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第二章 山も海も賊が多い
やっと着いた!南の領主のお膝元
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寿樹たちは塩の件を色々と詰めて、結局塩が完成してから二日経って町を出た。その二日間は町がにぎわってしまって毎夜宴会のようにはしゃいでいて心配していたのだが、町を出る頃には町の人は生き生きとしていて気持ちが緩んだわけではなさそうで安心した。
「本当にありがとうございました。」
「皆さんがいなければ、私たちはどうなっていたことかわかりません。この子を守ることもできなかったでしょう。」
親方と可香にお礼を言われ最後まで後ろに控えている町の人たち全員から見送られる。
「さようなら!こちらこそありがとうございました!また、会いましょう。」
「はい、絶対にまた会いましょう。寿樹様。」
様付けが何でかは分からないが、塩を作る途中から町の人たち全員からそう呼ばれてしまい、何度訂正しても止めてくれないので、疲れ果てた寿樹はその呼び方を許している状態になっている。それだけが心残りだが、彼らとはいい思いでを作ることができたので満足だ。
「うん、いい街でした。」
「そうだね。寿樹はどこでも楽しそうだけどね。」
「信さんだって、生き生きしていましたよね。どこに行っていたのかは知らないですけど、楽しそうでしたよ。」
「そうですか?寿樹の見間違いでしょう。」
「そうですかね。」
寿樹は見た時の信の顔は笑っているようにしか見えなかったので、彼に否定されて見間違いを考える。
「この人の話は半分で聞いておきなさい。それより、寿樹、分かっていると思うけど、私たちは予定より大幅に遅れているの。だから、これからの工程は休みなしで行くわよ。そうすれば、二日ほどで着くわ。」
「わ、わかりました。」
それは一体どのくらいの距離?なんて聞くことができない。
先ほどから、すごいスピードで走っているのでだいぶというより、大幅にペースを上げているのだろう。少しでも石があるとお尻が少しだけ座椅子と離れるほどだ。
ガタンガタン
これだけのスピードで走ることを想定していたから彼らは何も言わなかったのだとこの時寿樹は思い知る。こんなスピードでも三人は慣れているのか、三人は平然としている。梅に至っては時々眠っている様子で寿樹は感心してしまう。都会育ちでお嬢様なのに、この揺れに動じないほどの度胸にだ。
「お客さん方、もうすぐ着きますね。」
二日間、馬をたまに変える以外はほとんど休みなしで走っていたら、梅が言った通り本当に二日で着いた。それも山賊や盗賊なんて物騒な者たちに遭うこともなく、安全な旅路と言えるだろう。あの揺れさえなければ。
馬車から降りると膝が笑っているようで、地面に足をついている感覚がなく体全体が揺れているようだ。それで、体がふらついて倒れかける。その瞬間、立悠に受け止められて心配そうに声をかけられる。
「大丈夫か?」
「はい。何とか。」
「飛ばしすぎたな。乗り物酔いはなさそうでよかった。」
「それは大丈夫です。」
寿樹は自分が全く酔わない体質だ。それは以前から変わらない。
「そうか。それより、これから領主館に向かうから気をつけろ。相手はお前の顔を知っている。」
(ああ、あの公開裁判の時ですか、そうですか)
寿樹は立悠に言われて気づく。
あの時、貴族もいて、そこにはもちろん四大貴族の朱家も含まれている。
「わかりました。気を付けますよ。」
寿樹は気を引き締める。
領主館に行くのに歩いて行くのはあまり目立たないようにするためらしく、手土産を乗せた馬車は先に領主館に向かっている。元々、寿樹たちはそんなに大きな役割はなく、ただ観光も含めた南の領地である港町の偵察だ。様子伺いであり実情の把握でもある。皇帝の一つの目と耳が寿樹ではないが、立悠と信の役割なので、こうして町を歩くのはそれに最も効果的だ。
「うわ、あそこの屋台おいしそう!」
「あ、あれは香水?」
「うわ、これはスケスケだ。」
そんなことを気にしない寿樹は町に来ては外国から仕入れたであろう品々に目を奪われて次から次へと見て回る。
「あ、イカ焼きだ!食べたい!」
「お、目がいいね。お嬢ちゃん。これは今日の朝とれたものだよ。味が良いのは保証するよ。」
「獲れたてですね。やったー!じゃあ、一つください!」
「ああ、いいよ。」
おじさんにお金を払ってイカ焼きを受け取り、寿樹はたまらずその場でイカにかぶりつく。塩味が効いた海の幸はまさに絶品で、寿樹は思わず頬を押さえる。
「あんた、よくそんなの食べられるわね。」
梅は奇妙なものを見るような顔をする。
「ああ、都から来た人たちだろう、あんたらは。都の人はみんなそんな顔をするな。」
見慣れているようでおじさんは豪快に笑っている。彼が陽気な人で助かり、寿樹は安堵する。
「梅さん!そんなことを言ってはダメですよ。これは立派な食事ですし、とてもおいしいんですよ。食わず嫌いはいけません。ほら、食べてみてください。」
寿樹はぐいっと彼女の口もとにイカを持って行く。彼女は渋々そのイカにかぶりつくとちょっとだけ表情がやわらいであれ?という顔をする。
「どうですか?おいしいでしょ?」
「まあ。悪くないかも。」
寿樹は梅の評価にもろ手を挙げる。
「でしょ?そうでしょ?一度口に入れてみないとわかりませんよ。見た目が悪くても味が良い生き物なんていっぱいいるんですから。」
「あんた、ちょっと気高ぶっていない?」
梅からの突っ込みも無視して寿樹の探索はまだまだ終わりそうにない。だが、それは立悠に首根っこを掴まれて強制終了する。
「興奮しているのはわかるが、ここまでだ。時間が迫っているから行くぞ。」
立悠に言われて寿樹は渋々探索を諦めて領主館に向かって歩く。
「本当にありがとうございました。」
「皆さんがいなければ、私たちはどうなっていたことかわかりません。この子を守ることもできなかったでしょう。」
親方と可香にお礼を言われ最後まで後ろに控えている町の人たち全員から見送られる。
「さようなら!こちらこそありがとうございました!また、会いましょう。」
「はい、絶対にまた会いましょう。寿樹様。」
様付けが何でかは分からないが、塩を作る途中から町の人たち全員からそう呼ばれてしまい、何度訂正しても止めてくれないので、疲れ果てた寿樹はその呼び方を許している状態になっている。それだけが心残りだが、彼らとはいい思いでを作ることができたので満足だ。
「うん、いい街でした。」
「そうだね。寿樹はどこでも楽しそうだけどね。」
「信さんだって、生き生きしていましたよね。どこに行っていたのかは知らないですけど、楽しそうでしたよ。」
「そうですか?寿樹の見間違いでしょう。」
「そうですかね。」
寿樹は見た時の信の顔は笑っているようにしか見えなかったので、彼に否定されて見間違いを考える。
「この人の話は半分で聞いておきなさい。それより、寿樹、分かっていると思うけど、私たちは予定より大幅に遅れているの。だから、これからの工程は休みなしで行くわよ。そうすれば、二日ほどで着くわ。」
「わ、わかりました。」
それは一体どのくらいの距離?なんて聞くことができない。
先ほどから、すごいスピードで走っているのでだいぶというより、大幅にペースを上げているのだろう。少しでも石があるとお尻が少しだけ座椅子と離れるほどだ。
ガタンガタン
これだけのスピードで走ることを想定していたから彼らは何も言わなかったのだとこの時寿樹は思い知る。こんなスピードでも三人は慣れているのか、三人は平然としている。梅に至っては時々眠っている様子で寿樹は感心してしまう。都会育ちでお嬢様なのに、この揺れに動じないほどの度胸にだ。
「お客さん方、もうすぐ着きますね。」
二日間、馬をたまに変える以外はほとんど休みなしで走っていたら、梅が言った通り本当に二日で着いた。それも山賊や盗賊なんて物騒な者たちに遭うこともなく、安全な旅路と言えるだろう。あの揺れさえなければ。
馬車から降りると膝が笑っているようで、地面に足をついている感覚がなく体全体が揺れているようだ。それで、体がふらついて倒れかける。その瞬間、立悠に受け止められて心配そうに声をかけられる。
「大丈夫か?」
「はい。何とか。」
「飛ばしすぎたな。乗り物酔いはなさそうでよかった。」
「それは大丈夫です。」
寿樹は自分が全く酔わない体質だ。それは以前から変わらない。
「そうか。それより、これから領主館に向かうから気をつけろ。相手はお前の顔を知っている。」
(ああ、あの公開裁判の時ですか、そうですか)
寿樹は立悠に言われて気づく。
あの時、貴族もいて、そこにはもちろん四大貴族の朱家も含まれている。
「わかりました。気を付けますよ。」
寿樹は気を引き締める。
領主館に行くのに歩いて行くのはあまり目立たないようにするためらしく、手土産を乗せた馬車は先に領主館に向かっている。元々、寿樹たちはそんなに大きな役割はなく、ただ観光も含めた南の領地である港町の偵察だ。様子伺いであり実情の把握でもある。皇帝の一つの目と耳が寿樹ではないが、立悠と信の役割なので、こうして町を歩くのはそれに最も効果的だ。
「うわ、あそこの屋台おいしそう!」
「あ、あれは香水?」
「うわ、これはスケスケだ。」
そんなことを気にしない寿樹は町に来ては外国から仕入れたであろう品々に目を奪われて次から次へと見て回る。
「あ、イカ焼きだ!食べたい!」
「お、目がいいね。お嬢ちゃん。これは今日の朝とれたものだよ。味が良いのは保証するよ。」
「獲れたてですね。やったー!じゃあ、一つください!」
「ああ、いいよ。」
おじさんにお金を払ってイカ焼きを受け取り、寿樹はたまらずその場でイカにかぶりつく。塩味が効いた海の幸はまさに絶品で、寿樹は思わず頬を押さえる。
「あんた、よくそんなの食べられるわね。」
梅は奇妙なものを見るような顔をする。
「ああ、都から来た人たちだろう、あんたらは。都の人はみんなそんな顔をするな。」
見慣れているようでおじさんは豪快に笑っている。彼が陽気な人で助かり、寿樹は安堵する。
「梅さん!そんなことを言ってはダメですよ。これは立派な食事ですし、とてもおいしいんですよ。食わず嫌いはいけません。ほら、食べてみてください。」
寿樹はぐいっと彼女の口もとにイカを持って行く。彼女は渋々そのイカにかぶりつくとちょっとだけ表情がやわらいであれ?という顔をする。
「どうですか?おいしいでしょ?」
「まあ。悪くないかも。」
寿樹は梅の評価にもろ手を挙げる。
「でしょ?そうでしょ?一度口に入れてみないとわかりませんよ。見た目が悪くても味が良い生き物なんていっぱいいるんですから。」
「あんた、ちょっと気高ぶっていない?」
梅からの突っ込みも無視して寿樹の探索はまだまだ終わりそうにない。だが、それは立悠に首根っこを掴まれて強制終了する。
「興奮しているのはわかるが、ここまでだ。時間が迫っているから行くぞ。」
立悠に言われて寿樹は渋々探索を諦めて領主館に向かって歩く。
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