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日常
第二百六十八話 朝ごはん
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まだ日が出る前ではあるが、朝である。
「ふぁ……ねみぃ」
布団は温かいし、来客用の布団を干したついでに自分のも干したからふかふかだし、もぐりこんで二度寝したらさぞ気持ちがいいであろう。
しかし、どうにでも今日は起きなければならない。俺たちの胃袋がかかっている。
「わう」
「おぉ、おはよう。うめず。お前はまだ寝てていいぞ」
行きがけに店の方に寄って、うめずを預かってもらうことになっている。うめずは眠そうにこちらを一瞥すると、大きくあくびをして再び眠りについた。
洗面所で身支度を整え居間に戻る途中、客間の前でいったん立ち止まる。
うん、そうだな。うめずも気持ちよさそうに寝ていることだし。煩わしい思いはさせたくないし。
「おい、起きろ」
ドアを開け声をかける。咲良はまだ布団に籠城していた。
「んあ~? うん……ん? 何で春都がいんの?」
こいつ寝ぼけてるな。布団がもごもごと動き、上体を起こした咲良の頭はぼっさぼさだった。
「おはよう。飯の準備だ」
「……ああ、そっか。ここ、春都の家か」
やっと目が覚めてきたらしい咲良は一つ伸びをしてあくびをすると、ガシガシと頭をかきながら立ち上がった。
「おはよぉ、春都」
「おう。先に準備してるぞ」
「んー、すぐ来るー」
さて、今日は何から準備しようか。そもそも咲良がなに出来んのかって話だよな。揚げ物を任せるべきか、はたまた卵焼きか、あるいは枝豆茹でさせるか。
あいつ料理初心者だったよな、そういや。
「……よし」
自分が揚げ物をして、咲良にはおにぎりを準備してもらうとしよう。それならまず大きめの皿と塩、のり、ラップを準備してテーブルに置いて。ご飯は……うん、炊けてる。
卵焼きはおいおい作るとしよう。
「さて、俺は何すればいい?」
すっかり身支度を整え、咲良が意気揚々と居間に入ってくる。
「おにぎり」
「お、任せろ。おにぎりは上手だって誉められたことがある」
こっちは揚げ物をしながら枝豆茹でよう。
たっぷりのお湯に塩を溶かし、冷凍枝豆を入れる。違う味も作ろうかと思ったが、他のおかずが濃い目だから、塩味だけにする。
とりあえず今日は揚げ物がたくさんだ。からあげ、豚の天ぷら、エビフライは衣もつけないと。それにチキンナゲットも。いっそウインナーも揚げるか。何気にうまいんだ。
ポテトも揚げるんだったな。ジャガイモを細長く切って、片栗粉をつけて揚げる。
「あ、そういやポテサラと被るな。フライドポテト」
ふと思い立ってつぶやけば、おにぎりを俵型に整形しながら咲良が笑った。
「いーんじゃね? ポテサラもフライドポテトもジャガイモだけどさ、味違うじゃん」
「そういうんもんか」
「俺どっちも食べたいから、今更、無しとか言うなよなー」
だったらいいけど。
揚げ物が終わるころ、咲良もおにぎりを握り終えたらしい。枝豆もいい感じだ。少し冷めたら弁当箱につめるとしよう。
「なー、今から何すんの?」
「卵焼き」
そう答えれば咲良はぱあっと表情を明るくした。
「横で見てていいか?」
「あ? 別にいいけど……そんなに面白いもんじゃねえぞ」
「一回見てみたかったんだよなあ」
何だこいつ、変なの。
ボウルに卵を四つ割り入れ、砂糖を大さじ二杯弱、塩少々を加え、溶け残りが無いようにしっかり混ぜる。そしたら、四角いフライパンに油をひいて、何回かに分けながら巻いていく。
いつもやっている、何でもない工程である。しかし咲良は何が気に入ったのか、時折「おお」とか「すげえ」とか言っている。
「何がすごいんだ」
「いやー、器用に巻くなあ、と。俺にはできねえ」
「やってりゃできるようになる」
「そっかあ?」
それ以上、咲良は何も言わなかった。
焼き終わったら皿にのせ、等分していく。咲良が端っこをせびってきたので食べさせたら、無言でうなずき、満足そうに笑っていた。
「で、朝飯は?」
「朝の残り」
「お、いいねー。なんか体育祭とか、イベントらしい」
冷蔵庫からポテトサラダ、棚から弁当箱を取り出し、オードブルの皿も準備してつめていく。
思った通り、全部が全部入るわけではない。おにぎりも朝食う分にはちょうどいい数残ったし、おかずもいくつか残っている。エビフライとか卵焼き、ソーセージは残ってないけど。
ソースや醤油はビニール製のたれ瓶に入れて、マヨネーズやケチャップはオードブルの皿を買う時に一緒に買ったビニール製のちょっと深さのある蓋つきの円形の入れ物に。ココットとかいうやつに形が似ている。
「よーし、朝飯だ」
「よっしゃ。あ、外が明るくなってきた」
もうそんな時間か。時計を見れば、もう六時を過ぎていた。
「いただきます」
咲良が作ったおにぎりは、やっぱりなんとなく感じが違う。ちょっときつめに握られているのか、食べ応えがある。塩気は程よく、のりの香りもいい。
「お前、おにぎり上手だな」
「だろ?」
こればっかりは、得意げな顔をされても腹が立たない。
さて、からあげはどうだ。
しっかり味が染みてる。鶏のからあげはニンニク控えめではあるが、醤油と相まって香ばしく、おいしい。プリッとした身とジューシーな皮のバランスが最高だ。やっぱ漬け込んでいて正解だった。
豚の天ぷらもサックサクである。こっちはニンニク強めだ。うま味が強く、豚の味と相性がいい。
「朝からフライドポテトとか、うちじゃ食わねえなー。うまい」
と、咲良は楽し気に箸を進める。
衣つけ過ぎたかとも思ったがそうでもなかった。ふわっさくっかりっとした表面に、ほこほことした中身。最高である。塩をきつめにしたのが正解だったようだ。
ポテトサラダも味がしっかりなじんでいるし、キュウリの水分もあまり出ていないようだ。もこもこした口当たりで、キュウリのみずみずしさとハムの塩気、マヨネーズのまろやかさのバランスがばっちりだ。
あ、枝豆。これはだいぶ余ったなあ。全部食べきれなくても、晩のおかずになんかしよう。
塩味の枝豆ってやっぱ安定感ある。さっぱりもするし、ほくっとしてるし、豆の甘味がよく分かる。
「楽しみだなー。みんな、この弁当見たらテンション上がるぞぉ」
そう言う咲良が、一番ワクワクしているように見えるがなあ。
「そうなるといいな」
「絶対なるって!」
「そうか」
取り皿と箸も忘れないように持って行かないとなあ。
桜の木の下で飯を食う……か。うん、楽しみだな。
「ごちそうさまでした」
「ふぁ……ねみぃ」
布団は温かいし、来客用の布団を干したついでに自分のも干したからふかふかだし、もぐりこんで二度寝したらさぞ気持ちがいいであろう。
しかし、どうにでも今日は起きなければならない。俺たちの胃袋がかかっている。
「わう」
「おぉ、おはよう。うめず。お前はまだ寝てていいぞ」
行きがけに店の方に寄って、うめずを預かってもらうことになっている。うめずは眠そうにこちらを一瞥すると、大きくあくびをして再び眠りについた。
洗面所で身支度を整え居間に戻る途中、客間の前でいったん立ち止まる。
うん、そうだな。うめずも気持ちよさそうに寝ていることだし。煩わしい思いはさせたくないし。
「おい、起きろ」
ドアを開け声をかける。咲良はまだ布団に籠城していた。
「んあ~? うん……ん? 何で春都がいんの?」
こいつ寝ぼけてるな。布団がもごもごと動き、上体を起こした咲良の頭はぼっさぼさだった。
「おはよう。飯の準備だ」
「……ああ、そっか。ここ、春都の家か」
やっと目が覚めてきたらしい咲良は一つ伸びをしてあくびをすると、ガシガシと頭をかきながら立ち上がった。
「おはよぉ、春都」
「おう。先に準備してるぞ」
「んー、すぐ来るー」
さて、今日は何から準備しようか。そもそも咲良がなに出来んのかって話だよな。揚げ物を任せるべきか、はたまた卵焼きか、あるいは枝豆茹でさせるか。
あいつ料理初心者だったよな、そういや。
「……よし」
自分が揚げ物をして、咲良にはおにぎりを準備してもらうとしよう。それならまず大きめの皿と塩、のり、ラップを準備してテーブルに置いて。ご飯は……うん、炊けてる。
卵焼きはおいおい作るとしよう。
「さて、俺は何すればいい?」
すっかり身支度を整え、咲良が意気揚々と居間に入ってくる。
「おにぎり」
「お、任せろ。おにぎりは上手だって誉められたことがある」
こっちは揚げ物をしながら枝豆茹でよう。
たっぷりのお湯に塩を溶かし、冷凍枝豆を入れる。違う味も作ろうかと思ったが、他のおかずが濃い目だから、塩味だけにする。
とりあえず今日は揚げ物がたくさんだ。からあげ、豚の天ぷら、エビフライは衣もつけないと。それにチキンナゲットも。いっそウインナーも揚げるか。何気にうまいんだ。
ポテトも揚げるんだったな。ジャガイモを細長く切って、片栗粉をつけて揚げる。
「あ、そういやポテサラと被るな。フライドポテト」
ふと思い立ってつぶやけば、おにぎりを俵型に整形しながら咲良が笑った。
「いーんじゃね? ポテサラもフライドポテトもジャガイモだけどさ、味違うじゃん」
「そういうんもんか」
「俺どっちも食べたいから、今更、無しとか言うなよなー」
だったらいいけど。
揚げ物が終わるころ、咲良もおにぎりを握り終えたらしい。枝豆もいい感じだ。少し冷めたら弁当箱につめるとしよう。
「なー、今から何すんの?」
「卵焼き」
そう答えれば咲良はぱあっと表情を明るくした。
「横で見てていいか?」
「あ? 別にいいけど……そんなに面白いもんじゃねえぞ」
「一回見てみたかったんだよなあ」
何だこいつ、変なの。
ボウルに卵を四つ割り入れ、砂糖を大さじ二杯弱、塩少々を加え、溶け残りが無いようにしっかり混ぜる。そしたら、四角いフライパンに油をひいて、何回かに分けながら巻いていく。
いつもやっている、何でもない工程である。しかし咲良は何が気に入ったのか、時折「おお」とか「すげえ」とか言っている。
「何がすごいんだ」
「いやー、器用に巻くなあ、と。俺にはできねえ」
「やってりゃできるようになる」
「そっかあ?」
それ以上、咲良は何も言わなかった。
焼き終わったら皿にのせ、等分していく。咲良が端っこをせびってきたので食べさせたら、無言でうなずき、満足そうに笑っていた。
「で、朝飯は?」
「朝の残り」
「お、いいねー。なんか体育祭とか、イベントらしい」
冷蔵庫からポテトサラダ、棚から弁当箱を取り出し、オードブルの皿も準備してつめていく。
思った通り、全部が全部入るわけではない。おにぎりも朝食う分にはちょうどいい数残ったし、おかずもいくつか残っている。エビフライとか卵焼き、ソーセージは残ってないけど。
ソースや醤油はビニール製のたれ瓶に入れて、マヨネーズやケチャップはオードブルの皿を買う時に一緒に買ったビニール製のちょっと深さのある蓋つきの円形の入れ物に。ココットとかいうやつに形が似ている。
「よーし、朝飯だ」
「よっしゃ。あ、外が明るくなってきた」
もうそんな時間か。時計を見れば、もう六時を過ぎていた。
「いただきます」
咲良が作ったおにぎりは、やっぱりなんとなく感じが違う。ちょっときつめに握られているのか、食べ応えがある。塩気は程よく、のりの香りもいい。
「お前、おにぎり上手だな」
「だろ?」
こればっかりは、得意げな顔をされても腹が立たない。
さて、からあげはどうだ。
しっかり味が染みてる。鶏のからあげはニンニク控えめではあるが、醤油と相まって香ばしく、おいしい。プリッとした身とジューシーな皮のバランスが最高だ。やっぱ漬け込んでいて正解だった。
豚の天ぷらもサックサクである。こっちはニンニク強めだ。うま味が強く、豚の味と相性がいい。
「朝からフライドポテトとか、うちじゃ食わねえなー。うまい」
と、咲良は楽し気に箸を進める。
衣つけ過ぎたかとも思ったがそうでもなかった。ふわっさくっかりっとした表面に、ほこほことした中身。最高である。塩をきつめにしたのが正解だったようだ。
ポテトサラダも味がしっかりなじんでいるし、キュウリの水分もあまり出ていないようだ。もこもこした口当たりで、キュウリのみずみずしさとハムの塩気、マヨネーズのまろやかさのバランスがばっちりだ。
あ、枝豆。これはだいぶ余ったなあ。全部食べきれなくても、晩のおかずになんかしよう。
塩味の枝豆ってやっぱ安定感ある。さっぱりもするし、ほくっとしてるし、豆の甘味がよく分かる。
「楽しみだなー。みんな、この弁当見たらテンション上がるぞぉ」
そう言う咲良が、一番ワクワクしているように見えるがなあ。
「そうなるといいな」
「絶対なるって!」
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桜の木の下で飯を食う……か。うん、楽しみだな。
「ごちそうさまでした」
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