ヒロインちゃんがんばる!

名無色

文字の大きさ
2 / 37

私は可愛い

しおりを挟む
途中で情報を追うのをやめたし、情報が流れてきてもへぇーそうなんだーくらいに軽く流していた。

最近はある程度日も経って中古でもちらほら並んでいるのを見ていて次来た時にあったら買おうかなぁとかそれくらいに考えていた。

よりによってそれを買う前に……!

全然情報見てないからキャラの名前すら覚えてないのに!!
パッと思い出せるの立ち絵くらいなんだけど!?

もちろんヒロインちゃんの、というか私の今の名前はちゃんと分かっている。
フィリア・フェルノ、それが私の名前。

普通に生活している時には特に何とも思わない名前が、急に自分らしくなく感じで落ち着かない。

あと小文字好きだよね、こういう系。
口に出すと結構言えるけど文字だけ見るとちょっと噛みそう。

「それにしてもほんと不思議。
平面……とも違う、CGっぽい??」

姿見鏡の前で制服のスカートを摘んでみたり、胸下まである髪を手にとって引っ張ったりしてみる。

ちゃんと感覚はある、髪も引っ張ると一本一本頭皮が引っ張られていると伝わる。

それなのに鏡に映る私の姿、いや、私の見ている私の姿は生きている人間ぽくない。

記憶の中にある家族や友人、それに他の人達も全員私の知るリアルな容姿ではない。

今までこれが現実として過ごしていたのが不思議なくらい、滑らかに動くCGを見ているようなそんな感じなのだ。

「これだと血とか死体とか見ても怖くなさそう……ってあれ」

これって私死なない?悪役令嬢ものってその乙女ゲームのヒロインちゃん結構かわいそうなことになってない??

「……でもそれってあれでしょ?
頭の中がお花畑なの~うふふ~みたいなキャラだから多かったっけ……?」

うん?そうなると………この場合どうなるの??

私はこの世界でのこれまでの記憶がある、とは言っても小さい頃のことなんかすごく曖昧だけど。

乙女ゲームなら主人公の過去の時点で選択肢が出て変わる、とかはたまーにあるくらいで。

乙女ゲームの中の乙女ゲーム……ややこしいから乙女ゲーム擬きと呼ぼう。
その乙女ゲーム擬きでそこまで設定考えるか?と言われるとないって思うし。

「うーん………?でも別に頭の中お花畑感ないんだよね……。」

まずそれが分かればお花畑ではないだろうけど。

でも恋は人を狂わせるっていうし……。
あ、好きなキャラに対する愛を語ったコメントみたいな反応をしてしまう、とか?

「…………まって、待ってっていうのもあれだけどこれもダメな気がする。」

誰もいないのに独り言!
いやでも自分の考えをまとめる時に口に出した方がいいって言うしセーフか……。

「わからない!何がどこまでぽいのかわからないー!!」
「姉さんうるさいよー!」

隣の部屋かは弟が怒鳴ってきてごめんと部屋の壁越しに謝る。

そういえば弟いるけど弟の姿見て既視感が!とかはないな。私の記憶にある立ち絵の中にいなかったはず。

…………うん、立ち絵無しのたまにヒロインちゃんの話とかで情報が出てくるタイプのモブだと思う。

「そういえば………これってヒロインちゃんは魔法学校の寮に入るとか書いてあったな……。
それに私来週から魔法学校通うんだった……。」

どういうパターンでくるのかなとは思っていたけど、乙女ゲーム擬きの方のヒロインちゃん、フィリアは一般人なのに魔力が高くて……というパターンのヒロインらしい。

貴族の庶子、特に男爵令嬢になってというのをよく見かけたのでそれだと思っていた。

そちらの方が多いから一般人にしたのかよくわからないけど、両親普通に生きてるし、弟もいる。

近所の人とかからよく似てるわねえ~って言われるくらいには似ているので、実はどこどこの国の!とか事情をさらにややこしくするような設定はないだろう。

…………いやわからないけど、わからないんだけど!

このゲームどこが出してたっけ……そこそこマイナーだったぞと思い出そうとするが全く思い出せない。

ブランドによって結構特徴があったりするからヒントになりそうなのに……。

でもそういうややこしい事情出てきそうになったら全力で潰す方向にいこう。うん。

「ふう………よし落ち着いた。落ち着いた?うん?」

混乱を繰り返してくると段々慣れて冷静になってくる。

とりあえずポジティブなこと考えよう。
ほら鏡見よう!さすがヒロインちゃん顔がいい!

「すっごい自分の顔って理解しても可愛いと思える顔だ……可愛い。」

ヒロインちゃんってすっごく可愛く綺麗に描かれることが多くて、原画家さんによってはこれ本当に人間か?SANチェック入らない?大丈夫?ってなる時がある。

それに表情もどこかモデルさんを見ているような……そんな風に感じてしまうことが結構あった。
特に繊細な絵柄、塗りのものとか。

でも実際にこの顔になるとわかる。
本当に顔がいいとどんな顔してもそれが崩れないから作り物っぽさが出るのだ。

なるほどー勉強になる。
何の勉強だよと自分でツッコミながら鏡の前で百面相する。

「これで微笑まれたら照れる自信ある……。
まあ今は自分の顔だからそんなことないけど。」
「姉さん、熱ある??」

ブツブツと呟きながら自分の顔に見とれていると、後ろから声をかけられ鏡越しに目を合わせる。

「あ、リル。いや、ほら、私って可愛い顔してるでしょ?」

そう言うと彼はあからさまに呆れた顔になって深くため息を吐く。
彼の名前はリル、私の、フィリアの弟だ。

女の子っぽい可愛い名前で中性的な顔だし似合ってる。
ずっとそう思っていたけど今思うとフィリアの名前と少し似てるので若干手抜きと思ってしまう。

目の色は違うけどそれ以外はほとんど似ている。
睫毛は私の方が長いけど、私を男にした感じだ。
そもそもこの世界、いままで軽く流していたがみんな顔のバランスが整いすぎている。

「リル、リルも顔良いよね……。」
「…………姉さん、何度もいうけど世の中にはお世辞というものがあってね。」

人の言うことそのまま信じないように、と注意される。
私が今の記憶を取り戻す前から、フィリアは自分の顔に自信があった。

というより一種の洗脳だったのだと今は思う。
毎日毎日鏡に向かって自分は可愛い、だから大丈夫と声を掛けていた。

可愛い。可愛い。可愛いから嫌われる。
可愛い。可愛い。可愛いから好かれる。

毎日毎日飽きずに繰り返していた。

今まで繰り返していたのはそうしないと不安になったからだ。
今はそんなことはなくただ単純に顔はいいと思っている。

これが現実的な、リアルなものだとまた変わったかもしれないけど私の目から見えているのは滑らかに動く立体的なキャラクターだからだ。

だから全く違う、気持ちの話にはなるが全然違う。

けどリルの目にはいつも通りに見えているらしいくいつものようにお世辞について話している。
お世辞を間に受けて自分のことをすごく可愛いと勘違いしてる、そう言われているのを聞いたことがあるからだろう。

「だから、友達欲しいならもう少し普通に、ふ・つ・う・に!するようにね!」
「そんな言い方しなくても大丈夫!」

今のフィリアは“私”という記憶を手に入れて強く、普通の感覚になっている。

私は任せてよ!と胸を叩いた後親指を立てリルに向かってパチッと片目を閉じた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

転生したら悪役令嬢になりかけてました!〜まだ5歳だからやり直せる!〜

具なっしー
恋愛
5歳のベアトリーチェは、苦いピーマンを食べて気絶した拍子に、 前世の記憶を取り戻す。 前世は日本の女子学生。 家でも学校でも「空気を読む」ことばかりで、誰にも本音を言えず、 息苦しい毎日を過ごしていた。 ただ、本を読んでいるときだけは心が自由になれた――。 転生したこの世界は、女性が希少で、男性しか魔法を使えない世界。 女性は「守られるだけの存在」とされ、社会の中で特別に甘やかされている。 だがそのせいで、女性たちはみな我儘で傲慢になり、 横暴さを誇るのが「普通」だった。 けれどベアトリーチェは違う。 前世で身につけた「空気を読む力」と、 本を愛する静かな心を持っていた。 そんな彼女には二人の婚約者がいる。 ――父違いの、血を分けた兄たち。 彼らは溺愛どころではなく、 「彼女のためなら国を滅ぼしても構わない」とまで思っている危険な兄たちだった。 ベアトリーチェは戸惑いながらも、 この異世界で「ただ愛されるだけの人生」を歩んでいくことになる。 ※表紙はAI画像です

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

処理中です...