86 / 119
第五章 たった一人の兄と妹
ーメイー④
しおりを挟む重たい瞼を開いた時、身体に毛布がかけられていた。
私、あの後……。
意識を失った。そんなこと、久しぶりだ。我に返れば、恥ずかしさばかりが募る。
見上げた先には天井があった。でも、その天井は自分のベッドから見るものとは少し違う。
「気付いた……?」
「お、お兄ちゃん」
隣にお兄ちゃんが横たわっていた。
ということは、お兄ちゃんの布団――?
「ご、ごめん! 狭かったよね。眠るの邪魔してごめん」
すぐに起き上がろうとしたら肩を押さえられた。
「なんだよ。さっきは、有無を言わさず押し入って来たくせに」
「それは……っ」
すぐ間近にある兄の顔に、胸がドキドキと騒ぎ出す。もう何年も見慣れた顔なのに、こうして至近距離で見るといつだって緊張する。
本当に綺麗な顔。目なんかどこまでも見通せそうなほど澄んでいる。でも、その澄んだ瞳はこの数年でより透明になった気がする。怖いほどに静かで、そして透き通っていた。
「髪、伸びたな……」
兄が不意に私の髪に手を伸ばした。その長くて骨ばった指が、私のぐちゃぐちゃになっている髪を丹念に解いて行くように梳く。
「濡れたままで寝ちゃったから絡まっちゃってるでしょ?」
「ほんとだな」
ゆっくりと兄の指が滑り落ちて行く。私のかつては短かった髪は、もう肩を優に超えるほどに伸びていた。
「でも……。綺麗、だよ」
兄があまりにしみじみと呟くから、ついその目を見つめてしまった。私の髪のことに、何か言うことはこれまでなかった。
「おまえは、もう……」
「ん? なぁに?」
何かを言いかけた兄は、「いや、なんでもない」と言って、目を閉じた。
結局、兄に何も聞くことが出来なかった。
その心にある葛藤や迷い、躊躇い。そのどれも、知りたいのと同じくらい知るのが怖い。私は、兄の心から逃げている。
0
あなたにおすすめの小説
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。
カレンと晴人はその後、どうなる?
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる