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第一章 秋霖
四
しおりを挟む十月も中旬を過ぎ、夏の余韻が消えた風が図書室のカーテンを揺らす。図書委員以外の生徒がいない広々とした図書室を、この日も独占していた。
読みかけの文庫本を開き脳内から周囲の音が消え始めた頃、図書室の扉が開く音が飛び込んで来た。思わずそちらに目を向けると、一人の男子生徒が入って来るのが視界に入る。滅多に他の生徒を見ることはないから、こうしてたまに他の生徒を見かけると、一瞬にしてがっかりする。
その男子生徒は、チラリと私に視線を寄越すとすぐに私の席から一番遠い場所に席を取った。座ったと同時に、本に目を向けている。そのおかげで、表情は見えない。それをいいことに様子をうかがった。少し茶色がかってはいるけれど、多分染色はしていない程度の髪。手にしているのは、サイズから言って私と同じ文庫本だろう。多分、初めて見る人だと思う。
校舎の外からは、部活動の掛け声や、帰宅する生徒たちの喋り声が聞こえて来る。図書室にいる男子生徒と自分が、そんな喧騒とは別世界にいる気がした。
その男子生徒から視線を文字に戻す。すぐに物語の世界へと入り込んでいった。
「閉館の時間です」
図書委員の声で、意識が現実に戻って来る。はっと窓の外を見れば、すっかり太陽は消えていた。慌てて文庫本を鞄にしまい席を立つ。席を立ったと同時に、先ほど男子生徒がいた方向を見てみると、既にその姿はなくなっていた。
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