一条春都の料理帖

藤里 侑

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日常

第二百六十四話 コンビニ飯

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 さて、今から寝ようかというころ。

「あ」

 咲良が泊まりに来ると言っていたことを思い出してスマホを手に取る。開くのは家族のグループチャット。

「えーっと……」

 いつもベッドに置いているぬいぐるみを抱え込み、壁を背もたれにしてスマホを打つ。この体勢、スマホとかゲームとかする時、楽なんだ。

 とりあえず送るメッセージには、咲良が泊まりに来たいと言っていることと、花見の件を……

「まあ、なんとなく返事の予想はついてんだけど」

 送信して間もなくして、母さんから返事が来た。

『楽しみでいいんじゃない? いいよいいよー』

 ほら、やっぱり。ノリノリじゃん。

 父さんも文章ではないが、ハイテンションに肯定の意を示すスタンプが送られてきた。

 どうしてこう、うちの両親は子どもの……俺のちょっとしたことで盛り上がれるんだろう。なんか本人より盛り上がってくれるもんだから、張本人である俺は冷静になる。

「ん?」

 母さんから追加でメッセージが送られてきた。

『泊まりに来るなら、来客用の布団を一度出して干しておいた方がいいと思うよ』

「あー、布団」

 となれば、客間の掃除もしとかないと。まあ、時々掃除はしてるし、ばあちゃんが来た時はばあちゃんが部屋中掃除してくれるから汚いってことはないけど。

『分かった。そうしとく』

 そう返事をすると指でオッケーのサインを示した、見たことあるようでないキャラクターのスタンプが送られてきた。

 こういうのって、どっから探してくるんだろう。



「と、いうわけで、オッケーだ」

「よっしゃ! 楽しみだなー」

 修了式のため体育館に向かいながら、咲良に宿泊許可を伝えれば、心底楽しそうな笑顔でガッツポーズをした。その様子を見ていたらしい勇樹が「えー、なになに」と興味深そうに聞いてくる。

「お泊り?」

「おー。今度花見するっつったじゃん? その準備の時に泊まるっつってなー」

「仲いいな、お前ら」

「俺が誘ったわけじゃない。泊まるってのはこいつが言い出しただけだ」

 俺も花見行きたかったなー、と言って、勇樹は体育館シューズが入った袋を大きく揺らした。

「まあ、明日から春休みだしちょうどよかったな。そろそろ見ごろだってテレビで言ってたぞ」

「昼間は暖かくなってきたし、一気に咲いたもんな」

「楽しみだなあ」

 さあっと吹き抜けた風はわずかばかりの冷たさをはらんではいたが、どこか若々しいというか、春らしい香りがした。



 午前中で学校が終わり、という日は一年を通して何回かある。でも特にこの季節、ポカポカ陽気の頃に、そういう早く帰れる日があると嬉しい。なんか一番好きなんだよなあ。

 フワフワと暖かく、歩きながら眠ってしまいそうになる。

「なんか日向ぼっこしてる犬みてえ」

 その眠気を覚ますのは、少しからかうような口調の咲良の声だ。

「なー、せっかく学校終わったんだしさー。打ち上げ行かねえ?」

「打ち上げ? 何をそんな大げさな」

 そう言えば咲良は「別になんだっていいだろー?」と無理やりバス停に向かう方の道へ俺の手をひいていく。

「おい」

「ファミレスでもいいけど、どうせなら花見の時に金は取っときたいし。うーん、どうしよう」

「帰れ。帰って大人しくしてろ」

「つれないなあ……あ、じゃあコンビニ行こうぜ。なんかあるだろ」

 咲良の明るい声に、これ以上抵抗しても体力の無駄だと悟る。せめてもの抗議として盛大にため息をついたが、咲良には聞こえていなかった。

 コンビニはそこそこ混んでいた。さっさと買って、とっとと外に出たい。しかし何買おう。せっかく買うならちゃんと食いたいものを買いたい。

 お菓子? うーん、いっそジュースだけとか。レジ横の総菜も魅力的だ。

 やっぱり無難におにぎりか。結構な種類があるからかなり悩む。のりがパリパリのもいいし、しんなりしたのも捨てがたい。パリパリはコンビニならではだよな。混ぜご飯、ちょっと高めのやつ、巻き寿司、いなり寿司。

「あ、こんなんあるんだ」

 見つけたのは小さな弁当のようなもの。小ぶりのおにぎり二個とからあげ一個、真っ赤なたこさんウインナー、出汁巻き、そしてきんぴらごぼう。おにぎりの具は鮭と昆布。いいじゃないか、これとお茶にしよう。



「あっちで食おうぜ」

 と、咲良が示したのはコンビニ横の公園だ。藤棚にはまだ葉はないが、立派な枝で、いい感じの日陰になっている。

「いただきます」

 まずはやっぱ、おにぎりか。

 これはすでにのりが巻いてあるのでしっとりしている。こっちは……鮭か。思ったよりも具がしっかり入っている。程よい塩気と鮭のうま味、磯の香りが冷えたご飯と相まってうまい。

「咲良は何買ったんだ?」

「新発売のメンチカツバーガー。と、串カツ」

「え、串カツとかあんの」

「あったなあ」

 見事に揚げ物ばかりである。しかし、うまそうに食うなあ。ソース染み染みのメンチカツ。今度買ってみよう。

 さて、次はウインナー。ちょっと塩気が強いがうまい。足を一本ずつ食うのが好きだ。

 からあげはどっちかっていうとフライドチキンみたいな味だ。香辛料の香りがよく、しなっとした衣が香ばしい。肉にもしっかり味が染みている。

「週末にするか、花見」

 と、串カツをほおばりながら咲良が言う。

「いいんじゃないか」

 週末、といっても数日後だ。てことは今日か明日の内に掃除しとかないと。

 昆布は佃煮。甘辛く、ゴマのアクセントがいい。白米によく合うなあ。今度の弁当にも入れようかな。

 卵焼きは出汁巻き。甘めだが、いつもの味とは全然違う。砂糖の甘さではなく、出汁の甘味だ。なんだか触感が硬めのプリンのようでもある。ジュワッとジューシーでうまい。

 全体的に和食なので、冷えた緑茶がよく合う。

「楽しみだなー」

「そうだな」

 あ、そうだ。布団も干しとかないと。

 今日はいい天気だ。気持ちよく干せることだろう。



「ごちそうさまでした」

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