花火と少女は空を舞う

紺青くじら

文字の大きさ
8 / 8

エピローグ

しおりを挟む
 涼平と別れ、ハナは一人戻ってきていた。涼平と一緒に花火を見た、小さい丘の上に。
 空は穏やかで、遠くには月が浮かんでいる。優しい風と、虫の音が心地いい。
 ハナは目を閉じ、これまでの日々を思い出していた。手には詩織さんからもらった本と、水族館でもらったイルカのおもちゃ。そうして、さっき夏祭りでもらった水風船がある。どれもハナにとって、大切な思い出だ。

 ずっと、涼平と話がしたかった。
 涼平と話す事ができたら、とても楽しいと思っていた。
 彼は自分はつまらない人間だと言うけれど、私はそうは思わない。彼は確かに優柔不断で意気地なしだが、優しくて思いやりがある人だ。
 彼が外で見て来たものを話してくれる時間は、私にとって幸せなものだった。水槽から見える世界はとても狭い。それなのに、私はあの家での暮らしを窮屈に思うことはなかった。涼平がいつも、楽しそうに話してくれるから。私は彼の生き生きと話す姿を見るのが好きだった。
「お別れを言ってきたのかな」
「神様」
 私は話しかけてきたその声に、顔をあげた。見かけはただのおじいさんだが、彼は立派なこの地の神様だ。
「お別れは、言いませんでした。なんか、いやで」
 私のその言葉に、神様はにこやかに笑った。
「感想は」
「とても楽しかったです。おかげさまで、夢が叶いました」
「成仏はできそうかな」
 その言葉に、私は自分の体を見る。もう、足は透け始めていた。周りでは、皆が光になって飛んでいっていた。自分も今年こそは、飛んでいかなければいけない。
 私は、死んだ後もずっと涼平のそばから離れられないでいた。ずっと見ていたから、涼平が詩織さんの事を好きな事も分かった。そうして、彼女は良い子で、涼平に好意を抱いている事も気づいた。
 彼女が遠くに行ってしまう事は、彼女がお友達と話しているのを見て気づいた。なんとかしてあげたい、そう思っていたところに、神様が声を掛けてくれたんだ。
「はい……本当に、有難うございました」
「でも、後悔してないかい? 私は君の、彼と話がしたいという夢を叶えた。でも君は、彼と彼の想い人を取り持ってばかりで、辛かったんじゃないかと思ってね」
「やだ、神様。私にとって涼平はそんなんじゃないですよ」
「そうなのかい?」
「そうです。涼平は私にとって、大事な友達です。それ以上でも以下でもありません。大好きな友達の恋は、応援したいでしょう?」
 神様は私のその言葉に、穏やかに微笑み、そうして私の手を握った。
「お疲れさま」
 私はその言葉に笑みを返し、空を見る。涼平と見た花火は、とても綺麗だった。
「ありがとう、涼平」
 そうして私の姿は透け、やがて元の姿に戻る。赤く、小さいその姿に。持っていた物たちは、小さな光となって私の周りに浮かんでいる。一緒に持っていっていいそうだ。元の姿に戻りながら、ハナは涼平との帰り道でのやり取りを思い出す。
「花火って、あっという間なのね」
 どんなに綺麗でも、どんなにその花火が時間をかけられて作られたものであっても、光り輝く瞬間は限られている。
 涼平はハナの言葉に、彼女の頭を撫でながら答えた。
「うん、でも今日見た花火は、たぶん一生忘れない」
 ハナは笑みを浮かべる。そうして、明るい光に包まれながら、声にならない言葉を紡いだ。

 うん、涼平。

 私も、きっと忘れない。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

裏切りの代償

中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。 尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。 取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。 自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

心配するな、俺の本命は別にいる——冷酷王太子と籠の花嫁

柴田はつみ
恋愛
王国の公爵令嬢セレーネは、家を守るために王太子レオニスとの政略結婚を命じられる。 婚約の儀の日、彼が告げた冷酷な一言——「心配するな。俺の好きな人は別にいる」。 その言葉はセレーネの心を深く傷つけ、王宮での新たな生活は噂と誤解に満ちていく。 好きな人が別にいるはずの彼が、なぜか自分にだけ独占欲を見せる。 嫉妬、疑念、陰謀が渦巻くなかで明らかになる「真実」。 契約から始まった婚約は、やがて運命を変える愛の物語へと変わっていく——。

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】探さないでください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
私は、貴方と共にした一夜を後悔した事はない。 貴方は私に尊いこの子を与えてくれた。 あの一夜を境に、私の環境は正反対に変わってしまった。 冷たく厳しい人々の中から、温かく優しい人々の中へ私は飛び込んだ。 複雑で高級な物に囲まれる暮らしから、質素で簡素な物に囲まれる暮らしへ移ろいだ。 無関心で疎遠な沢山の親族を捨てて、誰よりも私を必要としてくれる尊いこの子だけを選んだ。 風の噂で貴方が私を探しているという話を聞く。 だけど、誰も私が貴方が探している人物とは思わないはず。 今、私は幸せを感じている。 貴方が側にいなくても、私はこの子と生きていける。 だから、、、 もう、、、 私を、、、 探さないでください。

義母と義妹に虐げられていましたが、陰からじっくり復讐させていただきます〜おしとやか令嬢の裏の顔〜

有賀冬馬
ファンタジー
貴族の令嬢リディアは、父の再婚によりやってきた継母と義妹から、日々いじめと侮蔑を受けていた。 「あら、またそのみすぼらしいドレス? まるで使用人ね」 本当の母は早くに亡くなり、父も病死。残されたのは、冷たい屋敷と陰湿な支配。 けれど、リディアは泣き寝入りする女じゃなかった――。 おしとやかで無力な令嬢を演じながら、彼女はじわじわと仕返しを始める。 貴族社会の裏の裏。人の噂。人間関係。 「ふふ、気づいた時には遅いのよ」 優しげな仮面の下に、冷たい微笑みを宿すリディアの復讐劇が今、始まる。 ざまぁ×恋愛×ファンタジーの三拍子で贈る、スカッと復讐劇! 勧善懲悪が好きな方、読後感すっきりしたい方にオススメです!

処理中です...