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第一章 後宮の中でも外でも事件だらけ

皇帝の宿願

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 寿樹は自分がなぜここに居るのか、と思っている。

 裁判の後に皇帝に残るように言われて残ったのだが、そのメンバーがなんとも言えないほどのメンバーであり、寿樹一人が場違いだ。明悠、宰相と李将軍、玄純といった皇太子に皇帝の懐刀、英雄と四大貴族の一つの家長の中に下女が混じっているのは違和感しかない。そのうえ、新たに加わったのは皇帝の右腕である高俊だ。さらに場違い感が強まってしまい寿樹は自分の気配を消すことだけに努める。しかし、それはできないことだ。

「さて、全員いなくなったな。まずは、寿樹。」

 皇帝が一番に寿樹の名を呼ぶ。それにはじかれて寿樹は驚いているが、それを出さないように一拍おいて返事をするが、呼ばれた理由は分からないので戦々恐々としている。

「先ほどの裁判ではよくやった。余は生きている間に初めて見た光景であった。あれだけの物証をよく残して置けたものだ。」

 暗に”この事態を予測していたのか”と問われていそうだが、寿樹はその言葉通りに受け取ることにする。

「運がよかっただけです。兵士たちに連れて行かれた時に思い浮かんだんです。誰かの定かではない証言より物証の方が人に影響を与えられますから。」
「なるほど。それは確かに真実だな。証言は偽りを真だとできるが、証拠があればそれは一気に難しくなる。」
「はい。これがきっかけになって白を黒だと言えないような場所になればいいと思います。」
「そうか。」

 皇帝は感心するように言う。
 彼はしばらく何かを考えるような声をあげる。
 その時、扉から若い官吏が一人入って来て宰相に耳打ちするとすぐに部屋を出ていく。

「どうした?」

 宰相に向けて皇帝が尋ねる。

「陛下、淑妃様が少しなら話せるようになったとのことです。」
「そうか。それは何よりだ。淑妃を外に出す必要もなくなったか。皇太后と皇后が出てくれたおかげだな。賢妃にも世話をかけたな。褒美をあげねばなるまいか。」

 皇帝が小さくつぶやく。
 その言葉に寿樹はストンと納得する。

「さて、今後の話をする前にここにいる皆は余の目的を聞いても同調してくれると思って、この場に集めた。だから、余はこれからすることをここで話そうと思う。余の宿願とでも思っておいてくれ。別に手伝ってほしいわけでもないから緊張する必要はない。」

 急に始まった皇帝の話に寿樹は自分がここに呼ばれた理由がさらにわからない。かといって、彼の言葉を遮るような心の図太さなど持ち合わせていない。

「余はこれから中央貴族の弱体化を図る。だが、これは四大貴族を中心にする、という意味ではないことだけは注意してほしい。余はただ、今日寿樹がやって見せたように公平さを求めるだけだ。そして、目前のすべきことは皇太后と皇后の罪を暴き、彼女らを追い出す。皇后がいなくなると後宮が騒がしくなるが、その後宮も縮小し皇后の座には余の時は誰もつかせることはない。余の妃は生涯ただ一人だ。」

 皇帝の強い言葉が部屋にあふれる。

 意思が乗った言葉は人の心を動かし魅了してやまない。
 それはまるで人より上の、神が宿ったような力を持っている。
 人はそれを”言霊”というのだ。

 寿樹は遠い昔に知ったものを思い出し、今初めて体感する。
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