闇を泳ぐ

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第五章 たった一人の兄と妹

ーメイー④

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 重たい瞼を開いた時、身体に毛布がかけられていた。

私、あの後……。

意識を失った。そんなこと、久しぶりだ。我に返れば、恥ずかしさばかりが募る。

 見上げた先には天井があった。でも、その天井は自分のベッドから見るものとは少し違う。

「気付いた……?」
「お、お兄ちゃん」

隣にお兄ちゃんが横たわっていた。

ということは、お兄ちゃんの布団――?

「ご、ごめん! 狭かったよね。眠るの邪魔してごめん」

すぐに起き上がろうとしたら肩を押さえられた。

「なんだよ。さっきは、有無を言わさず押し入って来たくせに」
「それは……っ」

すぐ間近にある兄の顔に、胸がドキドキと騒ぎ出す。もう何年も見慣れた顔なのに、こうして至近距離で見るといつだって緊張する。
 本当に綺麗な顔。目なんかどこまでも見通せそうなほど澄んでいる。でも、その澄んだ瞳はこの数年でより透明になった気がする。怖いほどに静かで、そして透き通っていた。

「髪、伸びたな……」

兄が不意に私の髪に手を伸ばした。その長くて骨ばった指が、私のぐちゃぐちゃになっている髪を丹念に解いて行くように梳く。

「濡れたままで寝ちゃったから絡まっちゃってるでしょ?」
「ほんとだな」

ゆっくりと兄の指が滑り落ちて行く。私のかつては短かった髪は、もう肩を優に超えるほどに伸びていた。

「でも……。綺麗、だよ」

兄があまりにしみじみと呟くから、ついその目を見つめてしまった。私の髪のことに、何か言うことはこれまでなかった。

「おまえは、もう……」
「ん? なぁに?」

何かを言いかけた兄は、「いや、なんでもない」と言って、目を閉じた。

 結局、兄に何も聞くことが出来なかった。
 その心にある葛藤や迷い、躊躇い。そのどれも、知りたいのと同じくらい知るのが怖い。私は、兄の心から逃げている。

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