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第六局
☖ 苦い思い出
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毎年、一月の終わりごろには、『神戸こども竜王戦』という大会がある。
六歳で将棋を始めてから、私は毎年、その大会に参加してきた。
といっても、予選リーグを何とか抜けられる程度で、決勝トーナメントではすぐに負けてしまっていた。
実力が同じくらいか、少し下くらいの子が相手でも、肝心なところでミスをして負けてしまう。7歳の時も、8歳の時も、9歳の時も、毎回そうだった。
そんな私を見ても、お母さんは私をしかることはなかった。
それまで普通に教わっていた時と同じように、悪かった部分を指摘するのは忘れなかった。それでも、「ここの攻めはよかったで」「ここで受けにいく判断は正しかったなあ」と、ほめる言葉をたくさんかけてくれた。
そのたびに、私の心は、ホッとしたような気持ちと、物足りないような気持ちの間でゆらいでいた。
しかられるのはつらい。
でも、中途半端に甘い指導をされるのも、なんとなくモヤモヤする。
正反対の思いをかかえたまま、それでもお母さんの教えを受け続けて挑んだ、去年の神戸こども竜王戦。私は初めて、決勝戦まで上がることができた。
幸運がはたらいたのか、それとも私にちゃんと実力がついていたのかは分からないけれど、決勝まで進めたのは嬉しいことだった。お母さんも、もちろんお父さんも、大一番に挑めることになった私をはげまして、喜んでくれた。
もしかしたら、このまま、優勝だってできるんじゃないか。そんな、根拠のない自信さえわいてくるようだった。
実際、決勝戦では、それまで以上にのびのびと将棋をさせた気がする。
あと一歩、ううん、あと一手正しく攻めこめたら、優勝できる――そんな局面にまで持ちこむことができた。
けれど、最後の最後で、私の弱さが出た。
相手の「負けたくない」っていう気力に圧されるようにして、最後の最後で、ミスをしてしまったのだ。それまでのリードが一瞬にしてくつがえるような、大きなミスだった。
結果として、私は準優勝という結果で終わった。
これまでの大会に比べれば十分すごい結果だったと思うのだけれど、自分のミスで負けたのがくやしくて、情けなくて、大会が終わったあとも、家に帰ってからも、ずっと泣いていた。
そして、お父さんとお母さんに向かって、あろうことか、こう口走ってしまったのだ。
「私、将棋やめたい」
その瞬間、私を必死でなぐさめてくれていた二人が、息をのんだ。
お父さんは、私が言ったことが信じられないといった様子で、何も言えなくなっていた。
一方のお母さんは――
「…………今、なんて?」
私を見下ろしたまま、ゾッとするほど冷たい声で、そう言った。
今にして思えば、お母さんは、怒っていたのだと思う。
病気がちで、文字通り〝命をかけて〟将棋を指していたお母さん。
その立場からすれば、たった一回の負けで心が折れて、その上「やめたい」とまで言いだした私が、あまりにも情けなく思えて、怒りを感じていたんだろう。
それでも、その時の私は、そんなことにも気づかないで、もう一度「やめたい」とくりかえしてしまったのだ。
そんな私に、お母さんは、
「……ほんなら」
怒ったような――けれど、どうしてか泣き出しそうな声で、言ったのだ。
「ほんなら、将棋なんかやめてしまい。あんたは将棋指しに向いとらんわ」
六歳で将棋を始めてから、私は毎年、その大会に参加してきた。
といっても、予選リーグを何とか抜けられる程度で、決勝トーナメントではすぐに負けてしまっていた。
実力が同じくらいか、少し下くらいの子が相手でも、肝心なところでミスをして負けてしまう。7歳の時も、8歳の時も、9歳の時も、毎回そうだった。
そんな私を見ても、お母さんは私をしかることはなかった。
それまで普通に教わっていた時と同じように、悪かった部分を指摘するのは忘れなかった。それでも、「ここの攻めはよかったで」「ここで受けにいく判断は正しかったなあ」と、ほめる言葉をたくさんかけてくれた。
そのたびに、私の心は、ホッとしたような気持ちと、物足りないような気持ちの間でゆらいでいた。
しかられるのはつらい。
でも、中途半端に甘い指導をされるのも、なんとなくモヤモヤする。
正反対の思いをかかえたまま、それでもお母さんの教えを受け続けて挑んだ、去年の神戸こども竜王戦。私は初めて、決勝戦まで上がることができた。
幸運がはたらいたのか、それとも私にちゃんと実力がついていたのかは分からないけれど、決勝まで進めたのは嬉しいことだった。お母さんも、もちろんお父さんも、大一番に挑めることになった私をはげまして、喜んでくれた。
もしかしたら、このまま、優勝だってできるんじゃないか。そんな、根拠のない自信さえわいてくるようだった。
実際、決勝戦では、それまで以上にのびのびと将棋をさせた気がする。
あと一歩、ううん、あと一手正しく攻めこめたら、優勝できる――そんな局面にまで持ちこむことができた。
けれど、最後の最後で、私の弱さが出た。
相手の「負けたくない」っていう気力に圧されるようにして、最後の最後で、ミスをしてしまったのだ。それまでのリードが一瞬にしてくつがえるような、大きなミスだった。
結果として、私は準優勝という結果で終わった。
これまでの大会に比べれば十分すごい結果だったと思うのだけれど、自分のミスで負けたのがくやしくて、情けなくて、大会が終わったあとも、家に帰ってからも、ずっと泣いていた。
そして、お父さんとお母さんに向かって、あろうことか、こう口走ってしまったのだ。
「私、将棋やめたい」
その瞬間、私を必死でなぐさめてくれていた二人が、息をのんだ。
お父さんは、私が言ったことが信じられないといった様子で、何も言えなくなっていた。
一方のお母さんは――
「…………今、なんて?」
私を見下ろしたまま、ゾッとするほど冷たい声で、そう言った。
今にして思えば、お母さんは、怒っていたのだと思う。
病気がちで、文字通り〝命をかけて〟将棋を指していたお母さん。
その立場からすれば、たった一回の負けで心が折れて、その上「やめたい」とまで言いだした私が、あまりにも情けなく思えて、怒りを感じていたんだろう。
それでも、その時の私は、そんなことにも気づかないで、もう一度「やめたい」とくりかえしてしまったのだ。
そんな私に、お母さんは、
「……ほんなら」
怒ったような――けれど、どうしてか泣き出しそうな声で、言ったのだ。
「ほんなら、将棋なんかやめてしまい。あんたは将棋指しに向いとらんわ」
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