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懐かしいお店
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家族との和解をして目的を失った伊月は煌が外出している間にぶらぶらと今まで出歩くことがなかった観光地を歩くことにした。下町の細い道、歴史ある寺や神社、七福神巡り、アスレチックなどなど平日で空いている日を見計らったのでほとんど貸し切り状態である。人の目を気にしないので楽な気持ちで思うままに過ごすことができる。
「一人旅の醍醐味ってやつね!」
こんなに旅行を満喫したことがなかったので、伊月は毎日機嫌がいい。
「伊月、夜は外の居酒屋に行かないか?」
ホテルのルームサービスかホテルのレストランで夜は過ごしていて、日にちを重ねていたので煌の誘いに伊月は飛びつく。
「いいね。居酒屋とか会社の打ち上げ以来。」
伊月はさっさと準備を済ませて煌と外に出る。
煌が居酒屋に行くイメージを伊月は持っていなかったので、意外に思えたがそれと同時に親近感が湧く。それに、彼が紹介する居酒屋がどんなお店か考えるとワクワクする。
「着いたよ。」
煌が指で示したのは暖簾がかかった古民家のような居酒屋だ。中から楽しそうな声や注文を伝える声が聞こえる。
「いらっしゃい。」
引き戸から入るとカウンターと対面の厨房に立つ大将が出迎える。
常連が多く、人も集まっているけど煌が予約を取っていたのでテーブル席に着く。初めて見る掘りごたつだけど、座ってみるとなじみのあるその心地に首を傾げる。
「何飲む?」
煌の声にその思考は消え去り、私はすぐに飲み物を決める。居酒屋に来てもお酒が飲めず、店の人に悪いと思いながら、そのお店の味がある料理に会社の飲み会の時に感心させられていたので、私はこういうお店が好みだ。
このお店のおすすめはだし巻き卵と朝市で仕入れる魚の刺し身盛り合わせのようで、それらは煌があらかじめ伝えておいたらしく、注文しなくても持って来た。
湯気が立っている卵焼きを一口食べると美味しさが広がると同時にほんのり効いた出汁の味に懐かしいと思う。
「おいしい?」
「うん。」
「良かった。固まったからあまり好きじゃないかと思った。」
私の反応に不安だったようで、煌は胸をなでおろす。
「少しだけ懐かしかった。」
ポツリと出た私の言葉に彼はニンマリと笑みを浮かべる。
「舌は覚えているんだな。食べ慣れた味ではあったが昔から伊月は父さんの味はすぐに分かったからな。」
「お父さんの味?」
どういうことか分からずに私が尋ねると、彼は店内の大将の方を見る。隙間から覗くようなものだけど、客の座っていない1席のカウンターのおかげで大将がちょうど見える。
「あの人に料理を教えたのは父さんだ。こんなに広いお店じゃなくて、小さな割烹だったが。」
「お父さんは料理人だったの?」
「とびっきりのな。ミシュランにも掲載されて海外でも料理をしていたらしい。たまに、仕事先で父のファンだと言う人からの又聞きだけどな。」
自分の料理好きは父に似たのかと、思い出せない彼とつながりを感じられて自然と顔が緩む。
「おいしい。」
私は噛みしめるように卵焼きを食べる。
「一人旅の醍醐味ってやつね!」
こんなに旅行を満喫したことがなかったので、伊月は毎日機嫌がいい。
「伊月、夜は外の居酒屋に行かないか?」
ホテルのルームサービスかホテルのレストランで夜は過ごしていて、日にちを重ねていたので煌の誘いに伊月は飛びつく。
「いいね。居酒屋とか会社の打ち上げ以来。」
伊月はさっさと準備を済ませて煌と外に出る。
煌が居酒屋に行くイメージを伊月は持っていなかったので、意外に思えたがそれと同時に親近感が湧く。それに、彼が紹介する居酒屋がどんなお店か考えるとワクワクする。
「着いたよ。」
煌が指で示したのは暖簾がかかった古民家のような居酒屋だ。中から楽しそうな声や注文を伝える声が聞こえる。
「いらっしゃい。」
引き戸から入るとカウンターと対面の厨房に立つ大将が出迎える。
常連が多く、人も集まっているけど煌が予約を取っていたのでテーブル席に着く。初めて見る掘りごたつだけど、座ってみるとなじみのあるその心地に首を傾げる。
「何飲む?」
煌の声にその思考は消え去り、私はすぐに飲み物を決める。居酒屋に来てもお酒が飲めず、店の人に悪いと思いながら、そのお店の味がある料理に会社の飲み会の時に感心させられていたので、私はこういうお店が好みだ。
このお店のおすすめはだし巻き卵と朝市で仕入れる魚の刺し身盛り合わせのようで、それらは煌があらかじめ伝えておいたらしく、注文しなくても持って来た。
湯気が立っている卵焼きを一口食べると美味しさが広がると同時にほんのり効いた出汁の味に懐かしいと思う。
「おいしい?」
「うん。」
「良かった。固まったからあまり好きじゃないかと思った。」
私の反応に不安だったようで、煌は胸をなでおろす。
「少しだけ懐かしかった。」
ポツリと出た私の言葉に彼はニンマリと笑みを浮かべる。
「舌は覚えているんだな。食べ慣れた味ではあったが昔から伊月は父さんの味はすぐに分かったからな。」
「お父さんの味?」
どういうことか分からずに私が尋ねると、彼は店内の大将の方を見る。隙間から覗くようなものだけど、客の座っていない1席のカウンターのおかげで大将がちょうど見える。
「あの人に料理を教えたのは父さんだ。こんなに広いお店じゃなくて、小さな割烹だったが。」
「お父さんは料理人だったの?」
「とびっきりのな。ミシュランにも掲載されて海外でも料理をしていたらしい。たまに、仕事先で父のファンだと言う人からの又聞きだけどな。」
自分の料理好きは父に似たのかと、思い出せない彼とつながりを感じられて自然と顔が緩む。
「おいしい。」
私は噛みしめるように卵焼きを食べる。
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