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流れ星に願うこと
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ホスピスで見た番解消の痕が結弦の頭に貼りついている。あの痕は手術や薬では絶対に残らないもので、そんな技術発展の前からよく知られている方法だ。もう一度、アルファが首のうなじを噛むことであり、その痕は番になるときと比べ物にならないぐらいの痛みが伴う、と言われている。結弦はこういうことは義務教育の時に学習する範囲分の知識しかないため詳しいことは分からない。
悶々と考えて時間も忘れて椅子に座っているといつの間にか帰って来たらしい要と目が合う。あまりに深く思考の中にとらわれていたようで結弦は扉を開ける音にも反応がなかったようだ。だから、心配したのだろう彼が少ししゃがみこむような辛い姿勢になっている。近くで見ると黒い髪と涼やかな印象を受ける黒い目、整った顔立ちをしており、きっと会社では周囲からの視線が絶えず向けられていることだろう。
「どうした?考え事か?」
その顔に見惚れていて声をかけられたことでやっと我に返った結弦は慌てて鞄を受け取る為に手を出すと彼はその手に鞄を置く。他にネクタイを受け取り所定の位置に収納すると、彼は一旦洗面所に消える。その間に慌てて夜食として作った豚汁を温めて夕食に作ったハンバーグをレンジで温める。
「無理して起きていなくてもいい。」
「ううん、家事好きだし今日は長く寝ていて眠くないんだ。」
夜食をだしながら話をする。いつもと変りない会話だ。時計を見るとまだ十一時前だから彼にしては早い帰宅である。時によっては十二時を超えたり外泊する日もある。エリートの性に生まれたかれといって疲れないわけでもなく、帰宅した彼の顔はいつも疲労が見て取れる。そんな彼に温かい食事を出すことは結弦ができる最大限な行為だ。
「ご馳走様。おいしかった。」
「お粗末様。お風呂入ってきて。僕は自室に行くから。」
すでに情事で使った寝室はシーツを変えて清潔な状態であるが、あの部屋は元々客室の一つで発情期に使用すると決めた部屋だ。通常、部屋はそれぞれに割り当ててそこにベッドも着替えも置いてあるので不憫はない。お互いに干渉しないことがこの条件でもあった。
「結弦、週末は実家に泊まる。」
「わかった。」
彼は淡々と告げる。“一緒に”とは絶対に口にしないし、誘うことはこの先もないだろう。要にとっての唯一の汚点である結弦を連れて行くのは恥をかきに行くことだから。嫌味を言われることを分かっていて行くのは結弦だってお断りだったので、彼の優しさから出たであろう気遣いに何も言うことはない。ただ、それに甘えることしかできない。
要にとって何もない番という点しか影響がない結弦をこれだけ気遣いができるのは、やはり彼の性格故だろう。ただの同級生の時に、重い荷物を運んでいた時に自然と手を伸ばしてくれる優しさは夫になった今も変わらない。
同情で結弦の発情期に付き合い、周囲から受けているだろう詰りも誹りも一身に受け入れ、現在の就職先と地位にいる。あの時、結弦に魔がさしていなければ、きっと彼はきっと上の地位を手に入れ誰もが羨む夫婦となり子供を持ち笑っていたのだろうか。
ふと、自室から見上げた空には星が輝いている。母が編んだ帽子や見せてくれたデザイン画のような星々。そこに一つの星が流れるのを見て手を合わせる。流れ星に願うことは結弦には一つしかない。映像が頭にありいくら恐怖を煽られ憂う自分の未来や薄情にも病弱で先が長くない母のことではない。それらも結弦にとってはかけがえのない大切なことだが、彼の中で何よりも優先することはすでに決まっている。
(要が幸せになりますように)
ただ、番として一緒に居てくれる彼のことだけだ。
悶々と考えて時間も忘れて椅子に座っているといつの間にか帰って来たらしい要と目が合う。あまりに深く思考の中にとらわれていたようで結弦は扉を開ける音にも反応がなかったようだ。だから、心配したのだろう彼が少ししゃがみこむような辛い姿勢になっている。近くで見ると黒い髪と涼やかな印象を受ける黒い目、整った顔立ちをしており、きっと会社では周囲からの視線が絶えず向けられていることだろう。
「どうした?考え事か?」
その顔に見惚れていて声をかけられたことでやっと我に返った結弦は慌てて鞄を受け取る為に手を出すと彼はその手に鞄を置く。他にネクタイを受け取り所定の位置に収納すると、彼は一旦洗面所に消える。その間に慌てて夜食として作った豚汁を温めて夕食に作ったハンバーグをレンジで温める。
「無理して起きていなくてもいい。」
「ううん、家事好きだし今日は長く寝ていて眠くないんだ。」
夜食をだしながら話をする。いつもと変りない会話だ。時計を見るとまだ十一時前だから彼にしては早い帰宅である。時によっては十二時を超えたり外泊する日もある。エリートの性に生まれたかれといって疲れないわけでもなく、帰宅した彼の顔はいつも疲労が見て取れる。そんな彼に温かい食事を出すことは結弦ができる最大限な行為だ。
「ご馳走様。おいしかった。」
「お粗末様。お風呂入ってきて。僕は自室に行くから。」
すでに情事で使った寝室はシーツを変えて清潔な状態であるが、あの部屋は元々客室の一つで発情期に使用すると決めた部屋だ。通常、部屋はそれぞれに割り当ててそこにベッドも着替えも置いてあるので不憫はない。お互いに干渉しないことがこの条件でもあった。
「結弦、週末は実家に泊まる。」
「わかった。」
彼は淡々と告げる。“一緒に”とは絶対に口にしないし、誘うことはこの先もないだろう。要にとっての唯一の汚点である結弦を連れて行くのは恥をかきに行くことだから。嫌味を言われることを分かっていて行くのは結弦だってお断りだったので、彼の優しさから出たであろう気遣いに何も言うことはない。ただ、それに甘えることしかできない。
要にとって何もない番という点しか影響がない結弦をこれだけ気遣いができるのは、やはり彼の性格故だろう。ただの同級生の時に、重い荷物を運んでいた時に自然と手を伸ばしてくれる優しさは夫になった今も変わらない。
同情で結弦の発情期に付き合い、周囲から受けているだろう詰りも誹りも一身に受け入れ、現在の就職先と地位にいる。あの時、結弦に魔がさしていなければ、きっと彼はきっと上の地位を手に入れ誰もが羨む夫婦となり子供を持ち笑っていたのだろうか。
ふと、自室から見上げた空には星が輝いている。母が編んだ帽子や見せてくれたデザイン画のような星々。そこに一つの星が流れるのを見て手を合わせる。流れ星に願うことは結弦には一つしかない。映像が頭にありいくら恐怖を煽られ憂う自分の未来や薄情にも病弱で先が長くない母のことではない。それらも結弦にとってはかけがえのない大切なことだが、彼の中で何よりも優先することはすでに決まっている。
(要が幸せになりますように)
ただ、番として一緒に居てくれる彼のことだけだ。
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