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第二章 山も海も賊が多い

賊が最初に登場しました

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 寿樹たち一行は馬車に揺られて早一日が経つ。辺境から都までも道が荒れていたが、南に行くのもそんなに変わらないことに寿樹は少しだけ気が滅入る。ただ、あの時は馬車といっても屋根もないおそまつな作りだったために今に下が抜けそうだったが、今回はそれがないのだけ幸運だ。それに、お金持ちだろう二人がついているために、ちゃんと宿を取って休めるから体はそんなに疲れない。そのはずなのだが、一日ずっと馬車の中にいるとさすがにどんなに気が長い寿樹でも耐えられないことがある。

「梅さん、あと何日ぐらいですかね。」
「さあ、私が知るわけがないわ。」

 梅は疲労も見せずに何食わぬ顔をして返すだけだ。そのつれない彼女の様子に寿樹は寂しく思うのだが、考えてみたら都から出たこともない彼女がわかるわけもなく、初めての遠出なので内心不安なのかもしれない。寿樹はそんな彼女を気遣おうと話しかけるのだが、それが彼女の機嫌を逆なでしているようだ。

「もう、ちょっと黙っていなさいよ。」

 最後にそう言われてしまい、寿樹は押し黙る。
 自分の失敗を反省しつつ、馬車の中から見える景色を眺める。

「だんだん、山になってきたな。」

 寿樹の斜め前、梅の正面に座っている信が同じように窓を眺めていて、懐かしそうにつぶやく。彼がこの辺りに詳しいのが本当に思えてきて寿樹はただ聞いている。

「寿樹は先ほど詳しかったからこの辺りの事情に詳しいんですよね?」

 寿樹の視線が強すぎたのか、信は寿樹の方を振り返って話しかけてくる。彼なりに寿樹を思っての行動なのだろう。この馬車に乗ってから信は梅と立悠のお目付け役、寿樹は梅の世話役、立悠と梅は商家の出であり二人で見分を広めるために色々と回っている設定になっている。ちなみに、立悠と梅は全く似ていないために又従兄妹設定としている。この設定を言い出したのは何を隠そう信である。だから、彼が寿樹を名前で呼ぶのは何ら不思議ではない。しかし、寿樹としては違和感しかないのが現状だ。

「いいえ、実はさっきのは全て想像ですよ。本当は全くと言っていいほど詳しくはありません。辺境から都に来る時も結構迷いましたし。」
「それは、俺たちはまんまとあなたにはめられたってことなのか。」
「そう言うことになります。でも、”はめた”なんて人聞きが悪いですよ。私としては警戒の一種なんです。大事なお嬢様をお守りしないといけませんから。」

 寿樹は梅をみながら言う。すると、なぜか梅は心底嫌そうな顔をしたかと思うと顔をそっぽ向けてしまう。後ろ顔はほんのりと赤みを帯びているように見えるのは窓から入る夕焼けの光だろう。

「なーるほど。そういうことか。俺たち男は女に騙されてなんぼ。ぼっちゃん、ちょっとは経験を積めましたね。」

 信に面白がるような視線を向けられ立悠はわずかながらにバツが悪そうな顔をする。それにしても、信はさすがに言いだしっぺだけあって設定が板についている。

「何が経験だ。お前だけだろう。俺は最初から疑っていた。」
「へえーーー、本当ですか?」

 信の疑う眼差しに耐えきれなくなったのか、立悠もそっぽを向いてしまい結局話をしていたのは寿樹と信のみ。おそらく、遠出をした経験があるのは信と寿樹の二人だけだったからだろう。何しろ、立悠と梅はかごの鳥だっただろうから。

 ガタガタ

 馬車が一定のリズムを刻んで進む。ここまでは順調だったので寿樹は立悠と信が来た理由を忘れていたのだ。

 ヒヒーン!

 そこで、馬が緊急を知らせるように鳴き、馬車は急ブレーキがかかって止まる。その反動が大きかったので寿樹は前のめりになるのを寸分で堪えたが、梅はこらえられなくなり正面の信に寄りかかる形になる。信がちゃんと受け止めたので心配はない。

「何事だ!」

 立悠が御者の方に叫ぶも御者が声にならないのか、すでに不在なのかわからないが全くの応答がない。しかし、周囲は静けさとは無縁となり、土を踏む音が数十人分聞こえる。それに寿樹は都出発前の信の話を思い出し、一つの答えが頭に思い浮かぶ。

「賊、でしょうか?」

 寿樹の言葉に他三人が固まる。狼狽していたはずの梅が落ち着きを取り戻し、立悠と信がどこから取ってきたのか長剣を取り出す。

「それなら話は早い。」
「ああー、やっとか。やっぱり、長い間座っているのは辛いな。」

 二人はやる気に満ち溢れ、梅まで手をぽきぽきと鳴らしている。

(なんで三人ともそんなに落ち着いているの!?これ、小説とかだと泣き叫ぶシーンじゃないの?ちょっとは狼狽えてあげないと可哀そうなんだけど!普通に考えてこれはピンチの場面だから。間違ってもそんな”チャンス来た”ってなる場面じゃないと思うんだけど。)

 寿樹は三人の反応に心の中で嘆いている。

 二人が馬車から降りると下品な笑い声が聞こえる。

「こりゃ、また品のある坊ちゃんたちが降りてきたな。それにしても、武器を持っているってことは俺らとやり合おうっていうのか?そんな細い腕で?育ちがいいお坊ちゃんはせいぜい女を盾にすることが関の山だぞ。」

 ガハハハッ
 ハハハッ

 男の言葉に同調するように周囲も卑猥な声で笑う。
 寿樹は二人が出たところの隙間から賊らしい男性たちを見ていると、なぜか彼らの中で遠目だからそう見えるのかしれないが、体調が悪そうな男たちが数名見受けられる。顔色とかではなく、咳をしているのだ。ただ、環境のせいもあるので寿樹としてはあまり面倒はごめんなのでこのまま様子を見ることにする。
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