まで膝枕でよしよししてぇ…」
「知りません!!カッコつけ!!そのまま反省してなさい!!」
「馬鹿につける薬は無いって言うでしょ」
「そんなァ~…」
自業自得なんて罵られてるけど…私、リーダーぞ?
「マリアてゃ~ジャンヌたそ~…」
「えっと…」
「ファ、ファイトだよ!お姉ちゃん!」
「師匠~シャーリー~」
「服についた血、勿体ないから舐めてよいかのう?」
「えっ、と…ニコッ(精一杯の愛想笑い)」
「うわあああああん!みんな冷たいンゴぉぉぉ!もっと私を労れ褒めろ甘やかせぇぇ!撫でてチューしておっぱい揉ませろオラァ!リーダーをなんだと思ってんだチクショーがよぉー!」
ジタバタジタバタ。
痛すぎてその場でふてくされた。
ベッドの上まで丁重に運ぶことだな!ふんっ!
こうして私たちは新たな仲間、元暗殺者のシャーリーを迎えた。
ドロシーがパンツァービートルのゲイルと契約したり、リルムたちはなんかめっちゃ強くなったりして、シエラには逃げられたり、なんかいろいろゴチャゴチャとしてるけど。
まあ、このドタバタが嫌いじゃない。
「優しくしてくんないとやーだーーーー!!泣いちゃうよ?いいの?優しくしないと泣いちゃうぞ?はいもうリコリスさん泣きまーす!!ぴえええええええん!!」
一番ドタバタしてるのは私かもしれないけど、ご愛嬌ってことで。
それもまた私らしく。私たちらしく。
これからまた楽しくなりそうだ。ニシシシ。
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