流れる星、どうかお願い

ハル

文字の大きさ
1 / 20

これが日常

しおりを挟む
 疲労を感じつつも喉の渇きに耐えきれず、転がるようにして勢いをつけたことで足はベッドの脇に下ろされたことで自然と上半身が起き上がる。羽水 結弦(うすい ゆずる)は力が入らない手足に悩まされながらも、ウォーターサーバーから注がれた水を飲み込んだ。
「ふう、生き返った。」
 おおよそまだ二十代前半とは思えないほどにしゃがれた声ではあるが、この週末二日間ともベッドから出た記憶がないほどに相手にナかされていたことを考えれば体調的には良い方だった。情事の後が残るベッドを後ろ目に見て体がべたべたして気持ち悪い結弦は風呂に入った。
 風呂から上がって脱衣所に設置されている大きな鏡に映る姿にうわっと思わず嫌悪感の声が漏れた。情事の痕と一目でわかる赤い痕の他に手跡までが体中に残されていた。
「いつものことだけど。でも、発情期にしてはこれぐらいで済んだのだからいいか。あの人に無理を強いているのはこちらだから何も言うことはないし、むしろ感謝しないといけないね。」
 ベッドでの行為の中で見た彼の顔が終始変わらない眉間にしわを寄せた顔を思い出して結弦はため息を吐く。しかし、彼に抱いてもらわなければ、結弦の体調はもっと悪化して最悪ベッドから起き上がれないかもしれない。現時点で相手ができるのは先ほどまでこの家にいた持ち主である彼だけだから。
 二カ月前に行った美容院で切ってもらった前髪は目が隠れるぐらいまで伸びているが、タオルで拭く度にその隙間から垣間見える幼い頃から宝石のようだと言われた淡い紫の目が嫌味のように光に照らされて輝いていた。その目が言葉では語れない本音を映しだしているようで気味が悪く前髪をドライヤーで乾かして早く隠した。

 この世には男女の他にアルファ、ベータ、オメガの三つの性が存在し、アルファは上位層で大企業経営などのエリートであり、ベータは中間層で一般的に暮らしている人々で人口の九割を占め、オメガは男女ともに子供を産むことができる。ただし、オメガには月に一回訪れる発情期があり、この発情期に入るとアルファやベータを興奮させ魅了してしまうため十年ほど前まで忌み嫌われる存在だった。しかし、彼らは首のうなじを噛んだアルファと番になることでそのアルファ以外を魅了しなくなることや、このアルファとの子供は必ずアルファである為に少子化問題や優秀な人材を欲している国としては欠かせない存在となり彼らを保護する方向に国政が為された。その一環として、オメガ用の発情期を抑える抑制剤やアルファ用のオメガに魅了されない為の抑制剤の開発が成功し、医師から処方される一般的に配布された。しかし、その環境下でもやはり、オメガが一人で生活をすることは発情期により月に一回の一週間ほど学校や会社を休まないといけない為に所得が少なく困難であるのが現状だ。だから、彼らは国が用意した住居で光熱費は別でも家賃が無料の破格対応で暮らしている。
 そんな中、運よくエリートで家柄も良いアルファと番になり、裕福な暮らしを手に入れた者がいる。その一人は間違いなく結弦だ。彼はまだ二十三歳であるが、十六歳の時に今の夫であり番でもある羽水 要(うすい かなめ)は国内で最も大きなグループ会社である羽水グループと医療技術が高く設備も整っている総合病院の創始者一族の一人に名を連ねている。彼は現在結弦と同じ年で今年から入社したグループ会社の一つに入社し、エリート街道を着々と上っている。そんな彼の番の座など他のオメガから見れば喉から手が欲しいだろう。そんな座を結弦がどういう経緯で手に入れたのか彼らが知ればきっとドン引くだろう。
「今日はあの人帰宅遅いんだろうな。」
 服を着替えて近くのボードにある連絡用のボードに書かれている“仕事 商談あり”の字を見て冷蔵庫の中を確認する。こんな風に発情期明けに彼がベッドに居たことはないが忘れずに日程を書いてくれるのだ。優しさときれいな字で線でも引かれているのかと思うほどまっすぐな字の羅列は器用さがうかがえる。
結婚するまでは要の実家がよこした通いの家政婦がいたが、一緒に住むことになってからは家に一日居ても暇だったので家事は結弦が担当だ。母子家庭でベータの母は体が強くなかったので小さな頃から家事をしていたので問題なかった。そもそも、ほとんど使われていないのかモデルルームのような家に掃除は必要なく、料理をすることになったから主にキッチンやお風呂場を中心に掃除をするだけだ。
 ちなみに、要と話すのは彼が遅くに帰宅して夜食を必要としただけで、週末を含めて彼はほとんど家にいることはない。それは仕事で休日出勤だったり、友人付き合いの飲み会があったり、出席すべきパーティがあるからだ。パーティは同伴が必須であるが、アルファばかりが集まる場にオメガを連れていくことを彼は拒否しているため出席したことはない。それは結弦に対して彼の優しさだと感じている。
「さて、ブランチ食べて夜食と夜ご飯の買い出しに行こうかな。」
 また通常の日々が始まる。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。

イケメンな先輩に猫のようだと可愛がられています。

ゆう
BL
八代秋(10月12日) 高校一年生 15歳 美術部 真面目な方 感情が乏しい 普通 独特な絵 短い癖っ毛の黒髪に黒目 七星礼矢(1月1日) 高校三年生 17歳 帰宅部 チャラい イケメン 広く浅く 主人公に対してストーカー気質 サラサラの黒髪に黒目

子持ちオメガが運命の番と出会ったら

ゆう
BL
オメガバースのblです。

運命よりも先に、愛してしまった

AzureHaru
BL
幼馴染で番同士の受けと攻め。2人は運命の番ではなかったが、相思相愛だった。そんな時、攻めに運命の番が現れる。それを知った受けは身籠もっていたが、運命の番同士の子供の方が優秀な者が生まれることも知っており、身を引く事を決め姿を消す。 しかし、攻めと運命の番の相手にはそれぞれに別の愛する人がいる事をしり、 2人は運命の番としてではなく、友人として付き合っていけたらと話し合ってわかれた。 その後、攻めは受けが勘違いしていなくなってしまったことを両親達から聞かされるのであった。

転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。

星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。 前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。 だが図書室の記録が冤罪を覆す。 そしてレイは知る。 聖女ディーンの本当の名はアキラ。 同じ日本から来た存在だった。 帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。 秘密を共有した二人は、友達になる。 人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。

夫には好きな相手がいるようです。愛されない僕は針と糸で未来を縫い直します。

伊織
BL
裕福な呉服屋の三男・桐生千尋(きりゅう ちひろ)は、行商人の家の次男・相馬誠一(そうま せいいち)と結婚した。 子どもの頃に憧れていた相手との結婚だったけれど、誠一はほとんど笑わず、冷たい態度ばかり。 ある日、千尋は誠一宛てに届いた女性からの恋文を見つけてしまう。 ――自分はただ、家からの援助目当てで選ばれただけなのか? 失望と涙の中で、千尋は気づく。 「誠一に頼らず、自分の力で生きてみたい」 針と糸を手に、幼い頃から得意だった裁縫を活かして、少しずつ自分の居場所を築き始める。 やがて町の人々に必要とされ、笑顔を取り戻していく千尋。 そんな千尋を見て、誠一の心もまた揺れ始めて――。 涙から始まる、すれ違い夫婦の再生と恋の物語。 ※本作は明治時代初期~中期をイメージしていますが、BL作品としての物語性を重視し、史実とは異なる設定や表現があります。 ※誤字脱字などお気づきの点があるかもしれませんが、温かい目で読んでいただければ嬉しいです。

落としたのは化粧じゃなく、みんなの心でした

444
BL
『醜い顔…汚らしい』 幼い頃、実母が病気によって早くに亡くなった数年後に新しい義母からそう言われたシリルは、その言葉が耳に残って16歳となった今も引きずっていた。 だが、義母のその言葉は真っ赤な嘘でシリルはとても美しかった。ただ前妻の息子であるシリルに嫉妬した結果こぼした八つ当たりの言葉であったのをシリルは知らずに、義母のいう醜い顔を隠すために化粧をする。 その結果、彼は化粧によって本当に醜い顔になってしまった。そんな彼が虐げられながらも徐々に周囲を絆す話 暴力表現があるところには※をつけております

たとえば、俺が幸せになってもいいのなら

夜月るな
BL
全てを1人で抱え込む高校生の少年が、誰かに頼り甘えることを覚えていくまでの物語――― 父を目の前で亡くし、母に突き放され、たった一人寄り添ってくれた兄もいなくなっていまった。 弟を守り、罪悪感も自責の念もたった1人で抱える新谷 律の心が、少しずつほぐれていく。 助けてほしいと言葉にする権利すらないと笑う少年が、救われるまでのお話。

処理中です...