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第四百五十七話 肉うどん
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放課後、教室を出る前にはいつも必ず予定表を見る。昔から忘れ物が多い俺は、何度も確認するくらいがちょうどいい。
「春都ー、帰ろうぜー」
「んー」
「何見てんの?」
のんびりとやってきた咲良は隣に並び、予定表に視線を向けた。
「あー、明日、写生大会だったっけ。絵の具、どこやったかなー」
「それな」
後ろの黒板に視線を移し、持ってくるものを確認したら教室を出る。絵の具なんてしょっちゅう使うものじゃないし、押入れの奥底にしまい込んでいる気がする。毎年やってる行事なんだから取りやすいところにしまっとけってなあ。
「食堂に頼んだら、弁当作ってくれるらしいぜ。三百円だったかなー」
靴を履きながら咲良が言う。
「そんな制度あったっけ」
「あったあった。知らなかった?」
「知らなかった」
「まー、春都は自分で作るから関係ないか」
学食の弁当ってどんなのだろう。やっぱいつも売ってるような、チキンカツのっけたやつとかなのかな。それとも、幕の内っぽい感じなのかな。それはそれで気になるが、まあ、自分で作る。
「咲良は頼んだのか?」
「いんや、母さんが作ってくれるから」
「あ、そう」
こいつのことだから、かつ丼みたいな弁当とか頼みそうだと思ったが、そうなんだなあ。
「それじゃ、また明日……」
校門前で別れるだろうと思ってそう言えば、ぎゅっと鞄をつかまれて思わず前につんのめる。
「おい」
「なー、こっちから帰ろうぜー」
「あー? 別にいいけど……」
咲良について行けば、バス停ではなく花丸スーパーの方へ向かっていることに気が付く。うぅん? どういうことだ?
「帰るんじゃねぇの」
聞けば咲良はうきうきとした様子で答えた。
「おやつ買わないと、明日の」
「えぇ……自分だけで行けよ」
「まーまー。どーせ帰ってもやることないだろ?」
確かに、明日は予習も復習もいらないから、帰ってすることといえば絵具道具を探すくらいだ。なんか腹の立つ言い方だが、否定はできない。
「……何買うんだ」
「なににしよっかなー。今月発売の新商品がなー気になってんだよなー」
「この辺、新商品入ってくんの遅いぞ」
そもそも入ってこないこともあるからなあ。というか、うちにお菓子いっぱいあるし、俺は買う必要ないんだよなあ。
夕方の花丸スーパーは大盛況だ。タイムセールとかやってるからな。
今日はその人混みの中に行かなくていいと気が軽かったのだが。まあ、お菓子売り場は人、少ないだろ。
「あっ、あったー。これこれ」
咲良は嬉々として、お菓子コーナーに駆け寄る。
「あるんだ……」
「都会の方じゃ売り切れてるらしいぜ。生産停止になるくらい」
「山積みになってねえ?」
「田舎だからそんなもんだって」
咲良は一つ商品を手に取ると笑って言った。
「俺も、どうしても食いたいってわけじゃなくて、なんか気になるなーって感じだし」
「そんなもんなのか」
いろいろとお菓子コーナーを眺めていたら、咲良が「あっ」といってしゃがみこんだ。
「どうした」
「見てこれ」
咲良が持っているのは、チョコエッグだった。
「あー、チョコエッグ」
咲良の隣にしゃがみ込んで、同じ商品を手に取る。きらきらした金色の包装紙にくるまれた箱入りのチョコレートの卵。中の景品だけ取ったらチョコを捨てる人もいるらしい。もったいねえ話だよなあ。めっちゃ甘いけど、なかなかうまいんだぜ、これ。
この景品、何だろう。工具のキーホルダーか。へー、そんなんあるんだ。じいちゃんとばあちゃんの店でよく見るやつだ。
「どれがいいかな。俺、金づち欲しい」
「この中だったら俺は……プライヤーだな」
「えっ、プライヤーってどれ。お前なんで知ってんの」
「これこれ。この挟むやつ」
結局、ひとつずつ買っていくことになってしまった。明日、一緒に開けたいらしい。
何が出るかなー、楽しみだ。
晩飯何にしよう。あっ、そうだ。確かうどんがあったよな。
出汁は水と白だしで作る。凝ってもいいが、いざ、台所に立つとどうもなあ。それに、今日は出汁にこだわらなくても、うまくなる秘策がある。
そう、トッピングの牛肉。ばあちゃんが炊いたこの肉は、米も合うけど、肉うどんにするとまたうまいんだよ。ネギも散らせば、ほら、うまそう。
「いただきます」
まずは出汁を一口。うーん、すっきり、あっさりとした白だしがいい。
うどんの麺はつるっとしている。どことなくふわふわのモチモチではあるが、コシはないに等しい。この食感がたまらないんだよなあ。うどんといえば、これ、って感じ。ほっとする口当たりだ。
そんで肉よ。出汁の温かさにほどける肉は、優しい甘さと醤油のコクでいっぱいだ。口いっぱいに含めば幸せしかない。ネギも一緒だとあっさりして、また違ったおいしさになる。
うどん麺も一緒に食えば……最高の言葉に尽きる。ごぼう天もあればなおよしだが、肉だけでも十分なごちそうだ。いや、むしろ肉だけだからこそ味わえるうま味というのがある。脂身もいい味出すんだ、これが。
一味をかけても、ピリッと引き締まっていいよな。こんにゃくも一緒に炊いてあるのがまたいい。お店では味わえないし、食感のアクセントになる。
そんで、肉の脂と味付けが溶けだした出汁のコク深いこと。うま味がすごいんだ。余すことなく飲み干したくなる。肉のかけらも、一片たりとも残したくない。
だから最後はご飯を入れる。炊き込みご飯でもいいが、今日は白米で。肉の味と出汁の味で、上等なお茶漬け、雑炊、とにかくそれに類するものになる。こうすれば、余すことなくこの肉うどんを味わえるからなあ。
うん、うまかった。腹いっぱい。
あっ、絵具探さないと。
「ごちそうさまでした」
「春都ー、帰ろうぜー」
「んー」
「何見てんの?」
のんびりとやってきた咲良は隣に並び、予定表に視線を向けた。
「あー、明日、写生大会だったっけ。絵の具、どこやったかなー」
「それな」
後ろの黒板に視線を移し、持ってくるものを確認したら教室を出る。絵の具なんてしょっちゅう使うものじゃないし、押入れの奥底にしまい込んでいる気がする。毎年やってる行事なんだから取りやすいところにしまっとけってなあ。
「食堂に頼んだら、弁当作ってくれるらしいぜ。三百円だったかなー」
靴を履きながら咲良が言う。
「そんな制度あったっけ」
「あったあった。知らなかった?」
「知らなかった」
「まー、春都は自分で作るから関係ないか」
学食の弁当ってどんなのだろう。やっぱいつも売ってるような、チキンカツのっけたやつとかなのかな。それとも、幕の内っぽい感じなのかな。それはそれで気になるが、まあ、自分で作る。
「咲良は頼んだのか?」
「いんや、母さんが作ってくれるから」
「あ、そう」
こいつのことだから、かつ丼みたいな弁当とか頼みそうだと思ったが、そうなんだなあ。
「それじゃ、また明日……」
校門前で別れるだろうと思ってそう言えば、ぎゅっと鞄をつかまれて思わず前につんのめる。
「おい」
「なー、こっちから帰ろうぜー」
「あー? 別にいいけど……」
咲良について行けば、バス停ではなく花丸スーパーの方へ向かっていることに気が付く。うぅん? どういうことだ?
「帰るんじゃねぇの」
聞けば咲良はうきうきとした様子で答えた。
「おやつ買わないと、明日の」
「えぇ……自分だけで行けよ」
「まーまー。どーせ帰ってもやることないだろ?」
確かに、明日は予習も復習もいらないから、帰ってすることといえば絵具道具を探すくらいだ。なんか腹の立つ言い方だが、否定はできない。
「……何買うんだ」
「なににしよっかなー。今月発売の新商品がなー気になってんだよなー」
「この辺、新商品入ってくんの遅いぞ」
そもそも入ってこないこともあるからなあ。というか、うちにお菓子いっぱいあるし、俺は買う必要ないんだよなあ。
夕方の花丸スーパーは大盛況だ。タイムセールとかやってるからな。
今日はその人混みの中に行かなくていいと気が軽かったのだが。まあ、お菓子売り場は人、少ないだろ。
「あっ、あったー。これこれ」
咲良は嬉々として、お菓子コーナーに駆け寄る。
「あるんだ……」
「都会の方じゃ売り切れてるらしいぜ。生産停止になるくらい」
「山積みになってねえ?」
「田舎だからそんなもんだって」
咲良は一つ商品を手に取ると笑って言った。
「俺も、どうしても食いたいってわけじゃなくて、なんか気になるなーって感じだし」
「そんなもんなのか」
いろいろとお菓子コーナーを眺めていたら、咲良が「あっ」といってしゃがみこんだ。
「どうした」
「見てこれ」
咲良が持っているのは、チョコエッグだった。
「あー、チョコエッグ」
咲良の隣にしゃがみ込んで、同じ商品を手に取る。きらきらした金色の包装紙にくるまれた箱入りのチョコレートの卵。中の景品だけ取ったらチョコを捨てる人もいるらしい。もったいねえ話だよなあ。めっちゃ甘いけど、なかなかうまいんだぜ、これ。
この景品、何だろう。工具のキーホルダーか。へー、そんなんあるんだ。じいちゃんとばあちゃんの店でよく見るやつだ。
「どれがいいかな。俺、金づち欲しい」
「この中だったら俺は……プライヤーだな」
「えっ、プライヤーってどれ。お前なんで知ってんの」
「これこれ。この挟むやつ」
結局、ひとつずつ買っていくことになってしまった。明日、一緒に開けたいらしい。
何が出るかなー、楽しみだ。
晩飯何にしよう。あっ、そうだ。確かうどんがあったよな。
出汁は水と白だしで作る。凝ってもいいが、いざ、台所に立つとどうもなあ。それに、今日は出汁にこだわらなくても、うまくなる秘策がある。
そう、トッピングの牛肉。ばあちゃんが炊いたこの肉は、米も合うけど、肉うどんにするとまたうまいんだよ。ネギも散らせば、ほら、うまそう。
「いただきます」
まずは出汁を一口。うーん、すっきり、あっさりとした白だしがいい。
うどんの麺はつるっとしている。どことなくふわふわのモチモチではあるが、コシはないに等しい。この食感がたまらないんだよなあ。うどんといえば、これ、って感じ。ほっとする口当たりだ。
そんで肉よ。出汁の温かさにほどける肉は、優しい甘さと醤油のコクでいっぱいだ。口いっぱいに含めば幸せしかない。ネギも一緒だとあっさりして、また違ったおいしさになる。
うどん麺も一緒に食えば……最高の言葉に尽きる。ごぼう天もあればなおよしだが、肉だけでも十分なごちそうだ。いや、むしろ肉だけだからこそ味わえるうま味というのがある。脂身もいい味出すんだ、これが。
一味をかけても、ピリッと引き締まっていいよな。こんにゃくも一緒に炊いてあるのがまたいい。お店では味わえないし、食感のアクセントになる。
そんで、肉の脂と味付けが溶けだした出汁のコク深いこと。うま味がすごいんだ。余すことなく飲み干したくなる。肉のかけらも、一片たりとも残したくない。
だから最後はご飯を入れる。炊き込みご飯でもいいが、今日は白米で。肉の味と出汁の味で、上等なお茶漬け、雑炊、とにかくそれに類するものになる。こうすれば、余すことなくこの肉うどんを味わえるからなあ。
うん、うまかった。腹いっぱい。
あっ、絵具探さないと。
「ごちそうさまでした」
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