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第四章 たった一人の愛しい人
―春彦―③
しおりを挟むアパートへと向かうバスの車内は、乗客が一人、また一人と減っていく。そんな中で、俺たちは一言も言葉を交わさなかった。
ただ隣に立っているだけでお互いのどこにも触れていないというのに、余計にこの身体がメイの気配を色濃く感じ取り、強く求める欲望を鮮明にする。
バスを降りると、どちらともなく歩みが速くなって。何も言わずとも、お互いが望んでいることを分かってしまう。
もどかしい手つきで鍵を開ければ、抑え込んでいた感情を曝け出す。
古びたベニヤ板のドアがバタンと閉じると、狭い玄関でお互いの身体を欲するように激しく抱き合った。
静けさの中、身体中に荒っぽく手のひらを這わせた衣擦れの音だけが響いて。そこに吐息が上乗せされる。
身長差のせいで、唇を求めるメイが精一杯背伸びをしているのに気付く。より奥深くまで繋がりたい衝動で、唇を重ねたままでメイの身体を抱き上げる。
いつも二人で食卓を囲んでいたダイニングテーブルにメイを腰掛けさせた。
夢中で貪り合う口内は熱くて柔らかくて、何も考えられなくなる。メイのひんやりとした髪の中に手を差し入れて、ぐっと力を込める。その時、メイの身体がびくっと反応したのに気付いた。
細い指が俺の首筋を掴めば、その手のひらの冷たさに身体の芯がぞくりとする。
暗黙の了解かのように、お互い一切言葉を発しない。
何か余計なことを口に出せば、すべて終わってしまう――。
そう感じているのかもしれない。言葉に出来ない関係は、その分だけお互いを駆り立てる。
次第にメイから吐かれる息が荒っぽくなって。その吐息が苦しそうで。
長い長いキスからメイを解放すると、すぐさまその唇を別の場所に押し当てて来た。
「……はぁっ、あ……」
思わず吐き出される吐息。目の前にいる存在のことで心も身体も一杯になる。
「メ、イ……。メイ」
「おにい、ちゃ――」
昂ぶる欲望と駆け上がって来る激しい感情が、何かを吐き出したいと訴えて。言葉に出来ない代わりに意味もなく名前を呼びあう。
”お兄ちゃん”とうわ言のように俺を呼びながら、追い立てられるように俺のシャツのボタンを外して行く。俺だって、一刻も早くその滑らかな肌に吸いつきたくて、メイの服を乱暴にたくし上げた。
メイに吐息を乱される前に、目の前のメイをめちゃくちゃに鳴かせたい。我を忘れて快感に溺れるメイの姿を引き出したい。
はだけたシャツの間に見える胸板にメイが唇を這わせようとしたのを遮り、たくし上げた服から曝け出された膨らみの一つを口に含んだ。
「あぁっ……」
押し返してくる柔らかさが、どこまでも俺の唇を飲み込もうとする。すぐに固くなるものを執拗に弄り転がせば、メイの両足が何かに堪えるように閉じようとした。
唇と指先とで両方を同時に攻めあげれば、メイは、無意識なのか身体を大きくくねらせてしがみつくように俺の肩をぎゅっと掴む。その、掴む力が増すたびにメイの身体が震える。それが、メイが感じている証なのだと思うと、肩に食い込む痛みがそのまま俺の快感に変わる。
「次は、どこ、触れてほしい……?」
どうしようもないほどに溺れて行く。そして、いつもの自分とは違う人格が現れる。どこまでも闇の底へと堕ちて行く感覚を止められない。
淫らで汚らわしい、もう一人の自分――。
「いじわる、しないで……」
淫靡に甘えるメイの声が、さらにそんな自分を膨れ上がらせる。
「言わないと、分からない」
柔らかな膨らみから唇を離し、メイの目を見つめる。その目は、もっと、もっとと、求める目。そんなメイの姿を見れば、いつもの自分なんてあっという間に消えてなくなる。完全に、欲だけを求める獣になる。
どこか透明感があって、メイはとても美しい。近くで見つめれば見つめるほどそう思う。こうして、いつもの涼やかなメイとは違う淫らな姿を見たって、それは変わらない。
そんな綺麗な存在だから。本当は、俺なんかじゃなくて、もっとメイに相応しくて真っ当な幸せを与えられる男に愛された方がいいに決まってる――。
そう強く思うのに。もっと自分を求めてほしい。
ただ、俺だけを欲しいとその唇で言って――。
結局そんな薄汚い感情に抗えない。
もう耐えられなくなっている。今すぐにでも貫きたい。あの、柔らかく熱い中に埋めたくてたまらない。
でも、まだだめだ。メイの中にあるものを全部引きずり出したくて、自分の硬くなったものを押しとどめる。
メイに触れていた手のひらすべての動きを止めて、ただメイの目だけを射抜くように見つめた。
「お願い……。お兄ちゃん、お願いっ」
潤んで今にも雫がこぼれそうなメイの目が、苦悶して。そんなに苦しそうなのに言葉には出来なくて、それなのに我慢するのももう難しいのだろう。メイが、目を伏せながら足を開いた。
「触れてほしい?」
メイが泣きそうになりながら頷く。
「きゃあっ……!」
あんなに誘うように目を蕩けさせていたくせに、素に戻ったような声を上げた。
「そんなとこ、ダメ、お兄ちゃん――」
テーブルに腰掛けたメイの脚をさらに広げると、長いスカートから素足が現れる。その間に顔を埋めた。
布越しでも分かるほどに、そこは既に濡れている。慌てふためくメイを無視して、下着を下ろした。
「ダメだよ、そんなとこ、きたな――っ、やぁっ」
舌で潤すまでもなく、次から次へと溢れ出す。その蜜が俺の劣情を誘い出し、導かれるように舐めあげた。柔らかくほぐすように、甘い蜜を味わうように、最初は入り口を何度も舌ですくう。
「どんどん溢れてくる。そんなに感じてるの?」
言葉を吐くことで吐息がそこにかかる。
それと同時にメイの身体が跳ねた。
「だめ、そんなとこ。汚いし、私、おかしく、なる……っ」
座っているのも辛くなったのか、メイが両手を後ろについて身体を何度もびくつかせる。
「だめって言って、足、勝手に開いてくよ? 本当に、ダメなのか?」
入り口だけだったのを、少しずつ中へ中へと舌を入れて行く。その度にメイが荒い息を吐き出し、身体を震えさせて。
「メイに汚いとこなんて、あるわけないだろ……?」
「お兄ちゃん……っ」
いやいやと頭を振りながら、その手が俺の頭を押さえつける。恥じらいから垣間見るそんな淫らな姿が、たまらなく愛おしくて俺の我慢も限界に達する。
「おかしく、なる。お兄ちゃん、私――」
「……おかしく、なって。俺だけに、見せて」
舌を出し入れしているだけなのに、もうそれが自分自身を埋めているような錯覚に陥って。身体の中心が痛いほどに張り詰めて、メイのそこを攻めていながらもう自分が苦しくてたまらなくなる。
「私、もう――。お兄ちゃん、来て……、お願い。お兄ちゃんのがいい」
限界に来ていたのはメイも同じだったのか、懇願するように切なげに俺を見下ろす。俺はコンドームの入った袋を食いちぎり、すぐにメイの中に押し入った。
「ああっ」
二人同時に声を上げた。
強烈な刺激が俺を狂わせる。うねって俺に絡みついて離れない。飲み込んで全部を持っていかれる。
「……ねぇ、二回目で、なんでこんなに簡単に入ってくの……? そんなに、欲しかったのか?」
ぬるぬるのそこはいとも簡単に滑って行く。
「あぁ……っ」
「こんなふうに、貫かれて、掻き回されるの、ずっと、待ってたの……?」
卑猥な言葉を囁きながら、奥へ奥へと激しく腰を揺さぶる。
「ごめん、なさい……っ」
身体をぶつけ合う音とメイから体液が零れ落ちる音。その二つが二人の暮らす部屋にいやらしく響き渡る。
「お兄ちゃん、ごめんねっ――」
メイが何に謝っているのか。答えにたどり着く前に、その唇を塞いだ。
目の端から零れ落ちて行く雫が、生理的なものなのかそれとも涙なのか。その筋に沿うように舌を這わせるとしょっぱい味がして、苦しさで胸が締め上げられる。
俺を求めることに苦しさが伴う。苦しいのに求めずにはいられない。
同じだよ。俺も、同じだから――。
メイの気持ちに寄り添うように、何度もその透明な粒を舐める。
快感に悶えて、罪悪感に苛まれて。そんな矛盾だらけの感情をお互いに飲み込み合うように身体を繋げる。
テーブルが立てるギシギシとした音が激しくなる。俺の下で喘ぐメイの身体を強く抱きしめた。
深い沼の底でしか許されないような歪んだ関係にいるけれど、その闇にいるのは一人じゃない。俺もいるのだと、メイに分からせたい。
「あぁっ……!」
快感が一気に脳天まで突き抜けて行く。頭が真っ白になる激しい感覚が、俺を甘くきつく縛り付ける。
一度味わったら、溺れるのみ。その身体に触れる度に、その甘い蜜を味わうほどに、中毒のように溺れて行く――。
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